BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第五十二話:機器創成

 

 熱を持った痛みに、意識が浮かび上がった。

 

 最初に感じたのは、鈍い熱。

 焼けるような激痛ではない。

 もっと深く、体の芯にじわじわと居座る、失ったものを無理やり塞がれているような不快な熱だった。

 重い瞼を開ける。

 見えた景色は自分が作成中の拠点の天井。

 黒緑の有機建材。

 根と樹脂と金属繊維が混ざった独特の質感。

 不格好だが、今の自分にとっては十分すぎるほど見慣れた生き延びるための場所。

 

「……戻ってこれたのか」

 

 掠れた声でそう呟く。

 ぼんやりとした意識の中、起き上がろうとして──そこで止まった。

 右腕に感覚が返ってこない。

 いや、違う。

 返ってくるはずの場所そのものが、もう無い。

 そこでようやく、思い出す。

 ぬらりひょんとの決戦。

 右腕を潰して作った一瞬。

 左脚を貫かれた瞬間。

 勝利と引き換えに持っていかれたもの。

 

「……ああ」

 

 乾いた声が漏れる。

 右腕。

 左脚。

 無くなったのだと、改めて理解する。

 理解した瞬間に来たのは、痛みよりも喪失感だった。

 あるはずのものが無い。

 そこにあるはずの重みも、感覚も、意識を向けた時の応答も無い。

 空白だけがある。

 その空白が、妙に生々しくて、嫌だった。

 

「……くそ」

 

 小さく悪態を吐く。

 だが、そこで止まっても仕方がない。

 止まったところで、手足は戻らない。

 むしろその現実へ沈んだら、今度こそ立ち上がれなくなる。

 だから、無理やりにでも動く。

 サブスーツの補助を意識して起動する。

 最小限の外装が体へ沿い、残った左腕と右脚へ補助出力が入る。

 片手片足。

 それでも、補助があればどうにか体を起こせる。

 ベッド、というには簡素な寝台──命令を下した護衛が気を効かせてくれたのだろう──から身を起こし、足を下ろす。

 左脚の膝下が無い分、バランスが酷い。

 思った以上に不安定で、つい舌打ちが漏れた。

 

「……っ、面倒だな」

 

 片腕だけで体を支え、右脚へ重心を寄せる。

 サブスーツが姿勢制御を補助し、無理やり重心をまとめる。

 立つ。

 それだけで、汗が滲む。

 だが、立てた。

 多大な喪失感に四苦八苦しながらも、サブスーツのアシストで何とか立ち上がる。

 失った物は仕方がない。

 そう割り切らなければ、やっていられなかった。

 それに俺には──スーツがある。

 最初にただの強化外装だったものは、もう何段階も進化してきた。

 重武装スーツ。

 兵器召喚。

 有機性強化外装。

 軌道適装衛星《ネメシス・ムーン》。

 

 そして迷宮核の吸収によって追加された新カテゴリ【機器創成】。

 もしかしたら。

 失った手足を補える何かがあるかもしれない。

 その希望とも期待ともつかないものが、どうにか気持ちを前へ向けさせた。

 壁伝いに移動し、簡素な椅子へ腰を下ろす。

 座るだけでも一苦労だったが、落ち着いてからようやく呼吸が整った。

 そこで改めて、バイザーを開く。

 まず目に飛び込んできたのは、残高だった。

 

「……は」

 

 思わず笑ってしまう。

 55億P。

 桁が、もう笑うしかない。

 百鬼夜行の鬼主(ぬらりひょん)との決戦で超大型、大型、中型の大盤振る舞いした時に討伐ポイントはほとんど底をついていた。

 それが一転して、今は潤沢どころの話じゃない。

 五十五億。

 色々と使い道が浮かぶが、今この瞬間の使い道は決まっていた。

 

「まずは、これだな」

 

 バイザーの深層を開く。

 迷宮核吸収後に追加された、新カテゴリ。

 詳細を呼び出す。

 

能力名:機器創成

ランク:固有派生

能力詳細

・討伐ポイントを消費して機能や機器、兵器を創成可能。

 

「……創成、ね」

 

 兵器召喚とは似ているようで、少し違う響きだ。

 召喚があくまで決められた中から呼び出す能力だとするなら、これはその枠すら越えて欲しい力を得れるという事なのだろう。

 

 機能。

 機器。

 兵器。

 

 単に大砲やドローンを増やすだけなら、兵器召喚で事足りる。

 しかしわざわざ別カテゴリとして追加された以上、もっと根本的に機械そのものを設計・生成する方向の能力である可能性が高い。量産品とオーダーメイド的な違いなのかもしれない。

 

「機能や機器、か……」

 

 そう呟きながら、自分の右肩の先へ視線を落とす。

 空白。

 無いものは、どう見ても無い。

 左脚も同じだ。

 膝から先が欠け、そこだけ現実が途中で切り取られたみたいに終わっている。

 なら、試す価値はある。

 

「義肢、補助機構、代替四肢……いや」

 

 この能力がどこまで柔軟なのか分からない以上、言葉はもっと本質的な方がいい。

 

「欠損部位補完。戦闘運用可能。外装との高適合を優先」

 

 そう入力する。

 しばらくの沈黙の後。バイザーの画面に見たこともない速度で情報が展開された。

 

 簡易補助フレーム。

 シンプルな機械肢。

 有機複合義肢。

 戦闘用代替四肢。

 エネルギー駆動。

 生体補助。

 兵装内蔵。

 

「はは……」

 

 想像以上だった。

 それにただ種類が多いだけじゃない。

 今の俺の状態や、既存能力との適合率、消費ポイント、外装との連結性まで表示されている。

 

 これは──

 

「……戻る、のか」

 

 失った手足を取り戻せる可能性がある。

 その事実だけで、胸の奥に溜まっていた鬱屈が少しだけ軽くなった。

 右肩が無くなったことも。

 左脚が欠けたことも。

 現実として消えはしない。

 だが、その喪失の先に進む道がちゃんと表示されているなら、まだ折れる理由にはならない。

 バイザーの一覧へ視線を走らせる。

 簡易義肢は安い。

 だがあくまで生活補助。

 今の俺には足りない。

 有機複合義肢は魅力的だ。

 生体回復機能や有機性強化外装との相性も良い。

 他にも神経同調率が高く、ネメシス・ムーンや他の兵器との連動まで想定されているモデルまである。

 その辺りへ視線が止まる。

 

「……なるほどな」

 

 五十五億あるのだ。

 安物で済ませる理由はない。

 ここで求めるべきは今回の事を糧として前よりも良い形へ作り替えることだ。

 椅子へ深く座り直し、改めて呼吸を整える。

 痛みはまだある。

 熱も残っている。

 だが、頭ははっきりしていた。

 

「……悪くない」

 

 そう呟く。

 いや、悪くないどころじゃない。

 このタイミングで来るカテゴリとしては出来過ぎているとまで思う。

 失った手足。

 大戦力を生むだけのポイント。

 そして、それを埋めるための新機能。

 

 この世界は理不尽だ。

 奪ってくる時は、何の前触れもなく奪ってくる。

 右肩の断面。

 左脚の欠損。

 そこへ意識を向ける。

 無くなった物は仕方がない。

 だが、仕方がないで終わらせるつもりはない。

 

 折角の機会なのだ。

 

 どうせ作るなら、中途半端なものにする気はない。

 

 今必要なのは、次のステージに踏み込むための新しい武器だ。

 

「飛びっきり高性能な奴にしてやる…!」

 

 独り言のようにそう呟き、【機器創成】の一覧をさらに深く潜っていく。

 まず重視したのは、有機性質の追加だった。

 ただ動く。

 ただ握れる。

 ただ歩ける。

 そんなものでは足りない。

 触感。

 圧覚。

 温度。

 指先の細かな感覚。

 地面を踏んだ時の反応の返り方。

 それらが再現できるなら、絶対に入れるべきだ。

 

「違和感なく使えるなら、その方がいいに決まってるだろ」

 

 機械だから強い、ではなく。

 自分の肉体の延長として使えるから強い。

 その方が、間違いなく戦闘では上に行ける。

 次に設定したのは、特殊機構だ。

 ここは妥協する理由がなかった。

 ネメシス・ムーンとの連携。

 スーツとの親和性向上。

 兵器召喚カテゴリとの直結。

 情報投影と地図確認。

 機能起動の外部インターフェース化。

 要するに、今までいちいちスーツを呼び出してからやっていたことを、生身のままでできるようにする。

 

「これが通るなら、地味にデカいな……」

 

 今までは必ずスーツ展開を挟んでいた。

 それ自体は悪くない。

 だが普段使いの煩わしさを考えると、これからは身体の一部として直接アクセスできる意味は大きい。

 

 兵器召喚。

 地図の確認。

 索敵データの呼び出し。

 ネメシス・ムーンの簡易接続。

 最低限の兵装展開。

 

 それらが義手から直接行えるなら、日常と戦闘の境目がさらに曖昧になる。

 そしてこの世界では、その曖昧さがそのまま生存率に繋がる。

 

「……よし、それも追加」

 

 そこから先は半ば夢中だった。

 義手。

 有機複合神経接続。

 高適合外装連結。

 ネメシス・ムーン補助受信機構。

 兵器召喚・情報投影・機能起動の直結端末化。

 その上で、エネルギー源。

 

第五元素反応炉(エーテル・リアクター):1000万P】

 

 名前を見た瞬間に、これだと思った。

 魔力でも電力でも熱量でもない、もっと別系統の高位の反応を扱う出力炉。

 説明文を読めば、今までのエネルギー出力を数段階押し上げるとある。

 

「追加」

 

 迷う理由がない。

 更に内蔵兵装。

 

【電磁バリア:500万P】

【エネルギーバリア:500万P】

 

 そして──

 

【無反動対消滅砲:1億5000万P】

 

 思わずその文字を二度見する。

 物騒にも程がある。

 義手の内蔵兵装に入っていい名前じゃない。

 だが、ここまで来た以上、遠慮する理由もなかった。

 火力も防御も盛れるだけ盛るべきだ。

 

 次に、義足。

 

 目に留まったのは重力系統。

 

重力子反応炉(グラビトン・リアクター):1000万P】

 

「……おいおい」

 

 呟きながら説明を読む。

 単なる出力源じゃない。

 重力機構や機能を動かすための中核炉。

 そして、それを前提に搭載可能となる追加機能がまた馬鹿げていた。

 

重力制御核(グラビティ・コア):2億5000万P】

 

 周囲100メートル圏内の重力を0.1~100Gの範囲で高精度に操作可能。

 

縮退砲(ノワール・カノン):2億5000万】

 

 重力子を過稼働させその生じたエネルギーを放つ、超兵装。

 

 脚部だからこそ支点として重力制御を扱う意味がある。

 踏み込み。

 跳躍。

 着地。

 荷重。

 押し込み。

 全部が変わる。

 重力を操れる脚なんて、もはや義足ではなく戦闘の基盤そのものだ。

 

「……盛るか」

 

 そう呟いた時点で、もう財布を気にする気は消えていた。

 有機性質。

 神経接続。

 ネメシス・ムーン直結。

 エーテル・リアクター。

 各種バリア。

 対消滅砲。

 グラビトン・リアクター。

 重力制御核。

 縮退砲。

 追加できる機能や機構を、盛りに盛る。

 結果。

 義手が2億5000万。

 義足が7億5000万。

 計10億P。

 数字を見た瞬間、流石に少し笑った。

 

「高っ……」

 

 高い。

 間違いなく高い。

 だが、後悔は無かった。

 55億もあるのだ。

 その1/5を自分自身の基礎戦力へ突っ込むくらい安いものだ。

 

「創成開始」

 

 決定。

 次の瞬間、バイザー全体へ光の設計図が広がった。

 

【機器創成:実行】

【高機能有機複合義手:2億5000万P】

【重力機構搭載型戦闘義足:7億5000万P】

【計消費ポイント:10億P】

【創成開始】

 

 青と緑、それに金に近い光が幾重にも走る。

 設計図。

 神経接続マップ。

 有機繊維の配置。

 反応炉の核構造。

 内蔵兵装の折り畳みライン。

 重力制御機構の安全域。

 縮退砲の封印機構。

 それら全部が、頭の中へ流れ込んできた。

 

「……っ、これ……!」

 

 ただ作られるだけじゃない。

 どういう構造で、どういう原理で、どこまでの性能を持つか、その一部が使用者側へフィードバックされている。

 凄い。

 いや、凄いを通り越して、気味が悪いほど完成されていた。

 右肩の断面。

 左脚の膝下断面。

 そこへ、機器創成による光が集まり始める。

 痛みはある。

 だが切断部へ無理やり何かを押し込まれるような粗雑さ皆無。

 むしろ逆だ。

 失った場所をこちらの神経と有機組織と戦闘能力を全部読み取った上で、最適な接続位置から再構築していくようなそんな感覚。

 

 右肩が熱を持つ。

 左脚の断面が脈打つ。

 有機繊維がまず走り、そこへ金属骨格が噛み合い、さらにエーテル・リアクターとグラビトン・リアクターの核が深部へ沈んでいく。

 

「……ぐ、ぅ……!」

 

 思わず左腕で椅子の肘掛けを掴む。

 痛い。

 だが、嫌な痛みじゃない。これはそう、進化に伴う痛みだ。

 

 右側では指が形を取り始める。

 骨格。

 筋肉に相当する有機駆動繊維。

 表面を覆う人工皮膚。

 その下へ埋め込まれる兵装層とバリア発生機構。

 左脚では、膝の下から新しい支柱が伸びる。

 人の脚に似せている。

 だが完全に人と同じではない。

 どこか洗練されすぎた義肢らしい線を残しながら、それでも有機質な柔らかさを持っている。

 そして何より神経が繋がる。

 感覚が流れ込む。

 

 指先。

 足裏。

 そこにある感覚。

 まだ完全じゃない。

 まだ馴染みきってはいない。

 それでも、確かにそこに何かが戻ってきている。

 創成はしばらく続いた。

 数分か。

 体感ではもっと長かったかもしれない。

 やがて光が静かに収まり、バイザーへ最終表示が出る。

 

【創成完了】

【高機能有機複合義手:接続安定】

【重力機構搭載型戦闘義足:接続安定】

【神経同調率:高】

【起動試験を推奨】

 

「終わった、か。……ふぅ」

 

 掠れた声で一息吐く。そしてゆっくりと視線を落とす。

 そこに欠損は無かった。

 右側には新しい腕。

 左側には新しい脚。

 

 前よりも高性能。前よりも危険。そして前より明らかに俺の能力と噛み合う、新しい四肢の存在。

 ゆっくりと右手を握る。

 感覚がある。

 指先の圧。

 掌に触れる空気の流れ。

 椅子の肘掛けの硬さ。

 

「……本当に、触感まで戻ってきた」

 

 次に左脚へ体重を乗せる。

 恐る恐る。

 だが義足は軋まず、沈まず、自然に重心を受け止める。

 それどころか、ほんの僅かに意識を向けただけで、床へ掛かる荷重分布まで感覚として返ってきた。

 

「すっげぇな、これ……」

 

 呟きながら、ゆっくりと立ち上がる。

 右腕。

 左脚。

 どちらも違和感が少ない。しかし完全にゼロではない。

 

 内部機構が存在を主張してくる。

 義手の深部で脈打つエーテル・リアクター。

 義足の芯に沈んだグラビトン・リアクター。

 どちらも、ただの義肢ではない。

 戦闘の中核そのものだ。

 右手を軽く開く。

 兵器召喚のインターフェースが、スーツを呼ばずとも薄く視界へ投影される。

 

「……マジで生身のまま使えるのか」

 

 笑う。

 地図。

 兵器状況。

 簡易召喚。

 ネメシス・ムーンの待機接続。

 全部が義手からアクセス可能だ。

 次に、左脚へ少し意識を集中する。

 重力制御核《グラビティ・コア》。

 さすがにここでは起動まではしない。

 まだ試験段階だ。

 だが、そこにあると分かるだけで背筋がぞくりとする。

 周囲100メートル。

 0.1~100G。

 それはもう脚の性能というより戦場そのものを書き換える権利に近い。

 

「……本当に、えげつないな」

 

 

 無反動対消滅砲。

 電磁バリア。

 エネルギーバリア。

 重力制御核。

 縮退砲。

 

 だがこれでいい。

 失ったものが大きいなら、取り戻すものもそれ相応であるべきだ。

 拠点の椅子の前で、ゆっくりと右腕を上げる。

 指を曲げる。

 開く。

 左脚で一歩踏み出す。

 着地の感覚は自然だった。

 ちゃんと使える。

 それどころか、慣れれば確実に前より上へ行く。

 

「……悪くないどころじゃないな」

 

「また、先のステージに行ける」

 

 

 しばらくその場で動き回ったりして手足の感覚を取り戻した所で元の簡易ベッドに腰掛ける。

 新規武装の試運転は、一旦後に回すことにした。それよりもやるべき事があると思ったからだ。

 

 それは今の俺に足ない物の補完だ。

 

「まずは……耐性か」

 

 屋敷迷宮で嫌というほど思い知らされた。

 純粋な防御力や火力だけでは、どうにもならない局面が多すぎる。

 凍雪妖女郎(グレイシアス・コールドレディ)、そして極寒零妖妃(アプソリュートグレイシアス・クイーン)からは、極低温と冷気に削られた。

 傾城九尾の鮮血乙女(ナインテイル・ブラッディリリー)からは、魅了と精神干渉に揺さぶられた。

 百鬼夜行の鬼主(ぬらりひょん)からは、妖刀の呪詛に侵食された。

 ゲーム的に言えば、今の俺は純粋防御力は高いが状態異常耐性が低かった。

 

「弱点を潰せるなら潰すに限る」

 

 即断。

 

 バイザーへ【機器創成】の機能拡張一覧を開く。

 

 義手義足だけじゃない。

 既存のスーツや有機性強化外装、ネメシス・ムーン適装群に対しても、共通基盤として追加できる補助機構がかなり存在していた。

 思い付く耐性を、片っ端から入力していく。

 

 生体への高熱耐性。

 装甲への極高温耐性。

 生体への冷気耐性。

 装甲への極低温耐性。

 無酸素状態への対策として酸素供給機能。

 それに関連付けた真空耐性と圧力耐性。

 腐食耐性。

 侵食耐性。

 魅了耐性。

 精神耐性。

 斬撃耐性。

 打撃耐性。

 刺突耐性。

 電撃耐性。

 衝撃耐性。

 重力耐性。

 

「…重力は義足のグラビティ・コアである程度どうにかなる気はするが……まあ、入れとくか」

 

 余裕もあるし念のためだ。

 

 さらに、ここからが重要だった。

 

【超多層構造化】

 

 装甲、補助繊維、内部フレーム、有機層、エネルギー遮断膜、それら内部を多層構造へ再編し、腐食や侵食、呪詛や特殊干渉を表面で受け止め、侵された部位だけ切除。それが叶わなくても対処するだけの猶予を発生させる機構。

 

「これたっかいな……」

 

 表示された価格を見て、思わずそう漏らす。

 だが高いだけの価値はある。

 初見殺しの特殊攻撃に対して、対応する時間を得られるなら、今後の生存率が目に見えて変わる。

 そしてもう一つ。

 

 【生体記録再生機能】

 

 ただの回復とは全くの別物。

 

 装着者の現状を常時記録しておき、重大欠損や致命的損壊が起きた場合に記録通りに再構築・再生するバックアップ機構だ。

 

「また手足が無くなっても、って考え方はしたくないが……」

 

 苦笑する。

 したくはない。

 だが、ぬらりひょん戦の後でそれを切るほど楽観はできない。

 この先、もっと上がある。

 二度と欠損しないを望むのは難しいだろう。それなら欠損しても復帰できるように仕込んでおくべきだ。

 

 更に細かな生活・生存機能も追加する。

 悪臭や有毒ガスの遮断。

 毒物の浄化。

 麻痺や神経系阻害物質の分解。

 生体に害のある微粒子や胞子の排除。

 異常物質のフィルタリング。

 血液循環や神経伝達を守る自動補助。

 流石に全部が全部、派手な能力じゃない。

 だがこういう地味な補助でこそ、気付いた時には命を拾っている事だろう。

 

「……これで、よっぽどの事がない限りは、戦闘不能にはならないだろ」

 

 呟きながら、最終見積もりを確認する。

 締めて、2億5000万P。

 超多層構造化と再生機能が共に7500万。

 その他の耐性系は数百万程度。

 

「……感覚、バグってきたな」

 

 正直な感想だった。

 数百万。

 それだけあれば、中型でもかなり良い性能の兵器が買える。

 少し前の自分なら、一項目で数百万なんて見た瞬間に悩み倒していただろう。

 それを今は安い方だなみたいに感じ始めている。

 金銭感覚ならぬ、討伐ポイント感覚が壊れかけていた。

 

 まぁ、五十五億なんて残高を見た後だ。

 それも仕方ない事だろう。

 

「よし、まとめて追加だ」

 

 決定。

 バイザーへ最終確認が表示される。

 

【統合耐性パッケージ】

【総額:2億5000万P】

【適用対象:有機性強化外装/義手義足/既存兵装基盤】

【創成・改修開始】

 

 次の瞬間、全身の外装ラインが淡く光った。

 右義手の内部でエーテル・リアクターが脈打ち、左義足のグラビトン・リアクターが低く共鳴する。

 その反応に呼応して、有機性強化外装そのものが再編を始めた。

 見た目に劇的な変化はない。

 だが、内側は別物へ変わっていくのが分かる。

 層が増える。

 緩衝構造が入る。

 熱遮断。

 冷気遮断。

 腐食分離。

 精神防壁。

 毒素フィルター。

 生体保護膜。

 どれも一つ一つは目立たない。

 だが、それらが積み重なることで状態異常だけじゃなく並大抵の攻撃すらも効かない完全体が出来上がっていく。

 

 特に再生機能の統合は、感覚としてかなり大きかった。

 右肩、左脚、肩口の古傷、その辺りへ一瞬だけ熱が走り、次いで静かな“記録完了”の感覚が来る。

 

 今この瞬間の四肢構成、骨格、筋出力、神経接続、外装適合状態、その全てがバックアップされたのだと直感できた。

 

 これで義手義足を失っても再構築されるかもしれない。

 そう考えるだけで、今後の戦い方にかなり余裕が出る。

 もちろん、万能じゃないだろう。

 再生に時間も掛かるはずだし、エネルギーやポイント消費も無視できない筈だ。

 だが、それでも保険があるのとないのとでは天と地ほど違う。

 創成と改修が終わる。

 バイザーへ新しい状態表示が流れた。

 

【高熱耐性:追加】

【極低温耐性:追加】

【真空耐性:追加】

【腐食・侵食耐性:強化】

【精神・魅了耐性:強化】

【斬撃・打撃・刺突耐性:強化】

【電撃・衝撃・重力耐性:追加】

【毒素浄化機能:追加】

【異常環境遮断機能:追加】

【超多層構造化:完了】

【損傷時再生記録機能:完了】

 

「……よし」

 

 これでかなり違う。

 今までみたいに、冷気に削られ、魅了に揺らぎ、呪詛に侵されるだけの身体じゃない。

 ここから先は、相手の初見殺しに対しても見に回る事すら可能だ。

 

 右義手を軽く握る。

 左義足へ体重を乗せる。

 感覚は変わらず自然だ。

 だが、その奥に層が増えた安心感がある。間違いなく死ににくくなった。

 その事実が大きい。

 

「これでようやく、土台か」

 

 そう呟く。

 火力はある。

 兵器群もある。

 ネメシス・ムーンもある。

 新しい義手義足もある。

 だが、それらを乗せる土台が脆ければ意味がない。

 今回の改修で、その土台がようやくまともになった気がした。

 残高は42億5000万。

 まだまだ十分すぎるほど残っている。

 つまり、これで終わりじゃない。

 耐性を整えた今、ようやく次の強化へ進める。

 

「……次は火力、だな」

 

 小さく笑う。

 手足を取り戻し、耐性を盛り、なおかつ四十億以上残っている。

 普通なら狂う。

 だがもう、ここまで来たら使い切るくらいでちょうどいいのかもしれない。

 この世界で、出し惜しみして死ぬのが一番馬鹿らしい。

 そういう考え方は、もうだいぶ染み付いていた。

 




今話獲得能力:1

能力名:機器創成
ランク:固有派生
能力詳細
・討伐ポイントを消費して機能や機器、兵器を創成可能。

今話創成機器:10

機器名:第五元素反応炉
消費ポイント:1000万
機器詳細
・第五元素を生成し、稼働する高出力エネルギー炉。これ一機で小さな国の電力が賄えるほどのエネルギー生産量を誇る。

機器名:電磁バリア
消費ポイント:500万
機器詳細
・強力な電磁力による障壁を展開する。非磁性体ですら磁化させる程の磁力によりあらゆる物質干渉を磁性斥力によって弾き飛ばす。

機器名:エネルギーバリア
消費ポイント:500万
機器詳細
・エネルギーを半物質化した障壁を展開する。

機器名:無反動対消滅砲
消費ポイント:1億5000万
機器詳細
・反物質を照射し、対象を消し飛ばす超級兵装。最低出力でも城一つが消滅する威力を持つ。

機器名:重力子反応炉
消費ポイント:1000万
機器詳細
・重力子を生成し、稼働する高出力エネルギー炉。出力するエネルギーは重力機構に必須。

機器名:重力制御核
消費ポイント:2億5000万
機器詳細
・周囲100メートル圏内の重力を0.1~100Gの範囲で高精度に操作可能。稼働には重力子を用いたエネルギーが必要。

機器名:縮退砲
消費ポイント:2億5000万
機器詳細
・重力子を過稼働させ、その生じたエネルギーを放つ超兵装。最大出力は都市一つが容易く消し飛ぶ威力を誇る。

機器名:耐性各種
消費ポイント:100万~500万
機器詳細
・装甲や装着者に及ぶ外的要因による干渉を防ぐ、または軽減する機構。

機器名:超多層構造
消費ポイント:7500万
機器詳細
・装甲、補助繊維、内部フレーム、有機層、エネルギー遮断膜、それら内部を多層構造へ再編し、腐食や侵食、呪詛や特殊干渉を表面で受け止め、侵された部位だけ切除。それが叶わなくても対処するだけの猶予を発生させる機構。

機器名:生体記録再生機能
消費ポイント:7500万
機器詳細
・装着者の現状を常時記録しておき、重大欠損や致命的損壊が起きた場合に記録通りに再構築・再生するバックアップ機構。スーツさえ無事ならどんな状態からでも回復が可能。
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