BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第五十三話:真・拠点計画

  

 足りなかった防御、耐性を埋めたら、次は火力の増強だ。

 耐性を増やし、状態異常や環境干渉に対する脆さもかなりの改善がされた。

 だが、それで終わりではない。

 そもそもの話。

 

 屋敷迷宮へ挑んだ切っ掛けは、あの光人を倒せる力を得る為だった。

 アドヴェント・ヒューマライト。

 思い出すだけで、胸の奥が冷たくなる。

 あれは戦闘ですらなかった。

 マキナ・フレームを玩具みたいに掴み上げ、空き缶みたいに放り投げた。

 B級を倒せたあの時の俺ですら、歯牙にも掛けていなかった。

 あの光人のランクは、S。

 対して、百鬼夜行の鬼主(ぬらりひょん)はA+。

 確かに強かった。

 ぬらりひょんは今まで戦ってきた中でも頭一つ抜けた怪物だったし、軍勢を従えるという意味では単純な格付け以上の脅威でもあった。

 だが、それでも。

 

「……A+相手に死闘」

 

 小さく呟く。

 笑えない事実。

 ぬらりひょん相手に、こちらは兵器軍の総力を使った。

 超大型も大型も中型も使い潰した。

 ネメシス・ムーンの適装も、義手義足も、耐性も、全部を注ぎ込んだ。

 それでも勝ちはしたが、その代償として右腕と左脚を失った。

 取り戻せたから良かった、では済まない。

 もし相手がA+ではなくS級だったのなら?

 もしあれが光人だったら?

 もしぬらりひょん戦の最後の一撃が通じなかったら?

 答えは出ている。

 今の俺では、まだ足りない。

 夢のまた夢。

 その表現は大袈裟では決してない。

 

 

 椅子へ深く座り直し、残高を表示させる。

 既に13億Pも使ったが、残りは42億5000万。

 まだ莫大に残っている。

 だが、S級を見据えるなら、これでも足りない可能性が高い。

 だからこそ、次にやるべきことは明確だった。

「局所の改善は済んだ。次は、全体の底上げだ」

 今の俺は、あちこちが強い。

 火力もある。

 兵器もある。

 耐性も増えた。

 義手義足で戦闘幅も広がった。

 だが、まとまっているかと言われると、まだ怪しい。

 戦うたびに思う。

 この場面では火力が足りない。

 この場面では継戦能力が足りない。

 この場面では展開速度が足りない。

 この場面では兵器群との噛み合いが甘い。

 つまり、単品の強みは増えても、全体的な最適化がまだ甘いのだ。

 S級に届くには、そこを誤魔化せない。

 あの光人は、多分ひとつの弱点を突けば勝てる類の相手じゃない。

 純粋火力だけでも。

 防御だけでも。

 機動力だけでも。

 どれか一つ特化では足りない。

 必要なのは、全部が高いレベルで噛み合った総合戦力だ。

 

「なら……必要なのは段階強化だな」

 

 ひとつずつ、明確に積み上げる。

 まず、自分本体の基礎性能。

 出力。

 反応速度。

 継戦能力。

 情報処理。

 装甲強度。

 エネルギー効率。

 次に、兵器群。

 超大型を含めた兵器召喚戦力の質と量。

 戦術管制ユニットの処理能力。

 兵器相互の連携精度。

 

 そして、新カテゴリ【機器創成】によって可能になる召喚ではなく固定戦力としての兵器開発。

 

 最後に拠点。

 これは地味だが重要だった。

 屋敷迷宮で痛い程思い知った。消耗を立て直す場所があるかどうかで、その後のコンディションが全くもって違う。

 

 S級を視野に入れるなら、単なる休める場所では足りない。

 兵器を補給し、整備し、再創成し、機器創成カテゴリを活かして装備を生み出し続ける、本当の前線基地が要る。

 

「……やること、山ほどあるな」

 

 そう呟きながらも、気分は悪くなかった。

 足りない。

 それは事実だ。

 だが、足りない場所が前よりはっきり見えている。

 それはつまり、伸ばすべき場所も見えているということだ。

 以前の俺は、ただ強い敵を見つけては殴り、ダンジョンを攻略し、ポイントを積み上げてきた。

 それでここまで来た。

 だが、S級へ手を伸ばすなら、それだけじゃ駄目だ。

 もっと計画的に。

 もっと体系的に。

 自分を一つの兵器体系として組み上げる必要がある。

 

 そこで、バイザーのメモ欄へ項目を並べていく。

 

【1】本体性能の全体的な強化

【2】兵器群の質と量両方の強化

【3】ネメシス・ムーンを運用するに当たっての最適化

【4】前線基地の本格建設

【5】S級想定の決戦級兵装及び兵器の確保、または開発

 

 並べた瞬間、自然と視線が最後の項目で止まる。

 決戦兵装。

 ぬらりひょん戦でも、最後に勝敗を分けたのは渾身の力、その全てを注いだ一撃だった。

 つまり、S級と戦うならなおさら、通常戦力とは別に、決着を付けるためだけの領域が必要になる。

 ネメシス・ムーンは強い。

 しかし、光人相手では単なる便利留まりだろう。

 

 なら、次に狙うべきはそこだ。

 

「まだ見ぬ兵装か……あるいは、創るか」

 

 【機器創成】のお陰で自分用の決戦機構や兵器、兵装を作る。

 そんな考え方も可能だ。

 

 そこまで考えてから、一度だけ大きく息を吐く。

 焦るな。

 そう自分へ言い聞かせる。

 光人を倒す。

 それが最終目標の一つであることは変わらない。

 だが、今すぐ届くわけじゃない。

 A+級相手に死闘を演じる段階。

 それが今の現実だ。

 だったら、その現実を否定せず、そこから積むしかない。

 

 全体の強化は確定。

 

 その中でもまず優先すべきは、本体性能と兵器群の基盤強化。

 

 どれだけ決戦兵装を夢見ても、それを操るに足る土台がなければまた同じことになる。

 光人は、遊び半分でマキナ・フレームを投げ捨てた。

 なら次は、その遊び半分に耐えられる土台を作る。

 握った右義手へ力が入る。

 左義足も、静かに床を踏みしめる。

 

「待ってろよ」

 

 光人。

 S級。

 理不尽そのもの。

 まだ遠い。

 だが、届かないとはもう思っていない。

 A+を越えた今だからこそ、ようやくその先を目標として見られるようになったのだと思う。

 バイザーの残高表示が静かに光る。

 42億5000万P。

 夢を見るには、十分すぎる資金だった。

 

 さしあたって、まずは予算は決めずに思いのまま必要だと思う機能や機構、兵装を設定しようとして──そこで、一つ思い至った。

 

 火力を出すのは、別に俺じゃなくてもよくないか?

 

 俺自身が超火力を持つ。

 それはそれで正しい。

 義手義足を極め、ネメシス・ムーンの兵装を研ぎ澄まし、自分そのものを決戦兵器へ寄せていく。

 その方向性も間違ってはいない。

 だが、結局のところ俺は175cmしかなく、重武装スーツ込みでも4~5m程度だ。

 どれだけ凄まじい斬撃を持とうが、どれだけ苛烈な砲撃を内蔵しようが、最終的にその基準は人が扱う武器の延長線上にある。

 

 威力は上がる。

 密度も上がる。

 しかし、範囲と規模には限界がある。

 万物を切断できる剣があったとして、それがまち針サイズだったらどうだ。

 刺されれば痛い。

 傷も付くだろう。

 だが、それを脅威と呼ぶには足りない。

 ましてや相手は、人ならざる存在だ。

 山を跨ぐ大鬼。

 都市を滅ぼす妖。

 国のような質量を背負う怪物。

 そして、海を割り、空間を歪める災害。

 クジラにまち針を刺したところで、痛痒にも介さない。

 今の話は極論ではある。

 しかし、サイズというのはそれだけで単純な暴力でもあるのだ。

 

「……そうか」

 

 小さく呟く。

 自分を強くする。

 それは当然続ける。

 だが、それと並行して自分より遥かに大きい火力の器を持つべきなんじゃないか。

 考え方の方向性を変え、違う角度から眺めてみる。

 その結果、むしろ更に素晴らしい案を閃くことができた。

 

「……拠点ごと、兵器にする」

 

 それだった。

 現在製作中の拠点。

 ただの前線基地ではなく、移動可能な要塞。

 生活空間であり、補給基地であり、兵器運用の核であり、そしてそのまま超弩級兵器でもある存在。

 

 要するに、拠点そのものを移動兵器化するという発想だった。

 口にした瞬間、頭の中で一気に線が繋がる。

 今まで考えていた防衛拠点の延長にしか見えなかったものが、一つ上の位階へ昇華する。

 

 住む場所。

 休む場所。

 補給する場所。

 育てる場所。

 そして強敵を討てる場所。

 

 それを全部、同じ器へ詰め込める。

 

「……いいな、これ」

 

 自然と口元が緩んだ。

 

 

 早速、イメージを具体化していく。

 とはいえ、そもそもそういう機器が創成できなければ絵に描いた餅だ。

 先に夢だけ膨らませすぎるのは良くない。

 だからまずは、片っ端から入力して、実現可能かどうかとコストを確かめていく。

 

「まずは……浮かせるか」

 

 陸を行くのも悪くない。

 超大型移動兵器、機動要塞、戦艦型拠点。

 そういうのもロマンはある。

 だが、やはりロマンを求めるなら空だろう。

 空。

 ただしそこにはクラウド・エンペラーという災厄がいる。

 空を支配するS級。討伐ポイントは…10億か。光人よりは低いが、それでもぬらりひょんの倍だ。

 それを考えると、空へ出るのは自殺行為に見えるかもしれない。

 しかし今の俺なら回避することを主眼に置けば十分対処は可能だ。

 

 何より、空へ出れば地形に縛られない。

 地上のモンスター密度、道路、崩壊都市、山岳、河川、全部を無視できる。

 

「やっぱ、空だな」

 

 そう決めて入力する。

 

【|都市規模反重力核:5億P】

 

 表示された瞬間、思わず笑った。

 

「安くはない。だが、高すぎるわけでもないな」

 

 もっと馬鹿げた額を覚悟していた。

 だが、都市規模を浮かせる心臓部としては、むしろお得にすら見える。

 次。

 これを回すための補助出力源。

 反重力核だけでは足りない。

 都市規模の浮遊、移動、安定維持、それを考えれば専用のエネルギー源が要る。

 

重力子反応炉(グラビトン・リアクター):1000万P】

 

 これを五十基。

 合計五億。

 

「……まぁ、必要だろ」

 

 一点豪華主義じゃ駄目だ。

 巨大構造物は、メイン電源だけじゃなく冗長化と分散供給が要る。

 まして空飛ぶ拠点なら、どこか一カ所潰されたら終わりなんて構成は論外だ。

 本題の超火力の動力源として考えてもいい。

 ここは妥協するべきじゃない。

 拠点そのものを兵器化するなら、ただ移動できるだけの家で終わらせる意味はない。

 目指すのは、空飛ぶ前線基地であり、都市規模の砲台であり、S級にすら牙を届かせるための器だ。

 

「して、本題の主砲は……」

 

 考える。

 砲門の数か。

 射程か。

 面制圧か。

 貫通か。

 悩んだ末、まずは象徴となる一撃を置くことにする。

 

極大浄滅砲塔(クリア・オール):2億5000万P】

 

 名前からしていい。

 超弩級のレーザー砲。

 拠点兵器の主砲として申し分ない。

 

「……主砲はこれだな」

 

 次に拠点全体のエネルギー基盤。

 都市規模の浮遊。

 主砲。

 生活インフラ。

 兵器整備。

 防御障壁。

 そういう全部を賄うには、反重力系とは別に高効率の総合出力源が必要になる。

 

第五元素反応炉(エーテル・リアクター):1000万P】

 

 これも五十基。

 合計五億。

 重力子反応炉が浮く・重力を扱うための動力源なら、エーテル・リアクターは都市兵器として動くための万能炉だ。

 生活も戦闘も補給も全部、この上に乗る。

 

「やっぱり、基礎電源は盛れるだけ盛った方がいい」

 

 極端な話、主砲より重要かもしれない。

 電源が死ねば、全部終わる。

 逆に電源が異常に強ければ、後から何でも積み足せる。

 防御面も忘れちゃいけない。

 むしろ、空へ出る前提なら火力と同じくらい重要だ。

 撃たれる。

 斬られる。

 干渉される。

 空間ごと潰される可能性すらある。

 なら、ただ硬い外壁では足りない。

 

「欲しいのは……防ぐだけじゃなく、捻じ曲げて返すようなやつだな」

 

 そのイメージで検索すると、かなりピッタリな項目が出てきた。

 

空間反転障壁(イージス・リフレクター):2500万P】

 

 四基。

 合計一億。

 最早何も言うまい。

 

 前後左右、あるいは四象限を押さえる形で配置すれば、単純な全周防御に近い働きができるだろう。

 そして、ここで終わりじゃない。

 どうせ拠点を兵器化するなら、住環境も妥協したくなかった。

 生活空間が死んでいたら、長期行動で必ず歪みが出る。

 休める時にしっかり休めるかどうかは、戦力に直結する。

 

「上下水道は要る。空調も当然。後は……」

 

 少し考えて、笑う。

 

「風呂だな」

 

 いや、風呂どころじゃない。

 せっかくだ。

 スーパー銭湯みたいな施設でもいいだろう。

 温浴。

 サウナ。

 回復促進。

 リラクゼーション。

 食堂。

 睡眠区画。

 軽運動施設。

 整備工房。

 創成工房。

 兵器格納庫。

 医療区画。

 考え始めると止まらない。

 だが、こういうのは大事だ。

 休息の場であることも重要だからだ。

 必要な設備を一つずつ積んでいく。

 インフラ。

 居住性。

 整備性。

 拡張性。

 兵器運用との動線。

 そして最後に、合計が出る。

 

「……20億8000万P」

 

 数字を見て、しばらく黙る。

 高い。

 そりゃ高い。

 だが、残高を見れば。

 まだ、全然いける。

 

「……いけるじゃん。余裕で」

 

 思わずそう言ってしまった。

 感覚が完全に壊れている。

 数億、十数億という単位を前にして、なお余裕と言えてしまうあたり、自分でもだいぶ感覚が麻痺しているのが分かる。

 だが実際、余裕はある。

 残高42億5000万。

 そこから引いても、まだ22億弱残る。

 保険も十分。

 追加兵装も積める。

 後から修正も利く。

 

「……だったら、やるしかないな」

 

 ここまでイメージが固まっていて、しかも数字が通る。

 なら、躊躇う理由がない。

 

 

 改めて、頭の中で全体像を組み直す。

 空飛ぶ拠点。

 都市規模反重力核を心臓に、重力子反応炉群で浮遊と姿勢制御を支え、第五元素反応炉群で全体出力を賄う。

 超弩級主砲:クリア・オール。

 四基の絶対防壁:イージス・リフレクター。

 上下水道、空調、居住区、温浴施設、整備工房、創成設備、兵器格納区画。

 要するに、これはもう拠点とか言う規模じゃないじゃない。

 

 もはやこれは──

 

「……都市だな」

 

 ぽつりと漏れる。

 それもただの都市じゃない。

 空を往き、住めて休めて補給可能。

 超火力も撃て、攻撃を反射する事も可能。

 万が一の自体には逃げる事もできる空の要塞。

 

 この世界で根無し草のまま強くなり続けるには、どこかで限界が来る。

 

 なら、その限界ごと飛び越える器を先に用意してしまえばいい。

 兵器を運ぶんじゃない。

 兵器群を運用できる都市そのものごと行く。

 そう考えると、急に視界が開けた気がした。

 S級相手に必要なのは、個の決戦兵装だけじゃない。

 戦場を選べること。

 補給と再戦が可能なこと。

 撤退しても終わらないこと。

 そして何より、こちらの都合で戦闘規模を押し広げられること。

 人サイズの武器の限界を、都市サイズで踏み越える。

 

「やっぱり、これだ」

 

 自分の中で確信が固まる。

 光人に届くかはまだ分からない。

 クラウド・エンペラー相手に通用するかも分からない。

 だが、少なくとも人サイズでなんとかしようとする発想よりは、ずっと先へ行ける。そう確信した。

 

 

 バイザーへ創成確認画面を開く。

 

【統合創成計画:空中機動拠点・兵装化プロジェクト】

【概算:20億8000万P】

【主要構成】

・都市規模反重力核

・重力子反応炉×50基

・第五元素反応炉:50基

・極大浄滅砲塔

・空間反転障壁:4基

・生活・整備・創成・回復区画一式

 

【創成可能】

 

 表示された文字列を見ながら、自然と笑みが浮かぶ。

 

「創れる…!本当に…!」

 

 凄いなんて言葉じゃ足りない。

 もう能力そのものが一つの文明だ。

 もちろん、これで即S級を倒せるなんて思ってはいない。

 むしろ逆だ。

 ここから作って、運用して、欠点を洗い出して、兵器を積み足して、ようやくスタートラインかもしれない。

 それでも、この計画は明らかに今までの延長線上じゃない。

 新しい段階だ。

 失った手足を補い。

 耐性を盛り。

 そして今度は、戦場そのものを運ぶ器へ手を伸ばす。

 

「……よし」

 

 小さく息を吐く。

 決めた。

 次に作るのは、ただの拠点じゃない。

 ただの要塞でもない。

 空を往く移動兵器都市だ。

 そう思うと、胸の奥が妙に熱くなった。

 ロマン。

 実用。

 生存。

 戦略。

 火力。

 全部乗せだ。

 この世界で生き延び、S級へ届き、最後にはあの光人を殺すための器。

 その第一号としては、十分すぎるほど相応しい。

 残高はまだ潤沢。

 時間も、今なら少しはある。

 そして何より、構想がもう具体的な数字と機構に落ちている。

 

「さて……まずは名前を考える所からかな」

 

 俺は形から入るタイプの人間なのだ。

 

 少しの間考えた結果。

 

空域移動拠点(シャングリラ・エデン)

 

 そう名付けることにした。

 少し…いや大分ベタだ。

 自分でもそう思う。

 だが求めている物が分かりやすい。

 理想郷。

 楽園。

 この終わった世界で、空に築く俺だけの拠点。

 その名に恥じないように、ただの兵器都市ではなく、生き延びるための楽園として運用していくのだ。

 

「……悪くない」

 

 小さく呟く。

 もっと気取った名前も考えられただろう。

 だが結局、自分がこれから何を作りたいのかを最も真っ直ぐ表しているのはこれだった。

 ただし。

 空に拠点を築くに当たって、さっき洗い出した一覧だけで足りるとは思っていない。

 むしろ、足りないものの方が多い位だろう。

 都市規模反重力核。

 反応炉群。

 主砲。

 障壁。

 生活区画。

 それらは確かに骨格だ。

 だが、骨格だけで都市は動かない。

 航行制御。

 姿勢制御。

 負荷分散。

 電力配分。

 空調循環。

 上下水。

 兵器整備。

 被害管理。

 内部動線。

 食料生産。

 有機性建材の修復スケジュール。

 外壁の再生。

 格納庫の管理。

 対空索敵。

 兵器群とのデータリンク。

 ネメシス・ムーンとの同期補助。

 思いつく限りでも、項目は山ほどある。

 俺一人でそれらを一つずつピックアップし、最適化し、必要性を判断していたら、時間が幾らあっても足りない。

 しかも、そんなことに時間を使っている間にも世界は変わるし、モンスターは襲ってくる。

 

「ならどうするか」

 

 答えは簡単だった。

 

「拠点の全てを把握し、運行を補助するマザーコンピューターみたいなものを創ればいい」

 

 俺には、その力があるのだから。

 

 検索を掛ける。

 都市制御。

 基地管理。

 戦術演算。

 兵站補助。

 建設最適化。

 自己保全。

 そういったワードをまとめて【機器創成】へ投げ込む。

 返ってきた候補の中で、一つだけ明らかに格が違うものがあった。

 

【都市管理級量子電脳核:5000万P】

 

 以前なら目を剥く額だ。

 しかし都市一つを管理する頭脳として考えれば、むしろ破格にすら思える。

 迷う理由はなかった。

 

「創成」

 

【機器創成:実行】

【都市管理級量子電脳核:起動準備開始】

 

 バイザーの前に、幾何学的な光の立方体が出現する。

 白銀。

 青。

 薄い緑。

 それらが複雑に折り重なりながら、立方体とも球体ともつかない情報中枢を形作っていく。

 やがてそれは机上に収まる程度のサイズで安定し、内部に無数の演算光を巡らせ始めた。

 

【起動完了】

【管理対象の指定を要求】

 

「管理対象は、今から創る空域移動拠点(シャングリラ・エデン)全域だ」

 

【了解】

【補助権限要求:設計・建築・運用・保全】

 

「承認」

 

 一拍置いて、バイザーの表示が跳ねた。

 

【管理補助を開始します】

 

 声は無機質だった。

 だが、ただの機械音声とも違う。

 感情はないのに、不思議と理解が速いような気配があった。

 

「じゃあまず、今ある構想を叩き台にして足りないものを洗い出せ」

 

【承知】

【必要機構を再演算中】

【現在構想の不足項目を抽出します】

 

 早い。

 指示を出した次の瞬間には、もう一覧が増えていく。

 

 空域航行用の補助舵機構。

 反重力核の緊急停止時に備えた冗長安定板。

 落雷・放電対策。

 大気圏上層温度差対応の外殻補正。

 高高度薄酸素圏での内部循環調整。

 兵器格納区画の自動搬送レール。

 生活区画と戦闘区画を瞬時に遮断する隔壁。

 緊急時の避難モジュール。

 内部火災・毒物・呪詛汚染への自動封鎖機構。

 

「……なるほどな」

 

 やはり、自分一人でやるより遥かに早い。

 しかも、ただ項目を増やすだけじゃない。

 既に構想に入れていた装備や施設との整合性まで取った上で、本当に要るものだけを上へ出してきている。

 これは便利なんて次元じゃない。

 空中都市計画の中核そのものだ。

 

 次に必要だと提示されたのは人手だ。

 いや、人間である必要はない。

 むしろじゃない方がいい。

 

 整備。

 建設。

 資材運搬。

 施設点検。

 被害箇所の応急対応。

 農業支援。

 温浴施設の維持管理。

 食料区画の補助。

 

 そういう日常的な作業を、全部自分一人でやるのは馬鹿げている。

 

「なら、そういう作業員を作ろう」

 

 検索。

 汎用人型。

 作業補助。

 機械労働。

 多用途。

 ネメシス・ムーン連携。

 候補はすぐ出た。

 

【汎用人型機:50万P】

 

「これだな」

 

 高くない。

 いや、数を並べればもちろん安くはない。

 だが、ネメシス・ムーンの換装対象へ加えられるという説明文が付いている。

 要するに、平時は作業員。

 必要なら整備員。

 農業補助員。

 工房助手。

 警備員。

 搬送係。

 最悪、簡易戦闘員にすら変えられる。

 

「うーん…100体位いればまぁ、足りる…よな?」

 

【汎用人型機:50万P】×100

【消費:5000万P】

 

 創成。

 拠点の空きスペースへ、青い光が整然と並ぶ。

 一体、二体、三体。

 最終的に百体。

 人型。

 だが、人らしさはあくまで効率のためだ。

 無駄な装飾は少なく、滑らかな外殻と簡易的な顔面プレートを持つ、作業特化の無機質な機体群。

 ただ、その手足の構造と内部接続を見る限り、ネメシス・ムーンを通せば本当にいくらでも用途を変えられそうだった。

 

「よし。こいつらもエデンの運用人員に組み込め」

 

【了解】

【汎用人型機100体を運用管理下へ編入】

【役割分担を開始します】

 

 AIが即座に役割を振る。

 建設班。

 資材搬送班。

 外壁補修班。

 生活区画整備班。

 工房班。

 兵器格納整備班。

 有機性建材調整班。

 見ているだけで笑えてくるくらい、仕事が早い。

 

「……じゃあ、後は任せる」

 

 俺はアイデアだけを出し、詳細はAIに任せる。

 それが一番効率的だと、この時点で確信していた。

 




今話創成機器:

機器名:都市規模反重力核
消費ポイント:5億
機器詳細
・超広範囲の重力に作用する巨大な重力制御核。稼働には大量の重力子エネルギーが必要。

機器名:極大浄滅砲塔
消費ポイント:2億5000万
機器詳細
・超弩級の決戦級兵器。起動すると基部から分離し、巨大な自律浮遊砲台として独立駆動する。50mの口径から放たれる純白の極光はあらゆる物を滅し、塵すら残すことはない。

機器名:空間反転障壁
消費ポイント:2500万
機器詳細
・空間を歪曲させ、外部からの干渉を防ぐ障壁機構。

機器名:都市管理級量子電脳核
消費ポイント:5000万
機器詳細
・都市規模の把握、管理が可能なマザーコンピューターAI。知識や経験を集積し、学習していく。

機器名:汎用人型機
消費ポイント:50万
機器詳細
・アタッチメントや兵装を用意することで様々な作業をこなせる人型機械。


















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