BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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閑話:義手と義足の実戦投入

 

 義手義足を得てから二週間ほど経った頃だった。

 日常動作にはだいぶ慣れた。

 歩く。

 走る。

 物を掴む。

 食事をする。

 工房で工具を扱う。

 そういう“生活の中の操作”は、もうほとんど問題がない。

 だが、それと戦闘は別だ。

 生きるために動けるのと、殺し合いの中で咄嗟に信じられるのは違う。

 特に今回の義手義足は、ただのそれじゃない。

 

第五元素反応炉(エーテル・リアクター)

重力子反応炉(グラビトン・リアクター)

重力制御核(グラビティ・コア)

【無反動対消滅砲】

縮退砲(ノワール・カノン)

【電磁/エネルギーバリア】

 

 やりすぎなくらい機能を詰め込んだ代物だ。

 

「……そろそろ一回、ちゃんと試すか」

 

 そう決めて、俺はシャングリラ・エデン建造現場を出た。

 

 空域移動拠点の建造地から少し離れた山間部。

 そこは樹海ほど密集はしていないが、大小のモンスターが継続的に湧く地帯だった。

 地形も悪くない。

 開けた場所と木立が程よく混ざり、試験にはちょうどいい。

 軽量寄りの有機性強化外装を装着し、ネメシス・ムーンは最低限の待機状態。

 兵器群も連れてはいるが、小隊一つだけ。

 あくまで緊急用だ。

 

「今日はお前らの出番、少なめだ」

 

 そう言って偵察ドローンを飛ばす。

 十数分も経たないうちに、反応が引っかかった。

 

【敵性反応:中規模群体】

【推定ランク:C+前後】

【大型反応:有】

 

「……悪くない」

 

 初戦としてはちょうどいい。

 C+級の群れと、その中に一体だけ上澄みが混ざっている。

 新しい手足の反応を見るには不足がない。

 現場へ着く。

 そこにいたのは、獣型の群れだった。

 四足。

 狼に近い。

 だが体表には岩みたいな甲殻が斑に生え、口元から漏れる息は赤い。

 その後方。

 群れの主らしい大型個体が、崩れた斜面の上からこちらを見下ろしていた。

 バイザーが解析する。

 

モンスター名:岩殻紅狼

ランク:C+

詳細:岩のような外殻と高熱の息を持つ狼型モンスター。集団戦を得意とし、群れで獲物を追い詰める。

討伐P:7000

 

モンスター名:赫爪狼王

ランク:B-

詳細:岩殻紅狼が種族進化した上位個体。高い機動力と鋭利な熱爪を併せ持ち、強固な外殻と連続攻撃で獲物を圧殺する。

討伐P:1800万

 

「……初戦にしてはちょっと重いか?」

 そう言いながらも、口元は少しだけ上がっていた。

 むしろちょうどいい。

 C+級の群れだけでは物足りないし、B-級が一体いるなら、本格的な戦闘での応答も見られる。

 赫爪狼王が低く唸る。

 それを合図にしたように、岩殻紅狼達が左右へ広がった。

 連携。

 包囲狙い。

 雑ではない。

 まず来たのは右側の二体。

 跳ぶ。

 低く。

 噛み付きではなく、体当たりに近い軌道。

 左腕で軽く払う。

 その瞬間、自分でも驚いた。

 

 羽のように軽い。

 

 義手の神経応答も出力制御も滑らかすぎて、無駄な力みがほとんどない。

 

「ほぉ……」

 

 感心する暇もなく、次は左から一体。

 そいつは熱を帯びた爪で下肢を刈りに来た。

 右脚で重心を残し、左義足へ意識を乗せる。

 そこで実戦でグラビティ・コアを使ってみる事にした。

 まずは最低出力。

 しかしそれだけで、地面を踏んだ感覚が変わる。

 踏み込みの一歩が地面にしっかり食い込み、重心が安定する感覚。

 そのまま左脚で半歩踏み込む。

 あり得ないほど安定した。

 狼の爪を紙一重でかわし、義足の返しだけでその首へ膝蹴りに近い一撃を入れる。

 鈍い衝撃。

 岩殻ごと首が折れ、狼が横へ吹き飛ぶ。

 

『討伐ポイントを入手しました』

 

「……おいおい」

 

 義足の出力が高い。

 だが何より、重力制御をほんの少し噛ませるだけで踏み込みの信頼度が桁違いになる。

 

 足場が悪い場所。

 衝突の瞬間。

 跳躍前後。

 

 そんないつもなら不安定が残る場面が、一転して安定感へ変わる。

 

 そこへ、後ろから熱の息。

 反応が遅れた。

 いや、遅れたはずだった。

 だが義手の内部でエーテル・リアクターが脈打ち、右腕が先に動く。

 振り向くとほぼ同時に、掌の前へ電磁バリアが展開された。

 赤い熱流が弾かれ、左右へ流れる。

 

「自動防御!」

 

 便利すぎる…!

 

 岩殻紅狼の群れは数を活かして迫る。

 だが、今の俺にはその連携すら実験材料に見えた。

 義手の指先感覚で敵の甲殻の硬さを読む。

 義足の重力補助で踏み込みを補正する。

 岩殻紅狼が一歩離れた瞬間、極低出力で掌から対消滅砲を撃ち込む。

 接近されれば荷重を増加させ、蹴り飛ばす。

 

 手足そのものが、武器や防具となっているお陰で全ての起点が短く早い。

 

 群れの中を駆ける。

 殴り、蹴り、撃ち、防ぐ。

 

 また踏み込む。

 

 動くたびに新しい身体に慣れていき、理解が進んでいく。

 

 そして、群れが半壊した頃。

 赫爪狼王がついに動いた。

 速い。

 C+級の群れとは明確に別格。

 斜面を蹴った瞬間にはもう眼前へ迫っている。

 爪。

 熱。

 連撃。

 まず右肩を狙う爪。

 電磁バリアで受ける。

 押し切られる前に左へ流す。

 返しで来た二撃目は、低く。

 脚を刈りに来る。

 そこで左義足へ出力を集中。

 局所重力制御で自分の重心を沈める。

 体がその場へ縫い留められたような安定感。

 狼王の爪が足元を流れた瞬間、今度は逆に重力を減算して跳ぶ。

 反発が凄まじい。

 義足一つで、まるで発射台から射出されたみたいに高度が出る。

 空中から、左義足を向ける。

 

「試すぞ」

 

 最低出力の縮退砲を発射する。

 音も熱も抑えられている筈なのに、密度だけが異常に高い事が分かる。

 赫爪狼王は咄嗟に避けた。

 だが完全じゃない。

 肩口から脇腹に掛けて表面を抉られ、体勢が崩れる。

 

「通るな」

 

 重力を軽減し静かに着地。

 

 今度は真正面から突っ込む。

 狼王もまだ終わらない。

 熱爪を振り上げ、最後の反撃に出る。

 だがその軌道は、もうバイザーと義肢感覚の両方で見えていた。

 半歩ずらす。

 紙一重。

 すれ違いざまに、左義足のグラビティ・コアを起動。

 狼王の周辺、数メートル圏だけ重力を10倍に増強する。

 

 急激な荷重変化に耐え切れず、赫爪狼王の体勢が沈んだ。

 その一瞬を逃さず、右義手から内蔵刃を展開。

 熱を帯びた喉笛から脳天目掛けて深く突き刺す。

 

 終わった。

 

 狼王の巨体が崩れ、光の粒子へ変わっていく。

 

『討伐ポイントを入手しました』

 

 

 戦闘を終えて、しばらくその場に立ったまま呼吸を整える。

 そこまで長い戦いじゃない。

 損傷も軽微。

 それでも、得たものは大きかった。

 右義手を軽く握る。

 左義足で地面を踏む。

 

「……想像以上だ」

 

 正直、それしか出てこなかった。

 強い。

 便利。

 反応が速い。

 感覚が自然だった。

 その上でまだ機能の全容を見たわけじゃない。

 対消滅砲も。

 縮退砲《ノワール・カノン》も。

 高出力重力制御も。

 本格的なネメシス・ムーンとの連携も。

 全てほんの触り程度。

 それでこの手応えだ。先が楽しみを通り越して少し怖いくらいだ。

 

「……悪くないどころじゃないな」

 

 そう呟く。

 そして次の瞬間には、次の課題が頭へ浮かんでいた。

 義手の対消滅砲はエネルギー弾と違って反動が無さすぎてリコイル時の癖が出て逆に狙いがずれる。

 義足の重力制御は便利だが、もっと繊細な調整はできそうだ。

 着地衝撃と踏み込み補助の境界を詰めれば、さらに自然になるだろう。

 

 つまりは、まだ伸びる余地がある。

 

「もっとガンガン使って早く慣れるとしよう」

 

 軽く笑い、残った狼の死骸が光へ変わるのを見届けた後、俺は小隊を引き連れて拠点へ戻ることにした。

 初実戦の結論は、もう十分に出ている。

 この義手義足は、失ったものの穴埋めなんかじゃない。

 ここから先の俺を、前よりもっと危険な存在へ押し上げるための、新しい土台だった。

 

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