BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第五十八話:勝利の偽神像〈ニケ〉

 

 ケルベロックを撃破した後の静けさは、奇妙な質感を持っていた。

 黒炎が消えた。

 獄卒獣像の残滓も崩れた。

 持ち込んだ機械の軍は損耗しながらもまだ形を保っている。

 それでも、広間に残った空気だけは、戦いの終わりを許していなかった。

 奥へ続く通路は一本。

 いや、通路というには広すぎる。

 神殿へ向かう参道を、そのまま塔の内部へ押し込めたような、異様に整い過ぎた道だ。

 床は白灰色。

 壁もまた同じ色。

 それまでの階層にあった無骨な石や鉄の匂いは薄れ、代わりに“清められ過ぎた空間”に特有の無臭さが支配している。

 綺麗だ。

 綺麗すぎる。

 だからこそ気味が悪い。

 

「……ようやく本命か」

 

 この先にいるのはケルベロックのA+級を越えたS-級、勝利の偽神像(スタチュー・オブ・ゴッド)〈ニケ〉。

 名前からして、真っ当な相手であるはずがない。

 機械の軍を再編しながら先へ進む。

 重盾機は数を減らした。

 浮遊砲台も損耗が目立つ。

 変形機兵はまだ動けるが、全体としては着実に削られている。

 それでも今のところ、進軍を止める理由にはならない。

 道の先で、空間が開いた。

 

 

 そこは、広間ですらなかった。

 巨大な円形祭壇。

 あるいは、闘技場。

 塔の頂に近い場所へ無理やり押し込められた“神の座”とでも言うべき空間だった。

 床は白い。

 壁も白い。

 天井は霞んで見えず、空間の上方から柔らかな金の光が降り注いでいる。

 だが、その光は暖かくない。

 祝福のように見えて、触れれば拒絶されることが直感で分かる類の光だった。

 そして、その中央。

 そこにそれは立っていた。

 女神像。

 そう見えた。

 高い。

 おそらく二十メートル近い。

 だが、ただ巨大なだけではない。

 均整が取れ過ぎている。

 完璧な人体比率を、そのまま彫像として拡大したような、不気味なまでの均衡。

 材質は白。

 石に見える。

 だがただの石ではない。

 金属でもない。

 光そのものを凝固させたみたいな艶がある。

 翼があった。

 背から左右へ広がる大きな翼。

 羽根一枚一枚が精緻に彫り込まれ、それでいて全体としては神話めいた圧を持っている。

 片手には長柄の槍。

 もう片方の手は、何かを授けるように軽く前へ差し出されていた。

 顔立ちは美しい。

 だが人間的な感情は薄い。

 慈悲も怒りも無く、ただ上位存在としてそこにあるという冷たさが宿っている。

 

モンスター名:勝利の偽神像(スタチュー・オブ・ゴッド)〈ニケ〉

ランク:S-

詳細:神域に踏み入れた石工が命を削って産み出した石像。数多の畏敬を浴びた結果、ただの石像は疑似的な神と化した。

討伐P:8億5000万P

 

 視界へ表示されたその情報すら、どこか現実味を持たない。

 S-。

 A+の先。

 S級未満とはいえ、神の領域に足を掛けた怪物であることを、その見た目だけで思い知らされる。

 

「……いいね」

 

 怖くないわけじゃない。

 だが、それ以上に昂揚があった。

 ここを越えれば、塔型迷宮の核へ手が届く。

 そしてS級へ向かう道も、また一段現実的になる。

 ニケは、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。

 ただそれだけで、空間が変わる。

 床に走る見えない圧。

 白い光の濃度。

 空気の重さ。

 何も攻撃していないのに、ここから先は神域であると宣告されたような息苦しさが広がった。

 

「総員、戦闘開始」

 

 命令と同時に、持ち込んだ兵器群が一斉に砲火を開く。

 浮遊砲台の収束射。

 中型砲戦車の高出力砲撃。

 変形機兵の投槍。

 誘導弾。

 小型迎撃弾。

 広い祭壇空間へ、今まで通りの“飽和火力”を叩き込む。

 だが。

 

「……なに?」

 

 当たらない。いや、正確にはニケの周囲数メートル手前で、全部が掻き消えている。

 全ての砲撃が光の粒になってほどけている。

 弾かれるでも、防がれるでもない。

 命中する寸前で、存在そのものが消滅していた。

 

 ニケは動かない。

 避けない。

 防御姿勢すら取ることもしない。

 ただ立っているだけで、こちらの遠距離攻撃が全て意味を失っていた。

 

「継続射撃」

 

 さらに火力を重ねる。

 だが同じだ。

 密度を増しても、角度を変えても、狙点をずらしても、結果は変わらない。

 一定のラインに入った瞬間に掻き消え、塵一つと残らない。

 その様子を見て、背筋へ冷たいものが走った。

 これは硬いとか、防御力が高いとか、そういう話じゃない。

 ルールが違う。

 

「ネメシス・ムーン、解析の精度を上げろ。あれが何か解明してくれ」

 

【要求受理】

【対象:勝利の偽神像〈ニケ〉】

【権能解析を開始】

 

 三機のネメシス・ムーンが同時に回る。

 視界の端で演算ウィンドウが高速に更新され、光と軌跡の残像が祭壇空間いっぱいへ重なる。

 ニケがその間にも動く。

 ゆっくりと槍を持ち上げる。

 ただそれだけの動作なのに、全身が警報を鳴らした。

 

「防御しろ!」

 

 叫ぶ様に指示を飛ばす。

 投擲。

 槍が、いや、光の筋が一本、世界を真っ直ぐ貫いた。

 避ける。

 義足に加重。

 重力制御を使って横へ滑る。

 ギリギリで外れる。

 そのまま背後の重盾機三機がまとめて消し飛んだ。

 爆発ではない。

 破壊とも少し違う。

 貫かれた箇所ごと存在を持っていかれたように、綺麗な大穴だけが残る。

 

「……冗談じゃねぇな」

 

 奴にとっては軽い準備運動程度の一撃。それで出力を上げ、防御に特化させた三機の重盾機が一瞬で破壊された。

 これがS-。

 A級とは、明らかに土俵が違う。

 解析結果が、そこで揃った。

 

【解析結果:対象は特殊権能を保有】

 

 表示された文字列を、思わず読み返す。

 

【偽神の権能:勝利】

【効果:遠距離攻撃及び一定威力以下の攻撃無効化】

【効果:全攻撃に防御突破、完全貫通、抹消効果付与】

 

 詳細が更に開示される。

 

【詳細解析】

【対象周囲5m以遠からの攻撃は原則無効化】

【対象周囲5m以内からの攻撃であっても、一定威力以下の攻撃は無効化】

【高出力・高密度の近接攻撃のみ干渉可能】

【全ての攻撃に防御力や抵抗力の無効化が発生】

 

 【勝利】という権能の所持者。

 

 故に当たらず、命中しても消え、奴の攻撃には抵抗が意味を成さない。

 

 遠距離攻撃や高火力以外の攻撃が意味を成さないなら、機械軍は戦力にならない。

 このまま戦場に存在していても徒に消耗するだけだろう。

 

「送還」

 

【命令受理】

 

 機械軍を下げる。

 砲戦車。

 浮遊砲台。

 変形機兵。

 残った重盾機も含め、持ち込んだ兵器群を送還していく。

 

 明らかな隙だがニケは動かず、ただ静かに立ってこちらの選択を見ている。

 そんな態度が癇に障る。

 

「ネメシス・ムーン、全部のリソースを俺に集めろ。あと…」

 

【要求受理】

【補助対象を集約します】

【追加要請:受諾】

 

 三機の月が回転を変える。

 一機目が近接適装。

 二機目が適装製造補助と出力補正。

 三機目が解析と予測。

 視界が研ぎ澄まされる。

 

「じゃあ、やるか」

 

 

 最初の交錯は、一瞬だった。

 俺が踏み込み、ニケが槍を振るう。

 正面からの刺突。

 単純な直線。

 だが、単純であることがそのまま暴力の密度に繋がっている。

 避ける。

 紙一重。

 頬を掠めた風圧だけで、外装表面が削れた。

 そのまま五メートル圏内へ滑り込む。

 ここからだ。

 義手の高周波ブレードを高出力化し、内蔵兵装を出力偏重に換装。

 義足の加重を使って、足場を殺さない最短踏み込み。

 斬る。

 届く。

 今度は掻き消えない。

 だが、浅い。

 ニケの脇腹に白い傷が一本走ったがそれだけだ。

 手応えはあったが、致命へはほど遠い。

 

「単純防御もバカ硬ぇな……!」

 

 近付けば何でも通るわけじゃない。

 五メートル以内で、なおかつ高出力。

 条件が厳しい。

 ニケが反転し、槍を薙ぐ。

 下から上へ。

 体を持ち上げるような軌道。

 受けるのは無理だ。

 義足で加重を抜き、半歩浮くようにして外す。

 だが、完全には逃れ切れない。

 槍の穂先が右脇腹を掠め、外装が深く裂けた。

 

【右脇腹:中損傷】

【装甲:修復中】

 

 重い。

 ただの打撃じゃない。

 勝利の権能を帯びた武器の一撃は、装甲の防御を無視してダメージを与えてくる。

 

 すれ違い様に義手を開く。

 通常の対消滅砲では威力が足りない。

 ならばとアタッチメントを要請し、高密度、高圧縮化して至近距離から胸部へ叩き込む。

 今度は通る。

 表面がえぐれ、白い石像の胸板に深い穴が穿たれた。

 だが、ニケは止まらない。

 翼が広がる。

 光が舞う。

 そして、剣が現れた。

 槍だけじゃない。

 持っていなかったはずの片手剣が、空間から手元へ滑り込むように具現する。

 

 無策では敗北は濃厚。

 しかし練った策でも容易く対処してくる。

 

 攻めあぐねていると、ニケが姿をブレさせ視界から消えた。それを見てヤバいと思う前にはもう体が動いていた。グラビティ・コア及び義足を全力稼働させ、その場を離脱する。直後今居た場所に刃が通り過ぎ、上から白石の巨鎚が落ちる。

 

 今の、喰らってたら死んでたかもな…。

 

 ネメシス・ムーン一機が新しい刃を重ねる。

 両手に超高密度の振動とエーテル流路、ナノマシンによる修復、侵食技術を併設した、あらゆる物を切り裂き、断面を侵食する火力特化の近接装備が換装される。

 

 切り結ぶ。

 剣と槍。両のブレード。

 

 ニケは完璧だ。

 技量も、重心も、隙の無さも、人間の武術を神の領域へと引き上げたような傑物感がある。

 このままいってもジリ貧。

 

 技量、防御、破壊力。全てを上回る相手との戦いで勝利するためには──多少のダメージを無視した、捨て身しか無いだろう。

 

 つまりは前回と同じって訳だ。芸が無くて嫌になるね。

 

 フェイント。

 加重の変化。

 重力制御によるわずかな軌道ずらし。

 三機のネメシス・ムーンが先読みした高精度の未来を、ニケは更にその先を踏み越えるよう動いてくる。

 

 斬りかかり、受けられる。

 刺そうとして避けられる。

 掌砲を差し込み掻き消される。

 出力を上げ、再射撃。

 今度は通る。

 少しずつ。

 ほんの少しずつだが、傷は増えていく。

 

 ニケの肩。

 脇腹。

 太腿。

 翼の付け根。

 白い石像に亀裂が走り、そこから薄い金光が漏れ始める。

 ただし、捨て身な以上、こちらも無傷ではない。

 槍の穂先が左肩を削る。

 剣が太腿の外装を裂く。

 蹴りの衝撃で背中から床へ叩きつけられ、息が一瞬止まる。

 少しのピンチでは済まなかった。

 ニケは、一度流れを取られると凶悪だ。

 避けられない連撃が来る。

 権能と技量が噛み合っているせいで、避けた先に次の正解を置いてくる戦い方をしてくる。

 右から槍。

 左から剣。

 後ろへ下がれば遠距離攻撃扱いとなり無に帰される。

 接近戦でも高出力を維持し続けない限り弾かれる。

 逃げ道が少ない…或いは無い。

 

「ぐぅっ……!」

 

 剣を受ける。

 無効化されないよう、修復用ナノマシンの出力を維持したまま。

 肩から肘へ負荷が走る。

 そのまま槍が喉へ来る。

 義足のグラビティ・コアを自分の足場ではなく、ニケの足元へ短く打つ。

 ニケの態勢が少し崩れ、刺突の直撃は逸れた。

 それでも首筋を浅く裂かれ、警告が視界へ弾けた。

 

【頸部周辺:軽中損傷】

 

 冷や汗が垂れる。

 

 危ない。

 今のは本当に危なかった。

 だが、そういう瀬戸際へ入らないと、この相手は殺せない。

 

 

 戦いながら、条件を詰めていく。

 周囲五メートル以内かつ、高出力であれば攻撃は通る。

 

 途切れる事なく近接高火力を押し付ければいい…のだが。

 問題は負荷だ。

 義手義足と外装にかなりの負担が掛かっている。超過稼働率、消耗率が加速度的に上がっていく。

 壊れる前に殺るか、それとも耐えきれずに殺られるか。最高にスリリングなチキンレースの開幕だ。

 

「二機目、出力制御をこっちへ寄せろ。三機目は予測演算を最小限にして火力へ」

 

【要求受理】

 

 視界が少し荒れる。

 その代わり、義手と義足へ流れる補助出力が跳ね上がる。負荷が更に上がるが、無視だ。

 

 踏み込みが深い。

 右腕が重い。

 いい。

 これなら届く。

 ニケが槍を構え直す。

 これまでで最も低い姿勢。

 突進型。

 来る。

 正面突破の構え。

 ならこちらも、真正面からぶつける。

 義足へ最大級の加重。

 床が砕ける。

 同時に義手へ高出力兵装を要請。

 刃でも砲でもなく、貫通と破壊を両立した一点突破の楔に近い武装へと換装。

 踏み込む。

 白い巨像と黒い外装が、真正面から交錯した。

 槍が右肩を掠める。

 無視する。

 剣が腰へ来る。

 義足の重力補正で体幹だけを捻って外す。

 そのまま、こちらの一撃を胸部中央へ叩き込む。

 通った。

 今までで一番深い手応え。

 胸部中央が大きく陥没し、背中側までひびが走る。

 だが、まだ倒れない。

 ニケはそのまま片手でこちらの右腕を掴んだ。

 冷たい。

 硬い。

 そして、あり得ないほど重い。

 

「っ……!」

 

 振り払う前に、翼が開く。

 光が収束する。

 まずいと理解した時には遅かった。

 爆ぜる。

 翼そのものが刃のような光片となって至近距離で拡散した。

 全方位。

 避ける余地がない。

 外装が裂ける。

 肩。

 胸。

 脚。

 細かな損傷が一気に積み上がり、視界が警告で埋まる。

 

【全身外装:多重損傷】

【総耐久:低下】

 

 吹き飛ばされる。

 背中から床へ叩きつけられ、数十メートル滑る。

 止まった時には息が詰まっていた。

 少しのピンチ。

 どころではない。

 今のは明確に死線だった。

 起き上がる。

 すぐに。

 立て。

 止まるな。

 そう自分へ命じながら、歯を食いしばって体を起こす。

 ニケは追ってこない。

 いや、追わなくてもいいと思っているのだろう。

 神の如き無表情のまま、次の槍を静かに構えていた。

 

「……クソったれが」

 

 吐き捨てる。

 だが、同時に見えたものもあった。

 胸部中央。

 今の一撃で入れた亀裂。

 そこだけは、明らかに他より深い。

 あと一回。

 今以上の火力を入れれば届きそうだ。

 

 

 立ち上がる。

 既に表面上は肉体、装甲両方共に回復、修復は完了している。

 しかし、内部の回復までは追い付いていない。筋肉の一部は変な熱が篭ってるし、骨も軋むように痛む。

 義手も義足も負荷が大きい。

 だが、まだいける。

 

「最後だ」

 

 三機のネメシス・ムーンが、それに応じるように出力を上げる。

 ニケも踏み出した。

 槍を引く。

 剣を低く。

 翼を少し閉じる。

 今度こそ、本当の決着の構え。

 こちらも義手を開き、義足へ全てを預ける。

 攻防一体の構えではない。

 防御は捨てる。

 必要なのは、もう一度だけ胸の核へ届くことだ。

 踏み込む。

 ニケが槍を突く。

 読める。

 だが避けない。

 槍の軌道へ自分から半歩入る。

 穂先が右脇腹を貫く。

 鋭い激痛。

 外装ごと深く入る。

 それでも止まらない。

 

「がぁッ…!っ、今だッッ!寄越せッッ!!!」

 

 最初に要請していた近接火力特化の兵装。

 

 貫通に特化させた装備で義手自体を杭として扱い、敵の内部へと差し込んで第五元素反応炉(エーテルリアクター)と対消滅砲を暴走させる一回限りの切り札。

 

 そして今出せる全部。

 そしてダメ押しとして義足の【縮退砲(ノワールカノン)】を、その一点へ。

 発射。

 音が消える。

 対消滅砲の白い光。

 縮退砲の漆黒の照射。

 

 そして金のひびがニケの全身に入った。

 偽神像の胸部中央が内側から砕けていく。

 亀裂が広がる。

 肩へ。

 翼へ。

 首へ。

 全身へ。

 ニケの顔に、初めて崩れが出た。

 無表情が、均衡を失う。

 槍が落ちる。

 剣が消える。

 翼が片方から砕け、光の羽片になって散る。

 既に瀕死。しかしまだ立とうとする。

 流石はS-。

 簡単には終わらない。

 

「三機、全部寄越せ!止めを刺す!」

 

【要求受理】

 

 三つの月が同時に輝いた。

 一機目はのこった左腕。

 二機目は義足。

 三機目は最適な演算をする。

 その全部を乗せて、最後の一撃を叩き込む。

 

 光が逆流した。

 

 勝利の偽神像:〈ニケ〉の体内を走っていた金光が暴走し、全身の亀裂から噴き出す。

 祭壇空間そのものが鳴動した。

 そして。

 巨像は、胸から崩れた。

 頭。

 翼。

 腕。

 脚。

 全てが均衡を失い、白い石ではなく、砕けた勝利そのものみたいな光の粒へ変わっていく。

 

『討伐ポイントを入手しました』

 

 

 終わった。

 静寂が戻る。

 祭壇空間にはもう、白い光も圧も残っていない。

 槍も剣も、翼の羽片も、全部が光へ変わって消えた。

 荒い呼吸と、三機のネメシス・ムーンの低い駆動音が響く。

 

「……勝ったか」

 

 誰に聞かせるでもなく、そう呟く。

 遠距離攻撃が一切通らない。

 弱い攻撃は内側でも無効。

 勝利そのものを権能として持つ偽神像。

 まともな相手じゃなかった。

 A+を越えた先がどういう領域なのか、嫌というほど分からされた。

 それでも、届いた。

 遠距離を捨て、兵器群を送還し、補助を全て自分へ集約し、高出力高攻撃力装備をひたすら重ねて、ようやく勝てた。

 足元には、消え残った白い粉のような残滓だけが積もっている。

 その向こう、祭壇空間の最奥には、さらに上へ続く道が見えていた。

 迷宮核。

 そして五百六十億P。

 まだ終わっていない。

 だが、この塔型迷宮最大の壁は、今ここで越えた。

 勝利の偽神像を殺した今、塔の最上層はもうすぐそこだった。

 

 

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