BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第六十七話:異体系アップデート

 

 聖堂機神像の残骸が、夜の海へ落ちていく。

 

【敵主力個体:消滅確認】

【神喰い工廠虫群:統制崩壊】

【残存個体:掃討中】

【回収可能素材:多数】

 

「使えるものは全部拾え。疑似神性炉の欠片と炉心系残骸を最優先。聖堂外殻と聖歌板は次点だ」

 

【了解】

 

 アークの資源処理艦が前へ出る。

 無数の回収ドローンが夜空へ散り、海へ落下する前の破片を捕まえていく。

 疑似神性反応が残る破片は、その場で中和。

 危険度の低い装甲材や聖堂構造材は、資源処理艦の格納区画へ運び込まれる。

 その間も、俺の内側では別の処理が進んでいた。

 

『異体系の【情報:機械】を入手しました。権能:人造機械偽神(デミ・エクス・マキナ)の創成情報が更新されました』

 

 先ほど聞こえた音声の後、権能の奥に新しい領域が開いた感覚があった。

 以前の創成情報は、俺自身の経験、購入情報、迷宮核由来の強化を土台にしていた。

 そこへ今、第七融合大陸由来の機械神性体系が混ざった。

 

 疑似神性炉。

 機械聖歌型結界。

 自己改築式聖堂構造。

 群体捕食情報網。

 神性符号による機械の強制奪取。

 

「まずは俺からだな」

 

 空中で静止したまま、戦闘形態(バトルモード)を解除する。

 黒と白銀の外殻がほどけ、ナノマシンの肉体が素の状態へ戻った。

 そこへ、今手に入れた異体系の【情報:機械】を流し込む。

 

【所有者ナノマシン群へ異体系機械情報を付与します】

【対象:全構成単位】

【疑似神性炉情報:適合処理】

【自己改築式構造:適合処理】

【機械聖歌型発振機構:限定適合】

【群体捕食情報網:防御用途へ変換】

 

 全身の内側を、細い針でなぞられるような感覚が走った。

 肉体を構成するナノマシンの一つ一つが、新しい使い方を覚えていく。

 損傷した部分を再生するだけではない。

 受けた攻撃を糧とし、構造を変え、次の一撃に備える。

 触れた敵性機械を解析し、可能ならそのまま取り込む。

 防御であり、回復であり、捕食でもある。

 右腕を持ち上げる。

 指先をほどき、霧へ変える。

 そこへ、聖堂由来の発振機構を重ねた。

 細かな金属音に似た震えが空気へ走る。

 音ではある。

 だが、耳で聞くだけのものではない。

 機械へ命令し、構造へ干渉するための律動。

 機械聖歌。

 敵が使っていた時は不快でしかなかったが、自分の制御下に置くとかなり便利そうだった。

 機神霧壁で鹵獲していた工廠虫の一体を、試験用に隔離する。

 認識を正常に戻した途端、そいつは口器を開き、こちらを喰おうとした。

 そこで機械聖歌を流す。

 工廠虫の動きが止まった。

 こちらを捕食対象として認識していた符号が塗り替わり、数秒後には制御下へ落ちる。

 

「霧無しで捕獲まで行けるのか」

 

【通常個体であれば可能】

【ただし、上位権限者がいる場合は抵抗が予測されます】

 

「十分だ」

 

 掌を閉じる。

 捕獲した工廠虫が分解され、俺のナノマシン群へ吸収された。

 情報が入る。

 捕食牙。

 神性符号の通信癖。

 小型炉心構造。

 群体制御の基本形式。

 指先からナノマシンを放出する。

 粒子群は空中で構造を変え、銀と黒が入り混じる機械虫へ変わった。

 

 遊離自機(セパレート・プレイヤー)

 展開霧装(ミスト・アーセナル)

 

 それに次ぐ、量を司る手段。

 

「名称……【機械蟲軍(バグズ・アーミー)】で」

 

【登録完了】

 

 

 俺の強化の次はアークだ。

 中核都市艦へ戻ると、量子AIが既に更新案を並べていた。

 

【異体系機械情報をシャングリラ・アークへ適用可能】

【推奨改修項目】

【一:機械聖歌型防御結界】

【二:自己改築式外殻】

【三:群体捕食耐性強化】

【四:疑似神性炉構造の安全転用】

【五:神性符号汚染弾の高位化】

 

「全部だ。一から順に取り掛かれ」

 

【了解】

 

 アーク全体へ改修指示が飛ぶ。

 中核都市艦の外殻に、薄い紫黒と青白いラインが走った。

 損傷を受けた際、周辺の予備素材や破損部品を自動で再編して装甲へ戻す機構。

 機械聖歌型結界を、こちらの仕様に再構築した攻性防壁。

 群体捕食情報網を応用した、新たな機械軍勢用ネットワーク。

 疑似神性炉構造を安全側へ落とし込んだ、分散式の高出力補助炉心。

 既存の分散炉心にも機構理論を適用し、出力と安定性を底上げしていく。

 

【改修進行率:12%】

【自己改築式外殻、第一層適用】

【機械聖歌型結界、試験発振開始】

 

 中核都市艦全体が、低く鳴った。

 反応炉の駆動音でも、装甲の軋みでもない。

 都市そのものが構造を調律しているような響きだった。

 

「……悪くないが…。これ、他の音でも代用できるか? できるなら単調な発振音じゃなく、曲にしてほしいんだが」

 

【出力を調整すれば可能です】

 

「じゃあ色んなパターンに変えられるようにしておいてくれ」

 

【発振音を調整します】

 

 数秒後、音の質が変わった。

 単調な低音が、管弦楽のような厚みを持つ。

 次にロック調。

 ジャズ。

 ポップス。

 環境音楽に近い穏やかな旋律。

 性能表示に低下は無い。

 むしろ、艦内の雰囲気は少し明るくなった。

 改修は夜を越えて続いた。

 砲撃艦十二隻へ、異体系の【情報:機械】が順次適用される。

 クリア・オール・クラスターは、単純な高火力兵装ではなくなった。

 敵性結界の位相を読み、砲撃そのものの性質を変化させる機能を得る。

 熱量で焼く。

 光で削る。

 構造をほどく。

 神性符号を乱す。

 相手の防御方式に合わせて、撃つたびに砲撃の中身を変えられる。

 支援艦には、機械聖歌型結界を強化した防御機構。

 工房艦には、自己改築式構造を深く組み込む。

 資源処理艦には、敵性機械を素材だけでなく情報として分解する工程を追加する。

 

【改修進行率:48%】

【砲撃艦群への位相可変砲撃機構、適用完了】

【支援艦への機械聖歌型結界、適用完了】

【工房艦への自己改築式構造、適用中】

【資源処理艦への情報分解工程、適用中】

 

 工房艦の外装が開き、複数の作業アームが伸びる。

 自分自身の外殻を外し、組み替え、足りない部品をその場で創成し、また組み戻す。

 船そのものが、自分の身体を整備しているようだった。

 

「これ、汎用人型機いらなくなるんじゃないか?」

 

【完全代替は非推奨です】

【自己改築式構造は高効率ですが、外部作業員による点検系統は冗長性として有用です】

 

「まあ、それもそうか」

 作れるからといって、全部を一つに頼る必要はない。

 旧エデンで学んだ通り、単一の強みはそのまま弱点になる。

 だから分散し、役割を分け、壊れても続く形にする。

 

 

 明け方までに、基礎改修は一通り終わった。

 まずは俺自身の新機能から試す。

 アーク外縁の試験空域へ出る。

 海の上。

 周囲に人間の生存圏はない。

 多少派手にやっても問題ない。

 右手を開く。

 ナノマシンが指先から溢れ、空中で形を取った。

 小さな機械蟲。

 黒と銀が混じった外殻。

 翅は薄い金属膜。

 腹部には極小炉心。

 口器は解析と分解に特化させてある。

 

「【機械蟲軍(バグズ・アーミー)】、展開」

 

 掌から、数百、数千、数万と機械蟲が生まれる。

 黒銀の群れが空へ広がった。

 以前の遊離自機よりも、一体一体の自律性が高い。

 展開霧装よりも、物理的な干渉力が強い。

 そして群体捕食情報網を防御用途へ変換したことで、群れ全体が一つの大きな感覚器として機能する。

 視界が増える。

 上空。

 海面。

 アーク外殻。

 遠方の雲。

 試験用に浮かべた標的艦。

 それらが、同時に見える。

 

「悪くない」

 

 標的艦へ向けて、機械蟲軍を飛ばす。

 群れは一塊の雲のように進み、接触直前で三つに分かれた。

 一群は装甲表面へ貼り付く。

 一群は砲口や隙間から内部へ侵入する。

 残りは外周を巡り、反撃を受けた時の防御層になる。

 数秒後、標的艦の外装がほどけた。

 破壊ではない。

 解体だ。

 接合部を読み取り、固定具を外し、動力線を切り離し、部材ごとに分解していく。

 同時に、得られた素材情報がこちらへ流れ込んでくる。

 敵性機械を壊すだけではない。

 使えるものへ変える。

 

【機械蟲軍、試験標的の解析完了】

【分解効率:想定値を上回っています】

【敵性機械捕食に対する防御機能も確認】

 

「よし。次は戦闘運用」

 

 標的を追加創成する。

 疑似工廠虫群を一万体。

 大型機械獣を三体。

 敵性符号を混ぜ、こちらの命令に抵抗するよう設定した。

 機械蟲軍をぶつける。

 黒銀の群れと、紫黒の疑似虫群が空中で衝突した。

 単純な数のぶつかり合いではない。

 通信への侵入。

 符号の書き換え。

 個体制御の奪取。

 自壊命令の押し付け。

 捕食牙への逆汚染。

 小さな戦争が、空中で起きる。

 最初の数十秒は拮抗した。

 だが、すぐにこちらの機械蟲軍が優勢へ傾く。

 疑似工廠虫群の半数が制御下に落ち、残りは空中で分解された。

 

「いいね。これは基本装備(スタメン)入り決定だな。…俺を介さず作れるようにもしておくか。量子AI?」

 

【量産設備を工房艦へ追加します】

 

「頼んだ」

 

 

 次はアーク側の試験。

 まず、機械聖歌型結界。

 中核都市艦の外殻から、低い音が流れ始める。

 最初は単調な発振音。

 そこへ量子AIが調整を加え、旋律へ変える。

 重厚な管弦楽風。

 ロック。

 ジャズ。

 ポップス。

 環境音楽に近い穏やかな旋律。

 曲調が変わっても、結界性能は落ちていない。

 

【発振安定】

【外殻強化率:基準値内】

【敵性接触時の攻性反応:正常】

【音楽化による性能低下:確認されず】

 

「戦闘中にクラシック流しながら結界張れるの、無駄に優雅だな」

 

【精神安定効果も期待できます】

 

「それは大事だな」

 

 試験用の攻撃ドローンを飛ばし、アーク外殻へ接触させる。

 触れた瞬間、外殻表面の旋律が変わった。

 防御の音から、攻撃の音へ。

 ドローンの外装に青白い亀裂が走り、内部機構が焼ける。

 結界で防ぐだけではない。

 触れた敵を調律し、壊す。

 次に自己改築式外殻。

 外殻の一部へ、試験用砲撃を撃ち込む。

 表層装甲が抉れる。

 すぐに周辺の予備装甲材が流れ込み、傷口を塞いだ。

 さらに、受けた砲撃の性質を反映し、同じ属性への耐性が上がる。

 

【自己改築式外殻:正常稼働】

【受撃情報の反映を確認】

【再被弾時の損耗予測:低下】

 

「敵の攻撃を受けるほど硬くなる、か」

 

【限度はあります】

【高位権能攻撃や存在消去等には追加対策が必要です】

 

「それを使ってくる様な存在は俺が相手するさ」

 

 

 試験は昼過ぎまで続いた。

 クリア・オール・クラスターも試す。

 位相可変砲撃機構を入れたことで、同じ光でも性質が変わる。

 高熱型。

 範囲型。

 構造分解型。

 符号汚染型。

 結界穿孔型。

 砲撃艦十二隻が、標的ごとに弾質を変えながら射撃する。

 単純な火力はもちろん高い。

 だが、今回の重要点はそこではない。

 相手の防御へ合わせて、砲撃の意味を変えること。

 外殻の硬い相手には構造分解。

 結界持ちには位相穿孔。

 機械神性には符号汚染。

 群体には範囲。

 

【クリア・オール・クラスター、全試験項目完了】

【位相可変砲撃、安定】

【十二隻同期時の負荷、許容範囲内】

【追加砲撃艦の建造を推奨】

 

「どれくらいまで増やせる?」

 

【現行中核都市艦の管制能力では二十四隻まで】

【専用砲撃管制艦を追加すれば四十八隻以上も可能】

 

「その案でいこうか」

 

【了解】

 

 最後に、機械蟲軍とアークの連携試験。

 アークのデウス・ミストウォールに、機械蟲軍を混ぜる。

 霧の中を虫群が泳ぐように動き、敵性反応を探知すると一斉に食い付く。

 霧が感知し、蟲が噛み、アークが砲撃する。

 流れができていた。

 

「防衛圏の密度がかなり上がったな」

 

【特に小型群体・微細機械・浸透型兵器への対応力が向上しています】

 

「第七大陸相手には必須だな」

 

 

 試験を終えた翌日。

 再び警告が鳴った。

 

【警告】

【第七融合大陸方面より飛来物】

【数:一】

【速度:極超音速】

【前回と同系統の機械神性反応】

 

「また黒い楔か」

 

【形状一致率:91%】

 

【ただし、内部反応は前回より高密度】

 

 観測映像が出る。

 北東の空から、黒い楔が落ちてきていた。

 前回よりも大きい。

 表面の紋様も濃く、紫黒の光が脈打つたびに周囲の大気がわずかに歪んでいる。

 

「前回と同じだ。一応、着弾地点を囲んで封鎖霧と機械蟲軍を展開しておけ」

 

【了解】

 

 楔は、火口外縁から十七キロ離れた荒地へ落ちた。

 爆発はない。

 ただ地面へ深く突き刺さり、周囲の石を黒い結晶状へ変えている。

 俺が到着する頃には、既にデウス・ミストウォールと機械蟲軍が周囲を囲んでいた。

 前回とは違う。

 触らせない。

 解析される前に解析する。

 黒い楔の表面に文字が浮かぶ。

 

【外部機械神性言語を検出…翻訳完了】

 

 今回は、解析が速い。

 楔の表面が割れ、中から黒い板が浮かび上がった。

 

【人造機械偽神へ】

【第一外縁聖堂の喪失を確認】

【貴機の機械系権能は成長中】

【貴機は捕食対象から、観察対象へ分類変更された】

【第七融合大陸は、貴機の成長を歓迎する】

【次なる試験を提示する】

 

 板の裏面が光った。

 

【第二試験】

【期限:十五日後】

【目標:貴機の空域機械都市】

【侵攻戦力:二】

【一:巡礼工廠艦(ピルグリム・ファクトリーシップ)

【二:聖骸収集機団(レリック・コレクターズ)

【目的:貴機の都市機構、権能構造、神性符号運用の採取】

 

 続いて、詳細が開く。

 

 

存在名:巡礼工廠艦(ピルグリム・ファクトリーシップ)

ランク:S

詳細:第七融合大陸外縁部を巡回する機械工廠艦。戦場で資材を採取し、兵器・虫群・聖堂部品を即時建造する。単体戦闘能力よりも、継続生産能力と戦場改築能力に優れる。

推定討伐P:22億

 

存在名:聖骸収集機団(レリック・コレクターズ)

ランク:S

詳細:神性反応を帯びた残骸、敗北した機械神性、権能戦闘の痕跡を収集・解析する機械群。直接戦闘よりも回収・解析・複製を目的とするが、捕獲対象の解体能力は極めて高い。

推定討伐P:15億

 

 前回より、明らかに嫌な組み合わせだった。

 聖堂は正面戦力だった。

 今回の相手は工廠と回収。

 殺すだけではなく、戦いながら学び、複製し、奪うつもりだ。

 

「…量子AI」

 

【第二試験を想定した迎撃計画を作成します】

 

「違う」

 

【……】

 

「第三の選択肢だ。迎撃でも逃走でもない。こっちから出向く」

 

【推奨しません】

【敵勢力圏への接近は危険です】

 

「それは分かってる。だが、このまま試験ごっこを受け続けるのは癪だ」

 

 黒い板を指で弾く。

 金属音ではない。

 神性符号が軋む、妙に不快な音が鳴った。

 

「それに、いつまでも向こうの都合で動かされるのは危ない。試験とやらが終わった後、奴らがどう動くか分からない以上、少しでも情報を奪っておく必要がある」

 

【敵領域への先制接近は、アーク損耗リスクを増大させます】

 

「アークは、災厄から逃げるためだけに作ったんじゃない。災厄を撃ち破るために作ったんだ」

 

 北東の空を見る。

 その向こうに、第七融合大陸がある。

 神を蝕む機械の大陸。

 俺を捕食対象(えさ)から、観察対象(エンタメ)へ分類変更した相手。

 全く随分と上から見てくれる。

 

「幸い、機械なら俺の糧にできることが分かった。それなら奴らの中枢を食い荒らして、更に上のステージに立ってやる」

 

【作戦目的を確認】

【第二試験の迎撃ではなく、敵侵攻戦力への先制接触および情報奪取】

【必要項目:隠密航行、逆観測遮断、捕獲用機械蟲軍、情報分解設備、即時離脱経路】

 

「全部用意しろ。十五日も待たない。こっちから仕掛ける」

 

【了解】

【先制侵攻作戦を策定します】

 

 黒い板を握り潰す。

 砕けた破片は、機械蟲軍がすぐに食った。

 神性符号が分解され、解析情報として俺の中へ流れ込む。

 招待状も、試験も、分類変更も。

 全部、俺のモノにしてやる。

 

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