BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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無理やり話を分けたので短めです


第七十一話:拝謁

 

 大陸の内側へ降りた瞬間、理解した。

 ここは、こちらが好き勝手に動ける場所ではない事を。

 

 壁。

 床。

 天井。

 

 どこを見ても、機械的な構造物で満たされている。

 

 歯車。

 配管。

 炉心。

 神性符号。

 

 迷宮のように折り重なった空間構造。

 それらが一体化し、大陸の内臓として動いていた。

 通路の端では、作業機械らしきものが何体も動いている。

 外見だけなら、資材を運ぶための簡易作業機に見えた。

 だが、情報を表示しようとしても何も出ない。

 名称も。

 ランクも。

 詳細も。

 ただの作業機械に見えるものですら、今の俺では底が読めなかった。

 

「……これは、早まったか?」

 

 展開霧装を出す気にはならない。

 機械蟲軍を撒くのも論外。

 遊離自機を忍ばせることすら危険に思える。

 こちらが何かを仕掛ける前に対処…いや処理される事だろう。

 大人しく、続く道を進む。

 道はまっすぐではない。

 緩く曲がり、時折こちらの歩幅に合わせるように床の構造が変わる。

 案内されている。

 そう感じる程度には、通路全体が俺の動きを見ていた。

 しばらく進むと、扉が見えた。

 未知の素材でできた巨大な扉。

 金属にも石にも見えるが、そのどちらでもない。

 表面には細かな神性符号が走り、光が文字ではなく鼓動のように脈打っている。

 扉の前に立つ。

 触れる必要はなかった。

 扉は、音もなく消えるように開いた。

 中へ入れ、ということらしい。

 促されるまま、足を踏み入れる。

 

 中は議場だった。

 雰囲気だけなら、かつて映像で見た国会議事堂に近い。

 ただし規模も、材質も、そこにいる者たちも、何もかもが違った。

 中心へ向けて曲線を描くように机が並ぶ。

 その一つ一つに、異形の存在が座っていた。

 機械の集合体。

 装甲を纏った神官。

 多腕の機人。

 炉心を胸に抱えた巨躯。

 虫群を肩へ侍らせる女王めいた機械体。

 生物に見えるものもいれば、完全な機械にしか見えないものもいる。

 だが、共通して分かることがあった。

 格が違う。

 瞬時に理解できる。

 俺より上の存在が、何十、何百といる。

 そして中央。

 議場の最奥に一人の男が立っていた。

 身長は二メートルほど。

 偉丈夫、と呼ぶのが一番近い。

 所々に機械的な装備を身に付けている。

 肩。

 腕。

 胸。

 首筋。

 人工物めいた装飾こそあるが、俺の目には生物のようにも見えた。

 機械でありながら、生きている。

 生物でありながら、機械そのもの。

 そういう矛盾を、当然のように成立させている存在だった。

 

「良く来た。未完の機神よ。我がこの大陸を治める【大陸中枢機神(コンチネンタル・デウスコア)】である。もっとも、本体では無いがな」

 

 その言葉と同時に、視界へ情報が流れ込む。

 限定的な閲覧権限が与えられたのだろう。

 

モンスター名:|大陸中枢機神・対話分体《コンチネンタル・デウスコア・メッセンジャー》

ランク:SS+

詳細:大陸中枢機神が持つ無数の分体の内の一つ。対話を目的として創られており、戦闘機能は殆ど持たないが、それでも一つの文明を滅ぼせる程のスペックを誇る。

討伐P:10兆8000億P

 

 対話用。

 戦闘機能はほとんど無い。

 それでSS+。

 討伐Pは、十兆八千億。

 桁が狂っている。

 俺が固まっている間にも、大陸中枢機神は当然のように話を続けた。

 

「我は長々と談笑に興じる質では無くてな。単刀直入に言おう。我が軍門に下れ」

 

「……それは随分と急な話ですね。そもそも俺…私は、観察対象ではなかったので?」

 

 近くの席にいた、宝石のような物質で構成された機人が勢いよく立ち上がった。

 

「貴様! 陛下に対してなんたる──」

 

「よい」

 

 たった一言。

 機人は即座に口を閉じた。

 

「……は。失礼いたしました」

 

「部下がすまんな。我を思ってくれての言なのだ。許せ」

 

 大陸中枢機神が軽く片手を上げる。

 機人は静かに席へ戻った。

 それだけで、この場の上下関係が分かる。

 ここにいる格上たちの中でも、中央のあれは別格だ。

 

「さて、話を戻そう。何、貴機の成長率を見て気が変わったのよ。貴機が我が陣営に加われば、良い結果が起こるに違いない、とな」

 

「買い被り過ぎでは?」

 

「我は無意味な評価をしない」

 

 大陸中枢機神の視線が、こちらを射抜いた。

 圧はない。

 少なくとも、外縁で膝をつかされた時のような直接的な圧ではない。

 だが、逃げ道は無かった。

 この議場。

 この大陸。

 ここに並ぶ存在たち。

 その全てが、こちらの選択を見ている。

 

「それでどうだ? 我が元で働く気はあるか?」

 

 全く、良い性格をしている。

 生殺与奪の権を握っている。

 その上で、選べと言っている。

 ここで反抗的な態度を取ったところで、羽虫のように潰されるだけだろう。

 それだけの差が、俺とこいつにはある。

 なら、選ぶべき返答は一つ。

 忠誠ではない。

 服従でもない。

 生き延びるための、現時点で最も有効な選択。

 

「……私に忠誠心は期待しないで頂きたいですね」

 

 大陸中枢機神の口元が、わずかに動いた。

 

「そのお話、ありがたく頂戴致します」

 

 俺が返答した瞬間、議場の空気が変わった。

 歓迎ではない。

 少なくとも、机に並ぶ連中のほとんどは、俺を快く迎え入れてはいなかった。

 向けられる視線は鋭い。

 興味。

 侮り。

 警戒。

 敵意。

 それらが複雑に混じり合い、見えない刃の群れみたいにこちらへ刺さってくる。

 だが、中央に立つ大陸中枢機神が満足げに頷いたことで、その場の結論は決まった。

 

「それでよい。歓迎しよう」

 

 たった一言。

 それだけで、議場全体に新しい規則が刻まれたような感覚が走る。

 

【所属情報更新】

【対象:人造機械偽神】

【所属:機神陣営・末席】

【権限:限定付与】

【敵性判定:一時解除】

 

「祝え、新たなる陣営の加入を」

 

 大陸中枢機神がそう告げると、議場の一部から金属音のような拍手が鳴った。

 全員ではない。

 むしろ少数だ。

 ある機人は拳で机を叩き、別の機械神官は胸の炉心を一瞬だけ発光させる。

 虫群を侍らせる女王めいた存在は、薄く笑ったように顎を上げた。

 祝われてはいる。

 ただし、素直に歓迎されているわけではない。

 新入り。

 外様。

 いつか使えるかもしれない駒。

 この場の連中にとって、俺はおそらくそういう扱いなのだろう。

 

「ではこの場は閉じる。貴機には別室で説明を与えよう」

 

 大陸中枢機神がそう言うと、議場の床に淡い光が走った。

 次の瞬間、景色が切り替わる。

 

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