BrokenWorld~黒鉄の装着者~   作:半笑いの妖精

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第七十四話:廃棄神工廠

 

 機神兵装(デウス・ギア)を解除し、案内役の機人に問う。

 

「あとどれくらいですかね」

 

「物理的、という意味では2000km程だ。しかしこの大陸は使用者の意思を汲み取り、空間が圧縮される様になっている。それを加味すれば数分もせずに着くだろう」

 

「へぇ、めっちゃ便利っすね」

 

「…全ては陛下のお力の一端である。拝謝して使用せよ」

 

 機人の足元で、床の構造が変わった。

 通路が左右へ割れ、別の道がせり上がる。

 歯車と装甲板が組み合わさり、数秒前まで存在しなかった一本道が生まれた。

 案内されているというより、大陸が進むべき経路だけを一時的に露出させている。

 

 しばらく進むと、空気が変わった。

 いや、空気ではない。

 流れる神性の質が変わった。

 整然としていた機械神性に、錆びたようなノイズが混ざり始める。

 廃材。

 油。

 焦げた回路。

 折れた神性符号。

 そういったものを無理やり混ぜ込んだような、荒れた気配。

 

【周辺神性濃度:上昇】

【符号安定性:低下】

【自己増殖型機構反応:微弱検知】

 

 量子AIからの極細い通信が届く。

 ここから先は、いよいよ目的地に近いらしい。

 通路の先に、巨大な隔壁が見えた。

 今まで見てきた扉とは違う。

 装飾はない。

 ただ分厚く、無骨で、ところどころに補修痕がある。

 機人が隔壁の前で立ち止まった。

 

「廃棄神工廠は、機神陣営で不要と判断された機械、失敗した神性兵装、暴走した生産炉、旧式化した機械眷属の墓場である」

 

 隔壁の奥から、重い駆動音が聞こえた。

 

「墓場ではあるが、静寂とは無縁の場所だ。廃棄された機械神性共は、互いを喰い、組み替え、今も自分を有用な兵装だと証明しようとしている」

 

「つまり、中にいるものは全部が敵と言うことですか」

 

「基本的にはそうだ。ただし、全てを破壊すればよいというものではない」

 

 機人がこちらを見る。

 

「陛下の課題は、生きて神性を持ち帰ること。神性を理解し、掌握し、己の核へ適合させることだ。無差別に喰えば、貴様の神核が濁る」

 

「自らで選別を行う必要がある、と」

 

「そうだ」

 

「持ち帰るべき神性は?」

 

「それを見つけるのも含めてが課題だ」

 

 隔壁の中央に、青白い光が走った。

 

「……死ぬなよ」

 

「意外ですね。心配してくれるとは」

 

「勘違いするな。死なれると、案内役を務めた私の評価に響く」

 

「素直じゃな──っと、言葉が過ぎました」

 

 頬を掠めた宝石の刃が背後の壁へ突き刺さるのをみて閉口する。

 

「案内ありがとうございました」

 

「ふん、礼には及ばん。陛下の命を遂行したまでだ」

 

 隔壁が開く。

 内部から、熱と音と錆びた神性が押し寄せた。

 

 

 廃棄神工廠の入口は、巨大な搬入口のようだった。

 天井が高い。

 左右の壁には、折れた搬送アームが無数に吊り下がっている。

 床には黒いレールが何本も走り、その上に半壊した輸送台車が転がっていた。

 奥では火花が散っている。

 自律する機械腕が、砕けた装甲板を掴み、別の廃材へ無理やり溶接している。

 完成品は歪だった。

 脚が三本。

 砲口が逆向き。

 片腕だけ異様に長い。

 胴体の中央には割れた炉心。

 それでも、その兵装は動いている。

 

兵装名:廃棄自走兵装(スクラップ・オートアームズ)

ランク:S-

詳細:廃棄神工廠内で自己修復と自己改築を繰り返した旧式機械兵装。構造は不安定だが、機械神性を帯びた火器と装甲を備える。破壊しても周辺廃材を取り込んで再起動する場合がある。

神性内包量:低

 

「入口の雑魚でS-か。…なかなか骨が折れそうだ」

 

 廃棄自走兵装が砲口をこちらへ向ける。

 機械聖歌の崩れたような音が鳴り、砲身の奥に赤黒い光が集まった。

 撃たれる前に動く。

 戦闘形態は展開しない。

 機神兵装もまだ使わない。

 まずは素の状態で、どこまで通用するかを見る。

 足元を蹴る。

 ナノマシンの身体が薄くほどけ、弾道予測に合わせて半身をずらす。

 赤黒い砲撃が肩口を掠めた。

 皮膚表層のナノマシンが数千ほど焼ける。

 

【表層損耗:軽微】

【敵性砲撃:収束エネルギー型】

【解析可能】

 

「威力はあるが…それだけだな」

 

 右手を伸ばす。

 展開霧装を薄く出す。

 広げない。

 蟲も撒かない。

 指先から一本の糸のように伸ばし、廃棄自走兵装の砲身へ触れさせる。

 即座に拒絶反応。

 敵性符号が流れ込み、こちらの霧を汚染しようとする。

 切り離す。

 霧の先端を捨てると、床へ落ちた黒銀の粒子が赤黒く変色し、数秒後に小さな歯車虫のようなものへ変形した。

 汚染された霧が、敵性機械へ変わったのだ。

 

「なるほど。触るとこうなるわけか」

 

 歯車虫が飛びかかってくる。

 踏み潰す。

 同時に、廃棄自走兵装が突進してきた。

 そのフォルムにしてはかなり速い。

 長い腕が床を叩き、巨体を弾丸のように飛ばしてくる。

 

 左腕を盾化。斜めに構え、衝撃を横へ流す方向へ。

 しかし接触の瞬間、敵の腕が自己改築を始めた。

 こちらの盾面を噛み、装甲ごと取り込もうと部位に食い込んでくる。

 

 反撃し、ただ壊すだけなら簡単だ。

 

 だがそれでは今までと変わらない。

 あえて数ミリだけ喰わせる。

 敵性神性が流れ込み暴れ、こちらの構造を暴こうとする。

 

 それを観察する。

 神性の癖。

 どこで結合しようとしているか。

 中核としている構造の詳細。

 

 見えた。

 左腕内部のナノマシンが動く。

 敵の腕を侵食し、分解する。

 

 駆動機関。

 捕食機構。

 修復動作。

 攻撃信号。

 そして汚染要素。

 

 不要な汚染だけを切り捨て、糧になりそうな駆動と修復の符号だけを抜き取る。

 

【機械神性断片:抽出】

【品質:低】

【性質:自己修復・廃材再利用】

【権能未満の機械性質として取得可能】

【適合処理:可能】

 

 理解が1段進んだ。

 神性を得るというのは、ただ燃料を得ることではない。

 神性の中には、機能の根がある。

 強いものなら権能へ。

 弱いものなら性質へ。

 不安定なものなら、機能の断片へ。

 それらを解析し、自分の神核に合う形へ作り替えられれば、俺自身の力にできる。

 ポイントを払って能力を買うのではない。

 神性を読み、構造を理解し、人造機械偽神(デミ・エクス・マキナ)によって自分のものへ組み替える。

 

「こういうことか」

 

 廃棄自走兵装の別の腕を掴む。

 今度はこちらから流し込む。

 細分化した神性の命令。

 お前は俺の兵装である。

 役割は突撃ではない。

 分解され、俺の神核へ組み込まれることだ。

 無茶苦茶な命令だ。

 当然、抵抗する。

 廃棄自走兵装が暴れる。

 砲身を開き、至近距離で撃とうとする。

 右手を砲口へ突っ込み、内部で原子分解爪を形成。

 砲身の内側だけを削り取る。

 発射寸前のエネルギーが暴発した。

 爆炎が搬入口を満たす。

 だが、俺は動かない。

 左腕で敵の神性を押さえ、右腕で炉心部を貫く。

 壊す。

 喰う。

 内部で分別する。

 余計な部分だけ吐き捨てる。

 最後に、黒銀の粒子が俺の掌へ吸い込まれた。

 

『討伐ポイント──ジジ──神性に対する理解を検知しました。表記を更新します──神性を入手しました』

 

 いつものアナウンスに微かなノイズが走り、表記が変わる。

 詳細を見ると、今までの討伐ポイント10億で1神性というレートらしい。…インフレここに極まりってな。

 

【機械神性断片を取得】

【品質:低】

【種別:自己修復・廃材再利用】

【性質候補:廃材再利用修復】

【権能核への適合率:12%】

【現時点での直接統合は非推奨】

 

「統合する価値はない感じか」

 

【ですが解析素材としては有用です】

【性質を精製し、下位機能として保存可能】

 

 量子AIの声が細く届く。

 

「じゃあ隔離空間を作成して、そこで保存しておこうか」

 

【保存処理を実行】

 

 内部の亜空間に小さな黒銀の結晶が生まれたのを確認する。

 神性の全てをただポイントに変えるのではない。

 意味のある部品として切り分け、保存する。

 この工廠で学ぶべきことの一つだ。

 

 

 入口を抜けると、工廠のメインエリアが広がっていた。

 広い。

 広すぎる。

 天井は見えない。

 上には幾層もの搬送路が蜘蛛の巣のように交差し、巨大な炉心が逆さまに吊り下がっている。

 床には製造ラインが走り、その一部はまだ稼働していた。

 砕けた兵装が流れてくる。

 機械腕がそれを掴む。

 使える部品だけを抜き取り、別の残骸へ接続する。

 完成した歪な兵装が、検査もされずに次の通路へ送り出される。

 この場所は死んでいない。

 廃棄されたものが、廃棄されたまま生き続けている。

 

【区域名:外層廃材処理区】

【危険度:低】

【深部到達経路:複数】

【神性汚染領域:点在】

 

「ここも低か」

 

 奥では、さっきの廃棄自走兵装と同型の反応がいくつも動いている。

 さらに別系統の敵もいる。

 壁面を這う薄い板状の機械。

 床下を移動する多脚の回収機。

 宙を漂う壊れた観測球。

 どれも俺を見ている。

 だが、まだ一斉には来ない。

 工廠内の規則に従っているのか、それともこちらの出方を測っているのか。

 正面の搬送路に、三体の敵性反応が並んだ。

 

兵装名:廃材回収蜘蛛(スクラップ・リクレイマー)

ランク:S-

詳細:廃材と損傷兵装を回収し、再利用可能な素材へ分解する多脚機械。生存個体と廃材の区別が曖昧で、侵入者を高品質素材として認識する。

神性品質:低

 

兵装名:欠陥砲塔霊(ディフェクト・ガンレイス)

ランク:S

詳細:廃棄された砲塔群に、残留機械神性が宿った存在。射撃精度は不安定だが、砲弾に神性汚染を含む。被弾部位を砲塔化させる危険がある。

神性品質:中

 

兵装名:壊炉心歩兵(ブロークン・リアクター)

ランク:S

詳細:割れた炉心を胸部に抱えた旧式機械歩兵。炉心が常に暴走寸前であり、撃破時に周囲へ不安定な神性爆発を引き起こす。

神性品質:中

 

「訓練本格始動ってわけだ」

 

 戦闘形態を展開すると同時、廃材回収蜘蛛が跳ぶ。

 蜘蛛とは言いつつも脚は八本ではない。

 十二本…いや、動きながら増えている。

 同じくして欠陥砲塔霊が撃つ。

 弾道が安定しない。

 だが、ばら撒かれる弾丸の全てに汚染符号が乗っている。

 壊炉心歩兵は、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 胸の炉心が明滅するたび、周囲の空間が歪んだ。

 まずは砲塔霊を相手する。

 被弾部位を砲塔化させると言っている以上、極力避けるべきだろう。

 右へ滑る。

 弾丸が床に刺さる。

 刺さった場所から、小さな砲身が生えた。

 数秒後、その砲身がこちらを向く。

 

「っと、嫌らしいな」

 

 砲身が撃つ前に、機械蟲を一匹放つ。

 

 解析に特化させた個体だ。

 機械蟲が床の砲身へ噛み付く。

 数秒と経たず汚染され、鉄屑と化したが情報は取れた。

 砲塔化の神性性質。

 いろんな使い道がありそうだ。

 即席の宝塔はそれだけで敵の思考リソースを割かせるし、敵の装甲や隙間に撃ち込んで敵自身に砲身を生やすのもいい。

 

【神性性質:砲塔化】

【品質:中】

【権能未満の性質として取得可能】

 

 廃材回収蜘蛛が迫る。

 その脚が俺の足元を切り裂く。

 床を蹴って浮く。

 背部推進を短く噴かせ、蜘蛛の背中へ着地。

 即座に蜘蛛の装甲が開き、無数の解体アームが伸びてくる。

 遅い。

 左手を押し当てる。

 今度は敵の神性を丸ごと喰わない。

 分解工程だけを見る。

 廃材を見分ける仕組み。

 使える素材と使えない素材の判定。

 分解時に神性を汚さないためのフィルター。

 

「これも使えそうだな」

 

 首筋へ迫った解体アームを、右腕の刃で切る。

 蜘蛛の胴体へ侵入したナノマシンが、分解系統だけを抜き取る。

 不要な捕食衝動は切り捨てる。

 廃材回収蜘蛛が崩れた。

 

『神性を入手しました』

 

【機械神性断片を取得】

【種別:素材選別・分解工程】

【品質:中】

【性質:素材識別/神性分解】

【統合を推奨】

 

「んじゃ、統合しよう」

 

【適合処理開始】

【権能:人造機械偽神による再編開始】

【敵性神性を所有者用の下位性質へ変換】

 

 掌の奥で、神性断片が溶ける。

 ナノマシン群に新しい処理が加わった。

 素材を読む感覚が増える。

 目の前の床。

 壁。

 敵兵装の装甲。

 歪んだ炉心の外殻。

 どれが使えるか。

 どれが汚れているか。

 どれを捨てるべきか。

 以前よりも明確に分かる。

 

【性質:素材識別を取得】

【性質:神性分解補助を取得】

【権能内機能へ限定統合】

 

「なるほど。これは確かに理解してから奪った方が効率が良い」

 

 新性質に目を通しつつ、戦場にも意識を向ける。

 

 壊炉心歩兵が目前まで来ていた。

 胸部の割れた炉心が、限界まで明滅している。

 倒せば爆発するし、ならばと放置すれば自爆特効をしてくる相手。

 スピードが大事だ。

 素早く懐へ潜り、動作停止の命令を込めた機械聖歌を流し込む。

 

 そして爆発するように溜め込まれていたエネルギーを誘導し、逃げ口を作り、そこへ流す。

 爆発までに余裕ができたところで左手を伸ばし、炉心ごと胸部を貫く。

 

『神性を入手しました』

 

【機械神性断片を取得】

【種別:炉心暴走】

【品質:中】

【危険性:高】

【統合は非推奨】

【隔離保存を推奨】

 

「うーむ…。使う事はない気がするが…まぁ保存しとくか」

 

【保存しました】

 

 残るは欠陥砲塔霊。

 既に周囲には、砲塔化した床がいくつもある。

 全部がこちらを向いていた。

 同時射撃。

 弾丸が殺到するのを見て、展開霧装を散布すると同時に今得た性質の素材選別を発動させる。

 視界を埋め尽くす弾丸を攻撃ではなく素材として識別し、汚染、砲塔化の性質、弾丸素材、そして神性の流れ。

 ギリギリまで観察をして構成を把握後、掌を開く。

 弾丸の雨が俺に触れる直前でほどけるように霧散した。

 拳を結ぶと向きが反転した弾丸が無数に現れる。

 そのまま欠陥砲塔霊を蜂の巣にした。

 

『神性を入手しました』

 

 

 外層廃材処理区の奥へ進む。

 入口だけで、既に得たものは多い。

 自己修復。

 素材選別。

 炉心暴走。

 砲塔化。

 全てを統合したわけではないが、少しずつ理解し始めていた。

 

 同じ機械神性でも、修復、砲撃、分解、炉心、結界、群体制御と分野がまるで違う。

 それらを解析して再編を行えるのが権能:人造機械偽神(デミ・エクス・マキナ)の強みだ。

 そして、そんなジャンル違いの性質や権能達が今の俺には必要なのだろう。

 

 理解して取り込めば、それがそのまま力になるのだ。

 

 チラリとマップを見る。

 

【外層廃材処理区踏破率:約8%】

 

「まだ8%か」

 

 先は長い。

 だが、手応えはある。

 通路の奥で、巨大なプレス機のようなものが起動した。

 左右の壁から装甲板がせり出し、通路全体を押し潰すように迫ってくる。

 その中央に、敵性反応。

 

兵装名:廃棄圧壊炉(クラッシュ・リジェクトプレス)

ランク:S+

詳細:不良品と判定された神性兵装を圧縮処理するための廃棄機構。現在は侵入者も不良品と認識し、空間ごと圧縮して素材化しようとする。

神性品質:中

 

 S+。

 入口から少し進んだだけで、もうこのランクか。

 機神兵装を使うか、一瞬迷ったが…まだ早いと判断した。

 折角の神性を学ぶ機会なのだ。

 

 強引に進むだけなら、今までと同じ。

 それでは課題の意味がない。

 迫る圧壊壁を見据えながら、右手を開く。

 

「次は圧縮処理の解析だな」

 

 黒銀の霧が、指先から薄く伸びた。

 今度は先ほどより、少しだけ自然に扱えた。

 廃棄神工廠の攻略は、始まったばかりだった。

 

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