BrokenWorld~黒鉄の装着者~ 作:半笑いの妖精
もう一人の偽物の機神が笑った。
俺と同じ顔、輪郭。
だが、そこにあるのは俺ではない。
銀の装甲に、ドス黒い赤の神性が走っている。
黒銀の回路ではなく、傷口から漏れる血のような赤黒い光。
背部には俺の
肩には発振環。
腕部には爪と砲口。
胸部には暴走炉進核。
見た目は近い。
だが中身は別物だ。
【機神兵装:稼働開始】
【推奨運用時間:七分以内】
【安全限界:八分三十秒】
【最大限界:十分】
【現在稼働時間:00:03】
「できれば7分で終わらせたいが…難しそうだ」
暴虐模倣機神が、右手を開いた。
赤黒い霧が漏れる。
俺の展開霧装に似ている。
だが粒子の一つ一つが、こちらの霧よりも荒い。
制御よりも侵食。
分解よりも収奪。
触れたものを自分へ変えるための霧。
先に動いたのは向こうだった。
赤黒い霧が床を這い、周囲の廃材へ染み込む。
その瞬間、廃材が一斉に俺の形を模した小型機械へ変わった。
小さな俺。
ただし顔のない、赤黒い模倣群。
「悪趣味な」
右腕を軽く振る。
デウス・ギアの腕部装甲が開き、位相可変砲撃機構が露出する。
出力を抑えた散弾型。
神性濾過と汚染遮断を乗せ、赤黒い小型群へ叩き込む。
光が走る。
数十体が砕けた。
だが、次の瞬間、暴虐模倣機神の胸部炉心が脈打つ。
砕けた小型群の残骸が浮き上がり、赤黒い霧へ戻る。
さらに、今撃った砲撃の性質を読み取ったのか、後続の小型群の表面に汚染遮断に似た膜が張られた。
【敵性適応を確認】
【こちらの砲撃性質に対する耐性形成】
【対応速度:極めて高速】
「一回見せると対策してくるタイプか」
厄介だ。
単純な火力で押し切ろうとすれば、それに対応してくる。
神性攻撃を使えば、その神性の癖を読む。
機械蟲軍を使えば、蟲を喰って自分の群体へ変える。
つまり、同じ手は二度通じない。
暴虐模倣機神が踏み込んだ。
速い。
俺と同じ姿をしているせいで、動作の起こりが読みづらい。
しかも、こちらの動きに対する理解が早すぎる。
右腕の爪が来る。
原子分解爪に似た形。
ただし、まともな分解ではない。
触れたものを不良品と判定し、強制的に壊して喰う爪だ。
左腕を盾へ変形。
機械聖歌型結界を薄く重ねる。
接触。
盾の表面が削れた。
結界が悲鳴のような音を立てる。
押し返そうとした瞬間、敵の爪が形を変えた。
盾を裂くのではなく、盾面へ噛み付く構造へ。
こちらの防御に即座に合わせ、攻撃方式を変えてきたのだ。
「っ……!」
左腕を自切する。
赤黒い侵食が走る前に、肩から先を切り離した。
切り離した左腕は空中で赤黒く染まり、次の瞬間、模倣機神の腕へ吸収される。
【左腕部:喪失】
【再構築開始】
【敵性存在、所有者構造情報を一部取得】
「喰われても学ばれる、か」
【長期戦は不利です】
「分かってる」
再構築した左腕を砲へ変える。
ただ撃たない。
砲身内部で弾質を変え続ける。
熱。
分解。
衝撃。
神性濾過。
汚染遮断。
砲塔化。
圧縮。
撃つ直前まで、砲撃の性質を固定しない。
暴虐模倣機神がこちらを見た。
見た、というより、読んでいる。
なら、読ませない。
「量子AI、射撃直前まで弾質ランダム化及び俺の思考予測の一部をノイズ化しろ」
【要求受理】
【弾質固定を発射直前へ遅延】
【思考予測漏洩対策:実行】
撃つ。
光が走る直前、弾質を変える。
構造分解ではない。
神性命令でもない。
単純な運動エネルギーへ。
それも途中でさらに変え、着弾寸前で素材圧縮を付与する。
黒銀の砲弾が暴虐模倣機神の肩を抉った。
初めてまともに入った。
だが、浅い。
抉れた肩が赤黒く脈打ち、即座に補修される。
そして今度は向こうの肩から、同じような砲口が生えた。
【敵性模倣】
【位相遅延砲撃に類似した機構を形成中】
「仕事が早すぎんだろ」
敵が撃つ。
こちらの今の一撃を、さらに荒く、さらに強引にした砲撃。
性質が途中で変わる。
弾道が折れる。
着弾寸前に圧壊へ変質する。
避ける。
避けた先の床が圧縮され、黒い塊になった。
直撃していたら、胴体の三割は持っていかれていた。
背筋が冷える。
だが、同時に笑いそうにもなった。
難敵だ。
本当に難敵だ。
こちらの攻撃を受ければ対応してくる。
防御すれば防御を喰う。
損傷させても補修する。
長引けば長引くほど、敵は俺に近付いてくる。
なら、短期で終わらせるしかない。
【稼働時間:02:11】
後、5分弱…。とても余裕があるとは言えない。
◆
そこからは、手札の潰し合いだった。
展開霧装を広げれば、赤黒い霧が食い込んでくる。
機械蟲軍を出せば、向こうも廃材蟲を生み出す。
砲塔化を使えば、相手の赤黒い砲塔がこちらの砲塔を喰う。
素材識別で相手の装甲を読むと、向こうは自己進化で材質を変える。
神性濾過で汚染を抜けば、次の汚染命令は濾過機構を逆に狙ってくる。
一手ごとに、相手が変わる。
こちらが使った技は、次の瞬間には通じにくくなる。
それどころか、似た技が返ってくる。
赤黒い砲撃を肩で受け流す。
装甲が割れ、自己改築式外殻が即座に補修。
その補修機構へ敵の神性収奪が食い付いてくる。
切る。
補修途中の装甲を捨てる。
その間に踏み込む。
右腕の原子分解爪を、相手の腹部へ突き込む。
届く。
だが、突き込んだ瞬間、相手の腹部が柔らかく崩れた。
廃材と赤黒い霧へほどけ、爪を飲み込むように包む。
読まれた。
右腕を引き抜く前に、敵の腹部内で圧壊処理が起動する。
【右腕部:危険】
「腕ぐらい幾らでもくれてやる…!」
右腕を肩口から切り離す。
圧壊された右腕が黒銀の塊になり、敵へ吸収されかける。
その前に、右腕内部へ仕込んでいた汚染の性質をもった爆弾を起爆。
赤黒い霧の中で青白い爆発が起こり、吸収経路を一瞬だけ焼き切る。
暴虐模倣機神が後退した。
小さな隙。
逃さない。
背部砲撃翼を展開。
位相可変砲撃を六連。
暴虐模倣機神が防御姿勢を取る。
赤黒い外殻が盾になる。
だが、弾の性質をそれぞれ変えておいたお陰で対応されること無く、外殻を砕き、貫いていく。
分解弾が削り、質量弾が割り、汚染弾が機構を侵食し焼く。
圧縮弾が内部構成を歪め、機械聖歌弾が動きを阻害し、純粋な熱量に特化させた最後の熱線が胸部へ届いた。
暴走炉進核の表層に亀裂が入る。
赤黒い光が漏れた。
【敵性神核表層損傷】
【有効打】
「ようやくか」
だが、敵は倒れない。
亀裂から漏れた赤黒い光が周囲の廃材を吸い上げる。
砕けた装甲も、床も、壁も、天井の配管も、全部が神核へ吸い込まれていく。
補修ではない。
進化だ。
胸部の形が変わる。
炉心の周囲に、こちらの砲撃を受け流すための多層構造が形成された。
【敵性自己進化】
【先ほどの攻撃手順に対する耐性を構築】
「…本当に面倒くさいな、お前」
暴虐模倣機神が笑う。
声はない。
だが、表情だけで十分だった。
俺と同じ顔で、俺よりもずっと歪んだ笑みを浮かべている。
◆
【稼働時間:05:48】
推奨運用時間まで、あと少し。
まだ決着は遠い。
損傷は増えている。
デウス・ギアの外殻は補修され続けているが、補修のたびに負荷が積み上がる。
収納空間内炉心群との接続も、微かに熱を帯びてきた。
【権能負荷:87%】
【自己改築式外殻:稼働継続】
【収納空間炉心接続:安定域上限接近】
敵も無傷ではない。
胸部神核に亀裂。
右肩の補修遅延。
背部砲塔の一部沈黙。
赤黒い霧の密度低下。
だが、あいつは削られるたびに変わる。
傷を負うたびに、その傷を埋める形で強くなる。
なら、じわじわ削るのは悪手。
一撃で神核まで届かせるしかない。
そのためには、敵の適応を上回る速度で、未知の一撃を作る必要がある。
「量子AI。これまで集めた性質や使えそうな攻撃方法を全部、攻撃に転用する。候補を並べろ」
【危険です】
【複数性質の過剰統合は権能負荷を増大させます】
「いいから出せ」
【候補提示】
【素材圧縮】
【神性圧壊】
【炉心出力迂回】
【出力精密操作】
【機構接続補助】
【神性濾過】
【汚染遮断】
【位相可変砲撃】
【原子分解爪】
【自己定義固定】
「全てを混ぜ、ぶつけるぞ」
【推奨しません】
「反対するなら代わりの案を出せ」
【…】
「無いなら余計な口を挟むんじゃねぇ…!」
余計な問答をする余裕なんかねぇんだからよ…!
敵が踏み込む。
赤黒い刃。
いや、腕そのものを巨大な圧壊爪へ変えている。
それを見て身体を霧へほどき、半分だけ逃がす。
もう半分はわざと受ける。
暴虐模倣機神の爪が俺の左脇腹を抉った。
【左胴部:損耗】
【敵性神性侵入】
神性濾過と汚染遮断で表層を整え受け止める。そして侵入機構を解析し、敵の収奪経路を逆に読む。
見えた。
神核へ繋がる収奪回路。
暴虐模倣機神は、敵の神性を喰って進化する。
その神性を喰らう入口をこちらからこじ開ける。
逃がさない。
相手も即座に気付いた。
身を引こうと赤黒い霧へほどけようとする。
だが、機構接続補助で強制接続。
素材圧縮で接点を固定。
敵の収奪回路と、こちらの神性流路が一瞬だけ繋がった。
【危険】
【敵性神核への直結】
【逆流リスク:極大】
「それでいい」
右腕へ全てを集める。
原子分解爪。
神性圧壊。
位相可変砲撃。
出力精密操作。
炉心出力迂回。
汚染遮断。
神性濾過。
それらを融合し、一つの刃とする。
対象を分解し、圧壊し、濾過し、汚染を遮断し、神性だけを引き剥がすための一撃。
形成途中で、敵が即座に対応してくる。
暴虐模倣機神の左腕が変形。
俺の右腕と同じような杭を作り始める。
やはり速い。
見せた瞬間、模倣する。
完成までは時間が足りないと判断し、未完成のまま放つ。
右腕を突き出す。
黒銀の巨大な杭が、暴虐模倣機神の胸部へ刺さる。
ギリギリ神核までは届かない。
だがそれでもいい。
杭から接続回路を伸ばし、核へアクセスする。
【敵性神核外層へ接続】
【神性流路、強制確保】
【反撃発生】
暴虐模倣機神の赤黒い杭が、俺の胸部へ突き刺さった。
デウス・ギアの胸部装甲が割れる。
神性出力核に亀裂が入る。
【胸部神性出力核:損傷】
【権能負荷:92%】
【警告:危険】
「我慢比べといこうか」
互いの胸へ杭を刺し合った状態で、至近距離。
相手は俺を喰おうとしている。
俺は相手を分解しようとしている。
神性の綱引き。
単純な出力では、向こうが上。
暴走炉進核の瞬間出力は馬鹿げている。
だが、精密性ではこちらが上。
神性濾過で不純物を捨てる。
汚染遮断で逆流を切る。
素材識別で神核の構成を読む。
神性分解補助で、繋がった外層だけを剥がす。
ほんの少しずつ。
暴虐模倣機神の胸部神核から、赤黒い神性が黒銀へ変わっていく。
相手の表情が初めて歪んだ。
笑みではない。
怒りでもない。
苦痛。
神核を分解されるのは、亜神級の模倣体にとっても苦痛らしい。
その瞬間を逃さない。
「量子AI、全補正を右腕に回せ!あと限界時間を再計算!」
【現在稼働時間:07:02】
【推奨運用時間を超過】
【安全限界まで:01:28】
【最大限界まで:02:58】
「足りる」
【重大警告:危険】【自壊可能性:大】
「だから何だ?今止めたら全部が無駄になんだろうがッ!!!」
背部砲撃翼を展開。
だが、撃つ先は敵ではない。
自分の右腕だ。
収納空間内炉心群からの出力を、背部砲撃翼で増幅し、右腕の杭へ流し込む。
普通なら自殺行為だ。
腕が焼ける。
神性流路が裂ける。
権能が悲鳴を上げる。
だが、今はそれでいい。
必要なのは、神核へ届く一瞬の出力。
【権能負荷:96%】
【神性流路、過熱】
【右腕部構成ナノマシン:焼損開始】
暴虐模倣機神が対応する。
胸部外層を捨てた。
神核を奥へ引き込む。
俺の杭を喰わせたまま、接続を切ろうとしている。
「逃がすか」
左腕を再構築。
敵の肩へ突き刺す。
砲塔化を発動。
ただし砲塔を外に生やすのではない。
敵の内部、神核へ向いた内向き砲塔を形成する。
暴虐模倣機神が即座にそれを潰そうとする。
だが、一瞬遅い。
内向き砲塔が撃つ。
神核外層が内側から揺らいだ。
右腕の杭がさらに深く刺さる。
【敵性神核到達率:61%】
【必要到達率:80%以上】
「まだかよ……!」
敵の膝がこちらの腹部へ入る。
圧壊を帯びた打撃。
胴体の一部が黒銀の塊へ潰れる。
【腹部構造:圧壊損傷】
【自己再構築遅延】
【権能負荷:98%】
視界が揺れる。
だが、手は離さない。
離せば終わる。
暴虐模倣機神の背部砲塔がこちらへ向いた。
至近距離で撃つ気だ。
防御は間に合わないのは明らか。最低限致命傷を避けるられるだけ、性質を使い、砲塔の向きをわずかにずらした。
赤黒い砲撃が俺の肩と背部を抉り、背後の工廠壁を吹き飛ばす。
【右肩部:重損傷】
【背部広範囲:焼失】
【右腕接続維持:困難】
「まだ……!」
右腕の構造、構成を変化させ、神性穿孔杭へ再定義。
右腕が崩れ、黒銀の杭になる。
暴虐模倣機神の胸部へさらに食い込む。
【敵性神核到達率:78%】
「あと、少し……!」
敵が顔を近付けてくる。
俺と同じ顔。
赤黒い目。
嘲笑に近い表情。
その口が開いた。
音ではない。
汚染命令。
俺自身を廃材として定義する命令が、至近距離から流し込まれる。
【自己定義侵食】
【種族情報:機神(偽)に干渉】
【重大危険:回避不可】
まずい。
このままでは、身体だけでなく、存在の定義へ汚染が入る。
迷わず、機神兵装の安全制限を切った。
【警告】
【安全制限解除は非推奨】
【最大限界到達時の損耗が増大します】
「うるせぇつってんだろ!」
【安全制限:解除】
全身の奥で、何かが焼けた。
収納空間内の炉心群が一段深く接続される。
神性流路が広がるのではなく、裂けながら広がる。
痛みというより、存在そのものが焦げる感覚。
【稼働時間:08:31】
【安全限界超過】
【権能負荷:103%】
【ナノマシン焼損率:12%】
敵の汚染命令を、神性濾過で受ける。
濾過機構が焼ける。
汚染遮断を重ねる。
遮断層が砕ける。
それでも、数秒稼げた。
その数秒で十分。
左腕も崩す。
左腕を刃ではなく、神性分解補助そのものへ変える。
腕としての形を捨て、右腕の杭を補助する分解流路にする。
【人型構造を放棄】
【神性分解流路へ再編】
【ナノマシン焼損率:27%】
左右の腕を失う代わりに、敵神核への道が広がる。
【敵性神核到達率:84%】
届いた。
暴虐模倣機神の表情が変わる。
初めて、明確な焦りが見えた。
敵が全身を赤黒い霧へ変えようとする。
神核だけを逃がすつもりだ。
「逃がさねぇよ」
展開霧装を自分と敵だけを包む檻へ変える。
外へ逃げる経路を塞ぐ。
神性の抜け道を潰す。
霧化した敵性構造を、素材圧縮で一点へ押し込む。
【稼働時間:09:42】
【最大限界まで:18秒】
【権能負荷:118%】
【ナノマシン焼損率:51%】
【即時停止を推奨】
「だまれ!!!」
暴虐模倣機神が暴れる。
赤黒い神性が爆ぜ、檻を内側から破壊しようとする。
砲塔。
圧壊。
汚染。
自己進化。
増強補修。
全てを同時に使っている。
それを押さえるため、俺も全部を使う。
神性濾過。
汚染遮断。
素材識別。
神性分解補助。
素材圧縮。
出力精密操作。
機構接続補助。
炉心出力迂回。
自己定義固定。
砲塔化。
神性圧壊。
集めた全てを、右腕だった杭へ重ねる。
杭が割れる。
割れた先端が、さらに細かな杭へ分かれる。
それぞれが敵神核へ食い込む。
【敵性神核解析】
【暴虐模倣機神:神核構造露出】
【神性収奪回路:破壊可能】
【自己進化中枢:破壊可能】
【圧壊処理核:奪取可能】
こいつから全てを奪う。
こっちも相当なコストを支払ったんだ。それくらいのリターンを求めてもバチは当たらないだろう。
【全性質・全権能:抽出開始】
暴虐模倣機神が最後の抵抗をした。
俺と同じ顔が、赤黒い光の中で歪む。
胸部の神核が臨界する。
自爆。
俺ごと、神核ごと、ここで吹き飛ばすつもりだ。
【敵性神核臨界】
【残り推定:三秒】
「上等」
こちらも、残りの全出力を流す。
収納空間内炉心群を全開。
機械聖歌型結界を攻性変換。
位相可変砲撃を神核内部で発射。
原子分解爪の概念を杭先端へ統合。
神性圧壊を反転させ、敵神核を外ではなく内側へ潰す。
【稼働時間:10:00】
【最大限界到達】
【即時停止してください】
【稼働時間:10:03】
【権能過稼働】
【ナノマシン焼損率:68%】
杭がさらに奥へ進む。
暴虐模倣機神の神核が割れた。
赤黒い光が漏れる。
【稼働時間:10:07】
【ナノマシン焼損率:74%】
【主要機能停止警告】
「あと、一押しぃぃ……!」
俺は胴体の一部まで杭へ変えた。
胸部装甲。
腹部構造。
背部砲撃翼。
全部を一時的に神性穿孔杭へ流し込む。
人型としての輪郭が崩れる。
それでも止めない。
【稼働時間:10:11】
【ナノマシン焼損率:83%】
【権能中枢:オーバーヒート】
【分体同期:切断】
暴虐模倣機神の目が見開かれる。
俺と同じ顔が、最期にこちらを見た。
そこに浮かんでいたのは怒りでも嘲笑でもない。
理解だった。
己を壊してでも届かせる。
その選択だけは、模倣しきれなかったらしい。
「終わりだ」
【稼働時間:10:16】
神性穿孔杭が、暴走炉進核を貫いた。
赤黒い神核が内側から潰れる。
圧壊処理核だけを黒銀の結晶として引き剥がし、残りを全て分解する。
暴虐模倣機神の身体が崩れた。
銀の装甲が灰になり、赤黒い光が霧散する。
砲撃翼が砕ける。
腕が落ちる。
顔が崩れる。
最後に、俺と同じ顔がノイズのように歪み、廃材へ戻った。
『神性を入手しました』
【高位機械神性を取得】
【神性品質:高】
【性質:神性圧壊核を取得】
【性質:炉心融合断片を取得】
【性質:増強補修断片を取得】
【権能:自己進化を取得】
勝った。
そう実感すると同時、デウス・ギアが崩れ始めた。
黒銀の装甲が剥がれ、光の粒へ変わる。
背部砲撃翼が折れ、肩の発振環が消える。
胸部の神性出力核が砕けた。
【機神兵装:強制解除】
【権能過稼働】
【創成機能:停止】
【自己改築機能:停止】
【分体同期補助:停止】
【機械蟲軍増産:停止】
【収納空間炉心接続:遮断】
身体が動かない。
正確には、動かすためのナノマシンが足りない。
肉体を構成していたナノマシンの大半が焼き付いている。
右腕はない。
左腕もない。
胴体の形も、辛うじて人型を保っているだけだ。
【肉体構成ナノマシン焼損率:91%】
【残存稼働率:9%】
【自己再構築:不能】
【外部補助なしでの歩行:不能】
【意識維持:可能】
「……九割か」
声は出た。
それだけでも上出来だった。
視界が低い。
床に倒れているのだと、少し遅れて理解する。
工廠は、まだ鳴っていた。
遠くで炉心が唸り、搬送路が軋み、廃材が動く音がする。
勝ったのに、ここは安全地帯ではない。
だが、今の俺は指一本動かすのも難しい。
【量子AIとの接続:不安定】
【機神分体群との同期:断絶中】
【緊急再接続を試行中】
返事をしようとしたが、思考が少し遅れる。
権能も焼けている。
肉体も焼けている。
感覚のほとんどが薄い。
手に入れた黒銀の結晶だけが、胸の奥に隔離保存されている。
それだけは、かろうじて守った。
廃棄神工廠の奥で、何かが動いた気配がした。
次の敵か。
あるいは、ただの作業機械か。
分からない。
今は、見ることすら億劫だった。
「……生きて、持ち帰れ、だったな」
笑う余裕はない。
だが、意識はまだある。
任務条件は、まだ失敗していない。