ホコリっぽく、箱まみれのお店の中。
目の前で杖の箱がタップダンスを踊りながら私を箱の角でつつき回してきたのでもう涙目。
あーあ、つつかれた足には青あざができちゃうんだろうな。
やになっちゃう。
仕方ないので温室育ちの「ダイヤちゃん」らしく癇癪の声を出した。
「もう、いたいから、ヤッ!」
「まぁまぁそう言わずに、もう少しは試してみなければ。魔法使いにとって杖は必要なものなのだからね」
「イヤッ! おにいちゃん、ダイヤはいやなの! もう帰るッ」
ふくれっ面で「おにいちゃん」に手を伸ばすと、優しい腕がそっと私を持ち上げてくれる。
妹を軽々持ち上げる太くてたくましい腕、信じられないほど高い身長、その上抱き上げてくれると近づく顔はくらくらするくらい、いい。
私の「おにいちゃん」……ドラコ・マルフォイは杖職人オリバンダーをアイスブルーの冷たい瞳で睨みつけた。
「今日のところは帰るが、すぐにダイヤにピッタリの杖を見繕っておけ。間違っても爆発したり、暴れるような杖は用意するなよ!」
「ねぇねぇおにいちゃん、帰りはだんろ、いやよ。ダイヤはちょっとのことでもいたいんだもの……」
「はは、困ったお姫様だ。でも、ドビーの迎えを呼んでいるから大丈夫さ」
「ほんとう? ドビーのバシッなら大丈夫ね」
「ダイヤはしもべ妖精のことは信頼しているね」
「彼らはまほうつかいに逆らわないもの! いたいことは自分にしかしないわ」
「ふふ、ちがいない。早く僕も姿あらわしを覚えてダイヤをどこにでも連れて行ってやりたいよ」
「ちちうえくらい上手になってね、おにいちゃん! 私といっぱいデートして! きっとよ」
そもそも。ダイヤ・マルフォイなんて「妹」、ハリーポッターの原作には存在しなかった!
ドラコ・マルフォイは(少なくとも映画の俳優さんは)イケメンだけど、特別たくましくなんてなかったし、荒っぽいことは取り巻きのクラッブとゴイルの役目だった。
なんて、「転生」してから戸惑うことは多いのだけど……。
正直、生まれなんかを気にしている余裕なんてない!
もっと大変なことがあるのだから。
私は「ただの人間」のスペックで転生してしまったのだから……。
これが致命的で、ダイヤが家族に媚び媚び幼女な理由だった。見捨てられたら死ぬ!
そもそも、「魔法族」はただの人間じゃない。
寿命からしてマグルより長く、魔法の逆噴射でナメクジを胃に詰め込まれて吐いても全部吐けば終わり。
おかしな寄生虫にお腹の中をめちゃくちゃにされないし、骨を抜かれても骨を生やす薬を飲めば終わり!
リハビリに半年なんてかからないし、死ななければだいたい治る!
いやいや、頑丈すぎじゃない? 人間やめてる?
という小さな疑問の答えが、本当に彼らは人間並じゃなかったということで納得させられてしまった。
彼ら、魔法を使える選民だけど、肉体的には普通の人間でございーって顔して前世からしたらトンデモ高身長に細マッチョな信じられない耐久を持つ超人なのだ。
そのうえ、ハリーポッターの世界には「マグル生まれ」の魔法使いが存在する。両親や親戚が魔法使いじゃないのに生まれた魔力持ち。
つまり? 何が言いたいって?
人外じみた魔法使いと普通に交配し、たまーに人外を輩出するマグルも、前世の人間とスペックが違うってこと!
似た見た目の別種族に違いない! そもそもここはあの地球なの? たまたま人間っぽい生き物が繁茂した、たまたま地形や地名が同じ、別の惑星に転生したんじゃなくて?
あのさ、こっちは前世と同じ普通の人間なの!
目の前でボンバーダマキシマされたら当たってなくても爆風で軽く二メートルは吹っ飛ぶの!
杖を選ぶだけで物がドンガラガッシャンしたらとっても怖いし、杖が暴れたらそれだけで突き指しちゃうの!
屋敷の扉は開けられないほど重くて大きいし、銀食器は私にとって武器サイズの巨大さだし、服は全部特注にして軽い布にしないと歩けないし、骨は(この世界の人間にとっては)脆くてちょっと強めに握られただけで折れちゃうし……生きてるだけでベリーハードモード!
……これでスクイブだったら本当にヘルモードだったけど。
そこだけは前世と違ってよかった、のかも。
転生したダイヤちゃんはマルフォイのお姫様としてはふさわしい魔力を持っていた。
スペックの違う超人類による恐怖を覚える事にでっかい雷が落ちたり、危険を察知したらなんか瞬間移動したり!
明らかに魔力があった。
だから家族には見捨てられずにただ身体の弱い子として溺愛されてて、生きていられるけどさ!
純血はかなりの近親交配気味なので変人と身体の弱い子どもが多いし、魔法使いは基本的に子供が宝。ウィーズリーみたいに増えまくるってあんまりないわけ。
だから身体が弱くても魔力があるなら、魔法使いとして育つなら大切にされる。兄がいるから家の存続は大丈夫だし、半分愛玩枠だからかもだけど。
でも……なーんか、とっても嫌な予感。
ようは、身体がとっても弱くて、魔力は強い女の子……ねぇねぇ、それってオブスキュラって喧嘩に巻き込まれて死んじゃったアリアナ・ダンブルドアみたいじゃない?
私まで早逝したくない!
ただでさえおにいちゃんの世代はヴォルデモートと戦う危険な世代で、三つ歳が離れていても余裕で巻き込まれるのに!
ダームストラングが男子校じゃなきゃあっちに入学できるようにパパに頼んだのになぁ!
フランスのボーバトンは「フランス」なので英国貴族のパパはあんまりいい顔しない……でも娘が死ぬよりマシだよね?
自分の母校に入れたいのも当然か! スペアにもならない虚弱の娘の願いなんて金で叶うことしか叶えちゃくれないけど。
でもでも、アズガバンの囚人が終わった段階でも「ホグワーツ安全信仰」はまだ残っているらしい。信じられないことに!
身長140センチ(前世の基準であって、今世だと110センチくらいの扱いである)、華奢、プラチナブロンドのお姫様を平均身長200センチのゴリラの群れに放り込まないでよ!
あーあー、このまま杖が決まらなければ入学できない?
それともホグワーツにもいけない出来損ないだと放逐されちゃう?
どっちもヤダ!
「おにいちゃん……」
「心配するな、明日にはちゃんとした杖を持ってこさせる。そもそも僕らに店まで出向けというのが無礼なんだよ」
「うん……」
妹を溺愛するドラコなら両親が見捨てても助けてくれるだろうか?
なんて打算も知らずに兄の顔をしたドラコは慎重な手つきで私の頭を撫でてくれた。