禪院全「全ては僕の為に」   作:羂索ハードモード

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僕とともに! この禪院を、すべての理不尽を押しのけ、五条すらも蹂躙する『御三家最強』にしようじゃないか!!



02.玉座への王手-美しき蒼い目を

 一九八九年。

 呪術界の均衡を数百年単位で規定してきた天秤が、音を立てて大きく傾いた。

 御三家の一角、五条家。そこに数百年の刻を超え、相伝たる『無下限呪術』と、それを完全制御するための神域の眼『六眼』を併せ持った麒麟児が誕生した。

 

 その衝撃は、物理的な破壊をもたらしたわけでも、呪力の暴風を巻き起こしたわけでもない。

 だが、その瞬間に世界は一変した。

 古びた神社の奥底で眠っていた呪いが跳ね起き、街の路地裏に潜んでいた怪異が震え上がる。

 それは世界の根幹に刻まれたシステムが、一つの個体を頂点として強引に再編されたかのような、あまりにも巨大な()()()の発生であった。

 

(……何だ、今の()()()は)

 

 十二歳となった禪院全。

 鍛錬の合間に空を仰いだ彼は、目に見えぬ空気がわずかに震え、重力を変えたような感覚を鋭敏に感じ取っていた。

 全自身の誕生。『簒奪呪法』という、世界の理を喰らい破る異形が産声を上げた時ですら、これほどのうねりは生じなかったという。

 全の漆黒の瞳に、初めて見る得体の知れない輝き——強烈な好奇心という名の火が灯った。

 

 

 それから五年。一九九四年。

 五条家の麒麟児、五条悟の存在が正式に呪術界へと公表された。

 かつて全が感じた微かな震え、不気味な均衡のズレは、今や誰もが直視せざるを得ない強大な現実となって呪術師たちの前に立ちはだかっていた。

 

「……五条の連中、これでしばらくは我が物顔で反り返りやがるだろうな。忌々しい」

「ああ。数百年ぶりだか何だか知らんが、六眼の抱き合わせだと? 調子に乗りおって」

 

 禪院家の邸内、術師たちの休憩所には、どす黒い嫉妬と焦燥が混じった陰口が渦巻いていた。

 彼ら一族にとって、五条家の隆盛は即ち禪院家の価値の下落を意味する。

 その言葉の端々から溢れ出す劣等感を聞き流しながら、全は静かに茶を啜っていた。

 

 全、十七歳。

 彼はすでに、禪院家の主力戦力である炳の構成員としての地位を盤石なものにしていた。

 元服と同時に配属された灯では、わずか半月という異例の速さでその実力を認めさせ炳へと昇格。

 表向きは呪糸操術という使い古された術式のみを扱いながら、誰一人として寄せ付けぬ冷徹な戦闘能力と抜かりのない戦果によって、若くして炳の筆頭格の一人に王手をかけていたのだ。

 

(五年前のあの違和感……やはり、か)

 

 五条悟。その名を聞いた全の口元が、わずかに吊り上がった。

 彼にとっては、五条家の勢力拡大など些末な問題でしかない。

 興味があるのはただ一点。世界のバランスを書き換えるほどの存在がもたらす、()()()についてだ。

 

 あの日、五条悟が誕生したあの日を境に、世界に跋扈する呪霊たちは目に見えて強大化していた。

 まるで、一人の神に近い男の誕生によって高められた世界の平均レベルに、呪いという負の側面が必死に追いつこうとしているかのように。

 そしてそれは、全にとってこれ以上ない利益をもたらしていた。

 

(準一級以上の……術式持ちの呪霊。その発生率が、確実に上がっている)

 

 彼が率いる派閥——かつて全に術式を『禅譲』され、忠誠を誓った手駒たちは、今や家の中枢にも入り込み、外部の情報を絶え間なく運んでくる。

 「山に異常な強度の呪いが現れた」「見たこともない術式を使う個体が報告された」。

 そうした報告が入るたび、全は静かに動き出し、誰にも知られることなく新たな()をその魂に刻み込んできた。

 

 この五年で集まった術式は、もはや百を優に超える。

 全という器は、五条悟という太陽に呼応するようにして、より深く、より広大な、底知れぬ影を広げ続けていた。

 

(面白い。時代が大きく動き始めた。僕のこれからの飛躍に相応しい、嵐の予感だ)

 

 陰湿な陰口を叩き続ける一族の老人たちを一瞥することもなく、全は立ち上がる。

 彼が纏う炳の羽織が、一瞬、漆黒の帳のように周囲を呑み込むほどに重く揺れた。

 全ては、僕の為に。

 この新しき時代のうねりすらも、全という怪物は己の糧とするべく、冷徹にその牙を研ぎ続けていた。

 

***

 

 その年の秋。

 数年に一度、御三家である五条、加茂、禪院が一堂に会する御三家交流会が開催された。

 表向きは呪術界の安定と現状報告を目的とした親睦の場であるが、その実態は、古色蒼然とした権力闘争の最前線に他ならない。

 

 会場となった京都市郊外の由緒ある邸宅。

 静謐な庭園を借景にした大広間では、最高級の茶と菓子が振る舞われ、にこやかな談笑の声が響いている。

 しかし、その面の皮一枚下では、各家の術師たちが互いの呪力の揺らぎを、あるいは隠し持った術式の気配を、鋭利な刃で削り合うような緊張感で探り合っていた。

 

 特に、今回の主役は言うまでもなく五条家であった。

 数日前のお披露目以来、呪術界のパワーバランスを一夜にして掌握した六眼の麒麟児の家系。

 彼らの振る舞いには、隠そうとしても隠しきれない優越感が滲み出している。

 加茂家と禪院家の重鎮たちは、それを極上の社交辞令で覆い隠しながらも、腹の底では煮えくり返るような嫉妬と憎悪を滾らせていた。

 

(……実に滑稽だ)

 

 『炳』の一員として、当主たちの背後に控えていた全は、その光景を冷ややかな眼差しで見つめていた。

 京都の歴史ある旧家としての矜持。それを守るために、喉元まで出かかった罵声を押し殺し、作り笑いを浮かべる術師たち。

 彼らにとっての『力』とは、血筋という古い形式の上に成り立つ虚飾に過ぎない。

 全にとっては、そのどれもが奪い取り、蹂躙し、己の一部とするための『素材』に見えていた。

 

 そんな中、空気を切り裂くような鋭い声が響いた。

 

「——ふん、これ見よがしに。四百年前の再現でもしてやろうか」

 

 吐き捨てるようにそう言ったのは、現二十五代目禪院家当主であった。

 禪院家相伝の術式十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)をその身に宿し、一族の頂点に君臨する男。

 彼は五条家の当主が見せた横柄な態度に耐えかねたのか、酒杯を乱暴に畳へ置くと、その漆黒の瞳に禍々しい呪力を宿らせた。

 

 四百年前の再現。

 それは当時の五条家当主と禪院家当主が、御前試合にて同じように『六眼持ちの無下限呪術』と『十種影法術』を以て対峙し、最終的に刺し違えて共倒れになったという呪術界の伝説を指している。

 広間の空気が、一瞬にして氷結した。

 

「……絶対にやめろよ兄上。今はまだ、その時ではない」

 

 その横で、慌てたように当主の袖を引いたのは、実弟の禪院直毘人であった。

 彼は兄とは対照的に、常に冷静で状況を俯瞰している。

 兄の言葉が、単なる冗談では済まされない重みを持っていることを、誰よりも理解していた。

 

「分かっている。分かってはおるが……。あの子供一人に、呪術界の全てを明け渡してなるものか」

 

 当主は忌々しげに顔を背けると、再び酒を呷った。

 その光景を、全は背後からじっと見つめていた。

 四百年前の再現。最強と謳われる六眼を屠る可能性を秘めた、禪院の至宝——。

 

(十種影法術……噂に聞く魔虚羅か。その式神なら六眼を本当に殺しきれるのか?)

 

 八握剣 異戒神将 魔虚羅——それは十種影法術が持つ最強の式神。あらゆる事象に適応し打開してくるという、今まで調伏成功例のない式神。

 全の胸の中で、かつてないほど強大な好奇心が首をもたげた。

 もし、もしもその術式を僕が『簒奪』することができたなら。

 五条家の麒麟児ですら、僕の足元に跪く手駒に変えることができるのではないか。全の視線は、もはや交流会の喧騒にはなかった。

 

 彼は今、とある呪詛師から奪った術式をその身に宿している。

 『術式看破』。対象が展開している術式の構成を、霧が晴れるように見通すことができるというだけの代物だ。単独では直接的な殺傷能力も防御能力も持たない、掃き溜めの術師が持っていた「ゴミ」のような術式。

 だが、数百の術式をストックし、その全てを状況に合わせて最適化できる全にとってはこれほど有用な補助術式はなかった。

 その術式の以前の持ち主だった呪詛師は、全に術式を奪われる際、彼に刻まれた無数の術式を目の当たりにして完全に発狂した。

 

 全はその術式を得て以来、人知れず他者の術式の「中身」を分析する楽しみを覚えていた。

 彼は自然な足取りで移動し、広間の一角、五条家の重鎮たちに囲まれている「その子」の近くへと向かった。

 五条悟。まだ幼いその少年は、大人たちが必死に機嫌を伺う中で、退屈そうに庭園を眺めていた。

 その瞳は、透き通るような青空の色をした六眼

 

(——術式看破

 

 全は瞳の奥で、密かに奪った術式を起動させた。刹那、彼の視界が変貌する。

 五条悟を中心に展開されている『無下限呪術』の理論体系が、幾何学的な数式の奔流となって全の脳内を駆け巡った。無限という概念を物理空間に持ち込み、自身の周囲に「決して届かない距離」を創り出す絶対防御。

 その緻密さ、圧倒的なまでの負荷。そして何より、そんな強力な術式をノータイムで演算し続ける六眼の力に魅せられた。

 

(……ああ。なんて……なんて美しいんだ)

 

 全は思わず、持っていた杯を落としそうになるほどに戦慄した。

 術式の性能、呪力総量。そんな言葉では到底説明のつかない、完璧なまでの『完成』がそこにはあった。

 そして、全が何よりも心を奪われたのは、その無下限呪術の理論そのものではなく。

 それを可能にしている、あの蒼く、美しく、どこまでも透き通った瞳そのものであった。

 

(欲しい。あれが欲しい)

 

 それは、配下として跪かせ、忠誠を誓わせたいという支配欲ではなかった。

 あの眼球を、自分の眼窩に埋め込みたい。

 あの視界を、あの演算機能を、あの神の視点を。

 簒奪呪法で奪えるのは、あくまで()()という魂のプログラムのみだ。

 無下限呪術というソフトウェアは奪えても、六眼というハードウェアは奪うことができない。

 

(今の僕には……身体の一部を移植し、不具合なく馴染ませる術式(すべ)がない)

 

 今この場であの美しい瞳をえぐり出したとしても、物理的に腐らせるだけ。

 六眼という神の傑作を単なる肉の塊に貶めることなど、全の美意識が許さなかった。

 不完全な奪い方は、簒奪者としての敗北と同義だ。

 

(いつか……。いつか完璧に手に入れるその日まで。せいぜいその美しい眼を大切にしておくれ、五条悟)

 

 全の顔に、興奮による上気した赤みが差す。

 唇が三日月の如く深く吊り上がり、周囲の術師たちが思わず後退りするほどの、禍々しくも恍惚とした笑みがこぼれた。

 全能の簒奪者は、今はまだ届かぬ神の眼を未来の獲物として定め、漆黒の渇望をさらに深く、静かに燃え上がらせたのである。

 

 ――その時。

 無造作に庭を眺めていたはずの五条悟が、ふいにその視線を全のほうへと向けた。

 人混みの中で給仕を装っていた全と、五条家の麒麟児。二人の視線が、わずか数メートルの距離で真っ向から衝突する。

 

「……ん?」

 

 悟が、驚いたようにその青い目を見開いた。

 六眼という、世界の理そのものを視認する究極の観察眼。それが、全の魂に刻み込まれた『簒奪呪法』の異様さと、そこにストックされた数多の術式の残滓を捉えたのだ。

 悟は興味深げに目を細め、全の存在を頭の先から爪先まで、舐めるようにじっと観察した。

 全の肺腑を突き刺し、心臓を直接握りしめるような、圧倒的なまでの()()の重圧。

 

 だが、その興味は長くは続かなかった。

 悟はすぐに、ふんと小馬鹿にするように鼻で笑うと、何事もなかったかのように視線を逸らしてしまった。

 

 彼の目には、全てが見えていたのだろう。

 全の中に蠢く数百の術式。簒奪呪法という特異極まる術式の仕組み。

 しかし、同時に悟は理解したのだ。それら塵芥のような術式をどれほど積み上げたところで、自分という絶対的な個の前では無意味であると。

 呪力総量も、術式の洗練度も、六眼を持つ彼から見れば、全は「少し珍しい術式を持った凡夫」の域を出ない——。

 王者が路傍の奇妙な石ころを一瞥し、すぐに興味を失うような、そんな残酷なまでの無関心。

 

(——ああ。それでいい)

 

 自分を格下と断じ、一瞬で興味を捨て去った悟の反応に、全は苛立ちを覚えるどころか、さらに深い恍惚を感じていた。

 見くびるがいい。見下ろすがいい、五条悟。

 今はまだ、僕は君にとって取るに足らない塵芥かもしれない。

 だが、その傲慢さ、その無関心こそが、僕があなたを喰らい尽くすための最高の隙となる。

 

 全はその仮面を崩すことなく、音もなくその場を立ち去った。

 背後では、再び大人たちの空疎な談笑が始まっている。

 その喧騒の中で、全の胸の内だけが、氷のような冷徹さと、炎のような熱狂で満たされていた。

 

(いずれ、その美しい眼を……僕の中に迎え入れる。その時、あなたはどんな顔をして僕を見るのでしょうね)

 

 全は、夜の闇に同化するようにして邸宅の影へと消えていく。

 彼の三日月の如き笑みは、あの日以上の深さと、確かな確信を湛えていた。

 

***

 

 一九九六年、夏。

 禪院全は十九歳となっていた。

 彼はすでに炳の筆頭格の一人にして、二十歳を前にして『特別一級術師』の称号を冠する、名実ともに禪院家の若き最高戦力として君臨していた。

 公式の任務、そして非公式の「術式狩り」。

 呪霊や呪詛師を屠るたび、全の魂には新たな術式が蓄積され、その手札はもはや一人の術師が扱える限界を遥かに超越していた。

 

 ある任務の帰り道。蝉時雨が降り注ぐ中、全はある閑静な住宅街の通りを歩いていた全の目に、ふと、一軒の家の門前で立ち往生している小さな影が留まった。

 真新しいランドセルを背負った、小学生ほどの児童。少年は、自分の家の門の先を怯えたように凝視し、一歩も動けずに立ち尽くしている。

 

「……おや」

 

 全の視線が、少年の視線の先へと向けられた。

 そこには、三級程度の並の術師なら一瞥して切り捨てるような、醜悪で鈍重な呪霊がぬぼーっと座り込んでいた。

 一般人には決して見えないはずの異形。しかし、あの少年は明らかにそれを見ている。

 全は歩みを止め、興味深げに少年を観察した。

 少年の内側に流れる呪力量は、一般家庭から生まれた子供にしてはかなりのものだ。だが、全の興味を惹きつけたのはそんな数値上の強さではない。

 

(——術式看破

 

 密かに起動した看破の術。

 少年の生得領域に刻まれた術式の文様が、全の脳裏に鮮やかに浮かび上がる。

 それは、呪霊を降伏させ、取り込み、自在に操るという、呪術界の歴史においても極めて希少かつ強力な術式——。

 

(『呪霊操術』!! まさか、こんな場所で出会うとは……!)

 

 全の口元が、自然と深い笑みを刻んだ。

 呪霊を己の力として蓄積できるその術式は、あらゆる術式をコレクションする全にとって、喉から手が出るほど欲しい仕組みであった。

 六眼や十種影法術に並ぶ、あるいはそれ以上の可能性を秘めた特級候補の術式。それが今、無防備な少年の中にただ眠っている。

 

 全は少年の背後に音もなく近づくと、優しく、しかし有無を言わせぬ威圧感を持って声をかけた。

 

「どうしたの? お化けがいて、おうちに入れないのかな」

「……! おにいさん、見えるの……?」

 

 少年が、すがるような目で全を仰ぎ見た。

 その純粋な瞳には、まだ自分が抱えた()()の重みも、呪術界の残酷さも刻まれていない。

 

「もう大丈夫。僕がいる。こんな時のために、ね」

 

 全は片手を軽く振った。

 瞬時全の指先から放たれた極細の呪力の糸が、夕暮れの空に銀色の閃光を描いた。

 一瞬のうちに呪霊をバラバラに切り刻み、跡形もなく消し去って見せる。

 少年が目を瞬く間もない、圧倒的な技術の顕現。

 

「わぁ……。すごいや……!」

 

 感嘆の声を上げる少年の背に、全はそっと、慈しむように掌を触れさせた。

 

(簒奪——そして、禅譲)

 

 全の口から漏れたのは、少年には聞こえないほど微かな呪言。

 少年の魂から、至宝とも呼ぶべき呪霊操術の術式が根こそぎ引き抜かれる。

 通常、生得術式を奪われれば、悶えるほどの激痛と喪失感が襲う。

 しかし全は奪い取ると同時に己がストックしていた『青嵐操術(せいらんそうじゅつ)』——強風を操り、広範囲を薙ぎ払う強力な術式を、その空いた穴へと滑らかに埋め込んだ。

 簒奪と禅譲の同時並行。それは全が長年の『実験』の果てに編み出した、魂への負担を極限まで抑える最高難度の高等技術であった。

 

「……あ、れ?」

 

 少年は、一瞬だけ胸の奥が熱くなるような不思議な感覚に襲われたが、それが何なのかを理解することはできなかった。

 ただ、先ほどよりも自分の中に()が満ち溢れているような、全能感に近い心地よさだけが残っている。

 

「オバケはお兄さんがやっつけてあげたから、安心してお帰り」

「うん! ありがとう、おにいさん!」

 

 少年は元気よく返事をすると、()()と書かれた表札の門をくぐり、全に何度も手を振りながら家の中へと消えていった。

 

(……夏油少年。素晴らしい術式をありがとう)

 

 全は自分の手のひらを見つめ、そこに確かに宿った呪霊操術の不気味な拍動を感じ取っていた。

 青嵐操術もかつて一級呪詛師から奪った手持ちの中ではかなり上等な術式だ。

 それを「お礼」として与えたのは、全なりの気まぐれな誠実さであり、同時に——将来、自分と同じ景色を見るかもしれない少年への、残酷な投資でもあった。

 

 呪霊を喰らい、呪いを統べる者。

 その運命を全の手によって奪い書き換えられた少年が、これからどんな人生を歩むのか。

 全は夕闇に沈む夏油家の屋根を見上げ、三日月の如き深い笑みを浮かべたまま、静かにその場を後にした。

 

***

 

 夏油少年から呪霊操術を奪い去って以来、全の「蒐集」は新たな段階へと突入していた。

 これまでは術式のみを抜き取り、残った残骸たる呪霊は無価値なものとして打ち捨て祓ってきた。だが、新たに手に入れたこの術式は、そんな()()()すらも、自身の使い魔として再利用することを可能にした。

 

 しかし、その絶大な利便性の代償として、全は人生で初めての凄絶な『苦痛』を味わうことになる。

 

「……ッ、ごほっ……げほっ、……う、ううっ……!!」

 

 初めて、自らの手で呪霊を黒い球体状に圧縮し、それを口にした時のことだ。

 それは、この世のあらゆる不潔と腐敗を凝縮し、吐瀉物を染み込ませた雑巾を無理やり喉の奥まで押し込まれたような、おぞましき()であった。

 完璧主義者であり、常に冷徹に己を律してきた全。そんな彼が、誰も見ていない森の奥で、無様に地面に這いつくばり、涙と唾液を垂らしながら猛烈にえづき続けたのだ。

 

(二度と……二度とするか、こんな……ッ!)

 

 全は激しい憤りとともに、その場で呪霊操術の使用を永久に封印することすら考えた。だが、全という怪物の強欲さは、その程度の不快感で挫けるほど軟弱ではなかった。

 彼は即座に、自身のストックしている膨大な術式リストの中から、この「経口摂取」という致命的な欠陥を回避するための代用術を模索し始めたのである。

 

 そして見出したのが、かつて一級呪詛師から奪った『身体格納』の術式であった。本来は暗器や呪具を己の体内の特異空間へと隠し持つための補助術式。全はこれを応用し、呪霊玉を喉に通すことなく、接触させた瞬間に直接その空間へと引き込み、魂へと定着させる手法を確立した。

 

「……ふぅ。これで事足りたね」

 

 指先に触れた黒い球体が、音もなく全の皮膚へと吸い込まれていく。味覚という地獄の関門をバイパスし、最短距離で呪いを掌握する。

 本来の呪霊操術の持ち主が負うべき呪いのような責務すら、全は自身の圧倒的な手法によって軽やかに踏み越えて見せたのだ。

 

 

 そうして着々と力を蓄え続け、二十歳の秋を迎えた頃。

 禪院家に、そして呪術界全体に激震が走る未曾有の事態が発生した。

 

「……兄上が、死んだだと?

 

 知らせを受けた全は、一族の者が慌ただしく行き交う廊下で、実父である満の愕然とした声を聞いた。

 禪院家第二十五代目当主。十種影法術を操り、一族の絶対的な支柱であった男が、とある地方に出現した特級呪霊と相打ちになり、命を落としたという。

 

 邸内は蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。

 最強の術師を失った喪失感。次代当主を巡る不穏な気配。五条家との均衡が崩れることへの恐怖。

 悲嘆に暮れる者、私欲に目を輝かせる者——。

 

(……十種影法術。結局、僕の手元に入る前に散ってしまいましたか。それは、少し残念だ)

 

 全は、騒乱の影で一人、冷ややかに独白した。

 最強の式神『魔虚羅』。それをこの目で確かめ、簒奪する機会を永久に失ったことは、蒐集家としての遺恨であった。

 だが、それ以上に全の胸を支配していたのは、湧き上がるような乾いた歓喜であった。

 

(だが……ようやく、いい機会が訪れたね)

 

 当主という、分厚く、巨大な天井が消失した。

 この混乱、この空白。それは全の野望という名の毒を、禪院家という中枢へ一気に流し込むための、絶好の()に他ならない。

 

「全、お前もすぐに支度しろ! 本家へ向かうぞ!」

「……ええ。分かっていますよ、父上。すぐに行きましょう」

 

 全は満の呼びかけに穏やかに応えながら、自身の影が底なしの闇へと広がっていくのを感じていた。

 時代のうねりは加速する。

 五条悟という光に対をなす、最悪の影の王——。

 二十歳となった禪院全は、今まさに、この泥沼のような家系を己のものとするための、最後の一歩を踏み出そうとしていた。

 

***

 

 禪院本家。

 数百年の歴史を刻む壮大な屋敷は、突如として訪れた当主の死によって、重苦しい静寂と、それ以上に鋭利な殺気に包まれていた。

 葬儀自体は滞りなく執行されたが、その参列者たちの目は亡き当主への哀悼ではなく、主を失った()()の行方のみに注がれている。

 

 葬儀が終わるや否や、一族の有力者たちが大広間に招集された。

 正面に据えられたのは、まだ主の温もりが残っているかのような空席の畳。その周囲を、禪院の歴史を支えてきた猛者たちが取り囲む。

 

「……さて。悲しみに暮れる暇もないのが、我ら禪院の宿命。早急に、第二十六代目当主を定めねばならん」

 

 重々しく口を開いたのは、一族の長老の一人であった。

 その言葉を皮切りに、広間はにわかに色めき立つ。

 最有力候補は、言うまでもなく前当主の実弟であり、相伝の術式『投射呪法』を完璧に使いこなす最速の術士、禪院直毘人であった。彼は腕を組み、不機嫌そうに酒の入っていない杯を見つめている。

 

「順当にいけば、直毘人殿が継ぐのが道理でしょうな。実力、血筋ともに申し分ない」

 

 長老たちの幾人かが頷く中、それを遮るように冷笑を浮かべたのは禪院扇であった。

 

「待て。私とて特別一級術師、実力に大きな差はないと自負している。同じ前当主の兄弟であり、兄上に代わって私がこの家を導くことになんら不都合はあるまい」

 

 扇はギラついた目を剥き、野心を隠そうともせずに周囲を威圧する。その一方で、老齢の禪院長寿郎は、深くため息をつきながら首を振った。

 

「わしはもう年だ。当主という重責を担う気力も体力もない。候補からは外してくれ……」

 

 辞退する長寿郎。24、25代目の時もそう言って辞退しているが、今も現役である。いくつなんですかアナタ。

 そしてそれを見計らったように一歩前へ出たのは、故・25代目当主の息子にして若手術師たちからの信望が厚い禪院甚壱であった。

 

「……相伝のみが当主の条件ではないはずだ。この難局を乗り切るには、より純粋な戦闘能力、そして次代を担う若さが必要ではないか」

 

 広間には沈黙が流れる。直毘人、扇、甚壱。

 並ぶのは、呪術界でも指折りの実力を誇る『特別一級術師』の猛者たち。二十五代目を決める争いの時とは違い、今の禪院家には脂の乗った経験豊富な実力者が揃いすぎていた。

 誰を選んでも不満が残り、内部分裂の火種になりかねない。そんな危うい均衡がその場を支配していた。

 

 その時。

 広間の下座、本来であれば議論に参加する権利すら危うい『』や『』の末端、かつては躯倶留隊に甘んじていた者たちが、示し合わせたように一斉に立ち上がった。

 

「……何だ、貴様ら。今は当主選定の場だぞ。控えよ」

 

 扇が忌々しげに一喝するが、男たちはひるまない。

 彼らの瞳には、恐怖を塗りつぶすほどの狂信的な輝きが宿っていた。

 一人の男が、凛とした声で広間に宣言する。

 

「僭越ながら、我ら一同、次代当主に推挙したい御方がおられます。……前当主殿が遺した空白を埋め、五条の勢いに抗い、禪院を真の頂へと導けるのは、この方しかおられません」

 

 長老たちが怪訝な表情を浮かべる中、男は高らかに応えた。

 

「『炳』筆頭の一人。現在、呪術界最年少の特別一級術師——。禪院全様!!

 

 広間が、一瞬にして静まり返った。

 直毘人が目を見開き、扇が激昂し、甚壱が訝しげに眉をひそめる。

 

 二十歳。御三家の当主を担うにはあまりにも若く、そして何より——前当主の末弟にして、()()()()()()()()()()()()()

 しかしその名を挙げた男たちの数は、広間の三割を優に超えていた。彼らは皆、かつて全によって術式を授けられた者たち、あるいはその恩恵を間接的に受け、全の支配下に置かれた新たなる()()であった。

 

 すべての視線が、上座から少し離れた場所で静かに目を閉じて座っていた全へと集まる。全は騒ぎ立てることも謙遜することもなく、まるですべてを予見していたかのような深淵のごとき静寂を纏っている。

 

 そして、それを切り裂くような乾いた笑い声が広間に満ちた。

 

「……くっ、ははははは! これは傑作だ。全、確かに貴様は強い。若い身空でそこまでのし上がったその執念と、塵芥のような『呪糸操術』を磨き上げた努力、それだけは称賛に値する」

 

 一人の長老が、腹を抱えて笑い出した。それに引きずられるように、他の有力者たちも次々とあざ笑うような声を上げる。

 

「だが、身の程を知れ。ここは禪院の本家ぞ? 相伝の術式を持つ直毘人や扇、そして甚壱を差し置いて、前当主の末弟にして出涸らしと呼ばれた満の息子が当主だと? 冗談も休み休み言え」

「血の濃さ、術式の格。そのすべてにおいて、貴様は他の候補者の足元にも及ばん。大人たちの遊び場に首を突っ込むのは、百年早かったな」

 

 嘲笑の嵐。

 それは、全がこれまでの人生で嫌というほど聞き続けてきた、血筋という名の呪縛そのものであった。

 三十代や四十代の特別一級術師たちが並ぶ中、二十歳の若造の名前は彼らの耳にはあまりにも軽く、虚しく響いていた。扇は忌々しげに鼻を鳴らし、直毘人は興味なさげに欠伸を噛み殺している。

 

 だが、その嵐の渦中で。

 全は、満面の笑みを浮かべてゆっくりと立ち上がった。

 

「……ええ。確かに、僕の()()()()()()では、皆様にご満足いただけないのも無理はありません」

 

 全は広間の中央へと、悠然たる足取りで進み出る。

 その全身から溢れ出すのは、特別一級術師の名に恥じぬ濃厚な呪力。しかし、それはどこか異質で、冷たく、底知れぬ深淵の匂いを孕んでいた。

 

「なので、隠し事は今日までにいたしましょう」

 

 ——パチン、と。

 全が右手の指を軽やかに鳴らした。

 

 刹那。広間の空気が、物理的な自重を持って一気に凍り付いた。

 

 全の背後の影が、どろりと、この世のものとは思えぬ色に濁り、膨れ上がる。

 そこから這い出してきたのは、白装束に身を包んだ、八尺——およそ二メートルを優に超える巨大な女であった。

 目深に被った麦わら帽子により顔は判然としないが、その存在自体が放つ『拒絶』の気配は、広間にいる並の術師であれば呼吸すら困難にさせるほどの重圧。

 

「……ぽ、ぽ、ぽ、ぽぽ?」

 

 異様な、しかしどこか懐かしいような鳴き声が広間に響き渡る。特級仮想怨霊、『八尺様』。先日の任務にて、全と炳の隊員が祓った筈の呪霊だ。

 あの時その功績を大いに称えられた理由たる絶大な知名度と恐怖によって形作られたその怪異を、全は慈しむように一瞥した。

 

「跪きなさい、お嬢さん」

 

 全が静かに命じると、広間の術師たちが凍り付く中、その巨大な特級呪霊は従順な犬のように、全の側に膝を折って跪いた。

 水を打ったように静まり返る広間。

 

 呪霊を調教し、使役することは不可能ではない。

 だが、高度な自我を持ち、理不尽な暴威を振るう『特級』が、これほどまでに完璧な服従を見せるなど、呪術界の常識ではあり得ない事態であった。

 そんな奇跡を可能にする術式など、この世にただ一つしか存在しない。

 

「……呪霊、操術……!?

 

 誰かが、震える声でその四文字を口にした。

 数百年は使い手の確認がされていない、呪霊を降伏させて取り込み、自在に操る幻の術式。

 

「馬鹿な……! 全の生得術式は、『呪糸操術』のはずだぞ!!」

「ありえん、術式は一人に一つ! それが、なぜ……!?」

 

 先ほどまで全を手酷くあざ笑っていた長老たちが、今は腰を抜かさんばかりに目を見開いている。

 扇の顔からは余裕が消え去り、直毘人ですら、初めてその杯を置き、戦慄とともに全を見据えた。

 

 禪院全を狂信的に支持する末端の隊員たち。その眼に宿るのは、理不尽に虐げられてきた者たちが泥の中から見出した、ただ一つの救済に対する誇りと、同時にもはや人外の域へと踏み込んだ怪物を崇める畏怖の念であった。

 彼らが見守る中、全は一歩、また一歩と長老たちの方へと歩み寄る。

 その顔に張り付いていた慇懃無礼な笑みが、パラリと、剥がれ落ちた。

 

「——さて」

 

 その一言で、広間の空気がさらに一段階、重く、淀んだものへと変質した。

 全の口調から、先ほどまで丁寧に繕われていた()()が抜け落ちたのだ。

 それはつまり、全がもはや目の前の長老や重鎮たちを敬うべき目上の者として全く認識していないことの、残酷なまでの表明であった。

 

「父上が、今日この日のために隠蔽してくださった僕の()()()()()を——今ここに明かそう」

 

 全の言葉に合わせるように、彼の背後に控えていた灯と炳の隊員たち——広間の三割を占める彼の絶対的な派閥が、一糸乱れぬ動きで整列した。

 彼らは皆、かつては術式を持たず、呪力を持たず、禪院家において最底辺として蔑まれていた者たちだ。

 全は、大きく両腕を広げた。まるで、この因習に塗れた屋敷のすべてを抱きしめるかのように。

 

「——簒奪呪法

 

 その言葉が落ちた瞬間、長老たちの背筋を名状しがたい悪寒が駆け抜けた。

 誰も聞いたことのない、しかしその名を聞いただけで本能が警鐘を鳴らすような、底知れぬ禍々しさを孕んだ響き。

 

「直接手で触れた相手から、その魂に刻まれた生得術式を抜き取り、我がものとすることができる術式。そして——」

 

 全の深淵のような瞳が、玉座を争う直毘人や扇たちを順番に射抜いていく。

 

「術式反転:禅譲により、蓄えた術式を僕が選んだ相手へと与えることもできる」

 

 全は術式の開示をしつつ背後に整列した忠実なる駒たちを振り返った。

 

「そう。彼らにしたようにね」

 

 静寂。あまりにも長大で、圧倒的な静寂が広間を支配した。

 直毘人の険しい顔。扇のワナワナと震える唇。長老たちの、理解を拒むかのような蒼白な表情。

 彼らの脳裏で、十数年前の記憶がフラッシュバックしていた。

 術式を持たず、一生を雑兵として終えるはずだった躯倶留隊の一部が、ある時期を境に次々と術式に開花し、頭角を現したあの不可解な現象。

 「遅咲き」という言葉で無理やり片付けていたその疑問が、今、十年近い歳月を経て、最悪の答えとなって長老たちの喉笛に突きつけられたのだ。

 

「術式を、奪い……そして、他者に、与えるだと……!?」

「そん、な……! そんな、呪術の根底を、世界の理を覆すような冒涜が、許されてたまるか……っ!」

 

 叫び声を上げる長老たち。

 生得術式は、生まれながらにして肉体に刻まれるもの。神が定めた絶対のルールである。

 それを後天的に弄り、奪い、与えるなど——それはもはや、人間の術師の所業ではない。運命そのものへの反逆であり、絶対者による魂の蹂躙である。

 彼らはついに理解したのだ。

 目の前に立つ二十歳の若者が、単なる野心家でも、珍しい術式を隠し持っていた天才でもなく。

 文字通り、この呪術界のルールそのものを喰い破り、この呪術界の王になろうとしている()()()そのものであるという事実を。

 

 戦慄の色を深める一族の重鎮たちを見下ろし、全は、三日月の如き暗黒の笑みを再びその唇に刻み込んだ。

 

「さあ……理解していただけたかな?」

 

 全の声が、朗々と広間に響く。

 それはもはや、年長者に教えを乞う若者の声ではない。舞台の中央で、愚かな観衆に向かって神の啓示を垂れる教祖の響きであった。

 

「僕が当主となれば、禪院家はもっと強くなれる。……呪霊や呪詛師から簒奪し、ストックしてきた術式は、文字通り()とある。もはや、僕一人の器では使い切れないほどにね」

 

 全は両腕を広げ、背後に並ぶ誇り高き隊員たちを示した。

 

「つまり、僕が頂点に立つ限り……この禪院家において生得術式の有無、種類すらも等しく価値はなくなる。本当の意味での実力こそがモノを言うんだ」

 

 その宣言は、何百年と続いてきた「血脈と相伝」という呪術界の絶対的価値観に対する、完全なる破壊宣告であった。

 

「いま下働きをしている躯倶留隊にも。これから生まれてくる未来の子供たちにも。……そう、たとえ女中連中にすら、相応の()を与えることができる。だが、それだけではない」

 

 全の視線が、青ざめた長老たちや、己の才能を持て余している凡庸な術師たちへとゆっくりと向けられる。

 その目に宿る冷たい光に、何人かの術師が思わず身震いした。

 

「恵まれた生得術式を持ちながら、己の惰弱さゆえにそれを腐らせる才なき者。あるいは、老いや怪我によって戦えなくなった者。そうした者たちの魂から、無駄になっている術式を()()し……より若く、より闘争心に飢え、より強き者へと入れ直せば……どうなると思う?」

 

 広間が、静まり返る。

 それはもはや人間の所業ではない。家畜の品種改良か、機械の部品交換のような、あまりにも合理的で、あまりにも残酷な全体最適化の世界。

 だが、その恐ろしさと同時に、全の語るビジョンが、呪術集団としての武力を底上げする上で()()()()()()であることもまた、誰もが直感で理解してしまった。

 

「禪院の総合力は、飛躍的に跳ね上がる。……ほら、後ろの彼らを見てごらんよ」

 

 全が顎で示すと、彼によって術式を与えられた『』の精鋭たちが、胸を張って一歩前に出た。

 かつての十数年前、彼らは確かに、長老たちから術式を持たぬゆえに「見込みなし」と切り捨てられた者たちであった。

 

「彼らは皆、呪力量や呪力操作に関しては非常に長けていた。基礎体術も申し分ない。なのに、()()()()術式がないというただ一点の理不尽だけで、躯倶留隊に押し込められていたんだ。それが今はどうかな? ほとんどが炳に昇進し、一族の主力として戦果を上げている」

 

 全は、満足げに目を細めた。

 自らが蒔いた種が、見事に花開いたことを誇るように。

 

「まだ灯に収まっている者だって、今僕の手元にあるより強力な術式と()()()()て順次最適化していけば、文句なしの炳隊員さ」

 

 それは、もはや一族ではない。

 全という名のただ一つの頭脳によって管理され、自在に武装を付け替えられる、完璧な軍隊の創設宣言であった。

 直毘人でさえ、何も言えずに全の言葉に聞き入っている。扇は憎悪に顔を歪めながらも、その圧倒的な「力」の理論の前に反論の言葉を見つけられずにいた。

 

 全は、狂熱を帯びた瞳で、広間のすべてを抱擁するように両手を高く掲げた。

 

「あの五条悟という目障りな光のもとで、ただ嫉妬と陰口を叩きながら縮こまっている時代は、もう終わりにしよう。——さあ、誰を当主にすべきか、もう分かっただろう?」

 

 悪魔の囁きは、熱狂的な叫びへと変わる。

 

「僕とともに! この禪院を、すべての理不尽を押しのけ、五条すらも蹂躙する『御三家最強』にしようじゃないか!!」

 

 全の高らかな宣言が、天井の高い大広間にこだまする。

 静まり返っていた空間に、まず全の派閥である隊員たちから、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。

 それに引きずられるように、現状に不満を抱いていた若手や、全の語る『圧倒的な力の世界』に魅了された者たちが、次々とその歓声の渦へと飲み込まれていく。

 

 それは、禪院という泥沼の底から誕生した怪物が、名実ともに『王』として名乗りを上げた、決定的な瞬間であった。




羂索くんハードモード開始しました。
呪霊操術が欲しければAFOモドキをどうにかしなくては駄目になります。
なお、全が欲しい『六眼を手に入れる術式』は羂索くんが持っている模様。

つまり?

羂索vsAFOモドキ
——勝手に戦え!!

■禪院全
しれっとショタ夏油に遭遇して呪霊操術をパチった男。
「術式看破」という六眼の超絶下位互換みたいな術式を拾った。
「身体格納」という暗器使い用術式で身体のどこからでも呪霊玉を取り込める。

・特級仮想怨霊:八尺様
ここではネットの都市伝説ではなく、普通にとある田舎の伝承に出る怪異。
パワーがすごい、一尺様から八尺様まで伸縮自在。
そして合計八尺になるまで一尺単位で分裂できるのが術式。
例:八人の一尺様、二人の四尺様、三尺様と五尺様など。
戦闘だとむしろ弱体化するネタ術式。
五尺様くらいが好みです。

■25代目禪院家当主
直毘人や扇の兄、この作品では十種影法術使い、名前は決めていない。強い。
原作では多分もっと早い段階で死んでると思われる。
任務で特級呪霊と相打ちして死んだ。戦闘シーンすらなく。
出涸らしの満すらネームドなのに名前が決められていない。

魔虚羅「まーた心中装置として使われたマコ……」

■五条悟
爆誕した。呪霊の平均値が強くなって全にっこり。
全を見て「うわっ、人間ゴミ術式収集機じゃん、キッショᴡᴡᴡ」とか思ってる。
そしてそのきれいなおめめが欲しがられている。
羂索が簒奪された時点で全が身体を取りにくる。
……流石にもう少し大きくなってから。

■夏油傑
しれっと呪霊操術を持って行かれたショタ。
代わりに青嵐操術という風を操る強めの術式をもらった。
闇落ちの遠因になる呪霊玉と無縁になったし、羂索のロックオン外れたし、呪霊操術ほど滅茶苦茶もできないので恐らく闇落ちルートも無くなったはず。
台風とか起こせるようになったら特級になれるかも。

次回、26代目禪院家当主決定。
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