禪院全「全ては僕の為に」   作:羂索ハードモード

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 今回は特別ルール!

 この度視察にお見えになった禪院家当主サマから提供してもらう()()()()を祓ったチームの勝利となりまーす!!



46.姉妹校交流会-嵐の前の狂騒

 

 九月。

 まだ肌を刺すような残暑の厳しい日差しが降り注ぐ、呪術高専東京校。

 

「なっ、なんでみんな手ぶらなのー!?」

 

 集合場所にやってきた釘崎野薔薇は、出迎えた先輩や同級生たちの軽装ぶりを見て、目をひん剥いて素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 

 彼女は先日、京都校の真依から情報を得て申請し手に入れた真新しいノースリーブの制服をバッチリと着こなしている。

 そしてその背後には、同じく休日の観光客のようなアホ面を下げた虎杖悠仁が立っていた。

 二人の手には、なぜかパンパンに膨れ上がった大きなキャリーケースがしっかりと握りしめられている。

 

「逆に、オマエらこそ何だその大荷物は」

 

 手ぶらで立っていたパンダが、もふもふの腕を組んで心底呆れたようにツッコミを入れた。

 

「なにって、これから京都行くんでしょ!?」

 

 野薔薇がキャリーケースをバンバンと叩きながら、さも当然のように言い返す。

 

「楽しみだよなニシンそば! 衣笠丼!! 生八つ橋!」

 

 悠仁もまた京都名物を羅列しながらウンウンと力強く頷いた。

 二人の脳内では、完全に「二泊三日・京都修学旅行〜呪術ファイトを添えて〜」という観光スケジュールが出来上がっていたのだ。

 

「……あのな。京都姉妹校交流会をやるんじゃなくて、京都()姉妹校と交流会をやるんだぞ。ここ、東京でな」

 

 しかしそんな二人の浮かれきったオーラを、禪院真希の冷たい一言が容赦なく叩き斬った。

 

「「………………は?」」

 

 野薔薇と悠仁の顔から、見事なまでに表情が抜け落ちた。

 

「どうりで、なんか最近話が噛み合わないなと思った」

 

 狗巻棘が口元に手を当てて苦笑を漏らす。

 

「いきなり『京都名物で何が好き?』とか聞いてくるから、どういう風の吹き回しだと思っていたら……そういう事かよ」

 

 禪院恵もまた、呆れ果てて額を押さえた。

 そういえば数日前から悠仁にやたらと「八ツ橋って何味がうまい?」などと聞かれた記憶がある。てっきりただの食欲だと思っていたが、とんだ勘違いだったというわけだ。

 

「交流会ってのはな、去年勝った方の高専でやんだよ」

 

 完全に固まっている二人に向かって、ニヤリと笑いながら歩み寄ってきたのは、三年生の秤金次(はかりきんじ)だった。

 

 ごつい体格に金髪、見るからに柄の悪いギャンブラー気質の先輩だ。

 最近ようやく呪霊の発生ラッシュによる任務の繁忙期が落ち着き始め、こうして学校に顔を出す機会も増えてきていた。

 

「おっ、秤先輩! パチ屋ぶりッスね!」

「おう悠仁、最近調子どうよ。また今度打ちに行こうぜ」

 

 悠仁と秤がハイタッチを交わす。かつて駅前のパチンコ屋で意気投合し、夜蛾学長から大目玉を食らった時からの関係性は健在であった。

 

「……で。去年、東京校が勝ったから今年は東京でやるってこと?」

 

 現実を徐々に理解し始めた野薔薇が、ワナワナと肩を震わせながら尋ねると、秤は「そういうこと」と頷いた。

 

「勝ってんじゃねーよ!!!!」

 

 野薔薇の絶叫が、秋晴れの空にこだました。

 京都の風情ある街並みと佇む綺麗な舞妓さん、美味しいスイーツ。

 そのすべてが幻と消えた絶望感に、彼女は膝から崩れ落ちてキャリーケースに突っ伏した。

 

「あはは、おーよしよし。可哀想にねぇ」

 

 そんな野薔薇の頭を優しく撫でて慰めたのは、秤の隣に寄り添うように立っていたもう一人の三年生——星綺羅羅(ほしきらら)だった。

 星のマークが散りばめられた派手なメイクに、ジェンダーレスで独特な雰囲気を持つ先輩は、後輩の絶望を面白がりつつも優しく抱きしめている。

 

「来年は京都に行けるように、今年頑張ろ?」

「うんっ……!」

 

「いやそれ負けてんじゃねえか」

 

 優しく微笑む綺羅羅に野薔薇が涙目で頷くのを、恵がジト目でツッコミを入れた。

 

「あはは……なんか、ごめんね……?」

 

 そんな修羅場と化した集合場所の片隅で、ただ一人、顔を引き攣らせて気まずそうに頬を掻きながら苦笑するしかなかったのは——乙骨憂太であった。

 

 前年度の交流会。

 当時、素人同然ながら人手不足の人数合わせとして無理やり組み込まれた彼。

 だが、その対抗戦の最中にまだ理性もなくおぞましい怨霊の姿であった祈本里香をうっかり完全顕現させてしまい、文字通り「無双」してしまったのだ。

 結果として東京校に圧倒的な勝利をもたらしてしまった、最大にして最強の戦犯である。

 

『ふふん! 憂太が一番強いんだから当然でしょ! ねー、憂太!』

 

 憂太の背中には『無為転変』によって17歳相当のダイナマイトボディな姿に化けた里香がピタリと張り付き、その所有権を主張している。

 ただでさえ真希(泥棒猫)や野薔薇がいるこの場で、これから他校の女子生徒までやってくるため、あらかじめ身体を膨らませて威嚇しているのだ。

 

「り、里香ちゃん……周りの目が痛いから……」

 

 冷ややかな視線を向けてくる真希や恵の圧に耐えかね、憂太は冷や汗を流しながら、ご機嫌な自称・正妻を必死に宥めるのだった。

 

「オラ憂太、あちらさん来たぞ。何時までもベタベタしてんじゃねぇ」

 

 不意に真希が木刀を肩にトントンと叩きつけながら、忌々しげに――そして、ほんのわずかに焼きモチの混じった不満げな声で言い放った。

 その視線は、乙骨の背中にぴったりと張り付いている里香の豊満な姿を鋭く睨みつけている。

 

『……べーっだ!』

 

 彼女は真希の凄みにも全く怯むことなく、憂太の首に腕を回したまま子供っぽく「あかんべー」をして舌を出してみせた。

 見た目は妖艶な十七歳の美少女でありながら、中身は十歳の童女のままという危ういアンバランスさ。真希の額にピキリと青筋が浮かぶが、ここで痴話喧嘩を始めている場合ではなかった。

 

 ザッ、ザッ、ザッ……。

 

 高専の正門へと続く石段の方から、多数の足音が近づいてきたのだ。

 東京校の面々が一斉に視線を向けると、木々の影から黒い制服に身を包んだ集団がぞろぞろと姿を現した。

 京都にあるもう一つの呪術教育機関――呪術高専京都校の面々である。

 

「……チッ。せめて京都土産くらい寄越せってのよ。八ツ橋くずきりそばぼうろォ!!

 

 旅行気分を完全にへし折られていた野薔薇が、手ぶらな彼らの姿を見て忌々しげに舌打ちをした。

 

マイブラザー! 今日こそ俺とオマエの熱きパッションをぶつけ合う時が来たな!!」

 

 真っ先に先頭を切り、弾丸のような勢いで駆け上がってきたのは、京都校三年の巨漢——東堂葵だった。

 彼は東京校の面々の中に悠仁の姿を見つけるなり、暑苦しく表情を破顔させ、両手を広げて突進してきた。

 

「おーっ、東堂! こないだぶりだな!」

 

 悠仁もまた何故か全く警戒することなく満面の笑みでハイタッチに応じる。

 

「えぇ……何アンタら、仲良くなりすぎでしょ……」

「いや、東堂は確かに変なヤツだけど悪いヤツじゃなくてさ。連れてかれた個握も案外楽しめたし。いやすごく変なヤツではあるけど」

 

 そんな様子に野薔薇が軽く引き、恵が渋面を浮かべる。

 先日、彼が強引に高田ちゃんの個別握手会へ連れ去られた後に一体どんな濃密な時間を過ごしたのかは定かではないが、すっかり「ブラザー」としての絆が完成してしまっているようだった。

 

「フッ、俺達はブラザーだからな。……禪院恵、オマエも今日こそは覚悟しておけ」

「…………………………」

 

「凄くイヤそう!!」

 

 苦虫をひと握りは噛み潰したような表情の恵に悠仁が思わず突っ込む中、その後方からやや遅れて和装をベースにした詰め襟の制服をきっちりと着こなす古風な顔立ちの三年生——加茂憲紀(かものりとし)が静かな足取りで進み出てきた。

 彼の細められた瞳は、東京校の陣容——特に真希と恵の姿を鋭く観察している。

 

(……あの姿勢、微塵も隙がない。禪院家の練度は、やはり御三家でも頭一つ抜けているか)

 

 加茂家の次期当主としての重圧を背負う憲紀は、内心で静かに気を引き締める。

 禪院全の台頭により呪術界のパワーバランスが崩れる中、次代を担う己こそが模範とならねばならないと。

 その後ろを愛用の箒を手に西宮桃(にしみやもも)が澄ました顔で歩いていく。

 

 三年生たちに続いて、二年生の集団が姿を現す。

 ノースリーブの制服からスラリとした腕を伸ばし、ショートボブの髪を風に揺らす禪院真依が悪戯っぽい笑みを浮かべて真希と恵の方を向いた。

 

「相変わらず、むっつりした顔してるわね、恵。真希も、少しは女らしくしたら?」

「うるせぇ。真依こそ、相変わらずヘラヘラしてんな」

 

 真依の皮肉めいた挨拶に恵は無言で応え、真希は木刀を構えて鼻で笑い返す。

 そんな禪院の姉妹のやり取りの横で、長袖の詰め襟を首元まできっちりと留めた左頬に大きな傷のある青年——与幸吉(むたこうきち)が頭上に結った髪を揺らしながら真面目くさった表情でしっかり二本の足で地面を踏み締め歩いている。

 そして彼のすぐ斜め後ろでは、青いロングヘアを微風にゆらりと靡かせ、きっちりとしたスーツ風の制服に身を包んだ三輪霞(みわかすみ)がなぜかキョロキョロと落ち着きなく、背後の方ばかりをチラチラと気にしながら歩いていた。

 

 最後尾を歩くのは、今年度入学したばかりの一年生たち。

 

「うぅ、なんか凄そうな人ばっかやね……俺、場違いじゃ?」

 

 金髪の少年——新田新(にったあらた)が、周りの特級や一級といったバケモノ揃いの面々を見て、あからさまに及び腰になりながら冷や汗を流している。

 

「もう、新くん何ビビってんのよ。わざわざ東京まで駆り出されたんだから、楽しまなきゃ損っしょ!」

 

 ルーズソックスにカーディガンを羽織り、高専の制服を思い切りギャル風に着崩した枷場菜々子(はさばななこ)が、金髪の前髪を指先で漉きつつ手元のスマートフォンを操作しながら呆れたように笑う。

 首に縄巻きつけた不気味なぬいぐるみを抱きしめ、艷やかな黒髪を靡かせた枷場美々子(はさばみみこ)も、「そうだよ。終わったらクレープ食べに行こ」と久々の東京にウキウキしている様子で首を縦に振った。

 

 生徒たちが勢揃いし、賑やかな空気が広がる中。

 最後尾を歩いてきた引率の教員たちは、見事なまでにお通夜のような、ひどく嫌そうな顔をしていた。

 顔に傷を持つ巫女服風の教師、庵歌姫(いおりうたひめ)と、白髭を蓄え和装に身を包んだ京都校学長、楽巌寺嘉伸

 

「……なんであのバカはこっちにいるのよ」

 

 歌姫は艶やかな黒髪を顔に垂らして深く俯きながら忌々しげに吐き捨てた。隣を歩く楽巌寺も、重々しく「はぁ……」と深いため息をついている。

 

 彼女たちがそこまで露骨に嫌な顔をしている理由は、遠く東京の地まで足を運ばされたからではない。

 今回の交流会を「一年生強制参加」へとルール変更させた最大の元凶にして、視察の名目でやってきた呪術界の王——禪院全が優雅な着流し姿で後方から歩みを進めており——。

 

 そしてその全の真横には、銀髪にサングラスをした長身の男——五条悟がニヤニヤと笑いながら並んで歩いているのである。

 東京校の生徒たちが先程から「なんか五条先生いねぇな、また遅刻か」と思っていた矢先の話であった。

 

「おまたー!」

 

 悟がひらひらと気軽に手を上げて挨拶するのを見て、東京校の生徒たちは一斉にズコーッと脱力した。

 

「いやなんでそっち側から来んのよ! 私らの担任でしょうが!」

「マジで自由すぎるだろ、この人……」

 

 野薔薇が青筋を立てて怒鳴り、悠仁が呆れ果てる。

 三輪が先ほどからチラチラと背後を気にしていたのは、大ファンである五条悟が京都校の集団の真後ろを歩いていたからだった。

 

「めんごめんご。いやー、ちょっと全と大事な話があってさ。道中で合流して色々打ち合わせしてたのよ」

 

 悟がケラケラと笑いながら言い訳をする。

 単なるいつもの遅刻かと思いきや、あの禪院全と密談を交わしていたという事実に生徒たちの間に微かな緊張が走る。この二人の特異点が顔を突き合わせてする「大事な話」など、ろくなことであるはずがない。

 

「…………」

 

 東京校の生徒たちの後ろで静かに控えていた夜蛾正道は、その光景を前に、割れそうな頭痛を堪えるように大きな手で額を押さえた。

 

(……何事も体面というものがあるだろうが、悟の奴め)

 

 ホスト校の教師が、あろうことか他校の引率に混ざって登場するなど、礼儀もへったくれもない。

 だが、その会話の相手が呪術界の最高権力者にして最強の簒奪者たる禪院全となれば、夜蛾とてあまり強く注意することも憚られる。

 二人のやり取りの裏にどんな思惑が潜んでいるのか計り知れない以上、今はただ胃薬を噛み砕きたい衝動を抑え、深く、深いため息を夜空に吐き出すことしかできなかった。

 

 

***

 

 

「さてさて、皆揃ったところで! 早速今年のルール説明といこうか!」

 

 グラウンドの中央に立った五条悟が、どこから取り出したのかピンク色のメガホンを片手にノリノリで声を張り上げた。

 本来であれば夜蛾や楽巌寺といった両校の学長が厳かに執り行うべき開会式だが、この男がしゃしゃり出た時点で厳粛な空気などとうに消え失せている。

 

「京都姉妹校交流会、一日目! 団体戦——」

 

「——チキチキ! 呪霊討伐猛レース!!

 

 無駄にポップなタイトルコールに、生徒たちの間に「チキチキってなんだよ……」と冷めた空気が流れる。

 だが悟はそんなこと全く気にせず、朗々とルールを語り始めた。

 

「ルールは簡単! 指定された演習区画内に放たれた、ボスの二級呪霊を先に祓ったチームが勝利! 日没までに決着がつかなかった場合は、区画内に配置された呪霊の討伐数が多いチームの勝ちとなる! ……と、いうのがいつものルールな・ん・だ・け・ど!

 

 悟はそこで言葉を区切り、サングラスの奥でニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべて、隣で涼しい顔をしている全へとメガホンを向けた。

 

「今回は特別ルール! この度視察にお見えになった禪院家当主サマから提供してもらう()()()()を祓ったチームの勝利となりまーす!!」

 

「「「………………は?」」」

 

 その言葉が響いた瞬間、東京・京都の両校の生徒たちから、見事なまでに重なった呆然とした声が漏れた。

 二級呪霊がボスのはずの団体戦に、特級呪霊。

 悟が全としていたという「大事な話」が想像以上にろくでもない事だったことに生徒たちは愕然とする。

 

 「チキチキ」などという気の抜けた擬音で片付けていいレベルの難易度上昇ではない。文字通りのデスマッチへの変更と言えた。

 特級呪霊など、倒せる人間は両校合わせてもそうはいないのだ。

 

「アホか!! なに勝手にルール書き換えてやってんだクソ当主!! 学生の交流会だぞ!!」

 

 真っ先に噛み付いたのは、当の全の従姉妹にして我らが東京校の暴れ馬たる真希だった。彼女は担いでいた木刀を全めがけてビシッと突きつけ、額に青筋を浮かべてブチギレた。

 

 しかし全は真希の怒声にも全く動じることなく、優雅に笑った。

 

「そう怒らないでよ真希。特級といっても、皆が危なくないように『ちゃんと殺さないように』と、事前に厳しく指示は出しておくさ。大丈夫、手加減というものをよく知っている子だからね」

「禪院家基準だろそれ!!」

 

 真希のド正論のツッコミに、恵も深く同意して「はぁ……」と深いため息をついた。禪院家の訓練における「殺さない」は、「死ぬ一歩手前までなら半殺しにしても良い」と同義である。

 

「えっと……夜蛾学長。いくらなんでも、特級はやりすぎでは……」

 

 京都校の引率である歌姫が、常識的な観点から夜蛾へと助けを求めるように声をかけた。だが、夜蛾はこめかみを揉みながらひどく胃が痛そうな顔で口を開いた。

 

「……その他、区画内には三級以下の雑魚呪霊を散りばめる予定だ」

かーらーのォー???

 

 夜蛾の言葉を遮るように、悟が目を輝かせて被せて全に蒼い視線を送った。

 

「……うん? じゃあ追加で二級程度の呪霊を適当に見繕って放流してあげようかな」

頼んでないッ!!

 

 夜蛾の悲痛な叫びも虚しく、悟の悪ノリと全の気まぐれによって、演習区画はあっという間に「特級のレイドボス」と「二級・三級程度の雑魚」が徘徊する、地獄のサバイバルエリアへと変貌してしまった。一応二級にも殺害は禁じておくから、という補足はされたが、それでも危険は危険だ。

 

「うおおおおッ! 太っ腹ァ!!

 

 悟がメガホンを叩いて大喝采を上げる。

 

「みんな聞いた!? 当主サマからの極上のサプライズだ! お前ら、死なないように気合入れろよー!」

 

「ええ……滅茶苦茶すぎんでしょ……」

「私、もう帰っていいかしら……」

 

 悠仁が顔を引き攣らせ、野薔薇が本気で嫌そうに金槌を肩から下ろした。

 特級呪霊の恐ろしさを少年院で身を以て味わっている彼らにとって、このルール変更は冗談抜きで命の危機を感じるものだった。

 

「ふむ……特級呪霊、か。俺の魂を滾らせるには十分すぎる余興だな!」

「熱くなってきたじゃねーか……!」

 

 そんなとんでもない状況下においてもごく一部は戦意を滾らせているものの、多くの生徒は顔を青ざめさせていた。

 特に今年から右も左も分からないまま呪術の世界に放り込まれた新入生にとっては、あまりにも過酷すぎる現実である。

 

「…………マジで帰りたいんですけど……」

 

 新田はガタガタと震えながら半泣きになっていた。

 実戦経験など皆無に等しいというのに、特級や二級がうようよいる森の中へ放り込まれる。それは彼にとって交流などという生易しいものではなく、処刑にも思えていた。

 

「まあ、新田くんは無理せず後方にいればいいよ。危なくなったら、私たちもカバーするから」

 

 同じ一年生である美々子がぬいぐるみを弄りながら淡々とした声で言い、菜々子も「そうそう、私ら一年は気楽にしてていいって先輩も言ってたっしょ」とスマホを構えながら笑っているが、新田にとってなんの慰めにもならなかった。

 

「ルールは以上! 殺しや再起不能にさえしなけりゃ、他校への妨害行為もアリアリの、残虐呪術レース! 大丈夫、ここには反転アウトプットができる奴が勢揃いしてる! 腕の一本くらいは生やせるぞー!!

 

 悟のハイテンションな宣言が、絶望に沈む生徒たちの心に追い打ちをかける。

 

「開始時刻の正午まで解散! 各自、作戦を練ってしっかり準備しとけよー!!」

 

 その言葉を合図に、両校の生徒たちはそれぞれ重い足取りで、自陣の待機場所へと向かっていった。

 全と悟という二人の悪ノリによって、史上最悪の難易度へと跳ね上がった姉妹校交流会。波乱と混沌に満ちた二日間の祭典が今、不穏な静けさとともに幕を開けようとしていた。

 

 

***

 

 

 東京校に割り当てられた控室は、先ほどのグラウンドの狂騒が嘘のように、奇妙なほど落ち着いた空気に包まれていた。

 長机を囲むようにパイプ椅子が並べられ、今年度のメンバーたちが思い思いの姿勢でくつろいでいる。

 

「さあて、作戦会議すっかね」

 

 パイプ椅子をギシッと鳴らして腰を下ろしたパンダが、もふもふの腕を組んで口火を切った。その声に応じるように、綺羅羅が机に突っ伏しながら大きなため息を吐き出す。

 

「はぁ〜……。呪霊操術で制御されてるとはいえ、特級は流石におっかないなぁ……」

 

 いくら「殺さないように指示は出しておく」と全が言ったところで、相手は特級。ちょっとした手加減のミスでこちらの骨がへし折れてもおかしくない。反転アウトプットの使い手が何人も控えているとはいえ、死んでしまっては治せないのだ。

 そんな不安の中、窓際で木刀を壁に立てかけていた真希が腕を組みながら冷静な分析を口にした。

 

「……おそらく、投入されるのは『()()()』だ」

「七尺様?」

 

 悠仁がポカンと口を開け、首を傾げた。

 

「八尺様ってやつじゃなくて?」

「半分合ってる。特級仮想怨霊『八尺様』、その分体を指す」

 

 真希はかつて禪院家の訓練で見習いの身ながら幾度となく相手をさせられてきた、その厄介な呪霊の特性について語り始めた。

 

「あれの術式は一尺から最大八尺までサイズを自在に分割・変化するもんだ。八尺の完全体一つにもなれるし、一尺の分体を八体生み出すこともできる」

「へぇ、マトリョーシカみたいだなあ」

 

「で、今回は七尺様。つまり、一つだけランクを落としたほぼ完全に近い形態で放り込んでくるはずだ」

 

 真希は忌々しげに顔をしかめつつ、その理由を付け加えた。

 

「禪院家の『』向けの実戦訓練でよく使われてる。あれは巨体の割に殺傷力もそこまで高くなく、耐久に特化した呪霊だ。……何より、どこかに一尺の分体が一つでも残っていれば滅びずに再構成できる」

 

 その言葉に控室の面々は「なるほど」と納得した顔をした。

 

「要するに、絶対に手放したくないレア物を大事にするあの当主らしい安全策も兼ねてるってことだな」

 

 生徒たちを特級とぶつけるデスゲームを用意しておきながら、ちゃっかりと自分のコレクションのロスト対策だけは完璧に済ませているらしい。

 

「——という事はよ?」

 

 パイプ椅子に浅く腰掛けていた野薔薇が不意にニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、向かいに座る恵の方へと身を乗り出した。

 

「アンタ、これ大丈夫?」

「……何がだ」

 

「憧れのおねーさん相手にちゃんと戦える?」

 

 ピキリ。

 恵の額に、見事な青筋が浮かび上がった。

 

「うるせぇ」

 

 東堂葵による『恵、八尺様ガチ恋勢説』という認識から端を発したこのネタは、すっかり東京校一、二年の間で鉄板のイジりとして定着してしまっていた。

 怒気の籠もった声で野薔薇を退けると、恵はコホンとわざとらしく咳払いをして皆の注目を集めた。

 

「くだらない話はいい。……それより、京都校の連中の()()についてだ」

 

 そんな恵の言葉に三年生の秤をはじめ、全員の視線が彼へと向く。

 

「俺は入学前の時点で禪院家における『術式取引リスト』の記録に目を通している。……だから、向こうのメンバーの術式も大体わかります」

「……え? それって公開していいやつ??」 

 

「厳密には、しちゃいけないという取り決め自体がない」

「うわぁ、禪院家うわぁ……」

 

 コンプライアンスという言葉が裸足で逃げ出すその発言にドン引きする野薔薇だが、その事実はあまりにも巨大なアドバンテージだった。

 

 現代の術師は、生得術式に加えて第二の術式を持っていることがほとんどだ。

 相手の手札を事前に把握できることほど最強のメタ戦略はない。恵はそれを包み隠さず共有し、確実な勝利への道筋を立てようとしたのだ。

 

 ——だが。

 

「いや、んなもんいらねぇよ」

 

 パイプ椅子の背もたれにふんぞり返り、天井を仰いでいた秤があっさりとその提案を蹴り飛ばした。

 

「……秤さん?」

「カンニングしてメタ読みなんて、熱くなれねえだろ」

 

 秤はニヤリと、博徒としての凶悪な笑みを浮かべた。

 

「まあ、金ちゃんならそういうよねえ」

 

 綺羅羅もうんうんと頷く。相手のカードを全て知った上でのゲームなど、ただの作業でしかない。

 未知の相手、未知の能力とのぶつかり合い、ヒリつくような死線の中で勝利をもぎ取る。それこそが彼の『熱』を呼び起こすトリガーなのだ。

 

「まぁ、ちょっとズルいかなぁ」

 

 秤の言葉に同意するように、棘がふんわりと笑いながら手をヒラヒラと振った。

 

「ただでさえ、ウチには憂太や真希っていう反則級ユニットが揃ってるしね」

 

 棘の視線の先では、壁際で大人しく立っていた乙骨憂太が「あはは……」とやや気まずそうに頬を掻いていた。

 彼の脇腹には相変わらず里香が他の女を牽制するかのように張り付いている。

 そしてその隣には特級呪霊とすら呪具一本でやりあえる女傑、天与呪縛の真希。

 

「見た術式をコピーできる特級のバケモンと、物理法則を無視したフィジカルの真希のツートップ」

 

 パンダが顎を撫でながらうんうんと頷く。

 

「向こうも加茂とか東堂とか、一級は何人かいるけどさ……。ぶっちゃけ、この二人が並んでる時点で、不公平感あるよな」

 

 京都校が可哀想になるレベルだわー、とパンダは笑った。

 

 

 

 一方、そんな同情が向けられた京都校の控室。

 和室に集められた生徒たちを前に、引率の教員二人は心底頭の痛そうな顔をして立ち尽くしていた。

 

「……よいか。相手は呪霊操術の制御下とはいえ特級呪霊。勝敗など二の次で構わん、とにかく死なないように立ち回るのだぞ」

 

 楽巌寺は重々しい声で生徒たちにそう言い含めた。

 呪術界の最上位に位置する特異点たちがふざけ半分で用意した死の舞台。学生がまともにやり合って生還できる保証などどこにもない。

 

「全く……! あのバカが余計なこと言ってルールなんて変えるから……!! ほんっとうに腹立つわ!!」

 

 隣に立つ歌姫はギリと歯軋りをしつつ、怒りのあまり顔を真っ赤にして叫んだ。

 本来なら生徒同士の有意義な交流の場となるはずだった行事。五条悟の余計な茶々入れが禪院全の気まぐれを誘発し、地獄のサバイバルへと変えてしまったのだ。

 

 歌姫は「準備が済んだら所定の位置に集まりなさい!」と言い残し、楽巌寺と共に足早に控室を去っていった。

 

 大人たちが去った後、和室には重苦しい沈黙と明らかに一人だけ浮いた悲壮感が漂っていた。

 

「死ぬ……俺、絶対に死ぬわこれ……」

 

 特に戦闘能力に自信のない新田が部屋の隅で膝を抱えて完全にお通夜状態になっていた。そんな彼の背中を、同期である菜々子が「はいはい、ドンマイドンマイ」とスマートフォン片手にポンポンと雑に叩いて慰めている。

 

「大丈夫だよ、新くん」

 

 もう一人の一年生、美々子がぬいぐるみから伸びる縄を指に巻いていじりながら淡々とした声で寄り添うように声をかけた。

 

「相手は特級なんだし、死ぬ時はきっと一瞬だから痛くないよ」

「それ全然慰めになっとらんからね!? 余計怖いって!!」

 

 美々子のブラックすぎる励ましに、新田はさらに涙目になって頭を抱え込んだ。

 そんな一年生たちのドタバタをよそに、部屋の中央では二年生と三年生の先輩たちが、円座になって真面目な顔で作戦会議を進めていた。

 

「——というわけで、正面から東京校の連中とぶつかるのは絶対に避けるべきだ」

 

 憲紀が目を細めたまま冷静に切り出した。

 

「東京校の最大戦力は、言うまでもなく特級被呪者にして特級呪術師の乙骨憂太、そして……」

「禪院真希、うちのゴリラね」

 

「いやゴリラって……」

 

 真依が腕を組んで深く頷くのを、三輪と桃は苦笑する。

 実の姉の恐ろしさを、彼女は誰よりも間近で見て知っている。

 

「乙骨に関しては、去年の交流会で嫌ってほど思い知らされたでしょ。人手不足だからって無理やり数合わせで参加させられた挙句、あの祈本里香をうっかり顕現させて……放たれてた二級呪霊をフィールドもろともに消し飛ばしちゃったんだから」

「……思い出したくもない」

 

 二年生の幸吉が忌々しげに呟いた。

 去年の彼らは見学していただけではあるが、あの圧倒的な呪力の暴風は今でも京都校の生徒たちのトラウマとして深く刻み込まれている。

 

「そして、真希よ」

 

 真依はさらに声を潜めて真剣なトーンで告げた。

 

「アイツのゴリラっぷりは今更語るまでもないけど……何よりも厄介なのは、東堂先輩の術式にとっても最大のメタになり得るってこと」

 

 その言葉に、三輪が「あっ」と小さく声を上げた。

 東堂の生得術式は、集団戦や奇襲において最強無比の立ち回りを可能にするものだ。

 しかし、その術式には明確な発動条件がある。

 

「呪力が一切ない真希は、東堂先輩の術式も含めて術式への耐性が高くて搦手が通じにくい。それに純粋な殴り合いで両校の生徒を全員合わせても、アイツに勝てる人間はいないわよ」

 

 真依の断言に憲紀も無言で同意を示した。

 乙骨と真希。この二人が並び立っている東京校の陣容は、まともに戦えば間違いなく全滅を免れない。

 

「結論として、団体戦は敵校の生徒を徹底的に避けて標的である『特級呪霊』のみを全力で狙う」

 

 憲紀が作戦の骨子をまとめる。

 

「幸いなことに、先生たちは『絶対に勝てない』みたいに脅してたけど……出てくる特級が想像通りなら、東堂先輩を中心に皆で囲んで袋叩きにすれば多分普通に勝てるわよ」

 

 真依がふっと余裕のある笑みを浮かべて言い添えた。

 禪院家の手の内を知る真依の頭の中には、全が放流するであろう特級呪霊の正体——七尺様のビジョンが明確に浮かんでいた。

 

 特級としては比較的殺傷力が低く、タフネス寄りの巨大な的。

 東堂の術式の内二つを合わせて使えば、索敵も奇襲も瞬時に行える。彼を中心に部隊を動かせば、特級呪霊の懐に一瞬で飛び込んで総攻撃を叩き込み、東京校よりも先に勝利条件を満たすことができるはずだ。

 

(……まあ、出てくるのが七尺様だろうって事は、今は黙っておくべきでしょうね)

 

 真依は部屋の隅で一人腕を組んで目を閉じている巨漢——東堂葵をチラリと見て、内心でため息をついた。

 

 もしここで「出てくるのは八尺様の分身だ」などと口を滑らせれば、あの筋肉ダルマがどんな奇行に走るか分からない。

 戦いの場になれば持ち前の戦闘IQで割り切って戦ってくれるだろうが、試合前のこの場で明かすのはリスクが高すぎた。

 

「……というわけで、この作戦の要はアナタの術式と機動力に掛かっているの。……聞いてる? 東堂先輩」

 

 真依が声をかけると、目を閉じていた東堂が「フン」とつまらなそうに鼻を鳴らし、ゆっくりと立ち上がった。

 

「——断る」

 

「は?」

「なっ、東堂……!?」

 

 憲紀と真依が同時に顔をしかめる中、東堂は腕を組み傲然と言い放った。

 

「俺はこの交流会で、マイブラザーとの友情をこの拳で確かめ合わねばならんのだ」

 

 その目に燃えるのは作戦の成功や学校の勝利などではなく、一人の漢との熱き闘争への渇望のみ。

 

「それに……」

 

 東堂の脳裏に自分の魂の問いに対して綺麗事を並べた恵の顔がよぎる。

 

「己の性癖から逃げた臆病者の目を俺の拳で覚まさせ、真なるマスターへと覚醒させるという崇高なる使命もある……! 呪霊ごときに構っている暇などありはしない!」

 

 そう言い残すと、東堂は作戦会議の輪を完全に無視し、乱暴な手つきで控室の障子をガラァッ! と力いっぱい開け放った。

 

「おい、どこへ行くつもりだ、東堂」

 

 憲紀が苛立ちを隠せない声で引き止める。

 作戦会議の最中に最大戦力が作戦を放棄してどこかへ行くなど言語道断だ。

 

 だが東堂は振り返りもせず、空を仰いで厳かに答えた。

 

「十一時からの散歩番組に、高田ちゃんがゲスト出演する」

「…………………………」

 

「これ以上の説明が必要か?」

 

 圧倒的なまでの真顔。

 命懸けの死合よりも、推しアイドルのテレビ番組をリアルタイムで視聴することの方が彼にとっては比重が重かった。

 

「あー、もういいわ。行っちゃって」

 

 真依が完全に魂が抜けたような顔で手をヒラヒラと振った。

 止めても無駄だ。ここでテレビを見させなければ、それこそ暴れ出して控室が半壊しかねない。

 

 ドスッ、ドスッ、ドスッ……。

 

 満足げに控室を出て行く巨大な背中を、京都校の面々はただ呆然と見送るしかなかった。

 

「……はぁ」

 

 真依はこめかみを揉みながら、残された面々を見渡して深く肩を落とした。

 

「うーん……ぶっちゃけ、勝負として最大の勝ち筋は『東堂先輩の術式による速攻』だと思ってたんだけど……」

 

 最大のジョーカーが盤面から降りてしまった今、計画は完全に白紙である。

 真依は呆れたように肩をすくめ、憲紀や幸吉たちへと問いかけた。

 

「ねえ、他に何か……東京校のバケモノたちを出し抜く作戦のアイデア、ある?」

 

 重苦しい沈黙が再び京都校の控室にドッと降り注ぐ。

 特級呪霊と東京校の規格外のバケモノたち。それらを相手に東堂なしでどう立ち回るか。

 

 京都校の生徒たちの胃の痛くなるような本当の「作戦会議」は、ここからが本番だったのである。

 

 

***

 

 

 教職員や来賓向けに設営された、広大な演習区画を一望できる本邸内のモニタールーム。

 壁一面にズラリと並べられた多数のモニターには、これから学生たちが死闘を繰り広げる森の各所が、何十羽もの烏の視覚を通じて鮮明に映し出されていた。

 

「……で。マジで何も察知できてないワケ? 昨今の呪いたちによる暗躍について」

 

 革張りのソファに深く腰を沈め、長い脚をテーブルに投げ出した五条悟が、ふいに声のトーンを落として尋ねた。

 丸いサングラスの奥の六眼は少し離れた上座で優雅に茶を啜っている男——禪院全を真っ直ぐに射抜いていた。

 

 日本の呪術界の裏表に監視と情報網を張り巡らせているこの男が、特級呪霊の徒党というこれほど大規模なイレギュラーの胎動を本当に一欠片も掴んでいないなどということがあり得るのだろうか。

 

 悟の鋭い視線を受けながらも、全は一切の動揺を見せず、手にした湯呑みをコトリとソーサーに置いた。

 

「さっきも言ったけど、僕から話せるような情報は何もないね。残念ながら」

 

 全は肩をすくめ、首を横に振ってみせた。

 その顔に張り付いた三日月の如き笑みからは嘘をついているのか、本当に何も知らないのか、一切読み取ることができない。

 

「うーん、マジかぁ……」

 

 悟は腕を組み天井を仰ぎ見て、ニィッと凶暴なまでに楽しげな笑みを浮かべた。

 

「アンタの監視網すら掻い潜る連中がいるなんてねぇ。……本格的にワクワクさせてくんじゃん」

「ワクワクしてんじゃないわよバカ……!」

 

 すかさず、隣の席に座っていた庵歌姫がバンッ! とテーブルを叩いて青筋を浮かべた。この男はどこまでも自分の闘争心と好奇心を優先させる。

 

 歌姫の怒声の横で、東京校の夜蛾と京都校の楽巌寺の両学長は、示し合わせたようにひどく深いため息を同時に吐き出した。

 

「……笑い事ではないぞ、悟」

 

 夜蛾が眉間を強く揉みほぐしながら、低い声で唸るように言った。

 

 遠ざけられた術師たちと駆り出された一年生、宿儺の指を取り込んだ少年院の呪胎に、連携する未登録特級呪霊の一団。

 自然発生した呪いがこれほどまでに組織的かつ狡猾に呪術界の隙を突いて動いているという事実は、上の人間からすれば悪夢以外の何物でもなかった。

 

「んー。こんだけこっちの手のひらスイスイかいくぐるやつなんて……」

 

 悟は椅子をギシッと軋ませ、少しだけ遠い目をして記憶を掘り起こした。

 

「あの『()()()()()』以来か」

 

 その言葉に、室内の空気がピクリと反応した。

 

「……ああ、十二年前の『星漿体護衛任務』に現れたという?」

 

 夜蛾が顔をしかめながら問い返す。

 五条悟を死の淵まで追い詰め、分身術式と降霊術を用いて禪院家先代当主を蘇らせ、魔虚羅を解き放った最悪の呪詛師。

 

「かの呪詛師はあれ以来一度も尻尾を出さず、まだ捕まっておらんのだろう?」

 

 楽巌寺が鋭い視線を全へと向けた。

 名だたる有力な呪詛師の狩り尽くされた今の世において、いまだに捕縛されずに逃げ延びている数少ない「大物」の一人である。

 

「でもまあ、あのハゲが今回の件に絡んでるって考えるのも少々安直かねえ」

 

 悟が首を傾げて自らの推測を一旦引っ込める。

 特級呪霊の組織化と、過去の呪詛師の暗躍。線で繋ぐには情報が少なすぎた。

 

「…………」

 

 そんな教師たちの推測や議論が交わされる中。

 モニタールームの上座で、全は再びゆっくりと湯呑みを口元に運んでいた。

 

 紙袋の呪詛師。高度な結界術を持つ、禪院家の手によらない多重術者。

 全の漆黒の瞳の奥で強烈な探求心と、これまで見せたこともない渇望がドロリと渦を巻いた。

 

「……なるほどねえ」

 

 茶を啜る全の口からポツリと、誰に聞かせるでもない呟きが漏れた。その目には、純粋な『愉快』の二文字が、深々と刻み込まれている。

 

 ——ピピピッ、ピピピッ。

 

 そんな大人たちの思惑が交錯する部屋に、正午を知らせる無機質な電子音が響き渡った。

 

「おっ、そろそろ時間だね」

 

 悟がモニターへと身を乗り出す。

 画面の中では、演習区画の各スタート地点に配置された東京・京都両校の生徒たちが、それぞれの武器を構え、あるいは呪力を練り上げ、一斉に森の中へと足を踏み出していく姿が映し出されていた。

 

 ルール改変により、特級呪霊の徘徊する地獄のサバイバルエリアと化した森。

 そこで若き雛たちがどのような決断を下し、いかにして理不尽を生き抜くのか。

 

 禪院全の歪な眼差しと、五条悟の期待に満ちた瞳が見下ろす中、波乱に満ちた京都姉妹校交流会・第一日目団体戦『チキチキ呪霊討伐猛レース』が、今まさに開始の火蓋を切られようとしていた。





悠仁「はい!! おっぱっぴー!」
恵「急にどうした」
悠仁「いや、なんかやっとくべきかなって……」

・秤金次&星綺羅羅
原作では停学中だった三年生コンビ。
停学? 何ソレとフッツーに何事もなく参加している。
もめる機会も消えたし、保守派の人が見ても「ああ、あの当主が好きそうな変な術式だなぁ…」って感想にしかならないまである。
綺羅羅も高専内なのでオシャレに着崩しつつも制服を着ており、綺羅羅と野薔薇はわりと最近初めて顔を合わせたが、性別に驚きつつも普通に意気投合。

・ミミナナ&新田新
ギャルとイジられる男の子的な感じ。
原作で喋るところが少なくてちょっと困ったやつら。
菜々子は特により明るい感じになっている。

・東京校メンバー(九名)
三年:秤金次、星綺羅羅
二年:乙骨憂太、禪院真希、狗巻棘、パンダ
一年:虎杖悠仁、禪院恵、釘﨑野薔薇

秤金次、星綺羅羅、乙骨憂太、参戦!!

・京都校メンバー(九名)
三年:東堂葵、加茂憲紀、西宮桃
二年:与幸吉、禪院真依、三輪霞
一年:枷場菜々子、枷場美々子、新田新

ミミナナ、新田新、与幸吉(生身)、参戦!!

・チキチキ!呪霊討伐猛レース!
原作→三級呪霊を蹴散らしながらボスの二級呪霊を倒せ!(準一級もいるよ!)
本作→二級&三級呪霊を蹴散らしながらボスの特級呪霊を倒せ!

ヘーキヘーキ、みんな原作より強いし!反転アウトプット使い三人もいるし!

ちょうど各校九人ずつになりましたね!バランスよし!

……人多すぎて描写大変すぎ&原作登場シーンが少ないキャラの口調や他キャラへの呼び方等に悩む!!
投稿遅れた最大の要因です。
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