禪院全「全ては僕の為に」 作:羂索ハードモード
直哉、さん……?
見るからに近接戦闘へと特化した、筋骨隆々たる『ゴリラ』のシルエット。
その変貌ぶりを術式による視界共有越しに確認した与幸吉は、特級呪霊を捜索する量産型の動きを完全自動に切り替えて気を引き締めた。
「
幸吉の操作に従い、
同時に左腕の装甲がガチャリと解放され、砲身から圧倒的な大火力の呪力砲が猛然と突進してくるゴリラ——否、パンダをめがけて放たれた。
直撃すれば、周囲の木々ごと消し飛ぶほどの破壊の光。
だが、ゴリラモードと化したパンダは避ける素振りすら見せない。
「オラァッ!!」
全身の呪力を限界まで滾らせ、巨大な身体を丸め込みながら両腕を顔の前にクロスさせる。
分厚い呪力を纏った肉のカーテンならぬ
パンダは自らの頑強な肉体とゴリラ核の突進力を盾に、大祓砲の閃光を文字通り真っ向から強引に突っ切ってみせたのだ。
〘——ッ!
煙を突き破り眼前に肉薄した巨体に、幸吉は即座に迎撃態勢を取る。
〘
究極メカ丸の右腕の装甲がスライドし、鋭い刃が無数に生えた強固な盾が展開される。
しかし——。
ドガァッ!!
振り下ろされたパンダの丸太のような拳は、その鋼鉄の盾を紙細工のようにあっさりと粉砕した。
それだけではない。
〘内部構造にダメージが……!?〙
術式を通じて伝わる深刻なエラー警告に、幸吉は目を見開く。
単純な打撃の威力だけではない。高速振動する拳の衝撃が物理的な装甲や防御をすり抜け、メカ丸の内部機構へ直接浸透してきたのだ。
装甲を砕かれた究極メカ丸の機体が、凄まじい衝撃で吹き飛ばされる。森を抜け、崖の正面に建っていた演習用の古い日本家屋の屋根瓦を激しくえぐり飛ばしながらようやくその金属のボディが停止した。
「気付いたか。これがゴリラモードの得意技、防御不能の
パンダは土煙の中から現れ、自らの胸をドンドンと打ち鳴らしながら優位を誇示してみせた。
——だが、そんな強気な言葉とは裏腹に、パンダの内心も少しばかり慎重になっていた。
(ヤベェな……。最初の奇襲と今の呪力砲で、俺とお姉ちゃんの核がダメージを負っちまった)
パンダの体内には、三つの核が共存している。
——バランス重視の『パンダ核』。
——短期決戦、パワー重視のお兄ちゃん『ゴリラ核』。
——そして照れ屋のお姉ちゃん、防御重視の『トリケラトプス核』。
現在無事なのは今表に出ているゴリラ核のみ。
後がないこの状況で、あの装甲の塊を速やかにスクラップにしなければならない。
対する幸吉もまた、顎に手を当てつつ術式が示す究極メカ丸の深刻なダメージレポートに焦り始めていた。
(まずいな。アレをもう一度頭か胴に食らえば、量産型より遥かに装甲の厚い究極メカ丸といえど完全に機能停止してしまう……)
幸吉は額に冷や汗を拭いながら、使うべき兵装を慎重に吟味していた。
近接では分が悪い。距離を取りつつ、最大火力のビームで焼き払うか、それとも——。
〘アッ!!〙
「……えっ?」
不意に、究極メカ丸のスピーカーから人間が素で驚いたような奇声が漏れる。そしてそれと同時に、身構えていたメカ丸の機体がビクンと仰け反り、そのまま完全に硬直してしまったのだ。
予想外すぎる奇声と間の抜けたリアクションに、今まさに突っ込もうとしていたパンダも思わずズコーッと足を踏み外しかけて動きを止めた。
「な、なんだ……??」
——ピィガガ……。
〘自動戦闘モード、起動シマス〙
数秒後、究極メカ丸のスピーカーから無機質な機械音声が流れ、その構えが先ほどまでの洗練されたものが、型に嵌まったような単調なものへと変わった。
「………は???」
パンダの顔面から表情がスッと消え去った。
自動戦闘モード。
つまり、操作者が何らかの理由でコントロールを手放したということだ。
この、お互いのプライドを懸けた死闘の真っ最中にである。
「…………は??? 呪骸ナメてんの????」
パンダの額に、毛皮越しでもわかるほどの巨大な青筋がブチブチと浮かび上がった。
「人形相手には、NPCで十分ってかぁぁぁ!!?」
惱无との同一視という最大の侮辱に続き、今度は戦闘中に放置されるという最大の屈辱。完全にブチ切れたパンダは、雄叫びを上げながらゆらりと構えたオートモードのメカ丸へと猛突進した。
「舐めプしてんじゃねえぞォッ!!」
ドガガガガッ!!
当然、遠隔操作の術師の判断力がない単調な自動運転のメカ丸が、怒り狂ったゴリラモードのパンダに敵うはずもなく。
哀れなロボットは、為す術もなくタコ殴りのサンドバッグへと変貌したのであった。
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「まずい!!
特級呪霊捜索で彼が割り振られた森の一区画にて、幸吉はハッとして肉眼の視界へと意識を強制的に引き戻した。
彼が思わず奇声を上げて究極メカ丸の操作を放棄した理由。
——それは、周囲の森に展開させていた量産型メカ丸たちのロスト警告が彼の脳内で次々と鳴り始めたからだ。
幸吉は慌てて懐から追加の圧縮球体を取り出し、地面へとバラ撒いた。
「
圧縮展開の第二術式によって、数体の量産型メカ丸が音を立てて実寸大へと復元される。これで襲撃者に対する迎撃の陣形を——と幸吉が指示を出そうとした、その瞬間だった。
ガラン、と木々の陰からすでに大破してスクラップになった量産型メカ丸の
「なっ——」
直後、幸吉が展開したばかりの新品のメカ丸たちの身体が、突如として見えない強烈な引力に引かれるように、その放り投げられたそれめがけて一斉に吸い寄せられた。
ガシャァァァァンッ!!!!
凄まじい金属の衝突音に、彼は思わず防御姿勢を取る。
目の前で、展開したばかりの数体のメカ丸たちが、中心に投げ込まれた頭部を核にしてまるで巨大な磁石に吸い寄せられた砂鉄のように激しくぶつかり合い、ぐしゃぐしゃの鉄屑の塊となって自滅してしまったのだ。
「……っ!? これは、磁力……!?」
幸吉が驚愕に目を見開く中。
木々の影から、星柄のメイクを施した中性的な出で立ちの三年生——星綺羅羅が、クスリと笑いながら姿を現した。
「あはっ。金属製で助かったー」
何らかの術式によりメカ丸の頭部に付与された極めて強力な磁力。
金属装甲で覆われたメカ丸たちにとって、それは文字通りの天敵とも言えるメタ能力であった。
「……団体戦中に余所見たぁ、ナメてんのか」
さらには幸吉の背後の茂みを踏み躙りながら、もう一人の三年生が姿を現す。両手をポケットに突っ込み、金髪を揺らしながら凶悪な笑みを浮かべる男——秤金次。
「ちったあ俺たちにも熱をくれよ、後輩」
相当な実力者と聞く、東京校の三年生コンビの強襲。
呪骸そのものを封じられた幸吉は、己の生身の肉体でこの二人を相手にしなければならないという、絶望的な盤面に立たされていた。
ゴクリと喉を鳴らしつつ、彼は構えを取る。
***
「フフフ、一年生も中々やるじゃない。特に京都校の子らには笑わせてもらったよ、見事な大番狂わせじゃないか」
本邸内に設けられたモニタールーム。
壁一面に展開された複数のモニターには、演習区画の森に放たれたカラスたちの視覚を通じて生徒たちの死闘の様子が克明に映し出されていた。
その映像を統括する一級術師、冥冥は前に垂らした長い銀髪を揺らしながら愉快そうに笑い声を漏らした。
「あれがもし賭けの対象だったなら、間違いなく天文学的なオッズの大穴になっただろうね。……特級相手にあんな搦手が刺さるとは、なかなか見られる光景ではないよ」
冥冥は実際には金にならずとも十分に楽しませてもらったとばかりに肩を揺らす。
その隣で、庵歌姫が「あの子たち、逃げるだけって言ってたのに……変なところで度胸あるんだから……」と、頭を抱えながらもどこか安堵したような複雑な表情を浮かべていた。
「『被写体操作』か。干渉力こそ微弱だが、なかなかに珍しく面白い術式だね。まさかあの程度の出力の術式で特級過呪怨霊を狂わせてしまうとは。……いや、あるいは単に、大義名分を与えることで彼女の欲望のストッパーを外しただけかもしれないが」
そう言って禪院全が心底楽しそうに笑う。
いずれにせよ、特級呪術師という最大戦力が一年生のたった一つの術式によって機能不全に陥ったのだ。
パワーや出力の差を相性と盤外戦術でひっくり返す。呪術戦において、これほど鮮やかで見ていて面白い光景もそうそうない。
「ウケる、ウブな憂太には刺激が強すぎるかもしんないけどねー」
五条悟がソファにふんぞり返り、ゲラゲラと笑いながらポップコーンを口に放り込んでいる。
そんな中、不意に画面の中の祈本里香がモニターの方に視線を合わせ——フッと映像の信号が途絶えた。
「うわ……いろんな意味で大丈夫かしら……」
「まあ母体側に肉体がないからね、仮に間違いが起こってもなんともないさ。……おや、あちらの勝負も佳境に入ったようだよ」
薄く頬を染めて心配そうに言う歌姫の言葉に軽く全がそう返すと、他の皆もまた視線を向ける。
映し出されていたのは、京都校二年の三輪霞と、東京校一年の釘崎野薔薇の戦闘だった。
森の中で抜刀の構えを取る三輪に対し、野薔薇は金槌を振るって空中の五寸釘を次々と射出している。
だが、三輪の足元に展開された『シン・陰流 簡易領域』による全自動迎撃の前に、釘はことごとく火花を散らして弾き落とされていた。
さらに三輪は迎撃の合間を縫って鋭く刀を振るい、術式による飛ぶ斬撃を野薔薇へと飛ばして反撃を行っている。
〘くっ……!〙
野薔薇は飛来する斬撃を完全に避けきれず、ノースリーブ故に剥き出しの腕や肩を浅く切り裂かれて血を滲ませていた。
頼みの綱である釘が通じず、一方的に傷を負わされる。相性としては野薔薇が圧倒的に不利に見えた。
だが、モニター越しの野薔薇の顔に怯みや焦りの色は微塵もなかった。むしろ、血を流しながらも獰猛な笑みを浮かべ、さらに釘を空中に展開して打ち出し続けている。
〘……バカの一つ覚えですか!〙
挑発しつつも焦りが募り始めていたのは、むしろ三輪の方だ。
何度弾いても向かってくる釘の雨。彼女の簡易領域は両足が地面から離れれば解除されてしまうため、飛ぶ斬撃でチクチクとしか攻撃が入れられない。
その焦りゆえに、三輪は気づかなかった。
簡易領域の抜刀によって弾き落とされた無数の釘のうち一本だけが、不自然な軌道を描いて自らの足元へ転がり落ちたことに。
野薔薇が金槌を構え直しながら左手の指をクイッ、と上に振った。
ストン、と。三輪の足元に落ちていたその一本の釘がまるで生き物のように跳ね上がり、三輪の腰に結わえられていた『刀の鞘』に深々と突き刺さった。
乾いた異音に、三輪が「えっ?」と何事かと自らの腰元へ視線を落とした、まさにその瞬間。
〘——
野薔薇の指がパチンと鳴らされる。
三輪の鞘に刺さった釘から呪力が爆発的に弾け飛んだ。
〘きゃあっ!?〙
パァァンッ!! という破裂音と共に、三輪の腰にあった鞘が木っ端微塵に爆砕された。
三輪が突然の爆発に驚愕し、バランスを崩してよろめく。
〘来いッ!〙
その隙を見逃さず、野薔薇は左手を大きく手前へと引いた。
『念動』によって、爆散した鞘の破片の一つが手裏剣のように野薔薇の手元へと引き寄せられる。
同時に、野薔薇は自らの身体にも念動の引力をかけ、尋常ではない速度のバックステップで一気に三輪との距離を大きく取った。
引き寄せた鞘の破片を宙に浮かべ、藁人形を取り出しながら金槌を素早く構える。
〘鞘と刀なら繋がりは十分でしょ? ——鄒霊呪法、共鳴り!!〙
カンッ!!
鞘の破片にあてがわれた藁人形の心臓部へ、金槌が容赦なく釘を打ち込む。
——ピキィンッ!!!!
〘ええっ!?〙
三輪の握っていた刀の刀身に凄まじい呪力の衝撃がダイレクトに走り、刃が見事なまでに真っ二つにへし折られた。
縁を通じて本体へ呪力を通す『芻霊呪法』。それが人体ではなく、「鞘と刀」という武器の繋がりへ拡張して適用されたのだ。
〘な、刀が……! 私の刀がぁぁっ!!?〙
愛刀の破損にテンパり、呪力操作が完全に乱れた三輪。その絶好の隙を、野薔薇が逃すはずがなかった。
彼女は再び左手の指をクイッと引き、念動により無防備な三輪の身体そのものを強引に前へと引っ張り転ばせる。
「わあっ!?」と前のめりに倒れ込んだ三輪の背中へ野薔薇は飛びかかるように馬乗りになり、そのまま腕を取って完璧な関節技を極め上げた。
〘ぎっ、ギブ! ギブギブギブゥッ!! 痛い痛い折れるぅ!!〙
三輪の半泣きのタップが森に響き渡り、勝負は完全に決した。
〘はい、私の勝ちー!〙
腕を極められ涙目で床を叩く三輪と、ドヤ顔で胸を張る野薔薇の姿がモニターいっぱいに映し出された。
「あっはははは!! 刀折られてパニクってんの! 素人かよ!!」
五条悟が腹を抱えて椅子から転げ落ちそうになりながら爆笑する。
その隣では、京都校の引率である庵歌姫が「あぁぁ……三輪……アンタって子は……」と、頭を両手で抱え込んで机に突っ伏していた。
手堅い防御を誇るシン・陰流の使い手を、あんなヤンキーの喧嘩殺法のような搦め手で力業で沈められるなど、予想もしていなかったのだ。
「いやぁ……素晴らしいね」
そんな騒がしい教員たちを尻目に、全は手元の湯呑みを傾けながら感心したように目を細めていた。
「『念動』と『芻霊呪法』。シンプルながら、実に無駄のない強力なコンビネーションだ」
遠隔から対象の一部をもぎ取り、安全圏に離脱してから武器を破壊。さらに相手の隙を突いて直接身体を揺さぶる柔軟性。
「第二術式というものをただの追加武装としてではなく、己の生得術式を最大限に活かすための
蒐集家であり、力を配分する王としての全の顔に満足気な笑みが浮かぶ。
世界にばら撒いた種が、こうして確かな果実として芽吹く姿を見るのが彼はたまらなく好きであった。
モニターの視界を切り替え、冥冥が他のエリアの状況を映し出す。
演習区画に放たれた三級や二級の呪霊たちも、生徒たちの手によってチラホラと祓われ始めている。
特に目立つのは、全の従姉妹でもある禪院真希の姿だ。彼女は逃げる妹、禪院真依の気配を追いかけながら、道中に湧いてくる雑魚呪霊を薙刀の一閃で「邪魔だ」とばかりにワンパンで消し飛ばして回っている。
「真希のやつ、完全に真依をロックオンしてるね」
「姉妹の鬼ごっこか。……しかし、真依の姿が殆どモニターに映らんな」
楽巌寺嘉信が白髭を撫でながら不思議そうに画面を見つめる。
「真依の姿は……ああ、やはり冥くんのカラスの目にも映らないか。うんうん、あの
全が面白そうに呟く。モニターには、ただ真希が一人で虚空に向かって怒鳴りながら森を破壊して進んでいるという、シュールな映像だけが映し出されていた。
「さて」
全は姉妹の追いかけっこから視線を外してさらに別のモニターへと興味を移した。
「他が順調に暴れているなら……恵はどうかな」
全の漆黒の瞳が、一つの画面にピタリと固定される。
そこには、影を鎧のように纏い、静かに闘志を燃やす禪院恵と——自らの血を解放し赤き刃を構える加茂家次期当主、加茂憲紀が互いの間合いを図るようにして睨み合っている姿が映し出されていた。
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「……ほう。よく防ぐ」
木造の模擬家屋が立ち並ぶ演習区画の一角。
薄暗い建物内で加茂憲紀は目を細め、静かに感嘆の息を吐いた。
彼の肉体は現在、自らの血中成分と呪力を極限までコントロールする『
踏み込むだけで床板を粉砕するほどの重い連撃。一級術師のそれにふさわしい圧倒的な暴力のラッシュを、目の前の少年——禪院恵は、自身の四肢に漆黒の影を纏わせた『
憲紀は、禪院全の術式取引がもたらした新時代の呪術界においても極めて特異な存在であった。
彼は、取引による多重術者——
彼の父である加茂家当主は、相伝の『赤血操術』の弱点を克服すべく全から『造血』の術式を買い取り、後天的な二重術者となった。
その血を受け継いで生み落とされた憲紀の肉体には、驚くべき変化が起きていた。
赤血操術と造血。二つの術式が彼の血の中で完全に混ざり合い、憲紀の魂には初めから『自己完結した無限の血を操る、一つの新しき生得術式』として、完璧に確立されて刻み込まれていたのだ。
言うなればそれは、術式取引という禁忌が「次の世代」にもたらした、術式そのものの
故に憲紀は、自身の魂を禪院全に差し出して術式を買い取るという「加茂家の人間としての屈辱」を受けずに済んでいた。
(——尤も。その術式の進化すらも、かの『呪いの王』の掌の上なのだろうが)
憲紀は内心で苦々しく吐き捨てた。
世代を越えた術式の定着と変異。それすらも、全という男が蒔いた種がどのような果実を結ぶかという、巨大な実験の一部でしかないのだから。
「……噂の式神は使わないのかい?」
憲紀は距離を取りつつ、恵へと余裕のある口調で問いかけた。
禪院家の期待の星であり、強大な影の巨人を使役するという事前に得ていた情報。だが、恵は一向にそれを出そうとせず、泥臭い肉弾戦に終始している。
その言葉に、恵の眉がピクリと不快げに持ち上がった。
「ええ。今日は、うっかり見られたくないのがいますからね」
恵の脳裏をよぎるのは、タッパとケツがデカい女を求めて滅茶苦茶やってくれたあの巨漢の姿だ。
もしこのモニター越しに見られている試合で『巨影』をあの男に見られようものなら、彼の口を通じてありもしない誤解が不動の真実であるかのように呪術界に発信されてしまう。それだけは絶対に避けたかった。
「ふっ、東堂か」
憲紀はその恵の渋面を見てすべてを察し、同情するように小さく笑った。
「気にしなくとも、今は宿儺の器にご執心のようじゃないか。……本当に、アイツは」
京都校の生徒である彼にとっても、あの制御不能な筋肉ダルマは常に最大の頭痛の種であった。
敵同士でありながら、奇妙なシンパシーが二人の間に流れる。
「心中お察しします」
恵もまた深くため息をつきながら構えを解かずに応えた。
「それに、理由はそれだけじゃないですよ。……アンタみたいな格上とサシでやるなら、式神に呪力を割くより本体を固めた方がいい時もある」
事実、憲紀の放つ赤血操術の打撃と速度は尋常ではない。もし巨影の維持に呪力と意識を割いていれば、先ほどの猛攻は防ぎきれずにあっさりと沈められていたであろう場面が何度もあった。
「賢明な判断だ。だが——」
憲紀が手首の血管を開き、血液を空中に円盤状に展開した。
高速回転する血の刃。
「
鋭い風切り音とともに、血の刃が恵を切り裂かんと一直線に飛翔する。
——だが、それを予測していた恵の動きは速かった。
「シッ!」
恵の頭上に浮かんでいた光球が弾け、彼自身の影が背後の大黒柱に向かって一本の太い帯のように鋭く伸びた。
影が柱に巻き付いた瞬間、恵はそれをワイヤーのように巻き取る収縮力を利用し、自らの身体を空中に弾き出すようにして横方向へ高速移動した。
ズバァンッ!
恵が先ほどまでいた場所の壁を、苅祓が深く切り裂く。
ワイヤー移動の勢いを殺さず、恵はそのまま空中で身を捻り、隣の部屋を隔てる襖をパーンッ!と豪快に突き破って中へと転がり込んだ。
「逃がさないよ」
憲紀は即座に地を蹴り、恵を追って突き破られた襖の穴へと飛び込んだ。
薄暗い和室。逃げ込んだ恵の背中を捉え、追撃の構えを取った——その瞬間。
カッ!!!!
恵の頭上に浮かんでいた光球が、まるで閃光弾のように限界までその輝きを弾けさせたのだ。
「っ……!?」
薄暗い部屋に突如として放たれた極大の光。
憲紀は視界を白く焼かれ、思わず目を更に細めた。
だがその細められた視界の先、強烈な光球を背にして立つ恵の足元には、強烈な光源によって生み出されたこれ以上ないほどに濃く、真っ黒な巨大な影。
それが、部屋の床一面を覆うように大きく顎を開けた『影鰐』へと変貌していたのだ。
対象の影を食い千切り、概念越しに本体を抉り取る暗殺術。
飛び込んできた憲紀の影を、今まさにその巨大な顎が噛み砕こうと迫る。
(——躱、せない!)
方向転換して間に合う状況ではない。
今からでは、呪力による防御の集中も万全にはできない。影の顎による負傷は免れないだろう。そんな絶体絶命の刹那、憲紀の脳内で加茂の次代を担う者としての直感が閃いた。
(アレがこちらの
「ハァッ!!」
憲紀は赤鱗躍動の出力を更に引き上げ、強引に身体を屈めながら前方へ向かって弾丸のように加速したのだ。
影鰐の顎から逃げるのではなく、あえてその大きく開いた大顎の「内側」——恵の真正面へと自ら飛び込んだのである。
バツンッ!!
影鰐の顎が空を切って力強く閉じられたが、憲紀の姿はそこにはない。
急加速によるタイミングのズレと、光源への急接近。それにより、憲紀の影は彼自身の足元の極小の面積へと縮小し、影鰐の身体と完全に重なり合っていたのだ。
口元を超えてしまえば、影鰐は影を噛みちぎることができない。
「なっ……!?」
己の奇襲をあまりにも肝の据わった前進によって完全に無効化され、恵の動きが一瞬だけ完全に硬直した。
「もらった!!」
影鰐の内側、恵の懐へ潜り込んだ憲紀はその勢いを一切殺さぬまま彼の腹部めがけて強烈な両足蹴りを叩き込んだ。
「ガハッ……!!」
纏影の防御の上からでも内臓を揺らす重い一撃。
恵の身体は砲弾のように吹き飛び、背後の模擬家屋の土壁を盛大に突き破り、建物の外——秋空の下へと放り出された。
「……空中では、影との距離があるだろう」
憲紀は蹴り飛ばした余韻のまま、冷静に呪力を練り上げる。
空中に放り出された対象には脅威となる「地面に落ちた影」との繋がりは存在しない。回避行動も取れない完璧な標的。
憲紀は両掌の間に、極限まで圧縮した血液の塊を生成した。
「
そして空中に浮かぶ恵めがけて、両手を一気に突き出す。
「——
音速を超えて放たれる、赤血操術における絶対的な一撃必殺の奥義。
赤い閃光が、空中の恵を貫かんと一直線に飛翔する。
(死ぬッ……!!)
空中で為す術のない恵だが、彼の眼は死んでいない。
(——真正面から受ければぶち抜かれる、なら!)
恵は空中で身をよじり、太陽の光によって自身の身体そのものに落ちている影——自身の前面にできた影の領域へ向けて呪力を流し込んだ。
そこに分厚く、しかし斜めの角度をつけた影の盾を瞬時に形成する。
これまでの実戦と、グラウンドでの真希の理不尽な猛攻。
散々影の盾を粉砕されてきた恵は、すでに「真正面から受けて耐える」という愚かな選択はとうに捨てていた。
ギィィンッ!!!!
穿血の赤い閃光が、影の盾に激突する。
だが、盾は砕けない。絶妙な角度をつけた影の防壁が、音速で飛来する血の矢の軌道を強引に横へと逸らしたのだ。
「ぐっ……おぉぉっ!!」
盾を掠めるだけでも腕の骨が軋むほどのすさまじい衝撃。
恵は反動で空中で錐揉み回転しながらも、致命傷を避けることに成功し、影の形状を柔らかく変形させながらドサリと受け身を取って何メートルも下の地面へと着地した。
「……見事な防御だ。だが、これで終わりだ!」
憲紀もまた追撃の手を緩めず、砕けた壁の穴から恵を仕留めんと空中へと飛び出した。
二人の若き天才が、互いの術式と意地をぶつけ合う。
その激闘がさらに熱を帯びようとした、まさにその時だった。
——スゥゥ……。
晴天だったはずの秋の空から、突如として太陽が奪われた。
まるで日食でも起きたかのように、彼らの頭上から巨大な陰が音もなく広範囲に落ちてきたのだ。
「……ん?」
「…………」
空中で追撃を放とうとしていた憲紀も。
着地して身構えていた恵も。
二人は拳を交えることも忘れ、思わず同時に頭上を見上げた。
「……帳? なぜ、今?」
憲紀が着地しながらポツリと疑問を口にした。
見上げれば、森全体をドーム状に覆い隠すようにして、巨大で漆黒の帳が空からゆっくりと降りてきている最中だった。
姉妹校交流会という、高専により管理された演習区画。
特級呪霊が放たれているとはいえ、それも使役者の禪院全のコントロール下にあるゲームだ。ここで新たに帳を下ろす理由など、どこにもない。
恵の背筋に、氷のような悪寒が走った。
「……いや。あの感じ……普通の帳じゃない」
恵の眼が、その帳の異質さを的確に捉えていた。
通常の夜の闇を模したような帳ではない。まるで呪いそのものを煮詰めたような、おぞましい気配を放つ結界。
ゲームのルール外の事態。
予期せぬ闖入者の存在を知らせる巨大な黒い幕が、彼らの頭上を完全に覆い尽くしていく。
***
「ぽぽぽぽ、ぽぽぽぉ」
鬱蒼と生い茂る森の最深部。
演習区画の東奥にそびえ立つ、ひときわ巨大な大樹の太い枝の上で。
二メートルを少し超える長身に、真っ白なワンピースと麦わら帽子を被った巨大な女——特級仮想怨霊『七尺様』は、ひどく退屈そうに長い脚をぷらぷらと揺らしていた。
彼女は今回の姉妹校交流会における、いわゆる
しかし、主である禪院全からの命令は「なるべく目立たず、見つからないように隠れていること」であった。
というのも、この森を駆け回っている学生たちの中には七尺様程度であれば単独で容易く祓除・打倒できてしまう化け物じみた規格外が何人か混じっているからだ。
隠れた呪霊を見つけ出す索敵能力もまた、呪術師にとって重要なスキルの一つである。故に彼女はこうして木の上に隠れ、おとなしく見つけてもらうのを待っているのだが。
(ぽぽぽぽ……?)
……待てど暮らせど、一向に誰も探しに来ない。
それもそのはずである。本来の目的である『特級呪霊の討伐』そっちのけで、血気盛んな学生たちは森のあちこちで他校の生徒との真っ向勝負に明け暮れており、彼女の探索は完全に疎かになっていたのだ。
時折遠くから聞こえてくる爆発音や木々がなぎ倒される轟音を聞きながら、七尺様は内心で首を傾げていた。
アイツら、交流会のルール忘れてない? と。
そんな風に呑気に構え、あくびを噛み殺そうとした——その時だった。
「……ぽ?」
七尺様は不意にぷらぷらと揺らしていた脚を止め、背後の気配へ向けてゆっくりと振り返った。
森の深淵から先ほどまでとは全く異なる、とてつもなく強大で、純粋な
『貴女は……意思を縛られていないのですね』
鼓膜を震わせる音ではなく、脳内に直接響いてくる奇妙な声。
大樹の根元に音もなく現れたのは、白い筋骨隆々たる肉体に黒い文様を這わせ、両目の位置から不気味な木の枝を突き出した異形の特級呪霊、花御であった。
同じ呪霊でありながら、全の呪霊操術の支配下に置かれている七尺様。花御は当然、彼女が術師に強引に操られた哀れな傀儡なのだと認識して近づいたのだ。
だが、実際に相対して感じ取ったのは術式による強制的な洗脳の痕跡ではなく、彼女自身が『自らの意思』でその場に留まっているという事実だった。
「ぽぽぽ……。ぽぽぽぽぽっぽ」
七尺様は麦わら帽子のツバを軽く押さえながら応じる。
人間には理解不能なその不気味な声も、自然の摂理から生まれた純粋な呪いである花御には言葉としての意味が的確に伝わっていた。
『利害の一致。……なるほど、貴女は満たされてさえいれば人間に危害を加えない。故に、自我を許されている、と』
花御は七尺様の答えを聞いて少しだけ納得したように頷いた。
仮想怨霊たる八尺様の核となっている伝承。
それは人間の子供に魅入り、攫い——数日のうちに殺してしまうという恐ろしい怪異。
だが、それは
——彼女はただ純粋に、人間の子供が『好き』なのだ。
好きだから魅入り、好きだから自分の手元に置きたがる。
ただ、怪異である彼女は「人間の生かし方」を知らない。結果として攫われた非術師の子供は彼女の呪いに中てられて衰弱し、死んでしまうだけのこと。
しかし主である禪院全は、彼女のその欲求を完璧な形で満たしてくれていた。
禪院家の庭で彼女は術師の素養、呪いへの耐性を持つ小さな子供たちと触れ合い、好きなだけ遊ぶことが許されている。
どこかへ攫う必要などない。今、全に飼われているその場所そのものが、彼女にとって最高の居場所なのだから。
人間の悪意や恐れから生まれた仮想怨霊でありながら、自らの存在意義を術師の元で完全に満たされているという歪な幸福。
「ぽぽっ」
七尺様は大樹の枝からふわりと軽やかに飛び降りた。
ドスッ、と重い音を立てて花御の正面に着地し、二メートル超の長身を真っ直ぐに伸ばして対峙する。
相手は未登録の、自然そのものへの畏怖から生まれた特級呪霊。
完全体である『八尺様』であったとしても、おそらく真正面からやり合っては勝ち目のない格上の化け物だ。ましてや、今の彼女は最大出力から一段階ランクを落としている。
だが、七尺様の瞳に恐れはなかった。
どのみち、この身はただの分体。ここで花御によって木っ端微塵に消し飛ばされようと、主の中に残る一尺様が無事であれば彼女という存在は決して滅びはしないのだから。
『……つまり今、貴女が私へ向けるその敵意は、術師に操られたものではなく、貴女自身のものなのですね』
花御は立ちはだかる七尺様の構えを見て静かに、しかし冷酷に言い放った。
同胞である呪霊が人間に使役されていることへの同情や哀れみは、今の花御の心からは完全に消え失せていた。
『理解しました。……ならば、哀れみではなく、純粋な敵意を以て貴女を排除しましょう』
花御の足元からメキメキと音を立てて太い木の根がブレードのように伸びる。
七尺様もまた、白いワンピースの裾を揺らしながら両腕を大きく広げて呪力を膨れ上がらせた。
生徒たちの狂騒の裏側、誰の目にも触れない森の最深部で。
人間の子供を愛し、人間に飼われることを選んだ仮想怨霊と、人間を滅ぼそうとする自然の呪霊。
相反する二体の特級呪霊による、人知れぬ死闘が静かに幕を開けたのであった。
***
頭上をゆっくりと、しかし確実な死の気配を伴って覆い尽くしていく巨大な
空中で対峙していた加茂憲紀と、地上で身構えていた禪院恵は完全に拳を交えることをやめ、その異様な結界の降下を呆然と見上げていた。
——ドドドドドォォォォンッ!!!!
次いで彼らの視界の端、演習区画の奥深くから、天地をひっくり返すような轟音と地鳴りが響き渡った。
二人が音のした方角へと視線を向けると、森の一部がまるで『緑の津波』のように爆発的に隆起し、巨大な樹木と巨大な根がうねりながら空高くせり上がっていくのが見えた。
「なっ……なんだ、あれは!?」
帳を見上げていた憲紀が驚愕の声を上げる。
遠目からでもはっきりと分かる、規格外の呪力の奔流。
大地を割り、森そのものを意思を持つ化け物のように操る絶大な『呪霊』の気配。
(……七尺様、じゃない!?)
恵は額に冷たい汗を滲ませつつも、事態の異常性を悟る。
全から提供されたはずのレイドボス、特級仮想怨霊『七尺様』。彼女の能力は伸縮と分裂であり、あのように大規模な植物を操るような術式は持っていない。
何より——。
(こんなバケモノ、いくら
ならば、答えは一つしかない。
この頭上の帳も、森の奥で暴れ狂う大樹の津波も、姉妹校交流会という行事とは全く無関係の何者かによる外部からの襲撃。
二人の若き天才が互いへの対抗心を捨てて完全に思考を「外部の脅威」へと切り替えた、その時だった。
「いや〜、なかなか派手にやるなぁ」
不意に。緊張感が極限まで高まっていた二人のすぐ横、死角となっていた建物の瓦礫の陰から、ひどく軽薄で、場違いなほどに呑気な声が響いた。
「恵くんも、そう思うやろ?」
「……っ!?」
恵と憲紀は弾かれたように振り返った。
二人が戦っていた模擬家屋のすぐそば、いつの間に近付いていたのかすら全く気付けなかった。
そこに立っていたのは和装の着流しの袖をだらりと垂らし、額に手を当てて
吊り目で切れ長の、端整だがどこか人を食ったような面立ち。
その口元には薄く皮肉げな笑みが浮かんでいる。
その顔、その立ち振る舞い。
禪院の血を色濃く感じさせるその容貌に、恵の口から思わず呆然とした声が漏れた。
「直哉、さん……?」
実家の厄介な従兄であり、現在『炳』の一人として本家で鍛錬しているはずの禪院直哉。なぜ彼がこんな所にいるのか。
恵は直哉の名を口にした直後、猛烈な
——そもそも、彼がここに居るはずがない。
「——いや。直哉さん、じゃないですね」
彼は纏影の呪力を研ぎ澄まし、油断なく身構えた。隣の憲紀もまた、再び手首から血の刃を展開し即座に臨戦態勢を取る。
「顔立ちから確かに親戚っぽいのがわかりますが、誰ですか」
直哉の髪は明るく染め上げられた金髪だ。しかし、目の前に立つ男の髪は漆黒。
さらに言えば、直哉特有のあのギラギラとした過剰な向上心や自尊心がこの男からは全く感じられない。代わりに漂っているのはどこか泥臭く、冷たく乾いた『死』の匂い。
「……おや、一発でバレたかい」
男は手庇を下ろし、少しだけ残念そうに肩をすくめた。
「私の物真似は、下手だったかな? 割と彼っぽく振る舞えたと思ったんだがねぇ」
口調から訛りがスッと消え去り、どこか古風で重々しい威厳を帯びた声色へと変化する。
「……というか、髪色が違いますが。直哉さんは金髪混じりですが、アンタは黒髪だ」
恵の極めて冷静な、身も蓋もないツッコミ。
それに男は「そうだね、少々手抜きが過ぎたかな」と笑った。
「……本当に、誰ですか」
再度、誰何する。
誤魔化せば攻撃する。そんな圧を掛けながら。
男はにやりと笑い、答えた。
「——禪院家十二代目当主、禪院
その名が名乗られた瞬間。
恵と憲紀の顔が、文字通り一瞬にして土気色に染まりきった。
禪院の血筋、遥か過去の当主を名乗る謎の男。それが意味する事は。
「っ……!!」
かつて、星漿体護衛任務の折に五条悟が遭遇したという最悪の盤面。
何者かの呪詛師によって禪院家の本墓が荒らされ、持ち出された先祖の遺骨はいずれも禪院家最強の相伝『
そのあとに行われた式神の公開調伏会で、当主である禪院全は一族と呪術界へ向けて一つの注意勧告を発している。
——『当家の墓所が荒らされ、歴代の十種影法術使いの遺骨が持ち出された。降霊術の触媒として加工される場合、悪意を持って最大で五度……あの式神が顕現する可能性がある』。
あれ以降一度も使われることのなかった呪詛師の最悪のカードが、十二年の沈黙を経てこの姉妹校交流会という最悪のタイミングで完全に実現しようとしていたのだ。
「じゃあ、名乗りも済んだ事だし、もういいかな」
直嗣の姿をした男——降霊術によってかつての当主の肉体と術式を上書きされた呪詛師の分身体が、面白そうに目を細めて両手を胸の前へと持ち上げる。
そしてゆっくりと右の拳を握り、左腕の内側へと押し当てる。それは恵もよく知る構え。十種影法術における、絶対にさせてはならない破滅のサイン。
「止めろッ!!!」
恵が血を吐くような叫びを上げつつ光球を飛ばし、影鰐の顎を直嗣から伸ばさせた影に向けて猛烈な速度で放った。
憲紀も同時に穿血の構えを取り、極限まで圧縮した血を男の眉間めがけて解き放つ。
——だが。
ガィィィンッ!!!!
二人の必殺の一撃は、直嗣の数メートル手前の空間で目に見えない強固な結界の壁に衝突して激しく弾き返された。
調伏の儀を完了させるためだけに特化して張られた、極めて高度な防御結界。
「……結界ッ!?」
恵が絶望の声を上げる。
彼は影の出力を限界まで引き上げ、憲紀も連続して苅祓の刃を叩き込むが、結界は表面に僅かに波紋を広げるだけで突破するには時間がかかりすぎる。
その無駄な抵抗を結界の内側から見下ろしながら。
直嗣の口から重々しく、世界を呪うような言霊が紡がれる。
「
ゴォォォォッ!!!!
直嗣の足元から恵のそれとは比較にならないほど莫大で、果てしなくドス黒い影の海が爆発的に広がっていく。
「
影の中から巨大な白い繭のようなものが浮上してくる。
空気を軋ませ、世界そのものを歪めるような圧倒的な質量と禍々しい死の気配。
「
結界を叩きながら、恵と憲紀は為す術もなくその絶望的な光景を見届けることしかできなかった。
「——
バチィィィンッ!!!!
巨大な拘束布が内側から粉砕され、純白の巨躯と頭上に浮かぶ不吉な方陣が秋の森にその威容を現す。
五条悟を死の淵へと追いやり、禪院全が呪術界へその威容を知らしめた最強の式神の咆哮が、絶望の産声となって姉妹校交流会の戦場に轟き渡ったのであった。
羂索「触媒の数が限られてる事を除けば最高にコスパいいんだよね、これ」
・パンダvs究極メカ丸
原作と違い、生身が敷地内をうろついているためこうなる。
索敵の要潰さない手はないよねえ!!
メタ的に言うと、原作とほぼ違いがないのでとっとと終わらせた。
・磁力…?
実は綺羅羅さん、生得術式をトレードしてます。
・三輪霞
術式、飛ぶ斬撃(not御廚子)
刃物の使用を前提とした、比較的お求めやすく使いやすい術式。
第二術式は持っていません、2つ目からは取引価格が跳ね上がるので。
・加茂憲紀
まさかの術式取引していない、次世代型ハイブリッド術者。
造血を兼ね備えた赤血操術という、スーパー術式に加茂家は狂喜乱舞。
これが相伝として今後の一族に広まれば、もはや禪院家の手など借りずともやっていける!!
……みたいに意気込みつつも、血によって受け継がれる前にロストした場合のことを考えて「死んだら全が回収する縛り」と「加茂家に戻す縛り」が結ばれている。
結局全の手のひらの上やないかい!!
・影鰐
実は口のあたりを通り過ぎれば安置がある。
影を通じた概念攻撃のようでありながら呪力的防御に対しては単純な出力勝負となるため攻撃面では思ったより活躍できていない。
まあ攻撃用途はおまけみたいなものなので……。
・八尺様
全が彼女の自我を自由にしている理由。
子供が好きだから攫うけど、彼女の呪力に中てられて死んでしまう。
伝承から来た性質がそんな感じなので、禪院家内だとマジで無害。
帳に遮断されてスタンドアロン状態となった彼女がレイドボスとしての役割を破棄して単独で呪術師側として動けるなど、自我が許されている故。
・花御
哀れな操り人形かと思って近付いた七尺様は自分の意思で人に寄り添っていると知り、処分ではなく同族への敬意を持って敵対。
八尺様は実際別にそこまで強い特級ではないので花御のほうがだいぶ強い。
・禪院
禪院家十二代目当主、容姿はニセ直哉。
十種影法術の使い手であり、生前はブイブイいわしていた。
なお彼の触媒は一回分しかないため、直哉vsニセ直哉は実現しない。
羂索は彼に化けた際「おや、そういえばあの時会った彼に似ているな」と思って余興として偽物を演じただけで、別に本気で騙すつもりでもなかった。
累計三体目のまこーら降臨、羂索さんの最終兵器投入です!
在野に残ってる残りカスみたいな呪詛師ではもはや一蹴されるでしょうし、なんなら花御も真希や乙骨に当たると即落ちしかねない綱渡り、こんくらいやらなきゃ!