予定された幹部会は、さらに延期となった。
六代目が再度襲撃されて負傷し、峯以外の護衛が全滅するという緊急事態に、上層部はようやく組織の弱体化を認識する。穏健派の風間組、独立独歩の真島組が協力体制を構築した上で、会長の権限を拡大する方針が決定された。
出席予定だった錦山組の神田強は重傷のために入院。なお、当初は一ヶ月とされた入院期間だが、本人の希望と驚異的な回復速度によって五日に短縮され、元気に退院していった。
同じく襲撃された代行の碇新平は死亡。遺族である妻子には生前の慰謝料に加え、病室に残された遺書にのっとり、すべての財産が相続された。神田との入念な話し合いの末、今後いっさい組との関係を断つ事に同意する。遺された子供の将来のためである。
神田の補佐役であった峯義孝は軽傷のため、襲撃の翌日から勤務を続行。会長と側近の抜けた穴をひとりで塞いでみせた。その後、復帰した会長と神田強から推薦を受けて白峯会を立ち上げ、堂島大吾の直下に入る。これまで自身の部下を持たずにいた大吾にとって、喉から手が出るほどに欲しかったブレーンになるだろう。
事件の翌日。復讐代行サービスは突然終了し、会員制のWebサイトも消滅した。記載されていた連絡先も繋がらず、管理会社の住所も架空であった。主犯とされる遠藤その他の遺体が発見された事から、彼ら自身もまた不特定多数の恨みを買っていた可能性が高く、内輪揉めによって組織は瓦解したと見られる。これをもって警察、ならびに東城会は表向きの調査を打ち切った。
しかし、その裏で風間組組長の柏木修が錦山組・白峯会に接触する。以前から東城会の組員を狙っているグループ“復讐者”が今回の騒動に関わっているのではないかと情報を提供し、今後三つの組は協力体制を取る事を決定した。彼らが荒瀬和人にたどり着く日は、そう遠くない。
───会長が復帰し、本部の体制が再構築された後。
神田と峯を加えた幹部会が、改めて開かれる。
◇
「これ、極道っちゅうより力士やないか? どう思う、峯?」
「お似合いですよ、神田の兄貴。堂々と胸を張ってください」
東城会直系錦山組・三代目の襲名式として、普段のスーツではなく和服に身を包むワシ、神田強。その図体は厳つく、大柄で、全身に刻まれた傷痕が凶悪な印象を持たせていた。スキンヘッドなので髷が結えない以上、どこからどう見てもその筋の人間である。
「オヤジなら大丈夫です! ただ、さすがに善行計画は、その⋯⋯ちょっと変える必要があるかもしれませんけど!」
「膳場、あれはもうやらんでええ。誤解しか生まんかったやないか」
実はやってました、神田カリスマプロジェクト。組に戻って以来、ワシの評判が悪すぎてどげんかせんといかん状態になり、峯と相談して神室町中を駆け回った結果、
怖がられて誰も近寄らなくなりました。
思えば原作のプロジェクト自体、神田ではなく峯が奔走するので評価されるのは峯の方やんけ、というツッコミ上等のシステムではあった。それをワシ自身でやってしまったもんだから、町で噂の強面スキンヘッドが謎ムーヴで人に絡むだけという、笑い話にもならない失敗談の山を築く有様である。
なのに、いまでも峯と膳場が面白がってワシにやらせようとするから困る。膳場もてっきり白峯会に移るだろうと思っていたら残留するので理由を聞いたところ、
「『神田の兄貴とのパイプ役も兼ねつつ錦山組をITに染め上げろ』と峯のオジキからいわれました! あと、俺のスキルだとオジキについていけません! 絶対途中でクビにされます!!」
正直すぎる答えが返ってきたのでガックリした。ま、まぁ本人が納得してるなら⋯⋯ええか。
「いいじゃないか。神田にはスーツより和服の方が似合っている。いっそ私服にしたらどうだ? うちのおふくろが相談に乗ると息巻いてるぞ」
「面倒過ぎますぜ会長。いや、姐さんのお気に召すなら構わんですが」
襲名祝いに満面の笑みで来てくれた大吾さんのお誘いにどう返していいかわからず、渋い顔になってしまう。本部での会談以来ちょくちょく話すようになり、こないだは峯の金銭感覚おかしいよなーで意見が一致した。酒は好きだけど毎回最高級のボトルを持ってこられても困る。たまには安物のサワーが飲みたいのよ、庶民としては。
「なんか、すげぇな。あの神田の兄貴がカシラになったと思ったら代行までこなして、とうとうオヤジになっちまった。ムショまで迎えに行った日が懐かしいぜ」
「出世のペースが早すぎて呼び慣れねぇんだよなぁ」
お偉いさんのグループから離れたところで若衆ふたり、パンチパーマ西野とリーゼント宮内がボヤいている。場違いな空気で居づらいかもしれんが、ワシ的には君達がいてくれるだけで癒しなので我慢してくれや。
もうね、若頭になったあたりからよその幹部とか組長、カタギの重役とまで付き合う必要が出てきて、ワシの心の中の一般人が悲鳴をあげてるんだわ。ふたりともヤクザとしての腕っぷしは並だし仕事もギリギリ及第点に届かないくらいだが、世間の流行とか空気に敏感でワシにちょくちょく教えてくれるのがすごい助かる。どうかそのままのふたりでいてほしい。
⋯⋯神田強として目覚めて、もうじき二年と半年になる。
ゲーム本編という存在しないイメージを参考にしつつ、ワシなりにこの世界での生き方を探して、どうにか錦山組の三代目へと就任できた⋯⋯が、この席に座るまでに過ごしてきた日常は、3外伝のストーリーとはまるで違う。あまりにも原作知識とかけ離れてしまい、この乖離がシナリオにどこまで影響するのか、ワシにはもうわからない。
だが、それでも生きるしかない。こんなワシを慕ってくれる連中もできたし、支えてくれる子分達もいる。ワシの生きている限り、こいつらを死なせたくない。もう二度と、あの手に伝わる熱が失われていく感覚を味わいたくはなかった。
強くなれ。
桐生一馬に真島吾朗、冴島大河、それに郷田龍司。彼らを超えるのは不可能かもしれない。それでも、並ぶだけの力を持ってみせる。理不尽な死の運命をはねのけるために。
(⋯⋯やってやろうやないか)
式の段取りを確認していた峯が、ワシの顔を見て声をかける。
「ずいぶんと気合が入ってますね」
「んん? そう見えるか、峯?」
「はい。もしかして、ご自分ではわかりませんか?」
「嬉しそうに笑っていますよ、神田の兄貴」
「───久しぶりに手合わせするかぁ? ヤクザの兄ちゃん」
この後、ご祝儀持参の真島の兄さんが乱入してきた。
神田.zipにはなりたくない 完
これにて本作品は完結となります。みなさんの感想、お気に入りと評価、自分ではまったく気づかなかった誤字報告をくださり、ありがとうございます。いつも励みになっています。
この小説をきっかけに、ひとりでも多くのハーメルンユーザーを『龍が如く』の沼に沈められたら作者の本懐です。みんなも新作を買って神田をカリスマにしましょう。わりと可愛いところはあるキャラです。マイナスが多すぎる? うん⋯⋯