【完結】神田.zipにはなりたくない   作:翔々

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幕間・二

『超高速3本編劇場』

 

 

 三代目を襲名してからずっと忙しく、冗談でなく家に帰る暇もなしに働いていたら、事務所のテレビで沖縄リゾート計画と米軍基地拡大問題が流れていた。

 

 あ、これかぁ!

 

 頭で考えるより先に口から言葉が出た。そばにいた長谷部が何だこの人、といいたげな顔で見てくるのも構わずにガラケーを取り出し、本部へ連絡。

 

『神田か? すまない、色々と面会の予定があってな。悪いが手短に頼む』

「防弾チョッキ着てください」

『⋯⋯は?』

 

 しまった、先走り過ぎて意味不明になっている。コホン、と咳払いをひとつしてから深呼吸する。

 

「失礼しました。いまテレビで見たのですが、四代目の経営する施設が沖縄にありますよね? そこの土地がそっくり開発区域に入っていたはずですが」

『察しがいいな。これから会談する相手も大臣秘書で、俺は断るつもりだが⋯⋯向こうの熱意が尋常じゃない。どうしたものかと思っているところだ』

 

 本編でも沖縄開発の利権は最低でも一千億円とされ、東城会に蛇華、そして当然ながら地元の役人達も推していた一大事業である。一日でも早く抗争のダメージから回復したい東城会にとっては喉から手が出るほどに欲しい金なのは言うまでもない。大吾にしても、あさがおが無ければ開発に協力しただろう。

 

 実際、この利権を手放したせいで東城会の資金難は改善されず、同時に峯義孝という金庫番が失われた事でその後の衰退に繋がってしまった。関わっても面倒だし、関わらなくても向こうから寄ってくる、まったくもって厄介なネタである。

 

 現状、ワシに打てる手は一つしかない。

 

「これは裏の取れていない、あくまでも勘ですが。会談相手に海外の組織はありませんか?」

『⋯⋯先方から内密にといわれているが、ある、とだけ答えよう』

「アメリカですな?」

 

 電話の向こうで息をのむ音が響いた。早いなCIA、もうこの時点で接触してるの?

 

「最近神室町のあちこちで外国人が増えてます。留学生を騙して金ヅルにするシノギは珍しくありませんが、どう見てもカタギじゃありません。明らかにその筋の連中がグループで動いています。見慣れない白人・黒人がうろついていれば、目ざとい奴ならおかしいと気付きますよ」

 

 これは口から出まかせというわけでなく、実際に黒服スーツでガタイの良い外国人が三人ずつであっちゃこっちゃ動き回っている。事前調査みたいなものだろうか。それにしたって目立つわ。

 

『町の人間でも気づく、か⋯⋯迂闊な相手だな』

「この手の連中は話がこじれた時に何をしでかすかわかりません。外部の人間と接触する際には最低でも防弾チョッキを着込んでください。ワシの実体験からくる教訓ですわ」

 

 本当だからねこれ。何で病院見舞いに行ったら百人にお出迎えされて大乱闘しなきゃならんのか。医者も警備員も閉じ込められて震えてたし、ワシが生き残れたのは碇の兄貴の助けあっての奇跡だし⋯⋯アカン、ちょっと泣きそうになる。

 

『⋯⋯そうだな。他でもない神田の助言だ、ありがたく受け取っておこう。また何かあれば頼む』

「承知しました。お気を付けください、会長」

 

 着信を切ってふー、と一息。

 

 当面はこれで良し。うろ覚えだが、あさがおが琉道一家や玉城組と関わったり、大臣二人が来訪してくるのは年単位の期間があるはず。ゲームだと明日・明後日ぐらいのスピード感覚だったけど。さすがに具体的な日数まではわからん。

 

 ま、まぁ、大丈夫やろ。峯とも仲良くダーツしたりボウリングしてるし、仕事の愚痴を言い合ったりするし。どう考えても本編のようにはならん。はっきりしとくで、ワシがゆっくり神田になる未来はない! いびきかいてグッスリ眠ったるわ!!

 

 

 

 

 ⋯⋯と思ってた深夜、大吾さんが撃たれたと峯からの着信で叩き起こされた。ちょっと待って早くない? フラグ潰したら間隔まで狭まるとか聞いてないんだけど?

 

 

 

 

 緊急幹部会に呼ばれたでござる。

 

 とはいえ、ゲーム本編とはまるで状況が違う。ワシの忠告を受けて防弾チョッキを着た大吾は撃たれて気絶したものの、肋骨にヒビが入った程度で大事には至らない。犯人のCIA達は窓を割って逃走し、行方をくらませた。

 

 一方、峯と柏木の手で意識を取り戻した大吾はふたりと相談し、組織の不穏分子をあぶり出すために『意識不明の重体、どこかに身を隠している』と公表。実際は本部の一室で溜まった書類仕事をうんざりしながら片付けている。

 

 峯からのホットラインで事情を知らされたワシと真島の兄さんは、いつも通りの調子で豪華な椅子に腰を下ろす。真面目くさった顔のワシと、どうでもよさげに足を組んでふんぞり返る兄さん。足なっっっが。

 

 クールかつ冷徹に出席者を見据える峯、上座でどっしりと構える柏木さん、そしてもうひとり。

 

「六代目が行方不明になったから四代目を呼び戻すのは順番が違うでしょう。極道ならまず“返し”をするのが先だ。違いますか?」

 

 直系浜崎組の浜崎豪が喋る、喋る、めっちゃ喋る。ひとりで五人分話す勢いで舌が回る。なにしろここに集まった面子でこいつだけ部外者なんだもの。ほとんど面識なかったし。

 

 ノンストップで話し続ける姿が講談師みたいで面白くなってしまい、途中から真島の兄さんと一緒になって、

 

「おう!」

「せやな!」

「その通りや!」

「言うたれ浜崎!」

 

 と適当に相槌を打っていたら一時間ぐらいの独演会となり、ついに柏木さんがキレた。ごめんなさい。

 

 結局浜崎に好きなだけ喋らせて解散となり、意気揚々と帰っていく背中を見送ってからやっぱあいつだよねーとみんなで頷き合うのだった。なんか可哀相になってきたのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 結論からいうと、事件はあっさり解決した。

 

 大吾が無事な以上、龍が如く3の問題はほとんど起こらない。CIAの中に潜むブラックマンデーの暗躍と、横浜に根付く蛇華、それに沖縄の地元の抗争。これらは沖縄からやってきた四代目・桐生一馬が怒涛の勢いで───立ちふさがる者すべてを薙ぎ払い───木っ端みじんにしていった。あの人すごくない? ワシらほとんど見てるだけだったわ。

 

 原作で事件を無駄に複雑化させていた犯人捜しも、ワシはこんなだし、大吾・柏木・峯のラインは盤石だし、真島の兄さんは兄さんだしでまったく絡まない。峯がやる予定だったCIAとの共謀、鈴木大臣との密約、玉城組によるあさがお破壊事件まで、浜崎ひとりでやろうとして見事に玉砕。そらそうよ、浜崎組って十人ぐらいしか組員いないんだもの。どう考えても人手が足りなすぎる。

 

 ラストに選ばれた舞台は何の因果か東都病院、の別棟。本棟だと広すぎるからね、しょうがないね。大吾が入院しているという偽情報を信じたブラックマンデー一味が乗り込んでいったところを全員でボコり、リチャードソンに始末される寸前のところで浜崎を確保。このままでは中国の蛇華本部にも狙われるので、どこも手が出せない刑務所に入っとけとばかりに逮捕させた。

 

 おかげで龍が如く3は、とてつもなくスケールダウンした、ものすごく消化不良なイベントとして終わりを遂げる。これがゲームになったら低評価爆弾やろなと膳場にいったら、オヤジもクソゲーやりませんか、とゲーム機ごと渡された。お前、これセーブデータ壊れるやつ⋯⋯!

 

 事件解決後、姿を現した大吾もあわせて韓来で打ち上げをし、カラオケで十曲以上ひとりで歌ってから、桐生一馬は遥ちゃんとふたりで沖縄へと帰っていった。とんでもない量のお土産と一緒に。あれ飛行機に乗るんかな?

 

 ⋯⋯これにてゲームは終わりを迎え、ワシの死亡フラグは無事に回避された。柏木に峯という人材を失わなかった東城会は力を増し、もう数年すれば近江連合とも互角に渡り合えるだけの勢力になるだろう。関東と関西は拮抗し、パワーバランスが保たれる。

 

 すべてが落ち着くところに落ち着いた、完璧なエンディング。

 

 そこに描写されなかった、ワシだけが知る一幕を、ここに残しておく。

 

 

 

 

 新宿区神室町、ミレニアムタワー屋上。

 

 夜風の吹き荒れる中、倒れ伏す男ふたりを残して、グレーのスーツの男が去っていく。エレベーターに乗り込み、地上の人へと戻るのを見届けてから、別の男が姿を現した。

 

「こっぴどくやられおったな、荒瀬」

「⋯⋯てめぇかよ、神田」

 

 身内には絶対に見せる事のない、冷たく無感動な目を光らせて、荒瀬和人を見下ろす神田強。それはまぎれもなく裏社会の住人であり、恩人の命を奪われた者が見せる貌であった。

 

「俺達と桐生一馬が争うのを高みの見物と決め込んで、奴が消えてからのコバンザメか。組長になろうが小物らしさは変わってねぇようだな、ええ? 強姦魔の神田さんよ」

「あいにくそっちは足洗ったんでな、ムショに入っとるダチに誓って再犯はせん。きちんと金払って嬢の世話になる約束や」

「てめぇのシモ事情を聞かせんじゃねぇよバカや、ろっ!?」

 

 右手一本で首を掴まれて宙吊りにされる。ミシ、ミシ、と鳴ってはならない音が首から響くのを、荒瀬は脂汗が流れるまま聞くしかなかった。

 

「柏木のカシラから聞いたで。お前、復讐屋とかいうアコギなシノギしとるらしいな。四代目にちょっかいかけて潰されたのは自業自得やが、それとこれとは話が別や」

「ぐ、えっ⋯⋯」

「聞かんでもわかっとるけどな、それでもやらなアカンねん。ほないうで」

 

 

 

「碇の兄貴をどさくさにまぎれて撃ったの、お前やな?」

 

 

 

 答えるよりも早く、猛烈な勢いで地面へと叩きつけられた。背中から圧迫された肺がすべての息を吐き出し、サングラスの外れた視界がチカチカと明滅する。脳震盪。

 

 新月の真っ黒な夜空が赤黒く染まった中で、130kgの巨漢が天高く片足を上げ、いっさいの容赦なく踏み下ろす。

 

 瞬間、ミレニアムタワーの屋上がズシンと揺れた。

 

「⋯⋯⋯⋯あ、あぁ?」

 

 顔面蒼白になった荒瀬の目の前に、サングラスを粉砕した黒革靴があった。否、よく見ればガラス片だけではなく、コンクリートにくっきりとヒビが入り、衝撃によって発生した火花の香りが鼻腔をくすぐる。

 

「正直いうとな、ワシは別に殺しても構わんと思っとった。四代目が殺すなら面倒も片付いてよし、ワシが恨みを思い出してやっちまってもしゃーないと割り切るのもよし。どっちでも良かったんや。でもな、そんな時に声をかけられた。こいつは生かしといてくれってな」

 

 動けない荒瀬を横目に、エレベーターへと向かう神田強。入れ違いになるように、数人の黒服が音もなく荒瀬とその部下、新崎と呼ばれる男を縛り上げた。

 

「⋯⋯誰だ? こいつら、どこの組織の人間だ!? おい、神田ぁ!?」

「ワシは知らん。なーんにも知らん。たまたまここに来るまで一緒になったカタギのお兄さん達や。どこも人手不足やそうでなぁ、無駄に元気があってタフな奴がひとりでも欲しいっちゅうんや。銃も好きなだけ撃てるそうやさかい、安心してエンジョイしてきな───死ぬまで首輪付けてもらえるで」

 

 手をひらひらと振りながら、エレベーターにひとりで乗り込む。扉が閉まるまで聞こえていた騒音が止んでから、重く沈んだ息をゆっくりと吐いて、ポツリと呟く。

 

「⋯⋯カタはつけました。これで勘弁してつかあさい、碇の兄貴」

 

 碇新平が亡くなった命日、その一周忌にあたる夜の出来事だった。

 




大〇寺「手に入るはずだった峯・浜崎の分までもうちょっと色付けてほしい」
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