美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~ 作:月城 友麻
「
リーシェはここぞとばかりにまくしたてる。
「はぁぁぁぁ……。あんたたち、ほんっっっと、面倒くさいわね……」
シアンの声に、苛立ちが混じった。六枚の翼が不規則に脈動している。
「全部ぶちまけて帰してもらうわ!」
リリカも一気に畳みかける。杖を突き出し、シアンを真っ直ぐに見据えて。
「あーーうるさい! うるさい!」
シアンは目をぎゅっとつぶり、首を振る。
そして、金髪の少女の方をチラッと見た。少女は怪訝そうな顔でシアンを見つめている。
「レヴィアなに? なんか言いたいことあんの?」
「いやっ、いやいやいや! 我は何も聞いておりません!!」
レヴィアと呼ばれた少女は、慌てて手をブンブンと振る。
ふぅと大きく息をつくとシアンは何かを考え――ニヤリと笑った。
「じゃあこうしよーう!」
碧い瞳に、新たな光が灯っている。悪戯っぽい、だが底知れない光。
「戦ってボクを倒せたら帰してやろう! 実にフェアでしょ?」
「はぁっ?!」「へっ!? ちょ、ちょっと待ってください」
リーシェもリリカも思わずたじろいだ。
「
「大丈夫!」
シアンが人差し指を立てた。
「
碧い瞳が細められ、妖しい笑みが深くなった。六枚の翼が大きく広がり、光の粒子が雪のように舞い散る。
リーシェはリリカと顔を見合わせた。
勝てるのか。この化け物に。
だが、他に選択肢はない。
リーシェはキュッと口を結ぶと、さりげなく右手をすっとシアンに向けた。
「ナイナ――」
渾身の奇襲だったが――シアンの人差し指が、目にも留まらぬ速度でリーシェの手首を弾いた。
パァァァン!と、破裂音が響き渡る。
たった一本の指。
それだけで、リーシェの腕が雷に打たれたように跳ね上がった。
「ぐはぁっ!」
衝撃が手首から肩へ、肩から背中へ、背中から全身へ駆け抜け、身体ごと吹き飛ばされた。地面を転がり、仰向けに倒れる。
物理攻撃無効をかけていなければ腕は爆散していたに違いない。
「あぁぁぁ……」
リリカはリーシェに駆け寄ると、ゆっくりと身体を引き起こす――。
「んー、惜しい! いい判断だったけどね」
シアンは人差し指を唇に当て、ニヤリと笑った。六枚の翼が悠然と脈動し、光の粒子がその周囲でゆっくりと舞っている。
「申し訳ないけどボクは、ありとあらゆる敵を打ち滅ぼしてきてんの。百戦錬磨の狡猾な男たちも全部葬ってきてんのよ?」
シアンが一歩、リーシェに近づいた。リーシェの影が、シアンの影に呑まれていく。
「あんたのようなお嬢様の
嬉しそうに笑うシアンの碧い瞳には、星の光を閉じ込めたような輝きが煌めいていた。恐ろしいほどに美しかった。
「攻撃してきたってことは、勝負するってことでいいのよね? 女神候補サン」
シアンは鋭い瞳でリーシェを射抜く――。
リーシェの心臓が早鐘を打つ。
恐い。
率直に、純粋に、恐い。
たった今弾かれたあの一撃。たかが指一本で、リーシェの全身に痺れが走っている。戦闘不能にしようと思えばできた。殺そうと思えば、瞬きの間にそうしていただろう。それをしなかったのは、ただの気まぐれだ。猫がネズミで遊ぶように、力の差を見せつけるための余興。
――でも。
帰るためにはこの化け物を黙らせるしかない。
レテが消されるのを防ぐには、この存在に認めてもらうしかない――。
リリカがリーシェの手を握った。小さな手。だが確かな温もり。
リーシェを見つめる緋色の瞳が、真っ直ぐにリーシェの黒い瞳を覗き込んでいる。
その瞳に、恐怖は一点もなかった。
リリカは一度だけ、力強く頷く。
あんたは私でしょ、とその目が言っていた。
同じ魂の、もう片方。レテSで生まれ、宇宙を渡りやってきた自分の魂の、もう半分がここにいる。
一人では勝てない。
でも、二人なら――?
リーシェは息を吸い、震えを押し殺してシアンをにらむ。
「あなたに……勝てばいいのよね?」
「そうよ? 女神の権能があれば簡単なお仕事だわ。ふふっ」
リーシェはリリカの手を握ったまま、立ち上がる。
「行くわよ」「オッケー!」
リーシェはリリカの手を引き、空間跳躍した。シアンから距離を取る。まずは距離だ。神々の戦いにトトを巻き込んではまずい。
雲より高い夕空に、リーシェとリリカは躍り出た。
夕日がまた顔を出す。
地上で見た時よりも一段と赤く輝いている――。
宇宙を渡ってきて、割れてしまった女神候補の二人の少女。
その前に立ちはだかるのは、宇宙最強と自認する、六翼の
レテの命運を賭けた戦いが、始まろうとしていた。