美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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101. 渾身の奇襲

神宮書記官(メタトロン)が私の転送を許可したのも証拠だわ。あなたが私をそそのかしてここに来るように仕向けたんでしょう? それを今さら不法侵入者扱い?」

 

 リーシェはここぞとばかりにまくしたてる。

 

「はぁぁぁぁ……。あんたたち、ほんっっっと、面倒くさいわね……」

 

 シアンの声に、苛立ちが混じった。六枚の翼が不規則に脈動している。

 

「全部ぶちまけて帰してもらうわ!」

 

 リリカも一気に畳みかける。杖を突き出し、シアンを真っ直ぐに見据えて。

 

「あーーうるさい! うるさい!」

 

 シアンは目をぎゅっとつぶり、首を振る。

 

 そして、金髪の少女の方をチラッと見た。少女は怪訝そうな顔でシアンを見つめている。

 

「レヴィアなに? なんか言いたいことあんの?」

 

「いやっ、いやいやいや! 我は何も聞いておりません!!」

 

 レヴィアと呼ばれた少女は、慌てて手をブンブンと振る。

 

 ふぅと大きく息をつくとシアンは何かを考え――ニヤリと笑った。

 

「じゃあこうしよーう!」

 

 碧い瞳に、新たな光が灯っている。悪戯っぽい、だが底知れない光。

 

「戦ってボクを倒せたら帰してやろう! 実にフェアでしょ?」

 

「はぁっ?!」「へっ!? ちょ、ちょっと待ってください」

 

 リーシェもリリカも思わずたじろいだ。

 

神宮書記官(メタトロン)に勝てるわけないじゃないですか!」「そうよ!」

 

「大丈夫!」

 

 シアンが人差し指を立てた。

 

熾天使(セラフ)の権能しか使わないからさ。君たちよりは弱いはずだよ? ふふっ」

 

 碧い瞳が細められ、妖しい笑みが深くなった。六枚の翼が大きく広がり、光の粒子が雪のように舞い散る。

 

 リーシェはリリカと顔を見合わせた。

 

 勝てるのか。この化け物に。熾天使(セラフ)の権能しか使わないと言っているが――それでも女神よりも上位の存在だ。

 

 だが、他に選択肢はない。

 

 リーシェはキュッと口を結ぶと、さりげなく右手をすっとシアンに向けた。

 

「ナイナ――」

 

 渾身の奇襲だったが――シアンの人差し指が、目にも留まらぬ速度でリーシェの手首を弾いた。

 

 パァァァン!と、破裂音が響き渡る。

 

 たった一本の指。

 

 それだけで、リーシェの腕が雷に打たれたように跳ね上がった。

 

「ぐはぁっ!」

 

 衝撃が手首から肩へ、肩から背中へ、背中から全身へ駆け抜け、身体ごと吹き飛ばされた。地面を転がり、仰向けに倒れる。

 

 物理攻撃無効をかけていなければ腕は爆散していたに違いない。

 

「あぁぁぁ……」

 

 リリカはリーシェに駆け寄ると、ゆっくりと身体を引き起こす――。

 

「んー、惜しい! いい判断だったけどね」

 

 シアンは人差し指を唇に当て、ニヤリと笑った。六枚の翼が悠然と脈動し、光の粒子がその周囲でゆっくりと舞っている。

 

「申し訳ないけどボクは、ありとあらゆる敵を打ち滅ぼしてきてんの。百戦錬磨の狡猾な男たちも全部葬ってきてんのよ?」

 

 シアンが一歩、リーシェに近づいた。リーシェの影が、シアンの影に呑まれていく。

 

「あんたのようなお嬢様の(ぬる)い不意打ちなんて効くわけないじゃない。きゃははは!」

 

 嬉しそうに笑うシアンの碧い瞳には、星の光を閉じ込めたような輝きが煌めいていた。恐ろしいほどに美しかった。

 

「攻撃してきたってことは、勝負するってことでいいのよね? 女神候補サン」

 

 シアンは鋭い瞳でリーシェを射抜く――。

 

 リーシェの心臓が早鐘を打つ。

 

 恐い。

 

 率直に、純粋に、恐い。

 

 たった今弾かれたあの一撃。たかが指一本で、リーシェの全身に痺れが走っている。戦闘不能にしようと思えばできた。殺そうと思えば、瞬きの間にそうしていただろう。それをしなかったのは、ただの気まぐれだ。猫がネズミで遊ぶように、力の差を見せつけるための余興。

 

 ――でも。

 

 帰るためにはこの化け物を黙らせるしかない。

 

 レテが消されるのを防ぐには、この存在に認めてもらうしかない――。

 

 リリカがリーシェの手を握った。小さな手。だが確かな温もり。

 

 リーシェを見つめる緋色の瞳が、真っ直ぐにリーシェの黒い瞳を覗き込んでいる。

 

 その瞳に、恐怖は一点もなかった。

 

 リリカは一度だけ、力強く頷く。

 

 あんたは私でしょ、とその目が言っていた。

 

 同じ魂の、もう片方。レテSで生まれ、宇宙を渡りやってきた自分の魂の、もう半分がここにいる。

 

 一人では勝てない。

 

 でも、二人なら――?

 

 リーシェは息を吸い、震えを押し殺してシアンをにらむ。

 

「あなたに……勝てばいいのよね?」

 

「そうよ? 女神の権能があれば簡単なお仕事だわ。ふふっ」

 

 リーシェはリリカの手を握ったまま、立ち上がる。

 

「行くわよ」「オッケー!」

 

 リーシェはリリカの手を引き、空間跳躍した。シアンから距離を取る。まずは距離だ。神々の戦いにトトを巻き込んではまずい。

 

 雲より高い夕空に、リーシェとリリカは躍り出た。

 

 夕日がまた顔を出す。

 

 地上で見た時よりも一段と赤く輝いている――。

 

 宇宙を渡ってきて、割れてしまった女神候補の二人の少女。

 

 その前に立ちはだかるのは、宇宙最強と自認する、六翼の熾天使(セラフ)

 

 レテの命運を賭けた戦いが、始まろうとしていた。

 

 

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