美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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109. 命がけの囮

「こっちが探知した瞬間に、その信号を辿ってくる。今も探知してくるのを待ち構えてるに違いないわ」

 

 リリカは確信を持った瞳で言い放つ。

 

「探知したらこっちの居場所がバレる。でも探知しないとあいつの居場所もわからない……。いや、しても分からなかったのか……。はぁぁぁ」

 

 八方塞がりだった。

 

 見つけられない敵とどう戦えばいいのか。見つけようとした瞬間に位置がバレ、最悪の攻撃を受ける。

 

 沈黙が落ちた。

 

 薄暗い収納空間の中に、カモミールの残り香だけが漂っている。二人の呼吸と、遠くで収納した月の重力がかすかに空間を歪ませ、低い唸りだけが響いている。

 

 リーシェはリリカを見た。リリカもリーシェを見つめる。

 

 黒い瞳と、緋色の瞳が交わる。同じ魂を持つ二人。同じ恐怖を抱え、同じ絶望に直面している二人――。

 

 やがて、何かを思いついたようにリリカが口を開いた。

 

「……ねえ、じゃあ、こういうのはどうかしら?」

 

 その声は静かだった。

 

 だが、緋色の瞳にはさっきまでの不安が消えていた。代わりに宿っていたのは、首席賢者としての知性の光。追い詰められた末に、一つだけ見つけた針の穴のような活路を睨む、鋭い光だった。

 

 

         ◇

 

 

 策を聞いたリーシェは、息を呑んだ。

 

「えっ……?! そんなこと、ダメよ!」

 

 声が裏返った。両手を振って全身で否定する。

 

 確かにこれが唯一の勝ち筋かもしれない。まともにやって勝てる相手ではないことは、さっきの戦闘で嫌というほど思い知らされた。空間を砕いても、二人がかりで挑んでも、シアンの笑みすら消せなかった。

 

 だから、正攻法ではない道を行く。相手が想定しない角度から、一点だけを突く。

 

 理屈では分かる。

 

 しかし。

 

 心が拒んでいた。

 

 この策は、リリカが傷つく策だから。

 

 リリカが、囮になる策だから。

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ずよ?」

 

 リリカは真剣な目でリーシェを射抜いた。冗談の色は一滴もない。緋色の瞳が、静かに、だが揺るぎなく光っている。

 

「私はあんたの半分よ、囮くらいやるわ」

 

「でも……」

 

「でも、じゃないの」

 

 リリカの声が、強くなった。

 

「あんたが迷ってる間にも、外では時間が動いてる。シアンが待ちくたびれて癇癪を起こしたら、次こそ本当にこの星が終わるわ。トトも。大将も。王都の全員も消されるのよ?」

 

 リーシェは唇を噛んだ。

 

 リリカの言葉は正しかった。ここで躊躇しているのは、自己満足の優しさだ。リリカの命を道具にしたくないという感情は、リーシェの弱さであり、今この瞬間には邪魔なものでしかない。

 

「……分かったわ」

 

 リーシェは頷いた。

 

 目の奥が熱い。泣きそうだった。でも、泣かなかった。

 

 他に道がないのなら、この道を行くしかない。

 

「絶対に、成功させるわ」

 

「当たり前でしょ。あんたは私なんだから」

 

 リリカがにっと笑った。

 

 その笑みは――レテS時代のリーシェが浮かべる笑みそのものだった。

 

 リーシェは拳をぎゅっと握りしめる。

 

 薄暗い収納空間の中で、二つの決意が静かに固まっていった。

 

        ◇

 

 

 険しい渓谷だった。

 

 切り立った断崖が両側にそびえ、谷底には涸れた川の跡が蛇行している。日の光もろくに届かない、暗い裂け目のような地形。

 

 リーシェは収納空間から出ると、この渓谷に降り立った。

 

 そして仕掛けを丁寧に施す。何十億もの命運のかかった仕掛け――ミスは許されない。

 

「こんなもので……いいかしら?」

 

「上出来よ! あいつの驚く顔が楽しみだわ。ふふっ」

 

 リリカはぐっとサムアップする。

 

「じゃあ……、行くわよ!」

 

 リーシェは覚悟を決めて、探知の権能を放った――。

 

 世界に波紋が広がる。自分の位置を知らせる、狼煙のような探知。来る。必ず来る。

 

 十秒。

 

 二十秒。

 

 渓谷の上空が、蒼く光った。

 

「あーあ、やっと出てきた。今、この星ごと吹っ飛ばそうと思ってたんだゾ? くふふふ」

 

 シアンが、渓谷の上空でゆったりと羽ばたく。蒼い光翼が左右に広がり、谷全体を蒼白い光で浮かびあがらせた。その姿はまさに天から降臨した神々しい天使だった。

 

 シアンの目が渓谷の底を見下ろす。リーシェとリリカの姿を視認し、そして――崖の岩肌に刻まれた、隠蔽工作の施された巨大な魔法陣にも、当然気づいた。

 

「ふぅん……罠ね」

 

 シアンは微笑んだ。嘲るような、しかしどこか愉しげな笑み。

 

「この程度で私を止められると思ってるの? 期待はずれだわ。終わらせてあげる」

 

 シアンは崖に向けてエネルギー弾を放ち、魔法陣を吹っ飛ばす。

 

 崖が一気に崩落していった。

 

 シアンは青い輝きの剣を空間の裂け目から取り出し、構えると、光翼を畳む。一直線に急降下で襲い掛かろうとしたのだ。

 

 ところが――。

 

 崩落する崖の岩々の奥から隠された魔法陣が顔を出し、眩く金色に輝いた。

 

 

 

 

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