美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~ 作:月城 友麻
そう、この魔法陣は二重底だったのだ。一枚目を壊すと奥から本命が現れる――。
黄金の光の鎖がシアンの四肢に絡みつく。光の檻が展開され、シアンの身体を空間ごと固定していく。
「かかったわね! ソイヤー!」
リーシェはニヤッと笑い、魔法陣のそばに立つと、光の鎖に女神の権能を更に注いで補強していった。
「――っ!」
初めて、シアンの表情に驚きが走った。想定外の拘束。それも女神の権能の拘束であり
「効いてる……!」
リリカが間髪入れずに攻撃に転じた。空間断裂。空間そのものに亀裂を走らせ、その断裂面でシアンの身体を切り刻もうとする。
しかし、シアンは動けないままでも、視線だけでその断裂を片端からキャンセルしていった。リリカが空間を裂けば、シアンが
拘束が軋んでいる。時間がない。
リリカの目が、鋭くなった。これが通用しないのは織り込み済みだ。
――ここからが、本番。
リリカは断裂攻撃を止めた。代わりに、その手に光を集める――。
女神の権能と、自らの魔法を融合させた光の剣。純白に輝く刃が虚空に顕現する。
シアンはそれを見て、あざ笑う。
「あら……剣で来るの? 本気?」
拘束が限界を迎えていた。鎖が一本、また一本と弾けていく。
「くぅぅぅ……」
リーシェは必死に鎖に権能を注ぐが、シアンの抵抗の方が強かった。
シアンは右手が自由になると、青白い光の剣をブンっと振る。
「面白い。いいわよ、付き合ってあげる」
まだ拘束は残っているが、シアンは腕が自由になればもう十分だとばかりに剣を振るう。
「ソイヤー!」
リリカは一気に宙を駆け、剣を振りかぶると目にも止まらぬ速さで打ち込んだ。
光の剣同士が激突する。
一合。剣のぶつかる衝撃波で渓谷の壁が両側とも吹き飛んだ。
二合。大気が引き裂かれ、真空の衝撃波が周囲数キロの大地を抉った。
三合、四合、五合――。
打ち合うたびに世界が壊れていく。剣と剣がぶつかる度に空間に亀裂が走り、物理法則が悲鳴を上げるように歪んでいく。
だが、剣の技量はシアンが圧倒的に上だった。
リリカの剣は力で振っている。対してシアンの剣は、悠久の時間が磨き上げた技の結晶だった。一撃一撃が最短距離で、最小限の力で、最大の効果を生む。百戦錬磨という言葉の重みが、その剣筋にはっきりと刻まれていた。
六合目で、リリカの剣が弾かれた。
「くぁっ!」
七合目で、リリカの肩が切り裂かれた。
「ガハッ!」
そして――。
「ほいっと、残念でしたーー!」
シアンの蒼い光の剣が、リリカの胸を貫いた。
「ゴフッ!」
時間が止まったように感じた。
リリカの口から、小さな息が漏れる。
シアンの剣がリリカの胸を貫通し、背中から蒼い光の切っ先が突き出ていた。勝負あり。シアンの意識は勝利に酔っていた。
「あぁっ!」
リーシェはその惨劇に真っ青になる。
しかし、リリカの緋色の瞳が煌めいた。
――行くわよ、リーシェ。痛いのは、私が引き受けるから。
剣で勝てないことは最初から分かっていた。分かっていて剣を取った。すべてがフェイク。何重にも重ねた偽りの攻撃の、その最奥にある本当の狙いは――自分が刺されること。
リリカの手が、自分の胸を貫いているシアンの手首を、強く握った。
万力のような力で。命を燃やすような力で。
シアンの目が見開かれた。
「……何を」
リリカが、笑った。血の混じった笑みだった。
「あんた最強だからさ……自分の一撃が当たった瞬間には、防御なんて考えないでしょ?」
「くっ!」
慌ててリリカの手を引き上がそうともがくシアン。だが、その背後で空間が裂ける。
裂けた空間の向こうから、リーシェの右手が飛び出した。
「しまった!」
百戦錬磨のシアンが、初めて経験する「想定外」。
リーシェの右手がシアンの背中に触れた。
今度は、弾かれない。
シアンの手はリリカが離さない。
「くぅっ!?」
シアンの顔に焦りが走った――。
リーシェの唇が、静かに動く。
「――ナイナイ」
世界が沈黙した。
シアンの身体が、収納空間に呑まれていく。足先から、指先から、光の粒子のように吸い込まれていく。抗えない。キャンセルの暇がない。
呑まれゆくシアンが、最後に見たもの。
それは、涙を流しながら微笑むリーシェの顔だった。
「――やられた」
シアンの声から、怒りは感じられなかった。むしろそこにあったのは、嵐の後の空のような清々しさだった。
「ただのお嬢様だと思ったのに……面白い……」
蒼い光がすうっと消える――。
シアンの姿が、完全に消えたのだ。
渓谷に、静寂が降りた。