美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~ 作:月城 友麻
美奈はきゅっとお猪口を傾け、最後の一滴まで飲み干していく。
タン!
お猪口がカウンターに叩きつけられた。乾いた音が、店内に響く。
刹那、美奈の周囲から光が吹き出した。
黄金色の光が爆発的に膨張し、あっという間に一行を包み込んでいく。寿司屋の内装が消えた。板前の姿が消えた。壁が、天井が、床が、一枚ずつ剥がれるように虚空に溶けていく。醤油の香りが遠のき、シャリを握る音が途絶え、隣席の談笑が断ち切られた。
真っ白な世界が広がっている。
果てのない白い空間。何もない。白木のカウンターと、その上に並ぶ寿司の皿と、一行の面々だけが、白い虚空に浮かんでいる。
――女神の絶対領域。
もう逃げられなかった。
「早く説明しなさい!」
据わった目でギロリとリーシェを睨む。琥珀色の瞳に、冗談の色は一滴もない。さっきまで日本酒を嗜んでいた清楚な女性は消え、そこにいるのは何十万年を統べてきた支配者だった。
「それは……」
リーシェは言葉に詰まった。
シアンに助けを求めようと横を向いたが、シアンは目をぎゅっと瞑ったまま上を向いている。まるで「ボクはここにいません」とでも言わんばかりに。宇宙最強の
シアンが
厳しい沈黙が白い空間を満たした。
美奈の琥珀色の瞳が据わっている。シアンは目を瞑っている。リリカは唇を噛んで考え込んでいる。レヴィアは真紅の瞳を不安げに泳がせている。
誰も、何も言えない。次の一言が全てを決める。
その時だった。
「それはメタ何とかさんの指示だったっす」
トトが、元気に口を開いた。
白い空間に、場違いなほど明るい声が響いた。
全員の視線が、トトに集まる。
「
美奈の眉がわずかに動き、声のトーンが一段下がった。
「そうそう、それっす!
トトは屈託のない顔で言い切った。嘘をついている顔ではない。そもそも、トトには嘘をつくという回路がない。見たままを、感じたままを、そのまま言葉にする。
他の者なら言葉を選び、慎重に回答を組み立てるだろう。だがトトにはそれができない。できないからこそ、そこに一切の作為がない。それがこの青年の、ある意味最大の武器だった。
「ほんとなの? 何の目的で?」
「そんな偉い人の考えなんて俺には分かんないっす。ぬははは」
トトは頭を掻いて笑った。なんの
「嘘だったら消し飛ばしてやるからね?」
美奈がトトに右手を向けた――。
掌から黄金色の輝きが溢れ出し、トトの身体を包み込んでいく。真偽を見極める女神の権能。嘘をついていれば、その場で存在ごと消し飛ばされる。
「あぁっ……」
リーシェの心臓が跳ねた。
自分を庇ってトトが危険に晒されている。あの黄金色の光は女神の権能だ。存在の根幹に触れる力。何かあったら、トトは――。
リーシェの手が、無意識にトトの方に伸びかけた。
だが、トトはそんなリーシェを見て、にっと笑う。
大丈夫っすよ、とその目が言っていた。
いつだってこういう奴なのだ。この青年は。自分が危険な状況にあることよりも、隣で心配しているリーシェの方を気にかけている。ガルドに殴られた時もそうだった。
トトはいつだって、リーシェの方を見ている。
「トト……」
直後、黄金の光がふっと消えた。
「嘘じゃない……みたいね……」
美奈は怪訝そうな顔をして首を傾げた。琥珀色の瞳に困惑の色が浮かんでいる。トトの言葉が真実であることは確認できた。だが、なぜ
「
「もちろんっすよ」
気軽に返すトトに、美奈は衝撃を受ける。
「……え?」
表情を取り繕おうとしたが、琥珀色の瞳の奥で何かが激しく揺れたのを、リーシェは見逃さなかった。
この宇宙のアカシックレコードを管理する上位存在。宇宙の存続そのものに関わる、全ての鍵を握る者。何十万年にも及ぶ悠久の歴史の中で、美奈はその正体を探り続けてきた。QATを通じて問いかけ、あらゆる手段で接触を試み、その全てに失敗してきた。返ってくるのは常に無機質な承認か却下のコードだけ。声も姿も性別も、何一つ掴めなかった。
それを、こんな――ただの人間の青年が、「もちろんっすよ」と。