美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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117. 痛いっすよー

「な、何するのよ!」

 

 リーシェは反射的にリリカを引き剥がした。トトの腕からリリカの手を引き離し、間に割り込むが――。

 

 やってから、自分が何をしたのか気づいた。

 

 リリカにとられるのが嫌だと自白してしまったのだ。自分が。

 

「あ……。いや、これは……」

 

 口を尖らせ、うつむくリーシェ。

 

 全員の視線が、リーシェに集まっていた。

 

「まぁ……これが答えよね」

 

 美奈がニヤッと笑った。琥珀色の瞳が、全てを見透かしている。

 

 シアンがくすくすと笑い、レヴィアがにやにやと笑い、リリカが「ほらね」と肩をすくめた。

 

 リーシェだけが、真っ赤な顔で固まっていた。

 

「ち、ち、違うの! もうっ!」

 

 パシッ。

 

 またトトの背中を叩いた。もう何も言えないので、叩くことしかできない。

 

「姐さん痛いっすよー」

 

 トトは大袈裟に痛がりながらも、嬉しそうに笑った。口元が緩んで、隠しきれない喜びがこぼれている。叩かれても嬉しい。リーシェが自分を取ってくれたことが、何よりも幸せだった。

 

 白い空間の中に、温かな笑い声が響く。

 

 女神と天使と女神候補と首席賢者とドラゴンと料理人。宇宙の覇者たちが、なぜか恋バナで盛り上がっている。さっきまで尋問だったはずの場が、いつの間にか歓送会の空気に変わっていた。

 

 世界の命運を握る者たちの宴は、こうして奇妙に和やかな空気の中で幕を開けた。

 

 

         ◇

 

 

「まぁいいわ」

 

 美奈がお猪口に酒を注ぎ直し、一口含んだ。琥珀色の瞳が、さっきまでの剣呑さを残しつつも、少し柔らかくなっている。

 

「メタトロンが手引きしない限り、宇宙なんて渡れない。あんたの裏にはメタトロンの意思があるってことよね」

 

「そ、そうなりますね」

 

 リーシェは頷いた。嘘ではない。シアン=メタトロンがリーシェを挑発し、QATの転送を許可し、権能の身元保証人として承認した。全ての段階で、メタトロンの意思が介在している。

 

「でも、それじゃうちは大損だわ」

 

 美奈がカウンターに肘をつき、リーシェを見据えた。

 

「女神の権能を使う侵入者が来て、渋谷で大騒ぎして、あげく熾天使(セラフ)と戦争おっぱじめて山をいくつも消し飛ばした。被害甚大よ? あなた方は何を残してくれるのかしら?」

 

 正論だった。ぐうの音も出ない。リーシェが口ごもっていると。

 

「私が残るわ!」

 

 声が、横から飛んできた。

 

 リリカだった。

 

 赤い髪を揺らし、しっかりとした目で美奈を真っ直ぐに見つめている。杖を握る手に、力がこもっていた。

 

「えっ? あ、あなた……」

 

 リーシェは自分の半身の突然の提案に、言葉を失った。

 

「ほぅ?」

 

 美奈が片眉を上げた。

 

「私は首席賢者。王国の中枢の一人だわ」

 

 リリカは一歩前に出た。声には迷いがなかった。

 

「あの星の文化と文明を、レテの発想も込みで育てて見せる。五万年の歴史が培った美意識と、この宇宙の多様性を融合させて、新しいものを生み出すわ。これでアイコでしょ?」

 

「ふぅん……文化交流ってことね。まぁ……確かにそれなら筋は通るわね」

 

 美奈は顎に手を当て、値踏みするようにリリカを見つめた。首席賢者の知性と実績。レテの宇宙が培った芸術と文化。それをこの宇宙の管理に活かすのであれば、確かに対価としては釣り合う。

 

「でも、リリカ……」

 

 リーシェはリリカの手を取る。

 

「いいの?」

 

 声が震えていた。

 

 リリカがここに残るということは、もう二度と一つに戻れないということだ。半分の魂は半分のまま。永遠に。

 

「分かれてもう一年」

 

 緋色の瞳が真っ直ぐに黒い瞳を見つめている。

 

「もう一人には戻れないわ。あなたにはあなたの道、私には私の道がある」

 

 その声は穏やかだった。悲しみではなく、受容だった。一年間、別々の身体で別々の人生を歩いてきた。その時間は決して無駄ではなかった。リリカはリリカとしての人生を手に入れたのだ。

 

「レテの未来は、あなたに託したわ。一度は半分になったけど、もう大丈夫そうだし」

 

 リリカはチラッとトトを見る。

 

「リリカ……」

 

「そんな顔しないで? 人身御供になるってわけじゃないの」

 

 リリカが笑った。柔らかく、優しく。

 

「首席賢者の暮らしって悪くないのよ? 可愛い部下たちもいるしね。ふふっ」

 

「そう……」

 

 リーシェは唇を噛んだ。泣きたかった。自分の失った半身が自分の道を歩いて行ってしまう。それは大いなる喪失感をもたらしていた。

 

 でも、ここで泣いたら、リリカの決意を否定することになる。

 

 リリカは自分で選んだのだ。この道を。

 

「それでコックの君はどうすんの?」

 

 美奈がトトに視線を向けた。

 

「俺の居場所は姐さんのそばっす」

 

 即答だった。迷いの欠片もなかった。

 

「えっ?! 私は別の宇宙の女神になるのよ?」

 

 慌ててリーシェが言った。レテに帰れば、いずれ女神の座を継ぐことになる。トトとは宇宙が違う。行けばもう戻れない。

 

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