美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~ 作:月城 友麻
「な、何するのよ!」
リーシェは反射的にリリカを引き剥がした。トトの腕からリリカの手を引き離し、間に割り込むが――。
やってから、自分が何をしたのか気づいた。
リリカにとられるのが嫌だと自白してしまったのだ。自分が。
「あ……。いや、これは……」
口を尖らせ、うつむくリーシェ。
全員の視線が、リーシェに集まっていた。
「まぁ……これが答えよね」
美奈がニヤッと笑った。琥珀色の瞳が、全てを見透かしている。
シアンがくすくすと笑い、レヴィアがにやにやと笑い、リリカが「ほらね」と肩をすくめた。
リーシェだけが、真っ赤な顔で固まっていた。
「ち、ち、違うの! もうっ!」
パシッ。
またトトの背中を叩いた。もう何も言えないので、叩くことしかできない。
「姐さん痛いっすよー」
トトは大袈裟に痛がりながらも、嬉しそうに笑った。口元が緩んで、隠しきれない喜びがこぼれている。叩かれても嬉しい。リーシェが自分を取ってくれたことが、何よりも幸せだった。
白い空間の中に、温かな笑い声が響く。
女神と天使と女神候補と首席賢者とドラゴンと料理人。宇宙の覇者たちが、なぜか恋バナで盛り上がっている。さっきまで尋問だったはずの場が、いつの間にか歓送会の空気に変わっていた。
世界の命運を握る者たちの宴は、こうして奇妙に和やかな空気の中で幕を開けた。
◇
「まぁいいわ」
美奈がお猪口に酒を注ぎ直し、一口含んだ。琥珀色の瞳が、さっきまでの剣呑さを残しつつも、少し柔らかくなっている。
「メタトロンが手引きしない限り、宇宙なんて渡れない。あんたの裏にはメタトロンの意思があるってことよね」
「そ、そうなりますね」
リーシェは頷いた。嘘ではない。シアン=メタトロンがリーシェを挑発し、QATの転送を許可し、権能の身元保証人として承認した。全ての段階で、メタトロンの意思が介在している。
「でも、それじゃうちは大損だわ」
美奈がカウンターに肘をつき、リーシェを見据えた。
「女神の権能を使う侵入者が来て、渋谷で大騒ぎして、あげく
正論だった。ぐうの音も出ない。リーシェが口ごもっていると。
「私が残るわ!」
声が、横から飛んできた。
リリカだった。
赤い髪を揺らし、しっかりとした目で美奈を真っ直ぐに見つめている。杖を握る手に、力がこもっていた。
「えっ? あ、あなた……」
リーシェは自分の半身の突然の提案に、言葉を失った。
「ほぅ?」
美奈が片眉を上げた。
「私は首席賢者。王国の中枢の一人だわ」
リリカは一歩前に出た。声には迷いがなかった。
「あの星の文化と文明を、レテの発想も込みで育てて見せる。五万年の歴史が培った美意識と、この宇宙の多様性を融合させて、新しいものを生み出すわ。これでアイコでしょ?」
「ふぅん……文化交流ってことね。まぁ……確かにそれなら筋は通るわね」
美奈は顎に手を当て、値踏みするようにリリカを見つめた。首席賢者の知性と実績。レテの宇宙が培った芸術と文化。それをこの宇宙の管理に活かすのであれば、確かに対価としては釣り合う。
「でも、リリカ……」
リーシェはリリカの手を取る。
「いいの?」
声が震えていた。
リリカがここに残るということは、もう二度と一つに戻れないということだ。半分の魂は半分のまま。永遠に。
「分かれてもう一年」
緋色の瞳が真っ直ぐに黒い瞳を見つめている。
「もう一人には戻れないわ。あなたにはあなたの道、私には私の道がある」
その声は穏やかだった。悲しみではなく、受容だった。一年間、別々の身体で別々の人生を歩いてきた。その時間は決して無駄ではなかった。リリカはリリカとしての人生を手に入れたのだ。
「レテの未来は、あなたに託したわ。一度は半分になったけど、もう大丈夫そうだし」
リリカはチラッとトトを見る。
「リリカ……」
「そんな顔しないで? 人身御供になるってわけじゃないの」
リリカが笑った。柔らかく、優しく。
「首席賢者の暮らしって悪くないのよ? 可愛い部下たちもいるしね。ふふっ」
「そう……」
リーシェは唇を噛んだ。泣きたかった。自分の失った半身が自分の道を歩いて行ってしまう。それは大いなる喪失感をもたらしていた。
でも、ここで泣いたら、リリカの決意を否定することになる。
リリカは自分で選んだのだ。この道を。
「それでコックの君はどうすんの?」
美奈がトトに視線を向けた。
「俺の居場所は姐さんのそばっす」
即答だった。迷いの欠片もなかった。
「えっ?! 私は別の宇宙の女神になるのよ?」
慌ててリーシェが言った。レテに帰れば、いずれ女神の座を継ぐことになる。トトとは宇宙が違う。行けばもう戻れない。