美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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16. 伝説の魔鳥

「行くわよ」

 

「くっ、分かりましたよぉ、行きましょう!」

 

 トトは覚悟を決め、リーシェと共に扉を押し開けた。

 

 ギイィィ……と、錆びた鉄を引き裂くような軋みが闘技場に反響する――。

 

 そこは、先ほどの円形闘技場よりもさらに広い空間だった。

 

 天井が途方もなく高い。見上げると、遥か頭上に巨大な魔法陣が浮かんでいた。十階層のものよりも複雑で、幾重にも重なった光の円環がゆっくりと回転している。

 

 そして、その魔法陣の中心から――巨大な影が降りてきた。

 

 緩やかに羽ばたく大きな翼だった。

 

 極彩色の羽毛が魔法灯の光を受けて、毒々しいほどに美しく輝いている。鶏のような赤いトサカ。鉤爪のように曲がった黄色い(くちばし)。そして――宝石のように冷たく光る、黄金色の双眸(そうぼう)

 

 その目に見つめられた瞬間、トトは全身が凍りつくような感覚に襲われた。

 

 コカトリス。

 

 石化の魔眼を持つ伝説の魔鳥。間近でその視線を浴びた者は石と化し、永遠に動けなくなるという。

 

「ま、まさかあれはコカトリス……!?」

 

 トトの声が裏返った。

 

「なんでそんな奴が?! もしかして……前人未到の階層かもしれないっすよ!?」

 

 過去の討伐の記録にコカトリスが出て来たことなどないのだ。であれば、ここは五十階層以下の階層ということになる。一時間足らずで前人未到の領域に達したのだ。

 

 しかし、リーシェには前人未到かなどどうでもよかった。

 

「ナイナイ」

 

 いつも通り気怠い声を出す。

 

 すぅ、と、巨鳥の叫びが消え、極彩色の羽毛が消え、闘技場を満たしていた魔気の圧力が消えた。コカトリスの巨体が、丸ごと虚空に呑まれていく。

 

 完全なる静寂――。

 

「……よし。帰りましょ」

 

「い、いやいや、さっきと同じっすよ姐さん! 収納しただけじゃ倒したことにならないっす! 扉開かないっすよ!」

 

「あー……そうだった」

 

 リーシェは億劫そうにため息をついた。

 

「出ろ」

 

 天井付近にコカトリスが出現した。闘技場の最も高い位置――地上数十メートルの虚空に、巨大な鳥の身体が放り出される。

 

 だが。

 

「ギョアアアッ!」

 

 コカトリスは落ちなかった。

 

 巨大な翼が風を掴み、数度の羽ばたきで体勢を立て直す。極彩色の羽毛が魔法灯の光を弾き、闘技場の天井に色とりどりの光の粒を散らした。

 

「……あら、飛ぶのね」

 

 リーシェが、珍しくわずかに眉を寄せた。

 

 落下処刑が通じない。オーガには有効だった戦法が、翼を持つ相手には無力だった。しかもコカトリスは逆上して一気に急降下してくる。

 

 黄金色の双眸(そうぼう)が妖しく輝き始めた。

 

「姐さん、魔眼っす! まともに喰らったら全身石になるっすよぉぉぉ!」

 

「ナイナイ!」

 

 リーシェは咄嗟にコカトリスを再び収納した。紫色の光が空間ごと呑み込まれ、闘技場に静寂が戻る。

 

 だが、これでは解決しない。倒さない限り出られないのだ。

 

「……面倒ね」

 

 リーシェは腕を組み、天井を見上げた。黒い瞳が、何かを考えるようにわずかに細められる。

 

 トトは固唾を呑んで見守った。この人が「面倒」と言いながら考え込む時は、大抵とんでもないことを言いだす前兆だ。

 

「……ねぇ、トト」

 

「は、はい!」

 

「壁をくりぬけるならこれも行けるわよね?」

 

「え?」

 

「出ろ」

 

 天井にコカトリスが出現した。翼を広げ、体勢を立て直そうと羽ばたく。再度黄金の双眸がリーシェを捉え、そのまま一気に襲い掛かろうとする――。

 

「ナイナイ」

 

 リーシェの黒い瞳が、コカトリスの頭部だけを見据えていた。

 

 すぅ、と。

 

 音が消えた。

 

 だが今度は、コカトリスの全身が消えたわけではない。

 

 頭だけが――消えた。

 

 トサカも。(くちばし)も。黄金の魔眼も。首から上の全てが、音もなく虚空に吸い込まれた。

 

 首から上を失った巨体が、一瞬だけ宙に留まり、極彩色の翼が反射的に数度羽ばたき――やがて、力を失ったように傾いていく。

 

 ゆっくりと。

 

 どこまでもゆっくりと。

 

 まるでスローモーションのように、首のない巨鳥が弧を描きながら落ちていった。切断面から赤黒い血が尾を引き、魔法灯の光の中で不思議な軌跡を描く。

 

 ドォォン……。

 

 鈍い音と共に、コカトリスの亡骸が闘技場の床に横たわった。極彩色の羽毛が衝撃で舞い上がり、雪のようにゆっくりと降り注ぐ。

 

 静寂が戻った。

 

「……部位だけでもいけるのね」

 

 リーシェは特に感慨もなく呟いた。新しい機能を試して、動作を確認した――ただそれだけの声色だった。

 

「あ、姐さん、えぐいっす……」

 

 トトは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

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