美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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44. 魔導院の首席賢者

「どうせ功を焦ったんだろ? 手柄を独り占めにしようとするからだ!」

 

 ヴァルゲンはバン!とこぶしでテーブルを叩いた。

 

「功績のために精鋭を失ったと。そういうことか? レオルド!」

 

 宰相の声が、冷えた刃のように室内を切り裂いた。

 

「い、いえ、決してそのような――」

 

「管轄を越えた独断専行。しかも失敗。精鋭部隊の喪失。これがどれほどの損失か、分かっておるのか!?」

 

 レオルドの額から、汗がほほを伝って落ちた。書類を持つ手が震え、紙の端がかさかさと音を立てている。

 

「も……申し訳……ございません……」

 

「謝罪で精鋭が戻るなら、いくらでも聞いてやる」

 

 宰相の追及は容赦がなかった。レオルドの顔から、みるみる血の気が引いていく。

 

 その時だった。

 

 バァン!!

 

 会議室の重厚な樫の扉が、蹴り開けられた。

 

 金の象嵌が施された由緒ある扉が、壁にぶつかって跳ね返る。四人の視線が一斉に扉に集まった。

 

「はーい、お待たせちゃーん!」

 

 声が弾けた。場にそぐわない、花が咲くような明るい声。

 

 扉の向こうに立っていたのは、一人の少女だった。

 

 赤毛の長い髪を、頭の両側で高く結い上げたツインテール。大きな緋色の瞳がきらきらと輝き、小柄な身体には魔導院の白いローブを羽織っている。ローブの裾からは、フリルのついたスカートの端がちらりと覗いていた。首席賢者の証である銀の首飾(ペンダント)りが、胸元で揺れている。

 

 リリカ・アステリア。十八歳。王国最高の魔法使い。

 

 そしてこの国で最も、空気を読まない人間。

 

「遅いぞ、リリカ」

 

 宰相が眉間の皺をさらに深くした。

 

「あらぁ、ごめんなさ~い。でもまだ始まったばっかりでしょ? ふふっ」

 

 リリカはそう言いながら、タン!と床を蹴った。

 

 ふわりと宙を舞う――。

 

 赤毛の髪が優雅にたなびき、小柄な身体が重力を無視して会議室の上空を滑る。テーブルの上を通過し、自分の席の真上で回転すると――すとん、と椅子に収まった。

 

 完璧な着地。ローブの裾が、ひらりと靡く。

 

「よっ、と。はい着席! 十点満点! キャハッ!」

 

 一同が絶句した。

 

 騎士団長ヴァルゲンが額を押さえ、参謀総長カーティスが眼鏡を直し、レオルドは口を開けたまま固まっている。宰相だけが、深いため息をついた。

 

「……リリカ。ここは格式ある安全保障会議だ。飛ぶな」

 

 宰相は頬をピクピクとさせながらたしなめる。

 

「えー、歩くのタルいんだもん」

 

 リリカは椅子の上で足をぶらぶらさせながら、にこにこと笑った。小柄な身体には大きすぎる椅子の上で、まるで玉座に座る女王のように堂々としている。

 

「で? レオルドちゃんがやらかした話でしょ? 聞いてる聞いてる、大体把握してるわ」

 

「聞いてるなら分かっておろう、こんな大事な会議になぜ遅れた?」

 

「なーに言ってんの」

 

 リリカの緋色の目が、きらりと光った。

 

 にこにこした笑顔はそのままに、その奥にある知性の刃が、一瞬だけ(さや)から覗いた。

 

「あんたたちが見落としてたこと、ちゃーんと調査してたんだからぁ」

 

 室内の空気が変わった。

 

「見落とし、だと?」

 

 宰相が目を細める。

 

「うん。治安局の建物見てきたの。容疑者が不思議な脱獄をしたっていう、あの建物」

 

 リリカはローブの内側から、丸めた羊皮紙を取り出した。テーブルの上にぱさりと広げる。そこには壁面の拡大図が精密に魔法で転写されていた。石の目地の一本一本まで再現された、魔導的観察記録。

 

「ほら、ここ。見える? 壁の目地が一センチ手前にずれてるの。元の石組みと復元された石組みの、ほんのわずかな乖離(かいり)

 

 一同が身を乗り出した。

 

「これ、普通の破壊と修復じゃないわ。壁そのものが一度『消えて』、後から『戻された』痕跡。切断面が滑らかすぎるの。力で壊せばこんな綺麗にはならないわ」

 

 リリカの指が、図面の上をすいすいと滑っていく。

 

「容疑者は元冒険者パーティの荷物運びだったのよね? 荷物運びなら収納魔法を持っているはず。そして、この壁の消失と復元は、収納魔法の特性と完全に一致する。でも、普通は壁なんて収納できないわ」

 

 リリカは顔を上げ、にっこりと笑った。

 

「つまりね、容疑者は特殊な収納魔法のスペシャリスト。この子の武器は、収納魔法よ!」

 

 沈黙が落ちた。

 

 やがて、参謀総長カーティスが眼鏡を押し上げ、静かに口を開いた。

 

「収納魔法でダンジョンを攻略したと? 荷物を仕舞う程度の魔法で、Aランクのワイバーンを倒せるとは思えんが」

 

「精鋭部隊を全滅させることもな」

 

 騎士団長ヴァルゲンが腕を組んだまま、懐疑的な目を向ける。

 

「そもそも、小屋から忽然と姿を消したことの説明もつかん。収納魔法で自分を消せるわけがなかろう」

 

「ふふっ、バカねぇ」

 

 リリカは鼻で嗤う。

 

「あのね。この子の収納魔法、普通じゃないの。キャパが桁違い。壁を丸ごと消せるってことは、少なくとも数トン規模の物質を一瞬で収納できるってことでしょ?」

 

 リリカはテーブルの上に身を乗り出した。

 

 

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