美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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48. 最大火力魔法攻撃

「ごーーお」

 

「まぁ、この辺が限界みたいね」

 

「姐さん早くぅ……」

 

 トトはおびえ切って懇願した。

 

「よーーん」

 

 小窓から右手を伸ばすリーシェ。

 

 白い指先が、朝の光の中に伸びる。その先に、空を飛ぶ赤毛少女と、真紅に脈動する巨大な炎の龍。

 

「さーーん」

 

「ナイナイ」

 

 静かな声だった。

 

 カウントダウンが、絶対静寂に飲み込まれ、途切れる。

 

 辺り一帯の音が消えた。

 

 風の音が。麦の揺れる音が。虫の声が。空気の震えが。

 

 全てが、一斉に()き消された。

 

 同時に――朝の空に浮かんでいた赤毛の少女が、消える。

 

 炎龍も、対魔法結界の光も――消えた。

 

 残ったのは、何事もなかったかのような朝の青空だけだった。雲が流れ、鳥が飛び、太陽がさんさんと照り続けている。ただ、さっきまでそこにいた少女と龍だけが、この世界から取り除かれていた。

 

 数秒の沈黙の後、風が麦を揺らすさわさわという音が戻ってくる。世界が、平常を取り戻していく。

 

 まるで最初から、何もなかったかのように。

 

 

         ◇

 

 

 王宮の屋上が、凍りついた。

 

「え……?」

 

「は……?」

 

「何が起こった……?」

 

 宰相たち四人の視線が、虚空に釘付けになっていた。遠眼鏡を握る手が震えている。さっきまで確かにそこにいた赤色の点が、朝の空から消えている。

 

 炎龍の真紅の輝きも。対魔法結界の光の膜も。何もかも。

 

 城壁の上では、魔導院の部下たちが悲鳴に近い声を上げた。

 

「リ、リリカさま……?」

 

「こ、これって……」

 

「け、消された……?」

 

 一人が魔導通信器を掴み、叫んだ。

 

「リリカさま! リリカさま! 応答してください! リリカさま!」

 

 返答はない。ノイズすらない。完全な無音。まるで受信器そのものが、この世界から消えたかのように。

 

「ダメだ……。魔導通信にも反応がない……」

 

 部下たちの顔から、血の気が引いていた。

 

 首席賢者リリカ・アステリア。王国最強の魔法使い。対魔法結界を展開し、炎龍を従え、空の上から圧倒していたはずの無敵の天才少女が――一瞬で、消えた。

 

 炎龍ごと。結界ごと。存在ごと。

 

「総員戦闘配置!」

 

 副院長が叫んだ。声が裏返っている。恐怖と使命感が、喉の奥でぶつかり合っていた。

 

「攻撃目標、攻略者の小屋! もはや生け捕りなど不要! 全力で行け!」

 

「はっ!」「はいっ!」

 

 城壁の上に、魔法陣が展開されていく。

 

 赤。緑。青。鮮やかな光の円が次々と浮かび上がり、朝の空を染め上げていく。魔導院の残存戦力が、持てる全ての魔力を込めて術式を起動する。火球、氷槍、雷撃、風刃――あらゆる属性の攻撃魔法が、同時に編まれていく。

 

 城壁の上が、極彩色の光に包まれた。

 

「姐さん、来るっすよぉ!」

 

 小屋の屋根裏で、トトが叫んだ。城壁の上に並ぶ無数の魔法陣の輝きは、ここからでもはっきり見える。あれが全て放たれたら、小屋どころかこの一帯が焦土と化す。

 

「タルいわ……」

 

 リーシェは面倒くさそうにため息をつくと、右手を、城壁の方角に向ける。

 

「ナイナイ」

 

 刹那。

 

 城壁の上から、人影が消えた。

 

 赤い魔法陣、緑の魔法陣、青い魔法陣術式に込められていたすべての魔力の輝きが、発動の寸前で虚空に呑まれた。

 

 城壁の上は無人と化した。

 

 あれほど鮮やかだった極彩色の光が嘘のように消え、朝日に照らされた白い石壁だけが残っている。静かで、穏やかで、まるで最初から誰もいなかったかのように。

 

 

         ◇

 

 

「え?」

 

「あ、あぁぁぁ……」

 

 宰相たちは、言葉を失った。

 

 リリカだけではなかった。

 

 魔導院の部下たち――主力メンバーの全員が、一瞬にして消えたのだ。

 

 大陸随一と称された王国魔導院。その戦力が、まばたき一つの間に、跡形もなく消滅した。

 

 宰相グレンヴァルは遠眼鏡を取り落とした。石の床に当たって、からん、と乾いた音がした。

 

「あ、あの小娘め……! 大口叩いてこのザマか……! くぅぅぅ……」

 

 怒りは、すぐに恐怖に変わった。

 

 治安局の精鋭部隊が消された。首席賢者が消された。魔導院の主力が消された。王国の武力の半分はすでに消失してしまったのだ。

 

 これは王国存亡の危機――。

 

「……これは」

 

 参謀総長カーティスが、震える声で呟いた。眼鏡の奥の目が、初めて動揺の色を見せていた。

 

「人を、収納できるということじゃないのか」

 

「そんなバカげた魔法があるか!」

 

 騎士団長ヴァルゲンが怒鳴った。だがその声には、否定しきれない恐怖が滲んでいた。

 

「しかし……そうでないと説明できんぞ」

 

 カーティスは静かに言った。

 

「リリカは対魔法結界を張っていた。あらゆる魔法攻撃を弾く最高位の防御だ。それが通じなかった。落とし穴でもない。彼女は空にいた。地面に触れてすらいなかった」

 

 沈黙が降りた。

 

 

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