美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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52. 王家の豪奢な馬車

「来たわね」

 

 リーシェは紙片を伸ばすとトトに見せた。

 

「おぉ……。で、姐さん、何を要求するんすか?」

 

「そうね……」

 

 リーシェは小窓の縁に腰を下ろし、指を折りながら数え始めた。

 

「まず、私とトトの全ての罪の無罪放免。恩赦ってやつ」

 

「それは大事っすね……」

 

「次に、魔導院の特別顧問への就任。名前だけの役職で義務はなし」

 

「リリカさんが言ってたやつっすね」

 

「三つ目。ガルドとその手下たちへの厳罰。あいつらがやったことは許さない」

 

 トトの腫れた顔を思い出し、リーシェの声が一瞬だけ冷たくなった。

 

「四つ目。月桂樹亭への補償。大将には……迷惑をかけたわ……」

 

「大将……元気にしてるかなぁ……」

 

「五つ目。ワイバーンの素材の市場価格での買い取り。現金化で揉めるのも嫌だから全部買い取ってもらいましょう。王国にとってもメリットでしょうし」

 

「商売上手っすねぇ」

 

「んーと、このくらいかしら?」

 

 クビをかしげるリーシェ。

 

『六つ目。不干渉条項。監視、尾行、強制召喚の禁止。それから魔法契約にしなきゃ』

 

 リリカがアドバイスする。

 

「あぁなるほど、そうね……」

 

 リーシェはメモった。

 

「さすがリリカさん、完璧っすね!」

 

「……以上。これで静かに暮らせるはず」

 

 リーシェはゆっくりとうなずいた。

 

「やったぁ!」

 

 トトはようやく見えてきた出口に思わずこぶしを突き上げる。

 

『後は奴らにウンと言わせるだけね。どうなりますやら』

 

 リリカの声が、リーシェの脳内で響いた。

 

「ちゃんと手伝ってよ?」

 

『まーかしときーって!』

 

 リリカはニヤリと笑うと、自分の胸を叩いた。

 

「さて、清書しますか……」

 

 リーシェはため息をつくと、返事を羊皮紙に丁寧に書いていく。

 

 果たしてどんな交渉になるのやら――?

 

 『ハイ分かりました』だなんてことはさすがにないだろう。

 

 リーシェは、まだまだ静かな暮らしへの道のりは遠いことにうんざりしながらも、鳩の足に返事を結ぶ。

 

 白い鳩は朝の空に舞い上がっていった。

 

 

         ◇

 

 

 午後。

 

 王宮から豪奢な馬車が迎えに来た。

 

 黒塗りの車体に金の装飾。王家の紋章が扉に刻まれ、四頭立ての白馬が(いなな)いている。御者は正装の老人で、白い手袋をはめた手で扉を開き、リーシェとトトにうやうやしく頭を下げた。

 

「……大袈裟ね」

 

「い、いやいや、すごいっすよこれ! 王族の馬車じゃないっすか!」

 

 トトが目を輝かせている。革張りのステップに足をかける前から、もう子供のようにそわそわしていた。

 

 リーシェはそんなトトを見ながら面倒くさそうに馬車に乗り込む。

 

 座席は深い紅色の革張りで、腰を下ろすと身体が吸い込まれるように沈んだ。車内にはほのかに優雅な香りが漂っている。白檀か、何かの花か。冒険者では一生かぐことの無い、別世界だった。

 

「うわー、クッションふっかふかっすよぉ!」

 

「トト? 遊びに行くんじゃないわよ?」

 

「あ、そうっすね。すんません」

 

 リーシェは大きくため息をつくと、窓の外に目を向けた。

 

 麦畑は午後の風に揺れ、ウェーブが流れている。振り向けば小屋は小さくなっていく。

 

 小屋で和睦交渉をした方が有利ではあったが、引き伸ばされ、時間をかけられては自分の精神状態が持たない。虎穴に入らずんば虎子を得ず。乗り込んで今日一気に片を付けてやることにしたのだ。

 

 すべての抵抗をへし折れば契約を結ばざるをえないだろう。

 

 リーシェはキュッと口を結んだ。

 

 馬車が王都の門をくぐり、石畳の大通りを進んでいく。道行く人々が豪奢な馬車を振り返り、羨望のまなざしを投げかけてくる。だが、その中に乗っているのが、つい先日まで宿屋で安茶を啜っていた少女と料理人だなどと、誰が想像できようか。

 

 

         ◇

 

 

 その頃。

 

 王宮の会議室では、首脳陣が再び顔を突き合わせていた。

 

「どうやら乗り込んだようです。やはり料理人と黒髪の魔女でした」

 

 報告を受けた治安局長レオルドが、意気揚々と伝えた。あの蒼白な顔はどこへやら、失地回復の好機に鼻息が荒い。

 

「いいか? 今度は失敗は許されんぞ?」

 

 宰相グレンヴァルが険しい眼光でレオルドを射抜いた。

 

「大丈夫です! 毒に伏兵に爆裂魔道具。万に一つも失敗はありません!」

 

 レオルドは自信満々に胸を張った。罠には自信があるのだ。卑怯な手を使って相手をからめとる。それは自分の得意とするところだった。

 

「ヴァルゲン殿も頼んだぞ?」

 

「奇襲は任せろ。どんなに凄い魔法であっても、奇襲には対応できんからな。はっはっは!」

 

 騎士団長ヴァルゲンが豪快に笑った。銀の鎧の胸板を叩き、すでに勝った気分でいる。過去、多くの魔法使いをその腕で葬ってきた実績がその自信を支えていた。

 

「王宮内に引き入れてしまえば袋の鼠。いかようにでも制圧できますからな」

 

 参謀総長カーティスも珍しく自信を覗かせた。眼鏡の奥の冷たい目が、机上に広げた伏兵の配置図を見つめている。

 

 

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