美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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73. コペルニクス的転回

「宇宙とは……この『見える世界』じゃない、その裏にある『情報の世界』が本質だったのだ!」

 

 そう、宇宙は目に見えている世界の裏の『情報』でできていたのだ。

 

 コペルニクス的転回。天が動くのではなく地が動く。物質があるのではなく『情報』が『物質があるように見せていた』のだ。その発想の逆転に辿り着いた瞬間、今まで説明できなかった全ての矛盾が、パズルのピースのように噛み合い始めた。

 

 星も、光も、重力も、時間も、全ては情報の表れに過ぎない。物質とは情報が描く一つの形態であり、空間とは情報が配置される座標系であり、法則とは情報同士の関係性を記述した規則に過ぎない。

 

 宇宙の本質は、情報だった。

 

 途方もないスケールのブロックチェーン、【アカシックレコード】――それこそが宇宙の正体だった。星々が輝き、銀河が渦巻き、生命が営まれるこの壮大な世界は、アカシックレコードに書き込まれた情報をリアルタイムに描画し続ける、巨大な表示層(レンダリング・レイヤー)に過ぎなかったのだ。

 

 私たちが「現実」と呼ぶ空間は、タイムスライスごとに更新される表示デバイスの出力画面。宇宙とは、言ってみればプログラムが走っている一つの演算装置だった。

 

 

         ◇

 

 

 最初、この奇抜な発想はバカにされ、嗤われた。

 

「馬鹿げている」「妄想だ」「科学者の恥さらしだ」

 

 学会は冷笑し、同僚は距離を置き、論文は査読すら通らない。孤立した物理学者は嘲りの中でただ一人、自分の理論を磨き続けるしかなかった。

 

 しかし――それは地動説を嗤い、罰した教会と同じだった。

 

 量子力学的実験から出てくる奇妙な結果の数々。二重スリット実験の不可解な干渉パターン。量子もつれの超光速相関。観測者効果の謎。それらは「物質」を基盤にした理論からでは、どうしても綺麗に説明できなかった。

 

 だが【情報】を基盤にすれば、全てが簡潔に、美しく説明できた。

 

 天動説より地動説。

 

 より簡単に説明できる方が正しいとするのが、科学の鉄則だった。

 

 潮目が変わるのに、そう長くはかからなかった。追試が成功し、予測が的中し、嗤っていた学者たちが一人、また一人と沈黙していった。かつて「妄想だ」と吐き捨てた同僚が、ある日無言で握手を求めてきた。論文を門前払いした学会が、特別講演を依頼してきた。

 

 世界の見え方が、変わったのだ。

 

 そして次の問いが、自然と浮かび上がった。

 

 これほど壮大で精巧な情報システムであれば――当然、管理者がいる。

 

 それは知的生命である必要はなかった。ただ、放っておけばノイズやゴミデータの山になるはずの情報システムが、これほどの秩序を保っている。銀河は整然と渦を巻き、星は何十億年も安定し、生命はそのサイクルをクルクルとまわしながら進化出来てきた。

 

 誰かが交通整理をしなければ、決してこんな世界は生まれない。

 

 管理者は、淡々と条件反射で日当たりのいい方へ枝を伸ばす樹木のようなものかもしれない。知性があるかどうかも分からない。ただ、それでも問い合わせに対して何らかの反応は返すだろう。システムに対するクエリには、必ずレスポンスがある。それがシステムの本質だ。

 

 ならば――問いかけてみてはどうだろうか?

 

 もし返事が来て、管理者の意向に合う提案ができれば、自分たちの望む宇宙を手に入れられるのではないか。独自の物理法則を組み込める。不老不死も実現できる。魔法すら実装できる。まるでVRMMOのように、あらゆるパラメータを自由に定義できる宇宙が。

 

 科学者たちは目の色を変えた。

 

 管理者との対話装置の開発。それが、次の目標になった。

 

 

         ◇

 

 

 彼らが開発したのは、量子アレイ端末【QAT】だった。

 

 原理は明快だった。この世界は量子の不思議なふるまいの上に構築されている。ならば、自然界では決して表れない量子の特殊状態を人為的に提示することが、管理者へのビーコンになる。通常ではありえない量子状態を強引に作り出し、それをアカシックレコードの基底層に直接示す。管理者にとっては、自分のシステム内に発生した「想定外の異常」として認識されるはずだ。

 

 異常には、応答がある。それが持続的システムの本質だ。

 

 量子コンピューターのデバイスを改良し、量子もつれの網を幾重にも重ね、情報の基底層に直接アクセスするインターフェースを構築していった。試作と失敗を繰り返し、理論を修正し、また試作し、また失敗する。何度も行き詰まり、何度も投げ出しかけた。

 

 十年が過ぎた――。

 

 初号機のQATがついに完成する。

 

 端末に火が入った日。

 

 一族の全員が固唾を呑んで画面を見つめていた。研究室は静まり返り、機器の冷却ファンの低い唸りだけが響いている。科学者たちの額に汗が浮かび、指先が震えている。誰もが、これが歴史上最大の瞬間になることを予感していた。

 

「初期化完了! いつでも行けます!」

 

 若いオペレーターの声が、張り詰めた空気を切り裂いた。計器類を確認し終えた彼の声にも、微かな震えが混じっている。

 

 一族の長が、深く息を吸った。

 

「よし……。やってみろ……」

 

 

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