美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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75. 最有力女神候補

 歓喜の熱が冷めやらぬうちに、一族は競うように提案を作り始めた。

 

 多様性が花開く宇宙の設計図。新しい物理法則。新しい生命のかたち。新しい文明の種。それらを量子アレイ端末【QAT】に入力し、神宮書記官(メタトロン)に提出した。

 

 だが――どれほど魅力的な提案を入力しても、神宮書記官(メタトロン)却下(リジェクト)コードしか返してこなかった。

 

 戦争をテーマにした世界。リジェクト。

 極限の生存競争を組み込んだ世界。リジェクト。

 知性の進化を最優先にした世界。リジェクト。

 

 何十、何百という提案が退けられ、一族の中に焦りと落胆が広がっていった。

 

 考えてみれば当たり前だった。通常思いつくプランなど、宇宙の長い歴史の中でありとあらゆるライバルたちがほとんどやり尽くしているのだ。戦争も、競争も、進化も、全て既に誰かが提案し、どこかの子宇宙で試されている。二番煎じを、神宮書記官(メタトロン)は認めない。

 

 本当の「多様性」とは何か。

 

 一族は頭を抱えた。

 

 その中で、流れる黒髪の美しい、少し変わり者の才媛、レテが一つの提案を送った。

 

 美しい音楽と、それが映える芸術の世界。

 

 争いではなく創造を。競争ではなく共鳴を。人々が美しいものを生み出し、その美しさに触れた者がまた新たな美しさを生み出す。そんな循環を核に据えた、一つの宇宙。

 

 量子アレイ端末に返ってきたコードを見て、一族は狂喜乱舞した。

 

 承認(アクセプト)

 

 初めて。

 

 初めて子宇宙の権限を得た瞬間だった。

 

 レテの手が震えていたという。画面に表示された承認コードを何度も声に出して読み、吸い込まれそうなほど深い黒の瞳に涙を流したという。その逸話は、五万年後の今も語り継がれている。

 

 

         ◇

 

 

 この成功を足がかりに、レテたちは子宇宙の中にさらに孫宇宙を次々と生み出していった。

 

 一つ一つに異なる物理法則を与え、魔法と芸術が共存する世界を創っていった。大地を形作り、海を満たし、空を架け、そこに生命を配置した。人々を置き、言語を与え、文明の種を蒔いた。

 

 過去にない文化を。過去にない芸術を。過去にない思想を。

 

 同じ花ばかりが咲く庭園を、宇宙は望まない。異なる色の花が、異なる形の花が、互いに競い合い、影響し合い、新たな花を咲かせていく。その営みこそが、宇宙の生命力そのものだった。

 

 レテの一族は、その高尚なアートの可能性を信じた。だから必死に星を創り、人々を育て、文明を見守った。

 

 その思いに応えるように、星に暮らす人々は美しく高尚なアートを花開かせていく。音楽が生まれ、建築が聳えた。孫宇宙の数は増え、レテの創った世界は広がり続けた。

 

 だが。

 

  二千年もすると、歓喜の熱はすっかり冷え切っていった。

 

「ワシはもう疲れた……。後は任せたぞ……」

 

 ある日、一族の古老が静かに目を閉じた。コールドスリープの棺に横たわり、最後に一度だけ薄く微笑んで、永い眠りについた。

 

「私もそろそろ……」

 

 また一人。また一人。

 

 レテたち創造者は、永遠には耐えられなかったのだ。

 

 不老は実現していた。肉体は衰えない。細胞は劣化しない。記憶容量は無限に拡張され、身体機能は完全に維持される。

 

 しかし――心の老いだけは、何をやっても止められなかった。

 

 二千年という歳月は、不老の肉体を持つ者にとってすら、途方もなく長い。

 

 最初の数百年は、創造の喜びがあった。新しい星を作り、新しい文明を見守り、新しい芸術に感動する日々。だがやがて感動が薄れていく。驚きが減っていく。何を見ても「以前にも似たようなものがあった」と思うようになる。

 

 心が、飽きたのだ。

 

 不老の一族は、一人、また一人とコールドスリープへ入っていった。永遠の眠りではない。だが、目覚める理由を見つけられないまま、氷の棺の中で時を止めている。二千年。三千年。やがて五千年。眠り続ける一族の数は増え続け、目覚めている者は減り続けた。

 

 もちろん、子宇宙の中には多くの人々が暮らしている。だが彼らは被造物であり、宇宙を管理する権限を持たない。一方で創造主たる一族は少子化が進み、後継者不足に陥っていた。世界を創った者たちが眠りにつき、世界は管理者を失いつつあった。

 

 だが、レテだけは別の道を選んだ。

 

 自分自身のクローンを作ること。

 

 基礎的な記憶と権能を引き継いだクローンを生み出し、そのクローンが新たな「自分」として世界を見守る。クローンの心が老いれば、次のクローンに権限を移譲する。永遠に終わらない、意志のリレー。

 

 レテは、このルーチンの確立に成功した唯一の存在だった。

 

 他の一族が氷の中で眠る間も、レテだけは世代を重ね続けた。十年おきに、十数個ある孫宇宙のそれぞれにクローンを産み落とす。生まれたクローンたちは互いの境遇も知らぬまま、それぞれの星で育ち、学び、力を磨いていく。

 

 そして、競争する。

 

 全く同じ遺伝子を持つクローンであっても、育った環境によって全く異なる性格を帯びる。穏やかな星で育てば穏やかな者になり、厳しい星で育てば鋭い者になる。同じ種から、異なる花が咲く。それこそが生命のダイナミズムだった。

 

 最も優秀な者が、次代の女神候補となる。レテの名を、権能を、そして宇宙を育てる責務を引き継ぐ。残りのクローンたちは静かに余生を送る。

 

 四千回を超えても、このサイクルは繰り返されてきた。

 

 そしてリーシェは――四千八百三十七番目のサイクルで生まれた、最有力の女神候補だった。

 

 

 

 

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