美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~ 作:月城 友麻
それ以外、何もわからない。鑑定スキルが完全に弾かれている。これほどの存在は、リーシェの知る限り、レテの管理宇宙には片手で数えるほどしかいない。
「あんた、何者よ」
リーシェはきっと睨みつけた。声に怯えはない。むしろ、未知への挑戦に火がついた目。
「あら、別にあなたの敵じゃないわよ。まぁ、味方でもないけど。ふふっ」
シアンは肩をすくめた。その仕草が、妙に人間くさかった。
「何よ。何しに来たのよ」
「ちょっと、行き詰まってるみたいだからアドバイス?」
シアンが小首を傾げた。碧い瞳が、いたずらっぽく光っている。
「アドバイス……?」
「この星は確かに洗練されて美しく、高尚な世界だわ」
「そうよ! それが我がレテの誇りよ!」
リーシェは胸を張った。この星を愛している。この星の文化を誇りに思っている。五千年の音楽。一万年の建築。全てが極限まで磨き上げられた、美の結晶。
「でも――それだけだわ」
シアンの声が、すっと温度を下げた。
「……え?」
「美しく高尚、それはとても素晴らしいこと。でも――それだけ」
「それだけ」が、繰り返された。柔らかい声だったが、刃のように鋭い。
「何よ! 素晴らしいならいいじゃない! この曲だって五千年の歴史が――」
「ははっ」
シアンは遮るように肩をすくめた。
「確かに一つの究極の形かもね。でも、そこには例えば――熱狂がないわ」
「熱狂……ですって?」
「パッション。絶叫する魂の叫び。理性なんか吹っ飛ばして、身体の芯から湧き上がる衝動。そういうもの」
「いや……でも……」
「いい?」
シアンの碧い瞳が、真っ直ぐにリーシェを見た。妖しい笑みが消え、その奥にある途方もなく深い知性が覗いた。
「宇宙が求めているのは『多様性』。美しさにこだわり、凝り固まった結果、あなたたちの世界はもう何万年も取り残されているのよ」
「多様性なら私たちにだって――」
リーシェが反論しかけた、その時だった。
シアンがブンと両手を広げた。
瞬間、世界が裂けた。
◇
うぉぉぉぉぉぉぉ!!!
いきなり絶叫の
「ひっ、ひぃぃぃ! 何なのよコレ!!」
リーシェは悲鳴を上げた。
暗闇の中に、光が爆発している。
目の前には巨大なステージがあった。眩いスポットライトが交差し、レーザービームが夜空を切り裂いている。ステージの上には人間たちがいた。楽器を抱え、マイクを握り、全身で音をぶつけ合っている。
そして、その音が――重低音がリーシェの下っ腹を直接殴りつけた。
ドラムが大地を揺らし、ベースが内臓を震わせ、エレキギターが空気を引き裂く。ヴォーカルが喉の奥から絞り出す叫びは、リーシェの知る「歌」とはまったくの別物だった。美しさの欠片もない。洗練とは程遠い。だがそこには、五千年の歴史を持つレテの旋律にはなかった何かが――溢れ返っていた。
「こ、こんなの雑音よ!」
リーシェは両手で耳を押さえた。鼓膜が割れそうだ。こんなものは音楽ではない。騒音だ。暴力だ。
だが――周囲を見て、言葉を失う。
数万人の観客が、腕を突き上げていた。
汗だくで。声を枯らして。目を輝かせて。理性などとうに捨て去った顔で、全身を音に預けている。隣の人間と肩をぶつけ合いながら、笑っている。泣いている。叫んでいる。重低音の振動が身体を貫くたびに、歓喜の絶叫が波のように広がっていく。
「どうなってんのこれ……?!」
リーシェは信じられない思いで辺りを見回した。
数万人。数万人の人間が、一つの音楽に熱狂している。身体を揺らし、拳を突き上げ、見知らぬ隣人と声を合わせて歌っている。
レテのコンサートといえば、数百人が静かに着席し、演奏に耳を傾けるものだった。拍手は上品に。歓声は控えめに。それが音楽を楽しむ正しい作法だと、リーシェは信じていた。
それが最高だと。
それが唯一だと。
でも今、数万人の熱狂の渦の中に放り込まれて――リーシェの信念が、足元から揺らいでいた。
「じゃあ、次はこれね」
シアンの声が、どこからともなく響いた。
◇
景色が変わった。
ぽすっ、と柔らかい座席に沈み込む感覚。暗い室内。目の前には、想像もつかないほど巨大なスクリーンが広がっていた。
映画館だった。プレミアムシート。
スクリーンが光り、映像が流れている。
夜空。
月明かりの下、一人の女性が宙クルクルと舞っていた。長い髪が風になびき、その手から無数の爆弾が放たれる。爆弾は夜空に弧を描きながら落下し、眼下のビル群に次々と着弾した。
爆発。爆発。爆発。
ビルが芸術的に砕け散っていく。炎の柱が夜空を染め、破片がスローモーションで舞い上がる。その映像表現の凄まじさに、リーシェは目を見開いた。