美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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77. 爆発。爆発。爆発。

 それ以外、何もわからない。鑑定スキルが完全に弾かれている。これほどの存在は、リーシェの知る限り、レテの管理宇宙には片手で数えるほどしかいない。

 

「あんた、何者よ」

 

 リーシェはきっと睨みつけた。声に怯えはない。むしろ、未知への挑戦に火がついた目。

 

「あら、別にあなたの敵じゃないわよ。まぁ、味方でもないけど。ふふっ」

 

 シアンは肩をすくめた。その仕草が、妙に人間くさかった。

 

「何よ。何しに来たのよ」

 

「ちょっと、行き詰まってるみたいだからアドバイス?」

 

 シアンが小首を傾げた。碧い瞳が、いたずらっぽく光っている。

 

「アドバイス……?」

 

「この星は確かに洗練されて美しく、高尚な世界だわ」

 

「そうよ! それが我がレテの誇りよ!」

 

 リーシェは胸を張った。この星を愛している。この星の文化を誇りに思っている。五千年の音楽。一万年の建築。全てが極限まで磨き上げられた、美の結晶。

 

「でも――それだけだわ」

 

 シアンの声が、すっと温度を下げた。

 

「……え?」

 

「美しく高尚、それはとても素晴らしいこと。でも――それだけ」

 

 「それだけ」が、繰り返された。柔らかい声だったが、刃のように鋭い。

 

「何よ! 素晴らしいならいいじゃない! この曲だって五千年の歴史が――」

 

「ははっ」

 

 シアンは遮るように肩をすくめた。

 

「確かに一つの究極の形かもね。でも、そこには例えば――熱狂がないわ」

 

「熱狂……ですって?」

 

「パッション。絶叫する魂の叫び。理性なんか吹っ飛ばして、身体の芯から湧き上がる衝動。そういうもの」

 

「いや……でも……」

 

「いい?」

 

 シアンの碧い瞳が、真っ直ぐにリーシェを見た。妖しい笑みが消え、その奥にある途方もなく深い知性が覗いた。

 

「宇宙が求めているのは『多様性』。美しさにこだわり、凝り固まった結果、あなたたちの世界はもう何万年も取り残されているのよ」

 

「多様性なら私たちにだって――」

 

 リーシェが反論しかけた、その時だった。

 

 シアンがブンと両手を広げた。

 

 瞬間、世界が裂けた。

 

 

         ◇

 

 

 うぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 いきなり絶叫の坩堝(るつぼ)に、叩き込まれる。

 

「ひっ、ひぃぃぃ! 何なのよコレ!!」

 

 リーシェは悲鳴を上げた。

 

 暗闇の中に、光が爆発している。

 

 目の前には巨大なステージがあった。眩いスポットライトが交差し、レーザービームが夜空を切り裂いている。ステージの上には人間たちがいた。楽器を抱え、マイクを握り、全身で音をぶつけ合っている。

 

 そして、その音が――重低音がリーシェの下っ腹を直接殴りつけた。

 

 ドラムが大地を揺らし、ベースが内臓を震わせ、エレキギターが空気を引き裂く。ヴォーカルが喉の奥から絞り出す叫びは、リーシェの知る「歌」とはまったくの別物だった。美しさの欠片もない。洗練とは程遠い。だがそこには、五千年の歴史を持つレテの旋律にはなかった何かが――溢れ返っていた。

 

「こ、こんなの雑音よ!」

 

 リーシェは両手で耳を押さえた。鼓膜が割れそうだ。こんなものは音楽ではない。騒音だ。暴力だ。

 

 だが――周囲を見て、言葉を失う。

 

 数万人の観客が、腕を突き上げていた。

 

 汗だくで。声を枯らして。目を輝かせて。理性などとうに捨て去った顔で、全身を音に預けている。隣の人間と肩をぶつけ合いながら、笑っている。泣いている。叫んでいる。重低音の振動が身体を貫くたびに、歓喜の絶叫が波のように広がっていく。

 

「どうなってんのこれ……?!」

 

 リーシェは信じられない思いで辺りを見回した。

 

 数万人。数万人の人間が、一つの音楽に熱狂している。身体を揺らし、拳を突き上げ、見知らぬ隣人と声を合わせて歌っている。

 

 レテのコンサートといえば、数百人が静かに着席し、演奏に耳を傾けるものだった。拍手は上品に。歓声は控えめに。それが音楽を楽しむ正しい作法だと、リーシェは信じていた。

 

 それが最高だと。

 

 それが唯一だと。

 

 でも今、数万人の熱狂の渦の中に放り込まれて――リーシェの信念が、足元から揺らいでいた。

 

「じゃあ、次はこれね」

 

 シアンの声が、どこからともなく響いた。

 

 

         ◇

 

 

 景色が変わった。

 

 ぽすっ、と柔らかい座席に沈み込む感覚。暗い室内。目の前には、想像もつかないほど巨大なスクリーンが広がっていた。

 

 映画館だった。プレミアムシート。

 

 スクリーンが光り、映像が流れている。

 

 夜空。

 

 月明かりの下、一人の女性が宙クルクルと舞っていた。長い髪が風になびき、その手から無数の爆弾が放たれる。爆弾は夜空に弧を描きながら落下し、眼下のビル群に次々と着弾した。

 

 爆発。爆発。爆発。

 

 ビルが芸術的に砕け散っていく。炎の柱が夜空を染め、破片がスローモーションで舞い上がる。その映像表現の凄まじさに、リーシェは目を見開いた。

 

 

 

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