美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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93. 御在位六十年

「お金はあるの?」

 

「お金? お金ね、あるわよ、ほら」

 

 リーシェは自信満々で、収納しておいた金貨を手の中に出す。

 

 事前に準備しておいた、十万円金貨。

 

 お金はやはり金貨が安心される。どの宇宙でも、金には普遍的な価値がある。コンシェルジュで調べたところ、日本にも金貨が存在するとあったので、さっき権能を使ってコピーしておいたのだ。完璧な準備だった。

 

 リーシェは掌の上に、輝く金貨を載せて差し出した。

 

「え……? ナニコレ……?」

 

 店員が、怪訝そうな表情で金貨を手に取った。

 

 いろいろな角度から眺める。裏返す。照明に反射させる。指で弾いて音を聞く。

 

 菊の御紋の周りには『日本国・御在位六十年・拾万円・昭和六十一年』と刻まれている。

 

「うーーーーん……」

 

 店員が首をかしげる。

 

「金貨ですよ、金貨。日本で使えるって……」

 

 リーシェはそう言いながら、不安になってきた。

 

 おかしい。コンシェルジュの情報では「使える」と出ていたのに。なぜ店員に通じないのだ。まさか偽物と思われているのか。いや、権能でコピーした以上、物質としては完璧な純金のはずだ。

 

「てんちょー! 金貨って使えるのぉ?」

 

 店員は慌ててレジの奥に引っ込んでいった。

 

 リーシェは店内に取り残され、不安げに古着の間で立ち尽くした。日本には金貨を扱う何か特別なルールがあるのだろうか?

 

 しばらくして、店員が戻ってきた。

 

「ごめん、うちでは扱えないって」

 

「え……でも……」

 

「これ、本物?」

 

「本物ですよ! この重さ、純金ですよ?」

 

 リーシェは金貨を手に取り、ずしりとした重みをアピールした。純金二十グラム。物質としての価値は疑いようがない。コンシェルジュは『溶かしたって六十万円で売れる』と言っていた。

 

 店員はしばらく金貨を見つめていた。ピアスの付いた唇をぎゅっと結び、何かを考え込んでいる。

 

 そして、にやりと笑った。

 

「うーん、じゃ、こうしよう!」

 

 店員が人差し指を立てた。

 

「金貨はあたしが買うわ。でもキャッシュはそんなに持ってないから、カードであなたの買いたいもの買ってあげる。いいでしょ? ふふっ」

 

 目が輝いている。打算と好奇心が入り混じった、悪戯っぽい輝き。この少女は、損得勘定が速い。

 

「あ、それは助かります」

 

 リーシェはほっと胸を撫で下ろした。

 

「よーし! じゃ、何買いたいの? 靴?」

 

「服も全部見繕ってほしいの」

 

 リーシェは店員の目を真っ直ぐに見た。

 

「おぉ! まっかせなさーーい!」

 

 店員はにっこりとサムアップする。

 

「……あ、もしよかったら、この街も案内してくれないかしら? 金貨はたくさんあるので」

 

 リーシェは金貨を数枚取り出してみせた。きらきらと輝く金の円盤が、薄暗い古着屋の照明を反射して店内を黄金色に照らす。

 

 店員の目が、まん丸になった。

 

「おほぉぉぉ! おっ金持ちねぇ!」

 

 ピンクの髪を掻き上げ、店員が満面の笑みを浮かべた。入れ墨の入った腕で、リーシェの肩をパンと叩く。

 

「いいわよ? もうすぐバイト時間も終わりだからさ、渋谷を丸々案内してあげるわ。豪遊と行くわよゴーユー! ヒャッハー!!」

 

 店員は拳を突き上げ、その声が狭い古着屋に響き渡った。

 

 リーシェは思わず笑ってしまう。

 

 この子のテンションは、レテにはない種類のエネルギーだった。高尚さも洗練さもないけれど、底抜けに明るくて、ストレートで、一緒にいるだけで気持ちが軽くなる。

 

 これが日本の人間。

 

 これが「多様性」の一つの形。

 

「あたしはサラ。あなたは?」

 

「え? リ、リーシェ。リーシェよ」

 

 一瞬、こんなところで本名を出してよいのかと迷ったが、偽名などすぐには思いつかない。結局そのまま本名を伝えた。

 

「リーシェね。よろしく! さ、まずは靴からいってみよーう!」

 

 こうして、古着屋の店員サラをガイドにすることに成功したリーシェは、日本を満喫することになる。

 

 素足の女神候補と、ピンク髪の古着屋店員。

 

 奇妙な凸凹コンビの、渋谷巡りが始まる――。

 

 

      ◇

 

 

 小一時間後、リーシェは別人になっていた。

 

 サラが見立てたのは、黒のスキニージーンズにオーバーサイズの白いTシャツ、その上に薄手のカーキ色のジャケット。足元は黒い厚底のブーツ。シンプルだが、それぞれのアイテムのバランスが絶妙で、リーシェの黒い髪と白い肌によく映えていた。

 

「うん、いい感じ! あんた意外とスタイルいいのね」

 

 サラが腕を組んで満足げに頷いた。

 

(意外とって何よ……。これでも女神候補ナンバーワンなのよ!)

 

 内心ムッとしながら、リーシェは鏡に映る自分を見つめた。レテSのクラシカルなワンピースを着ていた少女は、もういない。鏡の中にいるのは、渋谷の街に溶け込んだ一人の少女。

 

 悪くない。

 

 いや、正直に言えば――かなり、良い。

 

「オッケー! じゃぁ、行くわよ! ヒャッハー!!」

 

 サラがリーシェの腕を掴み、店を飛び出した。

 

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