美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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97. かわいいは正義

「ほうら! みんな悔しがってるわ!」

 

 サラは画面を見せびらかし、満面の笑みを浮かべた。

 

「凄いわ……」

 

 リーシェの声は、感嘆だった。

 

 だがそれは、レアモンスターの捕獲に対する感嘆ではなかった。

 

 たかが、色違い一つなのだ。

 

 首元の色が緑か青かの違い。それだけのこと。機能が違うわけでも、強さが変わるわけでもないだろう。ただ色が違うだけ。

 

 なのに、サラは本気で喜んでいる。そしてSNSの向こうにいる何人もの友人たちが、本気で悔しがっていた。可愛いスタンプを矢継ぎ早に送りつけて、心の底から羨ましがっている。

 

 こんな些細な色の違い一つで、これだけの人間が本気になる。

 

 それだけこの可愛いキャラクターが、人々の暮らしに深く深く根を下ろしているということだ。ゲームの中だけの存在ではない。SNSのスタンプにもなり、看板にもなり、日常会話のネタにもなる。人々の喜怒哀楽の表現手段にまでなっている。

 

 レテには、こんな文化はなかった。

 

 子供がクマのぬいぐるみを可愛がることはある。だがそれは子供の特権であり、大人がやることではなかった。レテSで大人が可愛いものに本気で熱中していたら、未熟だと見なされる。洗練されていない、幼稚だと。

 

 だから、レテでは可愛いキャラクター文化は育たなかった。育つ前に、大人の美学が摘み取ってしまった。

 

 でも。

 

 リーシェはサラのスマートフォンの画面を見つめた。まだスタンプが増えている。可愛いキャラクターたちが、可愛いリアクションで、可愛いモンスターの色違いに一喜一憂している。

 

 だからこそ、なのだ。

 

 大人が「可愛い」を恥じない文化だからこそ、可愛いキャラクターのデザインに信じられないほどの多様性が生まれている。色違い一つで歓喜する消費者がいるから、作り手は色違いの一つ一つに心を砕く。スタンプの表情一つに全力を注ぐ。可愛さの追求が際限なく深まり、広がり、枝分かれしていく。

 

 それは宇宙が求める「多様性」そのものではないか。

 

 レテが「上品であれ」と律した結果、切り捨てたもの。排除した表現の領域。その領域を、日本は全力で開拓していた。

 

「くっ……」

 

 リーシェは唇をきゅっと結んだ。

 

 上品であること。洗練されていること。高尚であること。それらはレテの誇りだった。だがその誇りの裏側で、どれだけの可能性を殺してきたのか。どれだけの「多様性」を、自らの手で摘み取ってきたのか。

 

 首元が緑か青かの違いで歓喜するサラの笑顔が、リーシェの胸に刺さっていた。

 

 

         ◇

 

 

 スクランブル交差点を渡っている時だった――。

 

 サラと並んで横断歩道を歩いていた。周りには数百人の人間が同じ方向に流れていて、二人はその波に身を任せて渋谷の夕暮れを楽しんでいた。

 

 足元が、光った――。

 

「へっ!?」

 

 リーシェが見下ろした瞬間、足元のアスファルトが眩く黄金色に輝き始めた。光は円形に広がり、リーシェとサラの足を包み込んでいく。

 

 輝く沼だった。

 

 アスファルトが黄金色の泥沼のように変質し、二人の足がズブズブとめり込んでいく。膝まで。腿まで。粘つく光の沼が、まるで生き物のように二人を呑み込もうとしている。

 

「な、何これ!? リーシェ!?」

 

 サラが悲鳴を上げた。

 

 身動きが取れない。足を引き抜こうとしても、光の沼が吸いつくように離さない。

 

 周囲の人々が悲鳴を上げて距離を取った。交差点の真ん中で、二人の足元だけが異常な黄金色に輝いている。立ち止まった人々がスマートフォンを構え、パシャパシャとカメラのシャッター音が鳴り響く。

 

 大騒ぎだった。

 

 渋谷のスクランブル交差点の真ん中で、異常事態が発生している。信号が変わっても、周囲の人々は動かない。パッパー!とクラクションの鳴り響く中、遠巻きに見守りながら、全員がスマートフォンを向けている。

 

 (見つかった……!)

 

 リーシェはギリッと奥歯を鳴らす。

 

 ついに来た。この宇宙の管理者側が、侵入者を捕らえにきたのだ。

 

 迷っている暇はなかった。

 

 リーシェは女神の権能を展開した。背中にブワッと黄金色の光背が広がり、夕暮れの渋谷を昼間のように照らし出す。スマートフォンのシャッター音が一斉に鳴り響いたが、もう構っていられない。

 

 女神の権能【空間跳躍】。

 

 リーシェはサラの腕を掴み、光の沼ごと空間を飛び越えた。渋谷の交差点から瞬時に離脱し、数ブロック先の人気のない路地裏に着地する。

 

「ふぅ……」

 

「えっ?! えっ!?」

 

 サラは一体何が起こったのか分からずキョロキョロしながら困惑している。

 

「もう行かなくちゃ。ありがとう! これはお礼よ」

 

 リーシェは残りの金貨を全てサラの両手に押し込んだ。ずしりとした重みがサラの掌に載る。

 

「えっ、えっ!? リーシェ……何、その背中の光は……?」

 

 サラの目が、まん丸に見開かれていた。金貨よりも、背中に輝く光背に釘付けになっている。ピンクの髪が、リーシェの光背に照らされて金色に輝いていた。

 

 

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