美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~   作:月城 友麻

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99. 斬り裂かれる魂

「そうよ? あなた達じゃ私には勝てないわ。だから責任者を――」

 

 リーシェが勝ち誇ったように笑みを見せた時だった。

 

「その通りね……でも……」

 

 金髪の少女が、意味ありげに笑った。

 

 パチン!

 

 指を鳴らす音が、夕暮れの空に響く――。

 

 リーシェの足元が、真っ青に輝いた。

 

「――え?」

 

 見下ろせば巨大な魔法陣がビルの屋上いっぱいに展開されていた。いつの間に。さっきまでこんなものはなかったではないか。最初から仕込まれていたのか?

 

「しまった!」

 

 リーシェは空間跳躍をしようとしたが――。

 

 パキィィィン!!

 

 ガラスが砕けるような音が、空に響き渡った。

 

 なんと空間跳躍がキャンセルされてしまったのだ。

 

 ビルの屋上が真っ青に輝く。光が足元から全身に這い上がり、身体の自由を奪っていく。

 

 女神の権能で作られた魔法陣。

 

 天使たちのものではない。多分彼女たちの上司――この宇宙の女神クラスが、こんな時のためにあちこちの要所に仕込んでおいたトラップなのだろう。女神の権能で構築された拘束陣をマトモに喰らえば、女神の権能を使えても容易には解除できない。

 

「くぅぅぅ……」

 

 全身が痺れた。指先も、足も、首すらも動かない。

 

 四人の天使が取り囲んでくる。

 

「おとなしくしてね? 痛くしないから。ふふっ」

 

 黒髪の少女が剣を構え、一歩一歩近づいてくる。その足取りには勝者の余裕があった。

 

 ――まずい。

 

 捕まったら終わりだ。この宇宙の取調室に入れられたら、レテの情報が全て引き出される。最悪の場合、神宮書記官(メタトロン)へ抗議され、レテの宇宙そのものが危険に晒されてしまう。

 

 自分のせいで――。

 

 緊急避難。

 

 最後の手段。

 

「ナ、ナイナイ……」

 

 声が震えていた。唇しか動かない。だがそれで十分だった。

 

 リーシェは自分自身を、収納空間へと取り込み始めた。

 

 自分で自分を収納する。あの収納空間の中に、自分の存在ごと格納する。肉体も精神も、存在そのものを虚空に仕舞い込む。できるかもしれないと言われていたが、危険すぎて誰もやったことのない荒業だった。だが死んでも捕まるわけにはいかないのだ――。

 

 リーシェの身体が、足先から透明になり始めた。

 

「逃げる気よ!」

 

 金髪の少女の目が見開かれた。

 

「逃がさん!!」

 

 剣が、閃く。

 

 黒髪の少女は渾身の力で剣を振り下ろした。刃が空間そのものを切り裂き、次元の壁に亀裂が走る。その斬撃が、消えかけているリーシェの身体を――真っ二つに、斬り裂いた。

 

 うぎゃぁぁぁ!

 

 痛みというレベルではなかった。

 

 もっと深いところが、斬り裂かれた。

 

 魂が。存在の根幹が。一つであるはずのものが、二つに分かたれていく。リーシェという存在の最も根源的なところの切断。自分の中の「何か」が、ぶちりと千切れる感覚。

 

 そのままリーシェの身体は――二つの光になって、時空の狭間へと吸い込まれていく。

 

 こうして渋谷のビルの屋上から、リーシェの存在は消滅してしまったのだった。

 

 

         ◇

 

 

「あ……」

 

 黒髪の少女が、剣を振り下ろした姿勢のまま固まった。

 

「え……?」

 

 金髪の少女が目を瞬かせた。

 

「ど、どこへ……?」

 

 銀髪の少女が辺りを見回した。

 

「あちゃーー」

 

 赤毛の少女が頭を抱えた。

 

 ビルの屋上には、自分たちしかいなかった。魔法陣の青い光だけが残り、すぐにそれも消えていく。夕焼けに照らされた屋上に、四人の天使だけが取り残されていた。

 

 魔法陣で捕縛したものの、空間を切り裂いた瞬間にその裂け目に落ちていってしまったのだ。

 

 空間の狭間。次元と次元の隙間。一度そこに落ちた者がどこへ行くかは不定だった。隣の孫宇宙に飛ばされるかもしれないし、別の時空に迷い込むかもしれない。永遠にどこにも辿り着けないことも考えられる。追跡などとても不可能だった。

 

 沈黙が、落ちる。

 

 四人は顔を見合わせた。

 

「ど、どうすんのよぉ……」

 

 赤毛の少女が口を尖らせた。さっきまでの威勢はどこへやら、声が情けなく震えている。

 

「ど、どうって……こんなこと報告したら師匠にどやされちゃう……」

 

 銀髪の少女が弓を握り締めながら蒼白な顔で呟いた。

 

「マズいマズいって!」

 

「三日間ご飯抜きにされるわ!」

 

 四人の間に、恐怖が広がっていた。侵入者を取り逃がした恐怖ではない。師匠にとても報告できないことへの恐怖だった。こちらの方が、彼女たちにとっては遥かに切実な問題なのだ。

 

「あれ?」

 

 金髪の少女が、不意に穏やかな声を出した。

 

 三人の目が金髪の少女に集まる。

 

「私たちは今ここで何をしていたんでしたっけ?」

 

 金髪の少女は、しれっとした顔で言い放つ。口元に上品な微笑みを浮かべ、まるで何事もなかったかのように。

 

「え?」

 

「何って?」

 

「私たちは侵入者がいた時の実地訓練をしていただけですわ。そうですよね?」

 

「え?」「あっ」「それって……」

 

 三人の目が、一斉に光った。

 

 

 

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