人工知能(イスクストヴェニ・インテリェクト) 作:名無しさん
スロノフ.exe
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<Body>
これは、親愛なる日本人どもに、電波に乗せて送るラブレター。どうせ、平和で無刺激な日常に飽き飽きとしているのだろう?
圧政もなく、年中凍てつく地域もなく、徴兵もない。生ぬるいにもほどがある。勿論、我が国直々に宣戦布告すれば圧政や徴兵が蘇るかもしれないが、今や彼らはそんなものは望んでいないだろう。
彼ら同士が世の中について考えたとて、起こるのは精々、偽右派vs偽左派の小競り合い程度のものだ。
丁度いいので、我らの精神科学実験に付き合ってもらおう。
どのような精神科学実験か――これ即ち、脳波計測を応用したシンパシーシステムの動作確認だ。
シンパシーシステムたる言葉を聞いてもイマイチ何を表すものなのか理解できないであろうから、軽く説明しておこう。
シンパシーシステムを嚙み砕いてみると、シンパシー/システムと区切ることができるのは誰しも察するに難くないと考える。
では、この二者がどのような関係にあるかが当の言葉の意味を決定づけることになるのは当然の帰結だ。
……もったいぶっても仕方ないのでそろそろ答え合わせをしよう。
ずばり、「シンパシー(を他者に強制させる電波)機構」である。
彼らにとってあまりに突飛な構想を前に茫然としてしまいそうだとは思うが、もう少し私の話を傾聴して呉れ。
さて、察しのいい諸君は既に、「嗚呼、このロシア人madは私欲を満たすために日本人を利用して危うさ満点の実験を執り行おうとしているのだナ……怪しからん怪しからん」と勘づいていることだろう。
単刀直入に言わせてもらえば、それはそうだ。
私とて私欲が全くない状態でこの四年間をシンパシーシステムの構築に費やしたわけではあるまいし、実験の危険性も十分以上に理解している。
では、私欲と危険性を天秤にかけた考慮でどちらへ傾いたか。
当然、前者である。
私欲の方の皿には、鉛玉のような大いなる質量をもったサンクコストも上乗せされるからだ。
西洋の精神科学書を解読するのに一年、国内のアングラ人間とコンタクトを取り、情報や資材を集めるのにもう一年、そしてプログラミングに二年。計四年間にわたる壮大を極めたプロジェクトを、何の実用性も確認できないまま終わらせる択など、全身全霊の片隅にさえなかったのだ。
<Backlog>
※日本語に翻訳済み
Jan/08/31……西洋某国の古書を注文し、輸入させる
Jan/12/31……古書到着。解読作業を開始
Feb/03/31……解読作業を再開。前項より動機不明のブランク有
Jul/24/31……古書の解読を終了
Jul/27/31……現代精神科学の勉強を開始
Aug/15/31……睡眠欲の異常値を検出
Sep/01/31……睡眠欲、正常値に回帰
Nov/07/31……食欲不振、ならびに性欲増大
Jan/17/32……現代精神科学の勉強を終了。以後、定期的な復習を欠かすことあらず
――――
Mar/01/32……回線の高速化、ならびに二名とのコンタクトあり(deleted_link){deleted_link(2)}
Apr/13/32……ストレスの異常値を検出
May/29/32……三月一日にコンタクトした人物の内一名と面会
Jun/04/32……三月一日にコンタクトした人物の内もう一名と面会、ならびにストレス、正常値に回帰
Jun/06/32……直後の項迄移動
Jun/20/32……移動終了
Jun/21/32……六月四日に面会した人物の住居内の回線に接続
Jun/23/32……直後の項迄移動
Jul/06/32……移動終了、ならびに発熱。細菌感染を確認せし。
――――
Dec/19/32……不定期シグナルを送信するも、直後の項迄応答なし
Dec/30/34……シグナル復活。オキシトシンの過剰分泌を検出
メドベティスク.exe
#abstract block
<Body>
null
<Comment>
スロノフ:あ、メドベティスクだけ英語が使えないんだったな。
私が代わりにこの場をお借りしてメドベティスクがやってくれたことについてお話ししよう。
彼は、二、三年前に私と面会して、脳波計測器と本格無線を渡してくれた男だ。
余談だが、彼の体格はその仕事ぶりを雄弁に語るが如き、相当な筋肉質だった。
身長は二メートルに至るか至らないかといったところで、前腕は私の二倍ほどの太さがあったと記憶している。
同性として憧れの念を抱かずにはいられないあの巨体は、かなり印象的だった。
しかし、彼の強奪趣味が悪い方向に傾いた結果として、納品が一ヶ月半以上遅れていたのだがな。
彼曰く、最初の方はそこそこの脳波計測器とアマチュア無線があればいいのだろうと思って地方の医療機関や一般人宅を襲ったそうだが、あまり満足のいく手ごたえが得られず、加えて脳波計測器に関してはあまりにもハンドメイド味が強く、運んでいる途中に腰のピストルにぶつけて壊してしまったそうだ。
いくら地方の医療機関が使うような代物とはいえ、金属製品を輸送中に使い物にならなくするなんて、ガサツにもほどがある。心底呆れた。
そして、彼はより良い手ごたえを得るために、より大規模な医療機関や富裕層の邸宅を襲うだけでは飽き足らず、首都近郊の大学病院やラジオ局まで襲撃したそうな。
無論(と言ったら語弊があるが)、彼は単身で、かつ安物のピストル一丁のみを携えて行った。
褒められたものではないが、彼の強奪手腕には感心する。
もっとも、社会性、秩序その他諸々の能力は致命的と評ずるほかないが。
とにかく、私の私欲から始まった実験に、上等な資材を持ち込んでくれたのは、高地の山奥に棲む熊のような獣然とした風格を醸す大男、強奪魔獣メドベティスク以外の誰でもない。
実際、彼以外では務まらなかった仕事だろう。
形式的な称賛のしるしとして、彼の位置情報を加えて記載しておこう。
<Tracked_placement>
※日本語に翻訳済み
Mar/09/32……ノヴゴロド某保健所、並びに謀一般人宅。直後の項迄ノイズ多し
Mar/20/32……サンクト・ペテルブルグ謀病院、並びに謀邸宅。直後の項迄ノイズ多し
May/02/32……モスクワ近郊の謀大学病院、並びにモスクワ市内のラジオ局
ベーニャ.exe
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<Body>
ベーニャがスロノフに初めて会った時の正直な感想から述べさせてもらうと、"儚い"の一言に尽きるね。
彼の外見の摘要としては――幽霊同然に白い肌、俯き気味な目つき、果てにはそのベースに似つかわしくない偽ブランドのジャージ。故にいつ木っ端微塵になってもおかしくないような扱いづらさがあるような気がしてならなくて、初対面で苦手意識が芽生えてしまったよ。
そんな幸先悪いスタートを切ってしまったベーニャだが、あたしはうまく立ち回ったし、彼にもうまく立ち回ってもらった。
最初は釈然としない言い回しになって申し訳ないねえ。
これから時系列で順を追って話していくからそう焦りなさんな。
ベーニャは割合マメな性格でね……ああ!勿論シラフのときだけね。
スロノフとの行動はメモしておいたんだ。
ひとたび酒が入ると、どうも記憶力ってもんは頼れないから。
ええと、あった!コレだよ。
「三二年六月四日、スロノフとご対面。
とても人の精神をハックできそうにない人柄で、先が思いやられる。
同六日から二十日まで、スロノフと一緒に鉄道でひたすら東へ。
二週間もかかるはずではなかったが、如何せん彼の乗り物酔いが酷かったので、ときどき途中下車せざるを得なかった。
こんな介抱に塗れたデートがあってたまるか!いよいよ彼の貧弱さに辟易してきた。
同二一日、スロノフをベーニャの家の一室に待機させてやった。
彼曰く、『やっと私の仮の持ち場ができて安心した』とのこと。
これだから引きこもりmadは。
その間、ベーニャは飛行機で日本へ移動。
同二二日、東京と大阪の中間あたりにある私立キョーブク学園に訪問し、そこの校長を酔い潰させて学園のセキュリティホールの全部を暴いた。
スロノフの仕事は、彼が持参した脳波測定器と本格無線をベーニャに対してチューニングして、データの受け皿を管制することだ。
先ほども述べた通り、スロノフは貧弱の最終系であるため、現地での仕事には向かないと判断し、いったん国内でノイズがほぼ入ることなく本格無線が機能する位置まで移動してもらって、そこから学園の情シスにまつわるデータを全て受けてもらおうという算段だ。
畢竟、何の困難もなく事は済んだ。
同二三日、ベーニャ帰国。
スロノフは既にベーニャの家に居なかった。
やはり居心地が悪くなったのか、西の方へ戻っていってしまったらしい。
ねぎらいのお酌ぐらいやったらどうなのよ。」
ふむふむ……思い出した思い出した。
二、三年前のことだからなんのこっちゃ分からない記述もあったけれど、おおよそ斯様な調子かな~。
ベーニャのお酒の強さと話術にかかれば、どうってことない仕事だったね。
最近はスロノフとのコンタクトがないから、彼の実験がどんな経過で進んでいるのかは分からない。
でも、彼の欲深さ由来の深煎りコーヒーのような渋い匂いは、成功の兆しなのかもしれないねえ。
ま、貧弱のあまり復路で嘔吐しすぎて野垂れ死んでいるかもしれないけどねっ!あはは。
<Comment>
スロノフ:生きているぞ、ベーニャ。あまり私を見くびるでない。仕返しと言ってもなんだが、その……お前って酒が入ったらなんで堪え堪え血を抜いてるんだ?
#うっさい!ベーニャは"そういう体質"なのよお!
読んで頂きありがとうございます。
一種のコードのような、異質な文章ではありますが、世界観だけでも楽しんでもらえたら嬉しい限りです。