先輩が俺の×××を好きすぎる。~我慢できない先輩に家まで押しかけられてもう俺の×××は限界寸前です~ 作:加賀見真
朝、少し湿った空気を感じながら学校への道を歩く。
夏の初めの6月頭、衣替えした夏服には丁度いい気温で過ごしやすい。
雨も多い時期だけど、幸い今日はその気配もなく晴天だし。
「ふあっ……」
おかげで夜ふかしした身体には朝日がちょっと辛いけど。
帰って寝たくなってきた。
そんなふうにぼーっとしながら歩いていると、そばを通りかかった公園にあるものを見つけてそれに近寄る。
それから少しして、しゃがみ込む俺に後ろから声がかけられた。
「おはようございます、先輩。何してるんですか?」
声の主は同じ学校の後輩女子。
俺が目の前の空間に手を伸ばしてわさわさしていると、後輩がそんなことを聞いてきた。
高校に入ってからは特に部活なんかをやっているわけでもない俺だが、この後輩とは少し前に知り合ってからたまに声をかけられたりする関係だ。
顔を横に向けると視線の高さに彼女の膝と、その少し上にスカートの裾が見える。
短いスカートと緩めたシャツの胸元、明るく染めた髪色の後輩は俺と違って友達とか多そう。
「おはよう後輩、猫を撫でてる」
猫の腹を撫でるような動きをしている俺の手を見て、後輩は自然に笑う。
そのまま俺の隣にしゃがみ込んだ後輩は視線を落とした。
「どんな猫ですか?」
「尻尾が九本あるな」
「九尾の狐ってやつですね。凄いじゃないですか」
「猫だけどなー」
本当に九尾の狐がこんな所にいたら大事件である。
「じゃあ九尾の猫ですね」
「ダサくね?」
なんというか語感が悪い。
「nine tail cats?」
「まあちょっとはマシになったか」
ちなみに正しくはnine tailed catである。
「でも九尾って猫でも凄いんじゃないんですか? 猫又って尻尾何本でしたっけ?」
「二本だな」
「じゃあ猫又4.5ですね」
アプリのバージョン表記かな?
そんな会話を流しながら、下から潜るように動かしていた手を今度は上から撫でるようにわしゃわしゃと動かす。
「それで後輩は登校しないのか」
「んー、あたしはまだいいです」
「誰かに見られても知らんぞ」
「先輩は、あたしと一緒にいるのを人に見られたら困るんですか?」
「なにもない草むらにしゃがみ込んでるのを見られたらって意味なんだが」
はたから見たら不審者確定の様子である。
「あたしは気にしませんよ」
わざわざ付き合うこともなかろうにと思うが、邪険にして追い払うほどでもないので気にせず手を動かす。
それから少しして、満足した俺が腰を上げると後輩も同じようにスカートを抑えて立ち上がった。
「そんじゃ帰るか」
「えっ、学校行くんじゃないんですか!?」
一応まだ始業には間に合う時間。
わざわざ今から家に帰る奴はいないし後輩もそのつもりなんだろうけど。
「いや、なんかもう面倒くさくなったしいいかなって」
「だめですよー、ちゃんと学校行きましょうよ先輩。学校楽しいですよ」
「学校が楽しいって時点で文化が違うんだよなあ」
社交性のある人間とそうでない人間の対比がエグい。
後輩は100人とはいなくても50人くらいは友達いそうだ。
とはいえ、ここまで付き合わせておいて一人で帰るわけにもいかないか。
「んじゃ、行くか」
「はい、先輩」
まっすぐ向かえばちょうどいい頃合いなので、焦ることもなく二人で並んで歩き始める。
すると、後ろから『にゃー』と鳴き声が聞こえた。
そちらに振り返って小さく笑うと、隣の後輩が不思議そうにこちらを見る。
「どうしました、先輩?」
「ん、なんでもない」
今度こそ公園の外へと向いて歩きだす。
視線を切る直前には、確かに猫が九本の尾をこちらへと振っていた。
始業ギリギリに行動するのは学生の常ということで(例外アリ)、周囲には同じように学校に向かう生徒がチラホラと見える。
知り合いの姿は見当たらないけど、そもそも俺に知り合いがいるのかという……、まあいいか。
「昨日のドラマ面白かったですねー、先輩は観ました?」
「何時からのやつ?」
「もちろん9時のですよ」
「ん-、そもそもその時間家に居なかったわ」
昨日のその時間は出かけていたのでドラマは見れていない。
別にドラマに興味なくて話題についていけないとかそういう話ではない、ないのだ。
「え、デートですか?」
「いや、そうはならんやろ。普通に出かけてただけだ」
「んー、先輩は不良ですね~」
「俺はどちらかといえば優等生寄りだが?」
「優等生は授業サボろうとしたりしないんですよ?」
「そういう考えかたもあるかもしれない」
「そういう考えかたしかありませんよ。でも補導とかされないように気を付けてくださいね、ほんとに」
「それなー」
不用意に夜間出歩いてると本当に補導されそうになるから困る。
高校生だからしょうがないんだけどさ。
これが大学生になったら深夜だろうが昼間だろうが外を歩き回ってても許されるんだから羨ましいぜ。
「それで、先輩は外で何してたんですか?」
「ちょっとした頼まれごと」
その行動自体はアルバイトというよりはライフワークという言葉の方が近いんだけど。
「相手は、女の人ですね?」
「世の中には女か男かの二択しかないんだからテキトーに言っても5割で当たるだろ」
「だいじょうぶですか? その発言SNSで拡散されて炎上しません?」
「……、世の中には一部の人を除いて女か男かの二択しかないだろ」
「まだアウトラインギリギリの発言な感じがしますね~」
「もういいだろそのネタは、それでなんの話だった?」
「先輩が美人な女性に頼みごとをされてデレデレしてるって話ですね」
「してないが? むしろ生まれてこのかた女性と話したことなんてないが?」
「女性と話したことないならあたしはなんなんですか」
「えっ、後輩女だったの?」
「こんなに可愛い後輩が男な訳がないじゃないですかー」
「おっ、大丈夫か? いま世の中の可愛くなりたい男子を全員敵に回したぞ?」
「……、今のはなかったことに」
「口止め料100円な」
なんてどうでもいい話をしながら、俺と後輩は学校に到着して校門をくぐった。
………………
…………
……
「いつっ」
「どうしました、先輩」
学校に到着して、手すりに手を添えながら階段を上っていると、人差し指の先に痛みを覚えて思わず眉を歪める。
指先を確認すると、そこが赤い血の玉ができていた。
どうやら手すりの木材がささくれ立っていたようで、丁度そこが指に刺さったらしい。
校舎に使われている木材は基本的にそういうことがないように表面を加工されているのだけれど、その加工が劣化で剥がれたところからささくれが出ていたようだ。
うーん、運が悪い。
「大丈夫ですか、先輩?」
「ん、問題ない」
飛び出した木の棘の先端をぷちっと親指で折ると尖った部分が無くなってひとまず指に刺さるような状態ではなくなった。
とはいえこれでもセーターとかカーディガンに引っかかると糸がびーっとなりそうなので教師にでも報告しておこう。
「先輩、絆創膏とか持ってますか?」
「持ってねえなあ」
まあこれくらいなら放置でも問題ないだろうけど、小さなビーズくらいのサイズになってる血の玉はシャツに付いたら普通に結構汚れそうだ。
鞄からティッシュ取り出すのも若干面倒だし、なんて思っていると、階段の上方から声が降ってきた。
「あら、大変ね」
その声は明らかに俺たちに向けられたもの。
見上げると、そこには上級生の女性が立っている。
初対面だけど気安い感じで話しかけてきた彼女は、それが許される雰囲気があった。
「ちょっと見せてもらえる?」
「はい」
俺たちよりも二つ上の段まで降りてきた先輩女子は、腰を折り俺が差し出した指を覗き込む。
自然と近づいた彼女の顔に少し緊張してしまう。
俺から見て一つ上の先輩である彼女は実年齢の差以上に大人びて見えて、更に言えばその容姿は綺麗と形容して十分なほどに整っている。
長くさらりと落ちる黒髪は、すぐ近くで観察すると僅かに赤みを帯びているように見えた。
ここは校舎内なので目立たないが、太陽の下で彼女の髪を透かして見ればそこに隠れる赤色が確認できるかもしれない。
「知り合いですか、先輩?」
「……、ああ」
隣から小声で聞かれた質問に、俺も小声で頷く。
嘘だけど。
それが聞こえていたのかはわからないが、更に彼女が顔を動かすと肩からするりと髪が流れ落ちる。
同時に俺の指先と彼女の唇が触れた。
「な、ななっ!?」
隣で後輩が驚きの声を漏らす。
同じように俺も驚いていたが、同時に傷口をちろりと舌先で舐められる感触に文句を言う気にはならなかった。
「なにしてるんですかっ」
「なにって、応急処置だけど? トゲが中に残ってたりもしなそうだからあとはこれで問題ないかな」
どこからか取り出していた絆創膏を傷口に張ってもらう。
無地のガーゼの部分が赤く染まることもないので、もう血は止まっているのかもしれない。
その手当は距離感が恋人同士なレベルであることを除けば至極普通のものだった。
ちなみに俺と彼女は恋人同士でもそれに準じる関係でもないのが問題な訳なのだけど。
「それじゃあね」
何事もなかったように自然体の先輩が階段をトントンと降りる。
そのまま俺が立つのと同じ段に足を乗せた彼女は、後輩がいるのとは反対側の俺の肩に手を添えて、少しだけ背伸びをするように俺の耳に唇を寄せる。
『放課後、教室で待ってて』
聞き間違えたのかと思うほどの小さな声で彼女が囁く。
思わず確認するように振り向いてしまう俺に気付かないかのように、彼女は軽やかに階段を降りて行った。
………………
…………
……
「こんにちは」
放課後、教室で一人スマホを弄っていると廊下から現れた人影に声をかけられる。
当然、相手は朝に会った先輩。
周囲に他に人影はなく、教室の中もクラスメートたちはすっかり帰ってしまっていて俺以外は誰もいない。
この状況になるまでそこそこの時間を待っていたので、おそらく校舎の中にはほとんど残っている生徒はいないだろう。
例外はオレンジ色に傾いた夕日の中で頑張っている運動部か、部活棟に残っている文化部、あとは図書館に残っている一部の人間くらい。
今が初夏だからまだ太陽が見えるけれど、冬なら余裕で挨拶が『こんばんは』に変わっているだろうな。
そんな中で先輩は、自分のクラスでないことを気にする様子もなく中へと入ってくる。
「待たせちゃったかな?」
「そこまででもないですけど、探すのめんどくさくなかったですか?」
「二階分の教室を順番に覗いてくだけだから、そうでもなかったわよ?」
「お手数かけなかったならそれは良かったです」
うちの学校は制服のネクタイが学年ごとに色分けされているので、校内で見かければ相手の学年が一目でわかる。
二年のクラスは北校舎の三階と四階にまとまっているので、通り過ぎるだけなら数分もあれば十分か。
つまり彼女はわざとこんな時間まで待って会いに来たってことになるんだけど。
「そいえば名前は言ってなかったね。私は深紅」
「優です」
後輩には知り合いと聞かれて頷いておいたけど、本当はこれが彼女とは二回目の対面。
そんな彼女に名乗られた名前は、とても似合っているように感じて自然と記憶に収まる感覚があった。
「今朝一緒にいたのは彼女さん?」
聞きながら、先輩は俺の隣の席の椅子を引いて腰掛ける。
「ただの後輩ですよ」
これは本当。
前にちょっとした切っ掛けで知り合うことになっただけで、特別な関係とかではない。
「というか本当に彼女だったらあの後酷いことになってましたよね」
「たしかに」
俺の指に唇で振れたことに悪びれる様子もなく楽しそうに笑う彼女。
まあ一応手当をしてくれたんだし、それがなくても責める気にはならないんだけどさ。
「それで、キミはどうして待っててくれたの?」
「深紅先輩が待ってろって言ったんじゃないですか」
「でも普通なら、初対面の先輩にそんなこと言われても気にせず帰っちゃうでしょ?」
「どうですかね」
相手が年上なら従っておくべきという考え方もあるだろう。
実際には冗談だと思って帰っても問題ないだろうし、俺だって相手が彼女でなければそうしただろうけど。
「逆に、深紅先輩はどうして初対面の俺に声をかけたんですか?」
呼び出されて待ってる方も大概変だが、初対面で呼び出す方も同じくらい変なんじゃないかと思う。
俺は目立たないモブ生徒だから、以前から俺のことを知っていたわけでもないだろうし。
逆に先輩は顔も良いし特別な魅力もあるから遊ぶ相手には困らなそう。
「知りたい?」
「ええ」
「それじゃ、目を閉じてくれる?」
それは唐突な提案で、冷静に状況を考えれば酷いドッキリの仕上げか何かなのだろうと推測するのが一番しっくりくる。
でも隣の席に座り、窓から差し込む夕日に照らされながら微笑む彼女には、言葉を返す気にはならなかった。
俺が目を閉じると、両肩に手が置かれる。
そして少しずつそこに力が加わって、互いの距離が近付いていくのがわかる。
もしかしたら、離れたところからこの様子を見たら俺と先輩が抱き合ってるように見えるかもしれない。
なんてことを考えながら彼女がいよいよ吐息を感じる距離まで近づく。
そして彼女の唇が俺の首に触れた。