先輩が俺の×××を好きすぎる。~我慢できない先輩に家まで押しかけられてもう俺の×××は限界寸前です~ 作:加賀見真
首に触れる感触が生まれるのと同時に、バチッと電気がショートしたような音が響く。
目を開けると先輩の身体から力が抜け、こちらに倒れ掛かってきたのでそれを抱きとめた。
そのままよいしょと押し返して、先輩を椅子の背もたれに寄り掛からせる。
それからほどなくして彼女が目を覚ました。
「ん……」
「おはようございます、深紅先輩」
「……、これは?」
彼女が気を失っている間に両手の親指を後ろ手で縛らせてもらっていた。
「人の血を勝手に吸おうとした悪い人は拘束させてもらいました」
「気付いてたの」
「ええ、体質の関係でこういう事案には関わることがたまにあるので」
俺は昔から幽霊が見える体質だ。
そんな体質のせいで、日頃から心霊や怪異といったものと関わることが稀によくある俺は、護身用としてちょっとした対策を身に着けていたりする。
まあ本当にちょっとした芸だし、それを会得するのもめっちゃ大変だったんだけどそれはともかく。
「じゃあさっきのも?」
「ええ、バチっと一発気絶させたのはこの御札の力です。まあ使い捨てなんですけどね」
しかも作るのがかなり大変なので出来れば使いたくなかったんだけど、必要な時に使うのを躊躇うともっと酷いことになるというのは経験済みなのでやむなし。
ちなみに普通の人には影響がないので、霊体もしくは妖怪に類するものへのチャッカーとしても使用できる。
というか弱い霊体だとそのまま消滅したりするけど。
「最初から気付いてたのに騙してたなんてズルい」
「騙して人の血を吸おうとする方がズルいと思いますよ」
「本当にキスするつもりだったのかもしれないのに」
「……、それは考えてなかったです」
確かにあのままキスされてても護身グッズで自動的に深紅先輩を気絶させていた訳だけど、実際この流れでそのままキスされる可能性は微塵も考えてなかった。
「ま、それはともかく。いくつか質問するので正直に答えてもらえますか? それが済んだら紐もほどくので」
「これくらいの紐なら解いてもらわなくても自力で外せるけど」
「もしそうなったらこの土地の管理者に深紅先輩のことを報告しないといけませんね」
幽霊という人間の法律で対処できない相手がいる以上、それに対応する人間がどうしても必要になる。
各地域でその役割を担う者を管理者といい、日本の各地に存在している。
俺は幽霊が見えるだけの一般人なわけだけど、この街の管理人とは面識があり問題があったら報告して解決してもらったりしているんだよね。
逆に俺なんかが見かけた心霊現象に全部首突っ込んでたら身体が何個あっても足りないし。
そして逆に俺が危険性のある怪異を見つけたと報告すれば、その怪異はとても困ることになるという話。
「わかった。えっちな質問なら答えてあげる」
「えっちな質問じゃないならの間違いじゃ?」
「そっちの方がキミは喜ぶかと思って」
「そんな質問する気はありませんが」
「えっ、拘束プレイが趣味なのに?」
「別に趣味でやってるわけじゃねーから!」
危ないから捕まえてるだけで別に俺の趣味ではない。
「でも手首じゃなくて親指を結ぶのなんてプロの犯行って感じだし」
「そっちの方が紐が短くて済むんですよっ」
紐自体も特別製なのであんまり長いのは用意してないし、手首を縛るよりも親指の方が短く済むっていうそれだけの話です。
「そんなことはどうでもいいんですよ」
「誤魔化した」
「誤魔化してない」
あんまり時間をかけて誰か来ても困るので早く終わらせて帰りたいのだ。
「それでは質問です。深紅先輩は、吸血鬼ですか?」
「うん、でもよく気付いたね」
「一瞬牙が見えましたしね。あと今朝のアレはどう考えてもおかしいですし」
彼女の牙自体は特徴的な八重歯ってことで誤魔化せなくもないレベルだけど、流石に初対面の人の血を急に舐めてくるのは不自然すぎた。
トップレベルに有名な妖怪が同じ学校に通ってるとは思わなかったけど。
そんな相手にずっと気付かなかったのかって?
先輩は普通の気配しかしなかったからなあ。
俺じゃなくて専門家が見たらわかったのかもしれないが、所詮素人なんでね。
「血を吸われた人はどうなるんですか?」
「別にどうにも。吸った後は暗示で忘れてもらうけどそれだけ」
「吸われたら吸血鬼になるとかじゃないんですね」
「吸うときに眷属にすることもできるけど、私はしたことないかな。それに血を吸うたびに吸血鬼が増えてたら大変なことになるでしょ」
確かに大変なことになるだろうなあ。
控え目に言ってバイオハザードレベルの大事件だ。
「血はどれくらいの頻度で吸うんですか?」
「月に数回とか?」
「具体的に血を吸わないとどうなるんですか?」
「お腹が空くのとおんなじ感じかな。一ヶ月二ヶ月で死ぬわけじゃないけどそれ以上は知らない。そんなに我慢したことないしね」
「じゃあ無人島に遭難したりしたら困りそうですね」
「その時は優くんも一緒に遭難してね」
ニコリと笑う彼女は本当に顔が良いけどそれはともかく。
「え、嫌ですけど」
「ひどい!」
「酷くはないでしょ。むしろなんでほぼ初対面の連れて行こうとするんですか」
「それは……」
「それは?」
「優くんの血が美味しいから……」
「え、そうなんですか?」
「そうじゃなかったらほぼ初対面で血を吸ったりしないわよ」
初対面じゃなければいいとかそういう話じゃないと思うけど。
「普段からこういうことしてるんじゃないんですね」
「普段はもっと大人しく吸血してるから!」
「へー」
血を吸うのに大人しいも大人しくないもあるのかと思わなくもないが、本人が言うならそうなんだろう。
詳しくは……、聞かなくていいか。
「っていうか扱いが非常食じゃないですか」
「何言ってるの、私にとって血はメインディッシュよ」
「あっはい」
食事より血の方が大切なのか……。
「あれ、でもあの時だって急に話しかけてきましたよね?」
血が美味しかったから放課後に呼び出すって理屈はわからないでもないが、初対面で急に人の血を舐める妖怪みたいな行動には説明がつかない。
「それはあのときキミが怪我してたでしょ?」
「そうですね」
「それで血が出た時に凄く良い匂いがしたの」
「血の匂いなんてわかるんですか」
まあ俺も血生臭いのはわかるけど、その血液に匂いの差を感じたことはない。
「私もこんなことは初めてだったからびっくりして声かけちゃったんだけどね」
「そんなこともあるんですね」
急に血液美味しすぎガチャSSRの体質とか言われてもにわかには信じ難いけど。
「もしかしたら優くんの体質が関係してるのかも?」
「あー、それならありうるかもしれないですね。他に霊が見える人の血を吸ったこととかあります?」
「まず霊が見える人の見分け方を知らないし、血の匂いが判別できるのも怪我とかをしている人だけだから」
ああ、だから今まで同じ学校に通ってたのに急に声をかけられたのか。
霊が見える人には心当たりがあるから仮説の検証自体は簡単にできるけど、とりあえずそっちは別にやらなくてもいいタスクだから放置しておこう。
というか本当に俺の血がそんなに美味いのかって若干疑問だけど。
「そうだ。それじゃあ質問が終わったら血吸っていいですよ」
「えっ、ほんと!?」
「うわ、すっごい食いついてくる」
今の反応的にやっぱりマジなのか。
「そんじゃ質問の続きですけど、吸血鬼って何ができるんですか?」
「吸血、暗示、魅了、あとは姿を消したり空を飛んだりとか」
「コウモリになったりはしないんですか?」
「それはないない。吸血するからコウモリって安直すぎるでしょ」
「太陽とかは大丈夫なんですか?」
「うん、夜の方が元気だけど日に当たっても灰になったりはしないかな。今みたいにね」
「じゃあもう無敵じゃないですか」
「とはいえ人に見つかったら面倒くさいから吸血とそれを忘れさせる暗示くらいしか使わないけどね」
「これだけ便利な能力があるのに悪いことはしないんですね」
「しないしない。キミを魅了して毎日血を吸わせてくれるbotにしていいって言われたらちょっと悩むけど」
「ダメに決まってるじゃないですか」
なんていくつか質問をしてみたけれど、ひとまずは問題ないかな。
彼女が嘘をついている可能性はあるけれど、それを今すぐに判断するのは不可能だしできることもない。
「とりあえず問題は無さそうですね」
「言ってることが本当なら?」
「人の心読まないでくださいよ」
「読んだのは心じゃなくて思考ですー」
どっちにしろタチが悪いなあ。
まだ完全に信じていないことが相手にもバレているというのはやり難い。
とはいえ、それはこれから段々と確認していくしかないんだけど。
「それじゃあ約束通り、血吸っていいですよ」
後ろ手で縛っていた深紅先輩の拘束を解いて、首筋を噛みやすいように軽く頭を傾ける。
本当ならもうちょっと警戒したほうがいいのかもしれないけど、実際には朝に階段で一回血を吸われているから問題があったとしたら手遅れなんだよね。
そのうえで現状は体調の変化とかもないから問題は起きてないし。
暗示を使う、眷属にするって手段を取られたら近い内に土地の管理者が気付くことになるから結局彼女にとって悪手でもある。
「それなんだけど、噛むのは首じゃなくて付け根でもいい? そっちの方が噛みやすいの」
「シャツに血がついたりすると困るんですけど」
「それなら大丈夫、噛んだ血はすぐに止まるから」
「へー、そうなんですね。ならいいですよ」
とはいえそのままワイシャツをめくっても噛む場所は確保できないので、シャツのボタンを上から追加で二つほど外して、片側に引っ張るように素肌を晒す。
なんかポーズが勘違いしたイケメンみたいで嫌だなあと思いつつも約束したので止む無し。
「それじゃあ」
「吸ってもいいとは言いましたけど吸いすぎないでくださいね」
「…………」
何か言ってほしいなぁ。
あと先輩の目が俺の方に吸い込まれてて、目がマジになってるのが怖い。
座れすぎて貧血で失神とかないよな……。
先輩の顔が寄り、そのまま肩に牙が刺さる。
とはいえその部分に痛みはなく、どちらかといえばくすぐったさのようなものがあった。
密着していると、先輩からなにか良い匂いがする。
香水って訳じゃなさそうだし、シャンプーの匂いとかだろうか。
あと彼女の髪が顔に触れてちょっとムズムズする。
「んっ……」
名残惜しそうに噛むのをやめた深紅先輩が最後に傷口へと舌を這わせる。
同時に、テンテンテンと電子音が響いた。
スマホの着信音、そいやマナーモードにしてなかったっけ。
本当はしないとダメなんだけど、授業中にメッセージ送ってくる相手なんていないから……。
なんて思うのと同時に、廊下から教室を覗き込んでくる人影が見えた。
「先輩、まだ残ってたんですかー? ってなんですかこの状況!?」
驚いた表情を浮かべる後輩。
抱き合うような距離で顔を近づけている俺と先輩。
しかも俺はシャツをはだけさせている。
どう見ても言い訳不可能の状況であった。