先輩が俺の×××を好きすぎる。~我慢できない先輩に家まで押しかけられてもう俺の×××は限界寸前です~ 作:加賀見真
「おはようございます、先輩」
「おっす」
いつものように通学を歩いていると、後ろからトタトタと駆けてきた足音と共に声をかけられる。
普段と同じように挨拶をする後輩は、昨日はなにもなかったかのように自然な様子だ。
まあ深紅先輩に頼んで暗示で目撃したことを忘れさせてもらったんだけどさ。
知り合いにホイホイ暗示を使うのは面倒ごとになる予感しかしなかったけれど、実際に吸血直後のあの状態を言い訳しても間違いなく丸く収まらなかったのでやむ無しだ。
やっぱり急に現れる後輩が悪いよなあ……。
「というか先輩、なんで返事くれないんですかっ」
なので昨日俺のスマホが鳴ってから完全に既読スルーしたという流れになっていた様子。
いや、辻褄を合わせるなら普通に返信すればよかっただけなんだけど、めんどくさかったんだよね。
「まああの時もう帰ってたしな」
嘘だけど。
内容も『まだ学校残ってますか?』ってだけだったから返信する必要を感じなかったのもある。
「それでも返事くらいくださいよ~」
「はいはい」
とまあこんな風に若干面倒くさい後輩なわけだが、実の妹と比べたらずっと扱いやすいので気楽なものだ。
なんたって妹の笑ってる顔なんてもう数年来見てないし。
別にずっと不機嫌という訳でもないのだが、表情が氷で彫刻されたような存在なので。
あと年に数回しか会わない一つ下の妹とどう接すればいいのかイマイチよくわからないみたいな事情もあるけど。
「ちょっと先輩聞いてますか?」
「聞いてる聞いてる、今日の夕飯はカレーが食いたいって話だろ?」
「全然そんな話してないんですけど!?」
俺が食いたいだけだったか。
「あ、でも先輩が食べに行きたいっていうなら付き合ってあげてもいいですよ?」
「んー、なくはない」
「もちろん先輩の奢りですよね?」
「今回はご縁がなかったということで」
「それだとあたしが不合格みたいじゃないですかっ」
不合格っていうか不採用だけどね。
そんな雑談を後輩と話していると、ポケットのスマホがテンテンと鳴った。
「んー?」
「先輩のスマホが……鳴った……?」
「いやそんな天然記念物を目撃したみたいな反応するもんじゃないだろ。普通に鳴るわスマホくらい」
「でも先輩にメッセージ送ってくる相手とかいないじゃないですか?」
「昨日の放課後のはなんなんだよ」
「あたしは例外ですよ。だってあたしと一緒に居る時にあたしが先輩のスマホ鳴らすことないじゃないですか」
「まーそりゃそうだけど」
俺のスマホはphone(電話)というよりもネット閲覧端末だからなあ。
比率にして1:99.99以上の割合で。
「あ、もしかして出会いがなさすぎることを苦にマチアプに登録しちゃいました? それならあたしがデートしてあげますから買い物行きましょうよ丁度夏物が欲しかったんですよね」
「行かねーよ」
あとマッチングアプリに登録できるのは18歳からな。
後輩をあしらいながらスマホを見る。
そこには短く『今日会える?』とメッセージ。
当然相手は深紅先輩だ。
多分なにか用事があるわけじゃなく単純に血が吸いたいって話だろうし返事はあとでいいか。
「あれ、返事はいいんですか?」
「歩きスマホは良くないからな」
「ちょっとなら待ってもいいですよ?」
「いいよ、ほら早く行こうぜ」
「はい、先輩」
後輩は今日も機嫌が良さそうに、俺の隣を歩いている。
………………
…………
……
学校を終えマンションに帰り、それからしばらく本を読んでいるとピンポーンと部屋のチャイムが鳴った。
「はーい」
玄関の扉を開けると外はもう暗く、そこに深紅先輩が立っていた。
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ。迷いませんでした?」
「うん、地図アプリに住所入れたら真っ直ぐ来れた」
「それならよかったです。今日は私服なんですね」
「帰りに補導されても困るしね」
今は午後七時。
制服で歩いてても違和感のない時間ではあるが、このあとすぐに帰らないのなら私服の方が無難か。
「私服似合ってますよ」
「ありがと」
「じゃ、鍵だけかけといてください」
ワンルームのマンションの玄関に二人並んでも邪魔なだけなので、そう言って部屋に戻ろうとすると後ろから手を掴まれる。
振り返ると先輩は恥ずかしそうな表情を浮かべてこちらを見つめていた。
「ね、いいでしょ?」
「あれから三日しか経ってないのにもう我慢できないんですか?」
「だって……、キミのアレが凄かったから……」
「なんでちょっといかがわしい感じに言うんですか……。まあいいですけど、流石にずっとこのペースだとキツイですよ」
「うん……、次はもうちょっと我慢するから、……ね?」
「ちゃんとあとで話に付き合ってくださいね」
彼女は黙ったまま頷いて、俺の首筋に手を当てる。
そしてそのまま俺の肩に柔らかい唇が触れた。
部屋に入ってお茶を出す。
「その様子だと約束は守ってくれてるみたいですね」
「もちろん」
約束というのは、俺の血を吸うあいだは他の人の血を吸わないようにとお願いしたこと。
「でもなんで他の人から血を吸っちゃいけないの? あ、もしかして私を独占したいとか? いやー、モテる女はつらいなー」
「そんなわけないじゃないですか」
まじめな話すると不特定多数の血を吸った場合の感染症を懸念してだ。
まあ今までに何人も吸ってきたんだろうから、今更制限しても意味ないかもしれないけど。
そもそも吸血鬼自体が人のルールの外側にいる存在だから、やっぱり心配してもしょうがないのかもしれないが念のため。
「まあ私はキミの血を吸わせてもらえるならそれでいいんだけどね、美味しいし」
「それにしたってもうちょっと我慢してほしいですけどね。玄関から部屋まで行くのも待てないってどんだけですか」
「だって我慢できなかったんだもの……」
「次はもうちょっとがんばってくださいね」
「はぁい」
わざと甘い声で返事されると余計に怪しい気持ちになるが。
「じゃあ次は1週間後でいいですよね」
「えっ、やだ」
答える先輩は不意を突かれたような反応をしている。
なんで?
「でも1週間くらいなら全然問題ないんですよね?」
「それは優くんじゃなくて普通の血の時だから……」
「全然我慢できてないじゃないですか……」
「でも3日から1週間は急に増やしすぎだと思うの。もうちょっと期間を刻んでいくべきじゃない?」
一理ある。いや、一理あるか??
「んー、わかりました。じゃあ7日で」
「変わってないじゃないっ」
「ちっ、バレたか。じゃあ6日で」
「4日」
「5日で」
「4日」
先輩が強情に主張してくるけれど、こうやって時間を取って顔を合わせる必要があることを考えると正直5日に一回でも多いんじゃないかと思わずにはいられない。
「そういえば輸血パックみたいにして保存食にしたりとかはできないんですか?」
「やったことないけど味が落ちそうであんまりかなー。あと単純に手間な上にあんまり持ち運びたい物でもないし」
たしかに冷蔵庫に輸血パック入ってるの見られたら確実にヤバいやつ扱いされるだろうけど。
「じゃあやっぱり5日ですね」
「4日」
「ダメです」
「んん~~~」
「悩むふりしてもダメですよ」
「……、わかった」
やっと納得してくれた先輩もやっぱり我慢してるのがわかるので若干申し訳なくはある。
「優くんのイジワル」
「イジワルではないです。……、もっと気軽に吸えればいいんですけどね」
血を吸う関係上どうやっても人に見られたらヤバイ格好になるのは避けられないので、必然的に場所に気を付ける必要がでてくる。
わざわざ今日深紅先輩にうちまで来てもらったのもそれが一番の理由だし。
暗示で誤魔化せるとはいえ多用しない方がいいのはまちがいないしね。
先輩がうちに通っているのを学校の関係者に目撃されると、それはそれで問題がありそうだから別の意味で悩ましいんだけど。
うーん、なにかいい方法はないかなと頭を捻っていると、深紅先輩がそうだと手を叩く。
「いっそ私たち、付き合っちゃいましょうか」
「どういう理屈ですか」
「だって恋人同士なら外でキスしてても問題はないでしょ?」
「あー」
血を吸う行為自体は身体の場所を限定されていないので、キスをすれば確かに唇なり舌なりから自然に吸血できるのか。
「とはいえ流石にそのためだけに恋人同士はないでしょ」
「なに、優くんは私じゃ不満なのー?」
言いながら笑う深紅先輩の目には挑発するような色合いが籠っている。
「深紅先輩が本気で言ってるなら俺も真面目に考えますよ」
当然先輩が本気で言っているわけがないので、これは話題を切り返すための言葉なのだが、期待した反応が返ってこなかった先輩は不満げだ。
「ちぇ、つまんない。もっと焦ってくれてもいいのに」
「別に深紅先輩が相手なことに不満があるわけじゃないですけどね」
「そうでしょそうでしょ、私も学校じゃかなりモテるんだから」
「そのモテモテな先輩が血を吸うのを我慢できないヤバい人だって知ったらみんなどう思いますかね」
「血を吸うのは生態だもん……」
「我慢できないのは先輩の自制心の問題でしょう?」
例えるなら甘いものを食べるのを我慢できない人みたいなもんだろう。
「それくらいなら可愛いものじゃない? 見た目が可愛いで収まってる範囲に限るけど」
「たしかに」
じゃあ自慰を我慢できない人、とこっそり思ったけど流石に本人には言えない。
あとそれを聞いたら興奮する男子の方が多そう。
「?」
「なんでもないです」
「ふーん」
俺が誤魔化したのは気にせずに、先輩は俺の部屋の中を観察し始める。
そういえば、部屋に異性と二人きりって初めてかも。
まあ今日はそんな色っぽい話じゃないけど、と思っていると先輩はテレビの方に視線を向ける。
「優くん、ゲームやるんだ」
視線の先にはテレビの下にある最新機種のゲームハード。
「ええ、深紅先輩はゲームやりますか?」
「うん、ゲームなら身体能力を要求されないから全力で楽しめるしね」
「あー、なるほど」
聞くところによると、吸血鬼である先輩は身体能力が人間より優れているらしい。
それなら普通のスポーツとかは本気出せないか。
ただでさえ正体を隠すためにあまり目立ちたくはないんだろうし。
「あとネット対戦で知らない人を気兼ねなくボコれるし」
「でも深紅先輩だと動体視力と反応速度だけでも有利なんじゃ?」
人外というならそのへんも人より優れてそうではあるけれど……。
「いい、優くん」
「なんでしょう」
「人外だってバレない程度に有利な状況で相手をボコれるならそれは大歓迎なのよ」
「言ってることがクズかな?」
「でも実際普通の人だってスペックには個人差があるじゃない? だから私がちょっとハイスペックだって問題ないでしょ」
「そうかな……そうかも……」
「それに実際に遊んでもランクマで無双できるわけじゃないしね」
「まあそういうことなら」
ズルいとは思うけど糾弾されるほどのズルさではないかもしれない。
実際に負けた相手が聞いたらキレそうだけどさ。
「というわけでこれ遊びましょ」
まあ用事(採血)は済んだし、先輩の人となりは知りたい所だから都合が良くはあるか。
でもなあ……。
「今の流れだと俺がボコられる未来しか見えないんですが?」
「なにか問題でも?」
「全然勝てないと俺が楽しくないっていう最大の問題ですかね」
「じゃあ優くんが勝ったらなんでも言うこと聞いてあげるから」
なんかエロ漫画みたいなこと言い出した。
ふむ、しかしそうか……。
「んー、そこまで言うなら」
「いえーい」
ということでゲーム機の電源を入れて、インストールしてるゲームから深紅先輩が遊んだことをあるタイトルを起動する。
それは格ゲーの中でも界隈で一番人気のタイトルではないけれど、そこそこの人気といった位置付けの作品。
コンボが長いのが良くもあり悪くもあるという、ある意味好みが分かれる作品だけど俺は好き。
「先輩、このゲームどれくらいやってます?」
「ランクマでアルティメット行くくらいかな」
「最上位一個手前じゃないですか」
「そこまでやり込んでないからねー」
違うそうじゃない。
『最上位一個手前って、ランクが低すぎるって意味だよな?』みたいな反応されても困るんですよ。
ちなみに俺はウルトラで先輩の更に一つ下のランク。
一つしか差がないとも言えるけど、全部で七つしかランクはないので一段階違うだけでかなりの差である。
まあそれでも絶対に勝てないわけじゃないけれど。
ということで、実戦。
「ちょっと待った、今の無し!」
2ラウンド先取勝負で何度目か、やっと勝てた俺に先輩がこっちを見る。
「いやいや、今更遅いでしょ」
「だって戦い方がいやらしいのよ」
「しょうがないじゃないですかフェアなキャラ使ったら勝てる見込みがないんですから」
深紅先輩は流石に言うだけの腕前で、俺じゃtier1の強キャラを使っても勝てる気がしなかった。
なので今回は反射神経を問わない運ゲーを数回通せば勝てるクソキャラを押し付けて勝たせてもらったという次第。
とはいえそこまでやっても実際に勝負した感触は、10戦してやっと1勝とかってレベルだから普通のプレイだったらとっくにコントローラー投げ捨ててたけどね。
実際のランク差以上に互いの実力差は酷かった様子。
勝率1割とか普通にクソゲーよ。
ともあれ、勝てたことには変わりない。
「深紅先輩、勝てたら何でも言うこと聞いてくれるんですよね?」
「やっぱりナシって、言っちゃダメ?」
「ダメです」
「優くんのえっち」
「まあ否定はしませんけど」
「否定しないんだ……」
俺にだって年相応の欲はある。
とはいえ口では拒否している先輩も、表情はそこまで嫌そうではないから不思議だ。
なので遠慮なく、お願いをさせてもらう。
「深紅先輩」
「うん……」
「このあと、帰らなくても問題ありませんか?」
俺の質問に、深紅先輩はゆっくり頷いた。