先輩が俺の×××を好きすぎる。~我慢できない先輩に家まで押しかけられてもう俺の×××は限界寸前です~ 作:加賀見真
戻ってきた自室のリビングで、俺は正座している。
テーブルを囲んでいるのは三人。
いうまでもなく俺と先輩と妹だ。
深紅先輩には流れで付き合わせてしまって若干申し訳ない。
「優くん……」
若干戸惑うような視線をこちらへ送る先輩へ、ひとまずこっちで話すのでとアイコンタクトを返す。
妹の真白の年齢は俺の二つ下。
つまりまだ中学生な年齢な訳だが、その顔立ちは実年齢より大人びて見える。
無表情、なのはいつものことなのだが、眼つきが普段より鋭いのは気のせいということにしておきたい。
別に……、悪いことは何もしてないし……。
「それで真白、今日はどうしたんだ」
「兄さんが顔を見せに来る気配がないのでこちらから変わりないか確認しに来たんですが、兄さんが帰って来ない理由がわかりましたね」
「勘違いするなよ、先輩とはそういう関係じゃない」
「兄さんが言うそういう関係というのが何を指すのかはわかりませんが、こんな時間に一緒にいる関係ではあるんでしょう?」
くそっ、事情を説明できないとどう考えても数日前に知り合っただけの関係なんて言葉に説得力がねえっ。
「そんな時間になんでお前はうちの前にいるんだよ」
「そんな時間に外を出歩いている兄さんに言われたくはありません。それに、マンションの前で待ってたのは兄さんが部屋にいなかったからです」
「そりゃ悪かったな」
うん、やっぱり無理だわ。
どう考えても真白に正論で勝てる道筋が見えない。
状況が状況だし、そもそも俺より真白の方がレスバが強いんだよ。
ということでさっさと話は誤魔化して終わりにしよう。
「誓って言うが、俺と先輩の行動と関係に学生として恥ずべきところはなに一つないぞ」
外を歩いてたのはボランティアだし、血を吸ったり吸われたりしちゃいけないなんて学生証にも法律にも書いてないからな。
そもそも夜に外を出歩くなって?
塾帰りで歩いてる学生くらい普通にいるし……、事情があるなら許されるはずだし……、他人には説明できないだけで……。
「本当ですか?」
真白は深紅先輩のほうをに視線を向ける。
「ええ、それは本当」
「そうでしたか」
納得した真白が座っている位置を一歩分下げ、そのまま先輩へと頭を下げる。
「疑ってしまって申し訳ありませんでした」
「大丈夫、気にしてないわ」
妹の謝罪が10割先輩の方にしか向いていないのが気にならなくもないが、まあ丸く収まったのでヨシ!
「それじゃあ私は今日はこれで」
深紅先輩が腰を上げるので今日はこれでお開き。
この雰囲気で長居したくもないだろうしね。
「送っていきましょうか?」
「大丈夫、キミは妹さんの相手をしてあげて」
「はい」
まあ先輩なら一人で歩いても危なくはないか、吸血鬼だし。
ということで俺は隣から若干のプレッシャーを感じながら先輩を見送った。
………………
…………
……
「ふう……」
窓の外を見ながら昼食を終えて一息つく。
午前中の授業を終えて昼休み、周囲はクラスメイトたちの話し声に満ちているけれど俺にはあまり関係のない話。
窓際の席の特権で窓から身を乗り出すと、外からの風が心地良い。
紙パックの牛乳をストローで吸うとずずずと音が鳴る。
昼休みが終わるまであと少し。
あとしばらくはこうして風を感じていてもいいか、なんて思っていると眼下の中庭に見知った人の姿が見えた。
その人、深紅先輩は友人たちに囲まれて楽しそうに話している。
なんとなく先輩は友人とか少なそうだと思ってたからちょっと意外だ。
お前が友人が少ないから勝手にそう思っただけだろって?
否定はできない……。
遠目に見る深紅先輩は相変わらず顔が良いので、そんな人と秘密を共有するような関係になったのも不思議な出会いだったなあと自分のことながら思ったり。
まあ俺の体質がなければ知り合うどころか、あちらからは存在を認知されることすらなかっただろうけど。
そんな先輩だが、校舎の二階から外を眺めている俺に気付いて自然と視線が合った。
こちらに気付いた彼女が、悪いことを思いついたような笑みで少しだけ口を開ける。
それは俺にだけ伝わるように、自身の牙をちらっと見せるジェスチャー。
みんながいるような場所でお互いにだけ伝わる秘密のメッセージ。
ちょっとした悪戯心だろうけど、そんな様子がおかしくて少し笑ってしまう。
だから俺も目立たないように襟を少しだけ開いて、首筋を見せるようなジェスチャーで応えた。
………………
…………
……
ピンポーン。
夕方、学校から帰ってきて部屋でゆっくりしていると、チャイムが鳴ってそちらに視線を向ける。
俺の部屋のチャイムなんて通販の配達かなにかの勧誘くらいでしか鳴らないものなのだけど、前者に心当たりはないし後者はそもそも来る頻度がそう高くない。
それともう一つ、考えられる可能性についてなんとなく考えながら玄関まで行くと、その予想は的中していた。
「こんにちは」
「こんばんは、深紅先輩」
そこにいたのは俺の血が大好きな先輩。
「その説明には語弊がない?」
「むしろとても端的に説明できてると思いますけど」
互いの関係で一番強い部分を説明するなら、やっぱり血を吸う側と吸われる側だろうし。
そんな先輩は私服で、一旦自宅に帰ってからここまで来たようだ。
長袖だけど薄手のシャツは今の時期にはちょうどよさそうで逆にスカートからは太ももが見えている。
「ところでまだ『こんにちは』の時間じゃない?」
先輩は俺の先程の返しに若干納得がいかない様子。
「空がオレンジならもう『こんばんは』ですよ」
「私のこんばんははやる気が出てくる時間からだもの」
「ああ、吸血鬼の体内時計ですか。夜の王様にそう言われたら反論しづらいかなあ」
なんてどうでもいい話をしながら、先輩は玄関に入ってきてドアを閉める。
自然に入ってきたけれど、別に今日は約束をしていたりとかそういったことはなかったはずだ。
「約束した日は明後日でしたよね?」
聞くと先輩は不思議そうな顔をして逆に聞いてくる。
「あれ、お昼のアレって今日はOKってメッセージじゃなかったの?」
お昼のアレというのは襟を捲ったジェスチャーのことだろう。
確かに吸血を準備するジェスチャーではあるけれど、もちろんあの時にそんな意図はなかった。
「そんなYes/No枕じゃないんですから。というか連絡して確認しなかったのはわざとでしょ」
「バレた?」
メッセージを送って確認したら誤解だというのが確定してしまうので、あえてそれをせずに直接押しかけて来るのはズルいんだが賢いんだか。
「まあいいですけどね」
そこまで迷惑なわけでもないし、それにあのジェスチャーをそういう意味で取られたとしても強く否定できない見た目だったと自分で思ってしまった部分もあったし。
それにわざわざ家まで訪れた先輩を門前払いするのも忍びない。
「まあとりあえず中へどうぞ」
「ありがと」
別に拒む理由もないので先輩を部屋へと迎える。
「それじゃあ、いい?」
「まだだめです」
「……」
「そんな不満そうな顔しないでくださいよ」
まるで目の前の餌を取り上げられた犬みたい、なんていうと怒られそうだけどそんな感じ。
無言の抗議の視線が強い。
「キミがいじわる言うから」
「別に意地悪したつもりはないですけどね。血を吸うのはいいんですけどひとつお願いしてもいいですか?」
「えっちなこと?」
「えっちなことではないです」
「じゃあだめ」
「じゃあだめ!!?!?」
じゃあえっちなことしかだめってことなのぉ!?
「ふふっ、冗談よ」
「もう、驚かせないでくださいよ」
たまに心臓に悪いんだよなあ、先輩の言うことは。
「それで優くん、お願いって?」
「今日もデートしてもらえます?」
「そんなことならもちろん」
「ならよかった」
まあわざわざお願いすることでもないかもしれないけど、付き合ってもらって当たり前と思えるほど親しい仲でもないかな。
まだ出会って半月も経ってないし。
「ところで深紅先輩、夕飯食べました?」
「まだよ」
今は夕方五時頃。
一般家庭的には夕食に丁度いい時間なんじゃないかな。
深紅先輩の家からうちに来るまでの時間を考えたらまだかなと思ったけど予想通りだったようだ。
「これからカレー作るんですけど食べます?」
「いいの?」
「いいですよ、カレーでよければ」
匂いが強いから異性と一緒に食べるのにはあまり適切じゃないメニューかもしれないけれど、そのへんは既に決まっていたメニューなので許して欲しい。
「私、カレーって食べたことないわ」
「嘘でしょ!?」
カレー食ったこと無い日本人とか、完全に想像の外側の生き物だ。
「もしかして今まで海外とかに住んでました?」
「ずっと日本よ」
マジかよ、そんな人間も居るのか。
「私は人間じゃないけれどね」
「そういう人外ジョークはいいんですよ」
まあでも、広い日本を探せばそういう人もいるか、いるのか?
中学時代にクラスメイトだった五色さんも生まれてこのかたインターネットを使ったこと無いって言ってたしな。
ならせっかくだし、先輩にカレーを美味しく味わってもらおう。
「じゃあ少々お待ちを」
「せっかくだし手伝うわ」
「それは助かります」
一人暮らしをしていれば必然食事は買ってくるか自分で作るかの二択になるわけで、毎日買ってくるとそれはそれで面倒くさいという気持ちから俺は多少料理ができる。
深紅先輩も手慣れた様子でじゃがいもの皮を剥いているので問題はなさそう。
ワンルームのキッチンに二人並んでも互いに邪魔にならないあたりからも料理への慣れが感じられた。
結局調理用具は一人分しかないからそこまで効率良くなるわけでもないのは御愛嬌。
「優くん、指切ったりしないわね」
「そんな切ってほしそうに言ってもやりませんよ」
「血が出ても私が舐めればすぐに止まるわよ?」
「別に傷の手当てが面倒くさいわけじゃないんだよなあ」
料理に血が混ざったら先輩的には隠し味として嬉しいのかもしれないど、俺は衛生面的に普通に嫌だ。
「ちぇ」
先輩は不満そうだけれど、流石に自主的にサービスするほどの関係性じゃないかな。
あんまりなんでもお願いを聞くような関係も、それはそれで健全じゃないだろうし。
それから素材はだいたい鍋にドボンして、火にかけた様子を見ていると並んで立っていた先輩がいつの間にか後ろに回っていたことに気付く。
肩に両手を置かれて、密着すると背中に柔らかい感触が当たっているのがわかる。
先輩のそれは服の上からでもかなりの圧力を感じるくらいの存在感があって、流石に意識しないのは無理があった。
そんな状況で先輩は顔を耳元へ近付けて囁く。
「ね、優くん。いい……?」
「今料理中ですよ、もうちょっと我慢できませんか」
「だって……、目の前に首筋があるんだもの……」
深紅先輩には俺の首筋が極上のデザートにでも見えているのだろうか。
食後まで我慢出来ないのかなと思ったりもしたけれど、よく考えたら別に食後である必要もないか?
どうせやるんだから、先にやるか後にやるかの違いも誤差みたいなものか。
「わかりました、いいですよ」
「ありがと」
耳元で囁かれて、後ろから俺の肩に先輩の唇が触れる。
柔らかい唇の感触はやっぱり少しくすぐったい。
料理中に、我慢できずに、後ろから、なんてこういうのは普通男女逆なんじゃないかなあと思わずにはいられない。
まあ今どき男が女がなんて言うものでもないかもしれないけれど。
なんて考えていると、肩を最後にちろりと舐められてから唇の感触が離れる。
「ごちそうさま」
「夕食はまだですけどね。これで血を吸ったからカレーはいらないとか言ったら怒りますよ」
「お菓子を食べすぎた子供を注意するお母さんみたいね」
「こんな大きな子供は遠慮したいですかねー」
「それって、胸の話?」
「だから、人の心を読まないでくださいよ」
俺が背中に当たっている胸を意識しているのもバレていたらしい。
めちゃ恥ずかしいじゃん。
「心を読んだんじゃなくてそう誘導したんだもの」
「なおたちが悪いわ」
これもう押し倒しても許されるんじゃないか。
やらんけどさ。
「そんなことより先輩、お皿持っていってください」
「はあい」
先輩が素直に返事をすると背中から触れている柔らかい感触が消える。
未練なく離れるその姿を観ながら、やっぱりからかっているだけだったんだなあと少し不満げに俺はリビングへ向かう先輩の背中を見つめた。
………………
…………
……
「ごちそうさま」
「ごちそうさまです」
カレーを食べ終えて、二人で手を合わせる。
「カレー美味しかったですか?」
「ええ、とっても」
「ならよかったです」
先輩の初体験を良いものにできたようで良かった。
まあカレーなんてどうやったって美味いんだから心配はしてなかったけど。
「それじゃあ皿を洗っちゃうんでしばらくゆっくりしていてください」
「手伝うわよ?」
「一人で大丈夫ですよ」
流石に皿洗いには二人で分担するような作業もないので一緒にやる意味もないのでお気持ちだけもらっておく。
そういえば二人分の皿を片付けるのって初めてかも、なんて思いつつ洗い物を終えてリビングに戻ると先輩はテレビを見ていた視線をこちらに向ける。
「優くん」
「どうしました、深紅先輩」
「今日もゲームする?」
「いいですよ。なにやりましょうか」
「今日は……」
深紅先輩が言いかけたところでテンテンテンと俺のスマホから着信音が響く。
「すみません、先輩。この後の予定が入ったみたいです」
表示された液晶には『警察』と書かれていた。