勇者と怪盗の不夜城(パレス) ―偽りの神樹と真実の選択― 作:mitsuyo
1,勇者部、怪盗団と遭遇す
色とりどりな大樹や根が辺り一面に張り巡らされていた。
まるで現実の理を超えたような神秘の空間、ここは樹海。
その中で、六人の少女が駆け抜けていた。
それぞれが異なった神秘的な装束に身を包み、光と風を纏いながら、迫りくる異形と対峙する。
その少女たちに群がるのは、真っ白な肌に真紅の口を持つ怪物、バーテックス。
静寂を裂くように、一人の少女の声が響く。
「勇者…… パーンチ!!」
桜色の装束を着た少女、結城友奈が気合と共に、拳をバーテックスにぶつける。
吹き飛ばされたバーテックス、その後方からは新手が襲い掛かる。
しかし、少女の後方から光の弾幕が飛び、新手のバーテックスを撃ち抜いた。
遠方からうつ伏せの姿勢で、援護射撃をした青い装束の少女、東郷美森は友奈の安全を確認し微笑む。
「ふぅ…… 無事ね、友奈ちゃん」
「はぁっ!」
「やぁ!」
他の場所では、赤い装束の三好夏凛・紫色の装束の乃木園子・黄色の装束の犬吠埼風、その妹の樹が戦っていた。
周囲のバーテックスを一掃したのを確認し、各々警戒を解く。
静寂が戻り、呼吸を整える。
「ふぅ、終わったわね」
「あんまり数がいなくて良かったです」
一息つく風に、安堵の表情を浮かべる樹。
スマホ端末を見ていた園子が、眉をひそめる。
「待って!また反応が!」
園子がスマホ端末で地図を表示する、自分たち勇者のアイコン、いくつもの赤い点、バーテックスのアイコンが多数表示されており、更に表示されていたのは、
「ちょっと!これ…… 人間!?」
夏凛も端末を開き、バーテックス以外のアイコンを見つける。
「しかも、囲まれてる!」
東郷が緊迫した様子を見せる。
「助けに行かないと!」
「うん!」
友奈は迷うことなく駆けだし、反応のある場所へと向かった。
「ペルソナっ!!」
青年の叫びと共に、黒い影が弾けた。
次の瞬間、爆炎が広がり、複数のバーテックスを吹き飛ばす。
その中心に立つのは、黒のロングコートに赤い手袋、そして顔の上半分を隠す仮面。
友奈達の神秘的な恰好とは対照的にアンダーグランドな雰囲気を纏う青年。
雨宮蓮、心の怪盗団のジョーカーである。
その背後には、同じく奇抜な衣装の仲間たちが構えていた。
スカル・坂本竜司
パンサー・高巻杏
フォックス・喜多川祐介
クイーン・新島真
ナビ・佐倉双葉
ノワール・奥村春
クロウ・明智五郎
ヴァイオレット・芳澤かすみ
そして、猫型のモナ・モルガナ
等々、個性的な面々である。
「おいおい!なんなんだこいつらは!」
スカルが鉄パイプで手近なバーテックスを殴り飛ばす。
「シャドウ…… ではないな」
「ならここは、パレスかメメントスかい?」
フォックスやクロウが各々手近な敵を攻撃しながら、疑問を口にする。
「状況を確認しようにも、まずは敵を何とかしないと!」
クイーンが言う。
両足をしっかり固定し、正拳突きを正面にきたバーテックスに放つ。
「みんな!新しい反応!えっ…… これは!?」
ナビが全員に伝達する。
直後、声が轟く。
「勇者ぁぁぁパーンチ!」
打撃音が響く。
突如、桜色の装束を纏った少女が、バーテックスを殴り飛ばす。
バーテックスだった光の残滓を眺めつつ、思わず怪盗団全員が声の方を見る。
少女、結城友奈もまた、怪盗団の方へと振り向く。
視線の先、仮面の青年と目が合った。
「…… 」
「…… かっこいい」
普段なら、相手の安否を気にする友奈だが、ジョーカーの格好に、友奈が呟いた。
「おいおい、コスプレ大会か?」
ナビがつぶやく。
「いや、俺らも似たようなもんだろ」
スカルが肩をすくめる。
「味方、なんでしょうか?」
ヴァイオレットが尋ねた。
「さぁな、だが油断するな、オマエラ!」
モナが警戒を促す。
その時、さらに数人の少女が駆けつけてきた。
赤・黄・紫・緑・青、それぞれ色違いの装束を着ていた。
「あんたたち!無事?」
風が叫び、夏凛が剣を構える。
「うーむ、芸術的な衣装だ」
フォックスが見惚れるように呟く。
「言ってる場合かっての!」
パンサーが即座にツッコミを入れる。
「あんたたち、今は敵を倒しましょう!」
夏凛が提案してきた。
「どうすんだ?リーダー」
スカルが訪ねてきた。
「彼女たちと協力しよう」
「そうだな、少なくとも彼女たちはシャドウでも認知上の存在でもなさそうだ」
「そうね、だけど警戒はしておきましょう」
他に誰も反対する者はいない、全会一致である。
「この化け物達をさっさと倒そうぜ!」
「それはバーテックスっていうのよ」
勇者部の誰かが教えた。
怪盗団と勇者の共闘が始まった。
「ふぅ…… 」
最後のバーテックスが光の粒となって消えた。
ジョーカーは周囲を警戒しながらも、静かに息を吐いた。
「大丈夫?」
振り向くと、桜色の装束の少女、結城友奈が立っていた。
「今のすごかったね!パーって何か出てきて!」
友奈は両手を広げ、興奮気味に話す、どうやらペルソナにすっかり興味津々のようだ。
「私達の精霊みたいなのかしら?」
東郷が呟く。
他の勇者部の面々も、未知の能力に目を奪われつつも、警戒を解かない。
一方、怪盗団もまた神秘的な少女たちを前に、緊張を隠せなかった。
双方、互いをどこか異質な存在と感じていた。
「あ…… ごめんね。いきなり話しかけちゃって」
そんな空気を感じ取ったのか、落ち着いた友奈が頬をかきながら小さく笑う。
「私、結城友奈。よろしくね!」
差し出された手。
「…… ジョーカー、そう呼んでくれ」
ジョーカーは静かにその手を取る。
「ねぇ、あんたたち、とりあえず、私たちと一緒に来てくれない?」
風が怪盗団に提案する。
そんなジョーカーに風が尋ねた。
「リーダー!」
クイーンが駆け寄ってきた。
「とりあえず、彼女たちの拠点について行って、情報の交換をしたいんだけど。この世界の構造を知るには、現地の協力が必要よ」
そう提案した。
「同感だね、ここが認知の世界なのか、それとも別の世界なのか分からない。まずは情報だ」
そこにクロウも付け加える。
ジョーカーは少し考え、仲間たちの顔を見渡した。
「…… 分かった、案内してくれ」
ジョーカーがそういうと、他の怪盗団も同意の意を示した。
短い言葉に、勇者部と怪盗団の間に小さな安心が生まれた。
「よかった!それじゃ、こっち!」
友奈が笑顔で先導する。
その後ろで、東郷や他の勇者は、
「なんだか、前にもこんなことありませんでしたか?」
「若葉達のこと?」
「そーいえば、勇者以外の人ともこんなやりとりしたような・・・・」
樹が歩きながら首をかしげる。
謎のデジャブに陥る勇者部だった。
「それにしても、バーテックスは神樹様の力の宿った武具でないと倒せないはずなのに…… 」
東郷は首を傾げた。
「怪盗団…… ?」
「勇者部…… ?」
讃州中学・勇者部の部室。
樹海から戻ってきた一行、薄い光が差し込む静かな室内で、椅子に座り向かい合っていた。
ひとまず、互いに自己紹介を終えたものの、すぐに疑問の声が飛び交う。
「怪盗ってあの?」
風が怪盗団を見ながら眉をしかめる。
「世間じゃ、あれだけ騒がれてるんだ、聞いたことないかい?」
明智が尋ねるが。
「初耳だね~」
「スマホで検索しても、特には出てこないです」
樹と園子からの返事は知らぬ存ぜぬだった。
「ちなみに、明智さんのことは?探偵王子と呼ばれています」
今度はかすみが、明智について尋ねたが。
「知らないわね、こんなイケメンがいたらすぐに話題になるわよ!」
風が否定しつつ、褒めた。
「お姉ちゃん・・・・年上の男性に会って張り切ってない?」
そんな風に呆れる樹。
「話を戻しますが、つまり、あなたたちは、窃盗団なんですか?」
話が逸れそうなのを正しつつ、東郷が慎重に確認する。
「おいおい、俺たちは悪人からしか盗らねーぞ!」
窃盗団と言われ、竜司が反論する。
「つまり、義賊なんですか?鼠小僧みたいな」
「いや、その例えはどーなんだ?」
今度は時代劇に例え、どこか興奮気味な東郷。
「ゴエモンなら俺のペルソナにいるが」
祐介が言う。
「では、皆さんは義賊なんですね!」
更に興奮気味になる東郷。
「…… この娘、なんでこんなに時代劇を推してくんの?」
杏が隣の春に耳打ちで尋ねる。
「よっぽど好きなんじゃないかな?」
苦笑する春。
「おい、オマエら。話が脱線してるぞ」
「そうよ、東郷も落ち着きなさい」
再度話が脱線しそうなのを、モルガナと風が止めに入る。
「あ、すみません。つい…… 」
「悪ぃ」
素直に謝る、東郷と竜司。
勇者、怪盗。
どちらの世界でも、日常ではあまり聞かない単語なため、互いに理解が追いついていない。
「ここが四国で、しかも西暦じゃなくて、神世紀?」
モルガナが呟く。
「なんだか、認知世界より非現実的なんだが」
「それを言うなら、西暦も四国以外の国も滅びたはずです」
東郷の冷静な言葉に、怪盗団が一斉に息をのむ。
「滅びた…… ?ここは未来の世界なのか?」
祐介が目を見開く。
「皆さんは、天の神に、火の海にされる前の世界の人なんですか?」
樹が尋ねる。
「天の神?私達が倒した統制の神とは違うの?」
春が逆に尋ねた。
「統制?私達の知ってるのは天の神よ」
夏凛が答える。
「それなら、その統制の神が天の神ってこと~?」
園子が首を傾げる。
「けどよ、俺らが倒したじゃねーか!」
竜司の言葉に。確かにと思う怪盗団と、更に困惑する勇者部。
「みんなまって!」
真の凛とした声が止める。
勇者部も怪盗団も口を閉ざし、真に視線を向ける。
「お互い言いたいことや疑問はあるだろうけれど、まずは私達の話を聞いて」
「そうね、世界が違うなら、歴史も常識も違って当然よ。まずは事実を揃えましょう」
真の言葉に風も同意した。
他の勇者部と怪盗団も納得した。
「なるほどね、西暦の時代って、人が多い分悪い奴も沢山いたんだね~」
怪盗団の話を聞き、園子がぽつりと呟く。
「人の欲望…… ですか」
樹は胸に手を当て小さく震える声で呟く、平和な四国に住む彼女には、怪盗団の語った人の闇はあまりに重かった。
「でも~、その統制の神を倒したんなら、未来の四国も変わるのかな~?」
園子が素朴な疑問口にするが、春が首を横に振る。
「ううん、天の神と統制の神は多分別物だと思う、だから未来を変えたって話には…… 」
春は言いにくそうに。
「…… もしかすると、私たちはは別の世界の住人かもしれないの」
互いに常識や世界観の違い、薄々全員感じていたが、春がそれを口にした。
空気が少し重くなる、そこに、風が手を叩く。
「まぁまぁ、それなら次は私達の番ね!」
そういい、勇者部が今度はこれまでの戦いを一つ一つ説明していく。
「かくかくしかじかで…… 」
「神樹に天の神か、そっちもとんでもない世界だな」
今度は怪盗団が感心していた。
「かくかくしかじかって、便利なんだな」
双葉は違うことに感心していた。
「300年前からずっと、勇者が代々戦ってきたみたいなんです」
樹が慎重に言葉を選びながら説明する。
「ちなみに、二年前は私と、そのっち、それにもう一人の勇者の三人で戦ってたんですけど」
東郷が続けると、園子は苦笑しながら付け加える。
「その時は~、追い返すだけで精一杯だったんよ~」
「それから、中学生の私達勇者部が戦うことになったのよね」
夏凛が胸を張る。
そこに怪盗団から疑問の声が上がる。
「なるほど、それで今は一段落ついてるってとこか?」
モルガナがまとめに入るように言う。
しかし、東郷は首を振った。
「いいえ、ここは私たちの世界ではありません」
「…… どういうことだ?」
祐介が眉を寄せる。
「ここは神樹様の内側の世界なんです」
東郷の説明に、一瞬固まる怪盗団。
「おいおい、また厄介な単語が出てきたぞ…… 」
双葉が頭を抱えた。
「他の時代の勇者がここに集められてるってこと?」
春が念を押すように尋ねる。
「ええ、西暦の勇者に巫女等、それに防人の人と鏑矢の人たちがいるんですが」
東郷がざっくりと他のメンバーのことを話す。
「中立神の遣わした巫女もいたわね」
風が補足する。
「今は皆、勇者部の依頼で動いてるからいないんだよね」
「みんなにもちゃんと紹介したけど、戻ってきてからになるね!」
友奈が笑顔で言う、他の勇者たちと怪盗団を早く引き合わせたいのだろう。
「造反神、そして中立神の試練関連で戦ってんのよ」
「また神が増えたな…… 」
祐介が呆れ気味に言った。
「それで、怪盗団の皆さんはこれからどうしましょう?」
東郷の問いに、部室の空気が少し引き締まる。
当面の問題は怪盗団の生活拠点である。
「それなら~、大赦に話して、泊まれる場所を用意しておくんよ~」
園子がにこやかに言う。こういう時大赦の存在は心強い。
他の勇者たちも大半は寄宿舎で生活しているので、怪盗団用に、新しく手配してくれているとのこと。
「じゃあ、しばらくはここに留まるってことでいいのかな?」
春が確認するように言う。
「そうだな、ワガハイ達が帰る手段を見つけるまでは、ここが拠点だろう」
モルガナが尻尾をゆらしながら答えた。
「となると…… まさか、中学にまた通うことになるのか?」
竜司が嫌な予感のする声を出す。
「竜司、中学生の問題も怪しいんじゃない?」
杏がくすっと笑う。
「はぁ!?俺だって中学の問題くらい解けるっての!」
竜司が反論するが、日頃の様子からか、怪盗団はあまり賛同しなかった。
「こっちの世界の高校に通えるように、手配しとく、小学生組もそうしてるしね」
「ん?ってことは、この世界に来てもまた勉強するわけ?」
竜司の顔から血の気が引く。
「もちろん、高校に通う以上はね」
真がきっぱり断言した。
「マジかよ…… 」
竜司は机に突っ伏した。
「なんか、前にも似たようなやり取りしたわね」
風が苦笑する。
「そうですね、銀がこの世界に初めて来たときに、同じようなことを言ってました」
東郷が懐かしむように言った。
「せっかく高校に通うのなら、勇者部とやらの活動も手伝うのはどうだろうか?」
祐介が提案する。
「うん、それいいと思う!手伝ってくれれば、ここのことも詳しくなるし!」
友奈が元気よく賛成した。
「じゃあ、しばらくは、高校にも通いつつ、勇者部の手伝いにここに来ればいいかな?」
春がまとめるように言う。
「取り引き…… でいいのかな?」
杏が確認するように言う。
「取り引き?」
友奈が疑問符を浮かべる。
「ああ、この世界にいる間、勇者部には世話になる代わりに、僕たちも勇者部の手伝いをするってことさ」
明智が説明する。
「へぇ~…… 」
怪盗団の流儀に感心する風。
「誰も反対はないようだね」
「全会一致だな」
モルガナが満足げに言うと、勇者部が首を傾げた。
「ぜんかい…… いっち?」
樹が呟く。
「ああ、私たちの間じゃ何か行動を決める際、全員が賛成したかどうかで決めるんだ」
双葉が説明する。
「それが、全会一致ね」
勇者部の面々も納得した。
「あ、大赦から電話だ~」
園子のスマホが鳴り、ふわりと立ち上がり、廊下に出て行く。
数分後、園子が戻る。
「みんな~、神樹様から、神託があったらしいんよ~」
「神託?」
風が目を丸くする。
「そう、怪盗団と協力して…… 改心させて欲しい人がいるんだって~」
園子の言葉に全員が驚いた。
まさにこの四国で、それをする必要な相手がいることに、、勇者部は驚いた。
「なるほどな、だから俺たちが呼ばれたわけだ」
竜司が腕を組む。
「ああ、ターゲットが誰かはまだ分からないが」
祐介が補足する。
「どうする、リーダー?」
双葉が蓮に尋ねる。
蓮は頷くと。
「そいつの欲望を、頂戴する!」
短く、しかし力強意志を込めて言い放った。
「つまり、勇者部と、怪盗団で協力して改心すべき奴を探しってわけか!」
竜司は拳を握りしめる。
「ああ!作戦開始だぜ!」
モルガナが宣言した。
「ミッションスタートだ!」
蓮が続けた。
そんな中、園子は続ける。
「それと~、援軍が一人来てくれるらしいんよ~」
援軍と言われた、今度は誰が来るのかと、考えていると。
コンコン、とドアをノックする音が響く。
「失礼します!」
扉が開き、讃州中学の制服を着た少女が入ってきた。
東郷と園子の表情が凍りつく。
「園子と須美以外は初めまして。三ノ輪銀です!」
「銀!?」「ミノさん!?」
驚きの声が重なる。