勇者と怪盗の不夜城(パレス) ―偽りの神樹と真実の選択― 作:mitsuyo
勇者部部室に入って来た、大赦から派遣された、援軍。
それは東郷と園子の旧知の間柄である、三ノ輪銀だった。
銀は二人に向けて、満面の笑顔を見せた。
「久しぶりだな、二人とも」
歯を見せ、満面の笑顔で挨拶する。
「二年ぶりなんよ~!」
園子が涙目で抱き着く。
「知り合いなの?」
杏が不思議そうに尋ねる。
「ええ、先程お話した、以前一緒に戦った大切な仲間です」
東郷が誇らしげに銀を紹介する。
久々の再会に自然と笑顔がこぼれる三人。
東郷も、この日一番と言えるほどの柔らかい笑顔だった。
「それにしても、本当に久しぶりね、銀」
「ああ、須美は引っ越し、園子は怪我で長期入院だったからな」
「おかげで、三人で卒業出来なかったね~」
「でも、しばらくはこっちにいられるんでしょ?」
「ああ、今回のお役目が終わるまではな」
「やった~!」
園子がバンザイして喜ぶ。
「それと銀」
「ん?どうした須美」
「今の私は東郷よ、東郷美森」
「そっか、改めてよろしくな、美森!たまに間違えて、須美って呼んでも勘弁な?」
「ええ!」
「しばらくは私も、大赦の用意した寄宿舎に住むからな」
「ねぇねぇ、それなら、お役目が終わるまで、私のマンションにお泊りしない?」
園子が提案する。
「ん?私は別にいいぞ」
「わっしーもどう?」
「え?私も、いいの?」
「いいんじゃないか、三人で積もる話もあるしな」
「ええ!」
東郷も嬉しそうにする。
「…… 」
傍から見ていた友奈は、どこか寂しげに目を伏せた。
銀が入ってきてから、東郷はずっと笑顔である、園子と再会した時も嬉しそうだったが、今度もかなり嬉しそうだ。
「じゃあじゃあ、早速お泊りの準備してくるんよ~」
園子がうきうきと銀の手を引いて、部室から出て行く。
「そうね、私も」
続いて東郷も出て行った。
「東郷さん…… 」
(東郷さん、嬉しそう…… ううん、それはいいことなんだけど)
いつも一番近くにいた東郷が、今は銀と園子の横で笑っている。
友奈は俯き、小さく拳を握った。
「友奈、大丈夫?」
夏凛・風・樹がそっと寄って来る。
「あ!うん、大丈夫。心配いらないよっ!」
友奈は慌てて笑顔を作る。
しかし、長く一緒にいる三人には、その笑みが無理をしているとすぐに分かった。
「おい、ユウナがなんか元気ねぇぞ」
モルガナに言われ、蓮も寄って行く。
「風。友奈がどうかしたか?」
蓮が尋ねると、風は重く息を吐いた。
「友奈と東郷はね、中学直前に家が隣同士になって、一番の友達だったの、銀や乃木が戻ってきたのは嬉しいけど、急に置いて行かれたって感じちゃうわよね」
風から二人の出会いを聞かされる蓮。
そういう風の視線の先には友奈の背中が映る。
「あの娘、あれで周りに気を遣うから、自分が辛くてもため込むのよね、なまじ付き合いが長いから、何て声を掛けたらいいか困るのよね」
「…… 」
蓮も黙って友奈の背中を見る。
明るく笑っているが、
(…… 無理してる)
蓮はそんな確信を持った。
「かすみ」
蓮はそっとかすみに声を掛ける。
「はい。先輩」
かすみが寄り添うように頷く。
その夜。
友奈は夢を見た。
東郷がいた、その両隣には、銀と園子の姿も
『友奈ちゃん。二人と再会出来たから、もう友奈ちゃんは必要ないわ』
東郷の声。
その声は容赦なく、友奈の胸に突き刺さった。
「待って!東郷さん!!』
叫んでも、届かない。
伸ばした手は、空を掴むだけ。
『さようなら、友奈ちゃん』
三人はやがて、消えた。
友奈は孤独に、闇に取り残された。
「友奈ちゃん、朝だよ」
瞼を開けると、そこにいたのは東郷ではなかった。
「…… かすみちゃん?」
自分の顔を覗き込む、かすみと目があった。
目が合ったかすみは笑顔で、
「改めておはよう、友奈ちゃん」
かすみはやわらかく笑った、しかし、友奈の目元の赤みを見て、内心複雑な気分になった。
「迷惑だったらごめん。でも、東郷ちゃんがしばらく通えないって聞いて・・・」
勢いよく起き上がる友奈。
「全然迷惑じゃないよ!わざわざ来てくれてありがとう、かすみちゃん!」
友奈の言葉に、かすみは微笑む。
(でも…… やっぱり泣いてたんだ)
小さな変化を見逃さなかった。
「うん!さっ、起きて学校に行こう!」
そう促した。
友奈はベットから出て、制服に着替えを始める。
玄関を出ると、蓮が立っていた。
「おはよう、友奈」
「あ、蓮君!」
モルガナが蓮の鞄から顔を出す。
「よう、ユウナ!」
「おはよ、モルガナちゃん!」
友奈は顔を近づけて挨拶する。
「蓮先輩がね、友奈ちゃんと一緒に朝登校しようって言って」
「そうだったんだ、蓮君もありがとう!」
そう礼を言うと、蓮は笑顔で頷き、そこに、
「おーっす!」
「おはよう、友奈!」
陽気な声と、張りのある声
「あ、竜司君に杏ちゃん!」
「蓮から聞いてね、今日は一緒に行こうって」
杏は朗らかに、隣の竜司は欠伸をした後、眠いと言わんばかりにぐったりしている。
「…… ありがとうみんな!」
友奈は自然と微笑んだ
その笑顔はどこか無理している感じがした。
「そういえば、モルガナちゃんて、猫なのに、何で喋れるの?」
「猫じゃねーよ!」
お決まりの訂正で、猫であることを否定するモルガナ。
「そんでね、モルガナが喋ってるのを聞こえるのは、認知の影響なんだって」
杏が友奈に説明する。
「認知?」
「ああ、モルガナが喋ってるって認識したから、現実でも声が聞こえてるんだと」
「へぇ~」
なんとなく、理解した友奈。
「先輩」
友奈が竜司や杏と話しているのを見ていると、少し離れた場所で、かすみが蓮に声を掛ける、
「今朝起こした際、友奈ちゃん泣いてました…… きっと東郷ちゃんのことで」
「そうか…… 」
蓮は静かに言う。
そして、元気に竜司や杏と話す友奈を見た。
いつもどおり、元気で笑顔な友奈だが、少し無理をしているような、そんな印象を蓮は受けた。
放課後、勇者部部室。
「結城友奈、入りまーす!」
友奈が元気に部室へ入ると、風や勇者部、先に来ていた怪盗団が顔を上げた。
「あ、友奈ちゃん!」
各々が友奈に挨拶する。
その少し後、東郷・園子・銀が部室に入ってきた。
「東郷美森、入ります」
東郷が丁寧に挨拶する。
「あ、東郷さん…… 」
友奈のことに気づかず。
「ほら、銀、そのっち。さっきの話の続きしましょう」
銀と園子をテーブルに促す。
(…… あれ?)
友奈の胸にちくりと、小さな痛みが生まれた。
東郷にとって、銀の帰還は神託よりも重い真実だった。 銀の笑い声、銀の体温。それらが揃った瞬間、東郷の中で「欠けていたパズル」が強引に埋まり、同時に友奈という「新しい隣人」への優先順位が、無意識の深層へと押し込められてしまった。 それは決して悪意ではなく、残酷な自己防衛反応だった。
その日、東郷は園子と銀と共に行動し、友奈とは一日あまり話さなかった。
授業が終わり、友奈は勇気を出して声を掛ける。
「東郷さん、さっきの授業…… ここがちょっと」
友奈がノートを持って東郷の席へと行くが、
「あ、ごめんね。友奈ちゃん、ほら銀、さっきの授業分からなかった所あるでしょ?」
東郷が銀の横へ歩いてしまう。
「げ、なんでバレたんだよ!」
銀が苦笑する。
「分かるわよ、いつも見てるもの」
東郷は楽しそうだ。
「かなわないな~」
銀は頭をかく。
(…… そっか)
友奈はノートを胸に抱き、そっと視線を落とす。
昼休みでも、
「東郷さん、お昼一緒に」
「銀、そのっち。屋上で食べましょう」
東郷はすでに二人の手を取って歩き始めていた。
「わ~い、わっしーのお弁当だ~!」
園子が嬉しそうに跳ね回る。
「美森がどれだけ腕を上げたか、確かめてやろう!」
銀は意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「もう、二人とも…… 」
東郷は柔らかく微笑む。
「…… 」
友奈は自分の弁当箱を持ったまま、何も言えずに立ち尽くした。
そんな様子で、放課後になり、勇者部部室に集まった夕方。
「今日は皆さんの分も、ぼた餅作ってきました」
東郷は重箱の蓋を開き、皆に配っていく。
「はい、友奈ちゃん」
友奈に手渡す。
「ありがとう、東郷さん!」
礼を言う友奈だが、すぐ東郷は離れていく。
「はい、銀、そのっち、あーん」
ほとんど間を置かず、東郷は銀と園子の元へ移動し、二人と談笑を始めた。
「えへ~、美味しいんよ~!」
「甘さ控えめでちょうどいいな!」
二人が絶賛し、東郷も嬉しそうに笑っている。
友奈は、静かにぼた餅を見つめ、小さく息を漏らした。
そんな友奈の隣に座る影があった。
「友奈ちゃん、一緒に食べよう?」
かすみが友奈の隣に座り、優しく微笑む。
「うん…… ありがとう。かすみちゃん」
友奈も笑顔で返した。
しかし、その日食べたぼた餅はあまり、美味しく感じられなかった。
勇者部と怪盗団は依頼で町外れの公園に来ていた。
迷子の猫を探してほしい、という地元からの依頼だ。
「いないな~、この下かな?」
公園内で、友奈は遊具の中に隠れているのではと、覗いてみたが見つからない。
「猫ってのは、気配を消すのが上手いからな…… 」
銀が草場を探すが、見つからない。
「モルガナちゃんが、案外もう見つけてたりして?」
「そういうと、また猫じゃねーって叫ぶかもな!」
探しながらも、談笑をする二人。
銀は木の陰やベンチの裏を探しつつ、
「なぁ、友奈」
友奈に声をかけた。
「ん?どうしたの、銀ちゃん?」
友奈は顔を上げ、明るく返事する。
銀は、少し照れ気味に、
「私さ、久しぶりに園子や美森に会えてほんとに嬉しかったんだ」
「うん、分かるよ。東郷さんも園ちゃんもすっごく喜んでたもん」
内心は少し複雑ながらも、友奈は銀に応える。
「でもさ」
銀は遊歩道を歩きながら
「美森…… 須美はなんか丸くなったな。昔はもうちょっと、こう…… カチカチだったっていうか」
「へぇ…… そうなんだ」
昔の東郷のことを知る銀ならではの話しが出てきたので、友奈も興味を惹かれた。
「昔の東郷さんて、須美ちゃんだよね?」
「ああ、そういえば昔の私たちもいるんだったな」
「うん、もちろん園ちゃんと銀ちゃんもいるよ!」
「へぇ、昔の自分と会うってのもなんか変な感じかもな~」
出会うことを想像した銀。
「みんな個性的だし、良い子だよ!」
自分が褒められたので、少し照れる銀。
「昔の美森はさ、正しくあることが一番だったからな。でも違うってはっきり分かる」
「…… そっか」
東郷の話題のため、友奈は胸の奥が温かくなる。
「それは多分、友奈のおかげだよ」
「え、私?」
唐突に言われ、戸惑う友奈。
銀はまっすぐに友奈を見る。
「美森は誰かに寄り掛かるのを、許せる相手が、そういなかった、だけど、お前は美森のそばにいてくれただろ?」
友奈の心臓が跳ねた。
「友奈、いつも美森を支えてくれて、本当にありがとうな」
友奈に向き直り、お礼を述べる銀、いざ言われると照れ臭くなる。
「そ、そんな…… !私もいつも東郷さんのお世話になってるし」
「そういう関係が一番だよな」
銀は笑いながら、友奈の肩を軽く叩く。
「これからも、美森のことよろしくな!」
銀の声には、深い信頼が込められていた。
「うん、任せて!」
友奈は照れながらも力強く頷く。
二人は笑顔で、握手を交わした。
その直後、近くの茂みから小さな声がした。
「にゃあ…… 」
「あ、いた!」
友奈が走り寄り、そっと猫を抱き上げる。
「さ、帰ろっか!」
銀と友奈は、並んで歩き、笑いあいながら部室へ戻っていった。
大赦に来ていた明智。
園子の権限で、大赦内を自由に出歩き、調査をすることを許可されていた。
職員には、見慣れない高校生がうろついているのを快く思わない者もいたが、明智は別段気にしなかった。
部屋をいくつか調べ、別の部屋に立ち入ると。
位牌だろうか、多くあり、階段状に並べられており、外に吹き抜けで、海が臨め、位牌の数だけ名前がある。
乃木や土居等、いくつか見慣れた名前があった。
「なるほど、歴代の勇者や巫女の名前か」
目新しいものは特にない、とこの場を去ろうとした明智だが、足を止めた。
「これは…… 」
その中にある位牌にある名前、それを見て明智は、
「…… だけど、いやまさか」
急に違和感を覚えた、そして、しばし考えた後、その場を後にした。
その後、職員に聞き込みをした、露骨に煙たがる者もいたが、園子の権限で協力させた。
そして、何人か目星を付けると、明智は大赦を後にした。
明智が戻り、再度双葉の力を借り、気になる人物を絞り込む。
怪盗団と勇者部を連れて、明智はある場所へきた。
「間違いない、ここにパレスの主はいる」
明智が背後の建物を指さす。
勇者部が一斉に息を飲む。
「えっ…… ここって!」
風が声を荒げる。
「大赦…… 」
その場の誰かが呟く。
四国最大の組織。
勇者を管理し、神樹と人の橋渡しをする場所。
本来なら、少なくとも敵ではない存在。
モルガナが尻尾を振る。
「ここが話してた大赦かよ」
「ここが、ターゲットの本丸だってのか?」
モルガナや竜司が言う。
「大赦に、そのパレスの持ち主が?」
「でもよ、おかしくねーか?」
モルガナが言う、
「大赦って組織は俺らに援軍を回してくれたってことは味方じゃねーのか?」
園子が静かに言う。
「大赦って組織も、全部が同じ組織じゃないんだ。色んな人がいるから、その中に、歪みがある人がいてもおかしくないよ・・・」
いつもののんびりとした口調ではなくなっていた。
銀も腕を組む。
「美森達が言ってたけど、大赦って複雑な組織らしいからな。まぁ、全員が悪いわけじゃない、ってのは分かる」
「見てくれ、あれだ」
明智が指す箇所、大赦の建物内。
「あれって…… 建物!?」
巨大な大赦本部のすぐ隣、何かが点滅していた。
友奈が声を上げる。
「半透明…… ?」
そこには、現実には存在しないはずの、武家屋敷のような巨大建造物が、現れては消え、を繰り返し、世界のほころびを示していた。
似たような物を、怪盗団も最近見かけたからだ。
「…… これを見れば、明智も大赦を疑った理由も分かるわね」
夏凛が感心する。
「いや、最初から大赦を調べるつもりだったよ」
明智は微笑む。
「そうなの?」
銀が素っ頓狂な声を上げた。
「ああ、この世界で、最も権力を持つ組織がここだろう?なら、欲望が積み上がる場所もここである可能性が高い」
明智は爽やかな笑顔で続ける。
「後は簡単だったよ。善人の顔をして、非道を行う人物を探せばいい」
ここまでの説明を聞き、
「明智って本当に、探偵王子だったのね~」
風が感心する。
「さすがの洞察力だな」
祐介も頷く。
「最近大赦内でも、やけに結果を出し、地位を盤石にしてきている職員がいるらしい」
明智が怪盗団と勇者部に話を始める。
「?別に、それはおかしなことじゃないんじゃ」
疑問を口にする夏凛。
「ああ、その職員の競争相手や、関わった人物が、秘密裏に行方不明になっていなければね」
「!?」
衝撃の事実の羅列に、その場にいた面子が息をのむ。
「本当なのか?」
「ああ、その職員に関わった人物は、唐突に大赦を辞めていたり、急病で亡くなるなどしていた」
「ちなみに、それ調べたの私な」
双葉がどや顔をする。
「そんなことが…… !」
「大赦…… やっぱり一度潰しとくべきかもね」
風が握りこぶしを作り、怒りを露にする。
「待て、今は大赦よりパレスだろ?」
「…… そうね、とにかく、今はパレス攻略に専念しましょう」
怪盗団がスマホを取り出す、イセカイナビのアイコンを開く。
「それで、その職員だか、神官の名前は?」
「ああ名前は…… 」
明智がスマホでその大赦神官の顔写真と名前を教える。
若い男性、眉目整っており、いかにも真面目かつ、温厚そうな印象だった。
「この人…… 」
「会ったことがあるわ」
夏凛と園子が顔見知りであることに驚いた。
園子は乃木家の人間のため、夏凛は身内が大赦で働いているため、何度か顔を合わせたことがあった。
物腰も柔らかく、熱心に神樹を敬っている真面目な人物、二人ともそんな印象だった。
「まさかこいつがね…… 」
「うん…… 」
なまじ顔見知りなだけに、二人とも少し複雑そうである。
「キーワードはなんだ?」
双葉が言う。
「キーワード?」
夏凛が尋ねる。
「ああ、イセカイナビを使うにはパレスを象徴するキーワードが必要なんだ」
人物の名前・執着している場所・そこを何と認識しているか。
この3つが必要である。
「名前に、大赦に、ここを何と認識してるか…… 」
この四国、神樹に守られた世界。
「砦…… 」
明智が言うが、何も反応がない。
「城か?」
「戦艦ではないでしょうか」
「寺院とか~?」
各々候補をだすが、反応はない。
「…… 不夜城」
蓮が適当なキーワードを言う。
『ナビゲーションを開始します』
「!」
景色がぐにゃりと歪み、世界が一転する。
「これが、この世界のパレスか…… 」
怪盗団と勇者部はパレスを見回す。
「これが…… パレスなんですね」
樹が感想を言う、他の勇者部も同じ感覚だろう。
「うん、みんなは初めてだもんね」
ノワールが肯定する。
神樹による結界、樹海化の時とは明らかに違っていた。
夜だが、辺りには煌びやかな証明が照らされていた。
和風の建物が軒を連ねており、その中でもひと際巨大な建物がある。
そして、その建物は一本の巨木を囲っていた。
「まさに、不夜城だな」
フォックスが呟く。
「本当ね、けどどこか大赦らしいとも言えそうだけど」
「でも、なんで不夜城なんだ?」
「さぁ?」
「あの木、もしかして神樹様かな~?」
園子の言葉に全員が巨木を見る。
「流石にパレスだから認知での神樹だとは思うけど」
「それにしても、本当に大赦の神官が…… 」
東郷が呟くと、他の勇者も各々思う所があるのだろう。
「本質を象徴しているのだろう。ここは支配と信仰の歪んだ城だ」
勇者の大赦に対する感情は様々だ。
大半はあまり良い印象を抱いていないが、一応は世界のために動いているという点は、あると思われていたが。
パレスを形成する程の欲望を持ち、それを改心させるために、神樹が怪盗団を呼んだ。
もはや確定である。
「さて、パレスに来たからには、オタカラを盗むんだろ?」
クロウがジョーカーに尋ねる。
「ああ、行くぞ!」
蓮ことジョーカーは仲間たちに告げた。
「てゆーか、あんたたち、その恰好!」
風が怪盗団の、服装を指す。
「ああ、これか」
慣れた様子で答えるフォックス。
「パレスに来ると、私たちの服装怪盗服に変わるのよ」
クイーンが説明する。
「いいな~、私たちもスマホ使わずに返信出来たらな~」
対して園子が羨ましがる。
「贅沢言わない!一々着替えてた歌野よりマシでしょ!」
スマホの端末を押すだけで変身できるので、確かに圧倒的にマシではある。
勇者部も変身を行う。
「潜入開始だ」
怪盗服の怪盗団、勇者服の勇者部。
それぞれ準備は整い、いよいよパレスに潜入した。
潜入すると建物内には、神官服に仮面を付けた人間が見回っていた。シャドウだろう。
「流石に大赦職員の服装に似てるね」
「確かに、一度訪ねてみたけど、あんな感じの服だったね」
ノワールが呟くと、クロウが補足した。
「また服装の話~?」
パンサーが呆れるように笑う。
「何とも意欲をそそるデザインだ」
「あんたこの世界来てからそればっかね」
怪盗団と勇者部は話しながらも探索を進める。
しかし、唐突に見つかった。
「みんな!敵だ!」
ナビから警告。
「暴いてやる」
戦闘へとなった。
ジョーカーが仮面を剥がすと、何処かバーテックスを思わせるシャドウが敵として現れた。
それぞれ前衛や後方支援などに分かれ、シャドウを撃破していった。
しかし、シャドウとの戦闘にはまだ不慣れな勇者部、しかも精霊がいないため、思うように動けず、苦戦を強いられた。
特に、戦闘自体が久しぶりな銀は、より顕著に表れた。
「銀、後ろ!!」
東郷の悲鳴にも似た声。
銀が振り向くのと、シャドウが飛び掛かるのはほぼ同時だった。
「くっ!」
攻撃により、腕が裂かれ鮮血を吹き出し、シャドウの攻撃に吹き飛ばされる。
壁に激突し、衝撃で息が止まる。
更に追撃を掛けてくるシャドウ。
「まずいっ!」
モナが危惧する、
スカルが走り出すが、間に合わない。
「銀ちゃん!!」
考えるより先に、友奈は走る。
銀とシャドウの間に友奈が入り、両腕を盾に攻撃を防ぐ。
衝撃と激痛が友奈を襲う。
「っ・・・!!」
友奈の肩と腕から赤い雫が飛び散った。
そこに、更に別のシャドウが友奈の右側面から迫り、
「ああっ!!」
友奈が体当たりを受け、吹き飛ばされる。
「友奈!」
夏凛が叫び、小刀を投げる。
体当たりをしたシャドウに命中し、影が霧散する。
銀も立ち上がり、震える腕で正面にいたシャドウに斬撃を放つ。
そして、友奈へ駆け寄る。
「友奈!…… なんで、私を庇うんだよ…… !」
友奈は痛みに顔を歪めつつ、歯を食いしばりながら、上体を起こす。
「銀ちゃんが、怪我したら、東郷さんも園ちゃんも…… 悲しむから」
痛みに耐えながらも、笑顔で答える友奈。
「にしても…… バーテックスに似てるからか、勇者部でも倒せるって認知でも問題ないみてーだな」
モナが呟いた。
戦闘が終わった、友奈と銀は軽くはない負傷をした。
「銀!どうしたの?その傷…… !」
東郷が銀に駆け寄る。
「ああ、さっきの戦闘でちょっとな」
怪我の箇所を抑えながら苦笑する。
「ちょっとじゃないわ!本当に…… !!」
東郷は涙ぐみながら、銀の身体を隅々まで確かめる。
そのすぐ横で、同じように傷ついている友奈には、東郷は視線を向けなかった。
「…… 」
友奈は寂しそうに眼を伏せる。
「負傷者が出ました、一旦戻りましょう」
東郷が全員に提案する。
「おい美森、私は大丈夫だから」
銀が言うが、
「何言ってるの!無理しないで!」
東郷は聞き入れない。
他の勇者部も、慣れないシャドウとの戦闘に疲弊気味だったので、今日は早いが戻ることとなった。
「友奈ちゃん、大丈夫?」
ヴァイオレットが友奈の肩へ手を添え、心配そうに覗き込む。
「大丈夫だよ、ありがとうね。ヴァイオレットちゃん」
友奈は気丈に振る舞った。
シャドウとの戦闘を終え、怪盗団と勇者部はパレス出口へと向かった。
銀の腕は深く裂け、友奈の肩と腕も赤く染まっている。
「銀、大丈夫?痛む所は?…… 本当に大丈夫なの?」
矢継ぎ早に問いかけ、東郷は銀の腕や肩を何度も確かめる。
銀は苦笑する。
「美森、そんなに触るなって、かすり傷だ、私は平気だ」
「平気なわけないでしょ!もう…… !」
東郷は涙ぐみながら、銀の血で濡れた腕を見つめる。
園子も寄ってきて、銀の手を握る。
「ミノさん…… 無事で良かったんよ…… !」
三人だけの空間ができる、互いに気遣い、手を取り合う、そんな空気。
少し離れて、友奈は歩いていた。
痛みに耐えながら、平気そうに振舞っている。
(銀ちゃん、無事で良かった…… )
東郷は銀から視線を外さず、友奈の負傷には気づかない。
思いのほか、出血が酷いのか、少しよろめく友奈
「あ…… 」
膝が折れかけた瞬間。
ジョーカーが肩を支えた。
スカルもやってきて反対側から支える。
「友奈、歩けるか?」
「うん、大丈夫…… だよ」
友奈は微笑もうとするが、どこか弱々しかった。
風や夏凛に樹、ノワールやパンサー等も、歩きながら、友奈を心配そうに見ている。
「無理するな」
ジョーカーが静かに言う。
「ありがとう…… ジョーカー君」
パレスから戻り、部室に足を踏み入れた途端
「銀、すぐ手当てするわ。じっとしてて」
銀を椅子に座らせ、救急箱を持つ東郷。目元には涙の跡が浮かんでいる。
銀は困ったように笑う。
「美森、そんなに心配するなって、私は平気だよ」
「平気じゃないわ!」
東郷が声を強める。
「本当に心臓が止まるかと思ったわ!」
東郷は銀の腕に薬を塗りながら、指先を微かに震わせていた。 二年前の戦闘からの別れ、 今、目の前の銀から目を離せば、霧のように消えてしまうのではないか――その強迫観念が東郷の視界を極端に狭めていた。 彼女にとって、今の視界に映っているのは「銀」という奇跡だけであり、それ以外の全て、たとえ友奈の涙であっても、今の彼女の意識には届かない「背景」に過ぎなかったのだ。
そのすぐ後ろでは、
「友奈、大丈夫?手当てしましょう」
真が優しく声を掛け、包帯を広げる。
「うん…… ありがとう、真ちゃん」
蓮は友奈の正面にしゃがみ込む。
「友奈、無理はするな」
パレスでも言ったように、蓮が念を押すように言う。
「うん、でも…… 嫌なんだ。誰かが傷つくこと、辛い思いをすること…… !」
しかし、友奈も譲れないものがるのだろう。
友奈は東郷を見る。
当の東郷はそんなことには気づかず、懸命に銀の手当てをしながら、わずかに目に涙を浮かべながら、
「銀が無事で良かった…… !」
大袈裟に喜ぶ。
「二人といられて、本当に幸せだわ、他に何もいらないわ…… だから無茶しないで、銀!」
その言葉を聞いた瞬間、
「っ!!」
友奈の胸に、夢で聞いた東郷の言葉が蘇る。
『もう友奈ちゃんは必要ないわ、さようなら』
まるで心臓を掴まれたように息が詰まり、震える手で口元を押さえる。
真が「友奈?」と呼びかける間もなく、友奈の頬に涙が落ちていく。
「…… っ、っ!!」
耐えきれず、友奈は立ち上がった。
「友奈さん!?」
樹が驚いて手を伸ばすが、友奈は首を振り、部室を飛び出して行った。
ドアが強く閉まる音が響く。
(友奈は泣きながら部室を出て行った)
その様子を見た蓮、真っ先に立ち上がり、
蓮は友奈を追いかけた。
「?どうかしたの」
東郷は銀の腕に薬を塗りながら、きょとんとした顔をしていた。
友奈が泣きながら部室を飛び出していったことにも気付かなかった。
銀と園子は顔を見合わせる。
部室に気まずい空気が流れる。
園子がぽつりと呟く。
「わっしー…… 気づいてあげないと…… 」
だが、東郷にはその意味が理解出来なかった。
部室を飛び出し、友奈は校舎裏まで来ていた。
息が切れるのも、涙が止まらないのも分からなかった。
(なんで…… こんなに苦しいの?東郷さん、あんなに嬉しそうだったのに……
私…… 私は…… )
東郷の気持ちは友奈も分かっている、分かっているのだが、それでも、割り切れない物がある、まだ中学生の友奈には複雑な感情をうまく整理する術はなかった。
膝が崩れ、その場にしゃがみ込む。
「っ…… 、うぅ…… っ…… !」
両手で顔を押さえ、肩を震わせるしかなかった。
早く泣き止んで、部室に戻らなければ、と考えていると。
誰かの足音が近づき、止まる。
「友奈」
背後から蓮が声を掛ける。
友奈はその声を聞くだけで、胸が締め付けられた。
振り向くこともできない。
「…… 」
そんな友奈を見て
「友奈、東郷がいなくて寂しい?」
問いかける。
その一言で、友奈はまた泣いた。
「うっ…… ひっ…… ごめ…… っ…… 」
「謝るな」
しばらくし、一応は、泣き止み、少し落ち着き、友奈は話す。
「東郷さん…… 二年前から、勇者として戦ってたもん、久しぶりに銀ちゃん達に会えてうれしいはずだから…… 」
「だが、それでも東郷は酷い」
いくら久しぶりに会ったからと言って、東郷は少し冷たく思えた。
蓮は知らないが、普段の東郷なら、怪我をした友奈を真っ先に心配した。
しかし、銀が来てから、銀のことばかり構い、友奈は全く眼中にないかのような振る舞いばかりしている。
「東郷さんを責めないで…… 」
友奈は首を振る。
「自分なんていらない…… そう思ったのか?」
あくまでも、友奈は東郷を責めない。
「東郷さん…… 嬉しそうで…… 私じゃなくても、銀ちゃんと園ちゃんがいれば…… 十分なんだって思ったら、苦しくて…… 私はあの三人の中に、入れないのかなっ…… て」
先ほどから、友奈は東郷を責めない。
自分のことよりも、他人のことを常に優先する、そのために我慢するのが友奈という少女だ。
「入れないのが悲しいんじゃなく、東郷が気づかないの、悲しいんだろ」
「…… そう、なのかな…… 」
しばし沈黙が訪れる。
「…… それでも、東郷さんの邪魔はしたくないな」
「…… そうか」
今は話しても、友奈は自分を優先することはしないだろう。
「ねぇ、蓮君」
「ん?」
しばしの沈黙の後、友奈が口を開く
「私、今まで東郷さんに頼りっぱなしだったかも」
今まで当たり前のように、隣にいた東郷がいなくなり、一人になった現状を、辛くても友奈なりに考えたのだろうか
「…… 」
「今からでも、変えられるかな?私、東郷さんなしでも、自立出来るようになりたい!そうすれば、東郷さんも安心して園ちゃんや銀ちゃんと一緒にいられるもん!」
自立、そうすることで、より東郷とは離れることとなるが、それでも、友奈は東郷のためにそれを決めた。
「ああ、俺も協力する、それにみんなも」
東郷に蔑ろにされていることは、良いのかとも思ったが、本人が決めた以上、蓮は友奈に協力することに決めた。
「うん、ありがとう。蓮君」
「俺と取引しよう」
「取引?」
取引、という単語に友奈は思わず聞き返す。
「取り引きならもうしたんじゃ?」
「勇者部ではなく、これは友奈個人とだ」
友奈は納得した。
「自立できるよう手を貸す」
「うん…… 」
「お前は今まで誰かのために生きてきた、これからは自分のために生きるんだ」
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我、「正義」のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、さらなる力とならん…
ペルソナの力を育てる人間関係
「正義」コープが解禁した!
「それが取引の条件かぁ…… 」
友奈は小さく笑い。
「分かった、蓮君。私やってみる!」
決意の意思表示に、両手をぐっと握る。
「さぁ、部室に戻ろう」
「うん!」
元気を取り戻した友奈と共に、部室へ戻ろうと歩き出す、そこに、
「やぁ、結城さん見つかったんだね」
明智が歩いてきた。
「あ、明智君!」
友奈が朗らかに挨拶する。
友奈に軽く笑顔で返した。
「その様子だと、また取り引きしたのかな?」
「ああ」
蓮に尋ねる。
「私ね、これからは東郷さんに頼らなくても、大丈夫なように頑張るって決めたんだ!」
「へぇ、東郷さんのためにかい?」
「うん!東郷さんはやっぱり私の一番の友達だから」
本調子の友奈は笑顔で言う。
「友達ね…… 」
明智は息を吐き、
「仲が良かったからって、昔の友達が来たとたん、一番の友達を蔑ろにしているのにかい?」
疑問を友奈に投げる。
「え、でもでも!銀ちゃんとは二年振りに会ったから、嬉しくて当たり前だし!」
先ほどと、ほぼ同じことを今度は明智に説明する友奈、しかし、明智は続ける。
「しかも、泣きながら走り去っていくのにも気づかず、今も部室で談笑しているようだけど?」
追い打ちをかけた。
「…… 」
言い返せず、黙る友奈。
「そんなすぐに、別の人に移り変わるような友達なら、さっさと縁を切った方が良いと思うよ?この先、いつまた同じことをされるかも分からないからね」
実際に怪盗団を裏切った実体験によるものか、友奈に容赦なく言う明智。
そんな明智の容赦ない言葉に、友奈は黙る。
「明智!」
そんな友奈の前に蓮が立つ。
「…… なんてね、冗談だよ。ごめんね、結城さん」
軽く謝罪し、明智は去る。
蓮にはすれ違いざま、小声で、
「だが、現実は往々にして残酷なものだよ」
そう伝えた。
言われた蓮は、友奈を心配する。
「友奈…… 」
「大丈夫、大丈夫だよ蓮君!」
友奈はあくまで明るく振舞った。