勇者と怪盗の不夜城(パレス) ―偽りの神樹と真実の選択― 作:mitsuyo
保健室、そこに友奈がいるのは分かった。
何故分かったのかは不明だが。
(友奈ちゃん、それに…… 中にいるのは怪盗団と…… )
友奈と怪盗団、それに誰か見知らぬ少女がいた。
中のから聞こえる声は不鮮明、しかし、断片的に単語は聞こえてくる。
『この世界が曲解されたもの?』
『それに死んだ人間も生き返ってるのか?』
『大赦で見かけたんだ、三ノ輪銀と掘られた、位牌を』
「!?」
(世界の曲解?それに、銀の位牌!?)
前日夜
蓮はその日、
「今日はもう寝ようぜ」
モルガナに言われ、床に就いた。
さほど時間も掛からず眠りについたが。
「ようこそ、ベルベットルームへ」
「!?」
蓮はその声に目を開く。
起き上り、辺りを見回す。
手枷に横じまの囚人服、辺りは狭い壁に、鉄格子。
鉄格子の先には青を基調とした床、そして机、机に座る人物と、その傍に佇む少女。
「ラヴェンツァ…… 」
そして、ラヴェンツァの主のイゴール。
「あなたはまた、捕らわれてしまったのです…… 」
「?」
ラヴェンツァはかぶりを振る。
「それともまた別の存在です、そして、この度は、あなた方怪盗団だけでなく、神樹に選ばれた勇者にも関係のあることなのです」
「勇者部の?」
蓮は勇者部のことが出たので、聞き返した。
「はい、あなた方に状況を説明したいのです、ですから…… 」
「それで、保健室かよ」
「讃州中学のね」
翌日の放課後、怪盗団は保健室に集まっていた。
「ねぇ、皆どうしたの?」
そして、友奈も呼ばれていた。
「いや、ラヴェンツァ殿から呼んでくれって言われてな」
「?」
「全員そろっているようですね」
声と共に、青い光が発生し、そこからラヴェンツァが現れた。
「え?人!?」
友奈が盛大に驚く。
「初めまして、神樹に愛されし勇者」
ラヴェンツァが友奈に挨拶する。
「あ、初めまして!結城友奈と言います!」
友奈も挨拶をする。
「私はラヴェンツァ」
そうして、ラヴェンツァによる説明が始まった。
「曲解?」
「はい、この世界は大衆の認知により、歪められたものです」
ラヴェンツァが曲解のこと友奈及び怪盗団に説明する。
「つまり、現実の世界が歪められていると?」
「はい、勇者のあなた方は、今いるこの世界が、神樹の中であるとおもっているようですが…… 」
「ここは造反神の作った世界じゃなかったのか?」
「そう、確かにそのような世界も存在していました。しかし…… 」
ラヴェンツァは区切りつつ、
「神樹はもう…… 死んでいます」
告げた。
「!!?」
友奈が衝撃を受ける。
「そんな…… !!」
世界を、人類を守っていたはずの、神樹。
それが既にいないと、ラヴェンツァは告げた。
「そんな…… だって!若葉ちゃんや西暦の皆とも…… 」
「友奈?」
唐突に友奈が言いよどむ。
「あれ?みんなと最後に会ったのは、いつだっけ…… 」
友奈は思い出そうとする、しかし、西暦の勇者達と共に戦った記憶はあっても、最近の記憶がなかった。
そもそも、乃木若葉達とは最後にいつ会ったか、どこに行ったのか、それも全く友奈は思い出せない。
「落ち着いて、友奈」
「大丈夫だよ」
友奈を女性陣が気遣う。
「それに、どうして?勇者になって…… それで、バーテックスと戦って、一息ついて、それからずっと平和で…… あれ?」
友奈は尚も取り乱し、自分で言ってることと記憶の統合性がとれなくなってきていた。
「っ!??」
唐突に、記憶がフラッシュバックする。
初めて勇者に変身したこと。
園子に初めて出会い、勇者システムの真実を知らされたこと。
東郷が壁を破壊したこと。
自分が意識不明になったこと。
東郷の身代わりで天の神の祟りを受けたこと。
そして…… 天の神と戦い、神樹が消滅したこと。
「そんな…… 神樹様が、もういない?…… うっ!!」
唐突にせき込む友奈。
「友奈!」
蓮が駆け寄り、背中をさする。
「はっ…… はっ!」
呼吸が荒い、そして胸を押さえている。
「思い…… 出した…… !」
友奈はあまりの情報量に落ち着きを無くしている。
「それだけではありません、神樹が消滅する際、世界を修正するために、別の世界の情報を引き出しました」
「別の世界?」
「まさか、その世界が?」
「はい、あなた方の住む世界です」」
ラヴェンツァは続ける。
「しかし、その際貴方がたの世界から、曲解の能力の一部が流れてきたようです」
「流れて来たって…… 」
「先ほどもお話ししたように、神樹は、死ぬ寸前にこの世界を修正しました、しかし天の神・神樹共にいなくなり、他所の世界からの干渉を防ぐこともできなくなっていました」
「でも、大衆の認知を操るなんて、おかしくない?」
杏が疑問を口にする。
「私たちの世界でも認知を歪めるなんてことあったけど、大衆なんて」
「まるで、統制の神みたいに…… 」
真がぽつりと呟く。
「なら、大衆の願いが?」
「この四国の人間は神樹に、願って生きていました」
「そして、神樹が消滅したタイミングで、統制の神の能力も流れてきた?」
「はい、この世界はこの四国の大衆が望んだ世界でもあるのです。そして、その能力を受け継いだのが」
「あの神官か…… 」
「神樹が消滅する際、最も近くにいたのが、あの神官でした。神樹が消滅した後、この四国は人々の集合無意識……メメントスと直結してしまったのです。あの神官は、人々の神樹への願い、という欲望を燃料に、この曲解された世界を維持しています」
「…… ということは、バーテックスと思っていたのは、シャドウ?勇者部が不思議そうにしてたけど」
そう、本来なら神樹から与えられた能力でないと撃破不可能なはずのバーテックスを怪盗団は倒していた。
バーテックではなく、シャドウなら、或いはそう認知していたからこそ、倒せたのかもしれない。
しかし、他にも疑問があった。
「…… なら、死んだ人間が生き返ることもあるかい?」
「え?」
「見つけたんだよ、大赦で…… 三ノ輪銀と書かれた位牌をね」
ざわつく怪盗団。
「確かに、私や春のお父さんやお母さんも…… 」
「銀は既に死んでいて…… 」
「東郷と園子が望んだ結果か?」
「他にもあるが…… 」
「ということは、この世界は現実だけど…… 」
「現実を見据えていない?」
「まさか!パレスにあったあの扉」
「現実を認知していないから、突破できなかったのか」
「つまり?」
「この世界が曲解されてものと認識して、現実に戻ろうと決めてもらうしかないわ」
「だけど…… 」
皆が友奈を見る。
苦しそうにしている、まだ中学生でしかない友奈が。
「だけど、いつまでもこうしてるわけにはいかない」
「どうすんだ?」
「明日から勇者部に話して行こう」
「そうですね、皆が受け入れられるかは分からないけれど」
「ん?だけど、おかしくないかい」
明智が何かに気づく、
「曲解の能力の一部が流れて来たって言ったね。なら、能力の大半は?それに、何故勇者部ならともかく、僕たちにまであの壁は存在するんだい?」
「それは」
ラヴェンツァが説明しようとするが
「う…… !!」
友奈が吐き気を覚え、呻く。
「友奈!」
あまりに、衝撃的な真実に友奈は負担が大きかったのだろう。
「とりあえず今日の所は解散にしとこうぜ」
「先輩、友奈ちゃんを送ってあげましょう」
「ああ…… ん?」
蓮はドアの外に誰かいたような気がしたが、見ても誰もいなかった。
翌日、怪盗団は勇者部部室に集合していた。
勇者部部員に会い、この世界のことを伝えるつもりである。
「ユウナは?」
モルガナの問いに
「今日は声を掛けてない」
蓮は首を振って答えた。
「昨日の様子を見る限り、そっとしといた方が良さそうだしね」
「だね、メンタル限界ギリギリって感じだったし」
杏が同意する。
「それで、まずは誰の所に行く?」
真が問うと、沈黙が落ちる。
考えていると、部室のドアが開かれ、
「友奈!」
「だいじょうぶなの?」
友奈が入ってきた。
「うん…… 」
少し顔色の悪い友奈。
「みんなに、聞いて欲しいんだ。私や勇者部の戦いのこと」
友奈は拳を握りしめ、怪盗団全員を見回した。
「聞かせてくれ」
蓮が同意した。
「改めて聞くと、そっちも大変だったんだな」
一通り話を聞き、双葉が漏らす。
以前に聞いた、友奈たちの、西暦から始まる戦いについて、今度は本当の話を、怪盗団は聞いた。
中には友奈自身、又聞きの内容も含まれていたが、一通り話した。
「何しろ300年も続いた戦いだからな」
「それでも、勝ち取った」
「ああ、全員立派だ」
「それで、友奈はどうするんだ?」
「私も、みんなの所へ行く、全員で現実に戻りたいから!」
友奈は怪盗団と共に、一人ずつ仲間のもとを尋ねて行った。
「あら?友奈に皆も、どうしたの」
風に会いに来たが、どうやら帰りらしく、校門前で出くわした。
「風先輩…… 」
「どうしたの?友奈」
「今、幸せですか?」
「え?ええ…… 」
風はきょとんとした後
「みんなもいるし、樹もいるしね」
風は満足げだが、
「家では家族四人で毎日賑やかよ」
「え?」
風の両親は既に亡くなっている。
「あ、お姉ちゃん。友奈さんに皆さんも」
そこに樹もやってきた。
「どうかしたんですか?」
「それがね、急に今幸せかって」
「幸せ?心理テストですか?」
「その…… 」
「ねぇ、友奈から聞いたんだけど、二人のご両親て」
真が二人に尋ねる。
「あ、はい。毎日朝起こしてもらったり、美味しいご飯作ってくれて」
「風先輩が?」
「え?いやね、友奈。それは私じゃないわよ」
「そうですよ、お母さんがいつも起こしてくれてます」
「そこは友奈と一緒ね、東郷はお母さんじゃないけど」
「でも、友奈さんは最近ちゃんと起きれてるみたいで、羨ましいなって」
「お母さんも困ってたわよ」
「うぅ~」
「ま、そこが可愛いってお父さんは言ってたけどね」
二人は幸せそうに話している。
「ねぇ、両親は優しい?」
春が尋ねる。
「え?えぇ、もちろん…… あれ?」
「樹もか?お母さん毎日会ってて」
言い淀む風、双葉が今度は樹に尋ねる。
「はい、二年前から毎日…… え?」
樹も言い淀む。
春がそっと問いかける。
「ご両親は…… 優しい?」
「そりゃ、だって私が勇者で…… 」
間を置き、
「なんか…… おかしいわ」
「そう…… だよね」
おかしいことに気づいた。
友奈が前に出る。
「先輩、私勇者になったこと、気にしてませんから」
「友奈…… 」
「樹ちゃん、芸能界でも樹ちゃんなら大丈夫だと信じてるよ」
「友奈さん…… 」
『お姉ちゃんは、私のために美味しい料理を……いっぱいいっぱい、なんでも作ってくれちゃいます。私は、そんなお姉ちゃんが大好きです』
『樹!起きてたのね!一人で起きられるなんて偉いぞ~~!』
「今の…… !」
「これって…… !」
二人の中に流れる、過去の映像と声。
「今は焦らなくていいです。でも、何かおかしいって思ったなら、その気持ちは大事にしてほしい」
二人はしばらく黙り込み、
「お姉ちゃん・・・お母さんの作ってくれる料理、おいしいけど…… 。お姉ちゃんが毎日頑張って作ってくれた、あの少し焦げた卵焼きの味は、どこにいっちゃったの?」
樹が呟く、あくまで独り言だが、風にはしっかりと聞こえた。
やがて風が呟いた。
「ごめん、みんな…… 今日は帰るわ。樹、行きましょう」
「うん、皆さん、また…… 明日」
そういい、二人は帰って行った。
「今は待とう」
「そうだね」
「後は二人次第だ」
「夏凛ちゃん!」
「友奈、それにみんなも。どうしたのよ?」
浜辺で鍛錬している夏凛を見つけた。
「夏凛ちゃん、今幸せ?」
「なによいきなり?…… まぁ、あんたたちもいるし、親にも認められて、兄貴もいるしね。悪くないわ」
「夏凛ちゃん、ご両親に認められてたんだね」
夏凛は少し照れ臭そうに
「そりゃそうよ、私はずっと勇者になるために鍛錬してきたんだから。兄貴共々、完璧超人って言われてるのよ」
夏凛は、兄が周りから贔屓され、それが原因で勇者の使命に執着するようになったとされている。
「夏凛、君のストイックに鍛錬する姿はまことしやかに美しかった」
祐介が夏凛に言う。
「いきなり何なのよ」
「そうね、体調管理に対しては、見習いたいところもあるわ」
真も同調する。
「なんなのよ、さっきから」
怪訝に思う夏凛。
そこに友奈が素直な笑顔で、
「夏凛ちゃん、私夏凛ちゃんのこと大好きだよ」
そう伝えた。
「え?友奈まで急に」
「大赦の勇者を辞めて、勇者部として戦って私のこと励ましてくれてうれしかった」
「確かに私は大赦から派遣されたけど、東郷が壁を壊した…… っ!?」
『完成型勇者、それが私』
脳裏に、自分の声が響いた。
バーテックスと戦うため、何度も満開した、勇者部五箇条を叫びながら。
「何度も満開しながら戦ってた夏凛ちゃん、カッコよかったよ」
「友奈…… 」
「夏凛ちゃん、待ってるから。夏凛ちゃんが、本当の自分の気持ちを思い出してくれるの」
「…… っ!」
夏凛は唇を噛んだ。
夏凛は友奈を一瞥し、背を向けた。
「…… 今日はもう帰るわ。また、明日」
夏凛はそのまま帰っていった。
「園ちゃん!銀ちゃん!」
通学路、そこに園子と銀がいた。
「あ、ゆーゆ~」
「それにみんなも」
園子と銀が笑顔で対応してくれる。
「わっしーとは話した?」
何気なく、園子が尋ねてくる。
「え、東郷さん?」
唐突に東郷の名前が出て、驚く友奈。
「さっきね、ゆーゆのことで、わっしー大暴走してたんだ~」
「友奈に謝るって気合入れてたぞ」
銀は呆れる。
(東郷さんが…… ?)
「さっき…… 教室荒れてたけど、あれ東郷のせいなのか?」
「だとしたら、すごいね。東郷ちゃん、とてもそんな風にみえないのに・・・」
竜司と春が驚く。
園子と銀は、どちらも本当に幸せそうである。
「二人とも、今楽しい?」
「え、ああ。とっても楽しいぞ」
「わっしーやミノさんもいるからね~」
「三人は小学生の頃から一緒なんだよね?」
銀は当然のように頷く。
「ああ、三人でお役目に就いてからそれなりに経つな」
「うん、ミノさんが守ってくれて…… あれ?」
「園子?」
「小学生から…… 中学生になるまで…… え?」
「どうしたんだよ、園子?」
銀が肩を支える。
「わっしーやミノさんと再会するまで…… 私は…… 」
園子はうわ言のようにひたすら呟く。
「みんな!園子が!」
園子の両肩を掴んで、友奈や怪盗団を見る。
友奈は唇を噛み、意を決したように、銀をまっすぐ見る。
「銀ちゃん、あのね…… 」
友奈は銀に対し、
「…… 」
しかし、言いよどむ、あまりに残酷な真実なために。
「僕が言おう」
明智が友奈の前に出る。
「明智さん…… 」
「いいかい?」
「え、ああ…… 」
「三ノ輪さん、讃州中学に来る前は何をしてたんだい?」
「え?そりゃ、家族のみんなと…… あれ?」
言い淀む銀、家族と仲良く過ごしていた、と断言するはずが、言えなかった。
「小学校を卒業してからは?」
「それは…… 」
言えない銀、しばし待ち、明智は口を開く。
「みんなには伝えたけど、大赦で見つけたんだ」
「何を?」
「位牌だよ、君の名前のね」
「私の?」
「ああ、三ノ輪銀と刻まれていた。これがどういう意味か解るかい?」
「…… 」
「つまり、君は既に…… 」
「やめて!!」
園子が声を荒げる。
明智の言おうとしていること、言わせてはいけない、というよりも園子自身が聞きたくなかった。
明智は園子と一瞥こそしたが、すぐに仕切り直し。
「改めて言うね、君は既に故人ということだよ」
「!?」
当然ながら銀は衝撃を受ける、そして隣にいた園子も喉がひゅっと鳴らす。
「ミノさん…… 」
「え?だって…… 私は今ここにいて」
明智は視線を園子へ移す。
「乃木さん。君の時間は、いつで止まっていた?」
園子は震える声で呟く。
「小学生でお役目に就いて…… わっしーとミノさんと…… それから…… それから…… 」
「ここが造反神の作った世界だとしても、おかしいと思わないかい?」
明智は続ける。
「小学生の頃の君たちはいたはずなのに、中学生の三ノ輪銀はいなかった」
「やめて…… 」
「つまり、君は小学生の時お役目で」
「やめて!!」
園子が大声を上げる。
普段ののんびりとした、彼女からは想像もつかない声。
友奈や銀、怪盗団も驚く。
それで一度は止まるが、明智は告げる。
「死んだ」
「私が…… 死んだ?」
あまりの現実に、銀がショックを受ける。
「ミノさん…… 」
事実を告げられて、呆然とする、その眼には涙がにじむ。
「そして、ここは造反神の作った世界でもない、大衆の願いと曲解の力で作られた都合のいい現実だ。後は君たちで考えてくれ」
そこまで、言うことだけ言い、明智は下がる。
友奈は二人の前に立ち、できるだけ優しく微笑む。
「園ちゃん、銀ちゃん。答えを出すのは今じゃなくていいから。でも…… 私たちは待ってるから。ちゃんとここにいるから」
友奈には、それしか言えなかった。既に戦死という確定した現実に対し、友奈にも、怪盗団にもどうにもできない。
「…… 」
「…… 」
二人は何も言わず、帰って行った。背中が見えなくなるまで、友奈はじっと見送った。