勇者と怪盗の不夜城(パレス) ―偽りの神樹と真実の選択―   作:mitsuyo

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4,神樹なき世界の真実

保健室、そこに友奈がいるのは分かった。

何故分かったのかは不明だが。

(友奈ちゃん、それに…… 中にいるのは怪盗団と…… )

友奈と怪盗団、それに誰か見知らぬ少女がいた。

中のから聞こえる声は不鮮明、しかし、断片的に単語は聞こえてくる。

『この世界が曲解されたもの?』

『それに死んだ人間も生き返ってるのか?』

『大赦で見かけたんだ、三ノ輪銀と掘られた、位牌を』

「!?」

(世界の曲解?それに、銀の位牌!?)

 

 

 

前日夜

蓮はその日、

「今日はもう寝ようぜ」

モルガナに言われ、床に就いた。

さほど時間も掛からず眠りについたが。

「ようこそ、ベルベットルームへ」

「!?」

蓮はその声に目を開く。

起き上り、辺りを見回す。

手枷に横じまの囚人服、辺りは狭い壁に、鉄格子。

鉄格子の先には青を基調とした床、そして机、机に座る人物と、その傍に佇む少女。

「ラヴェンツァ…… 」

そして、ラヴェンツァの主のイゴール。

「あなたはまた、捕らわれてしまったのです…… 」

「?」

ラヴェンツァはかぶりを振る。

「それともまた別の存在です、そして、この度は、あなた方怪盗団だけでなく、神樹に選ばれた勇者にも関係のあることなのです」

「勇者部の?」

蓮は勇者部のことが出たので、聞き返した。

「はい、あなた方に状況を説明したいのです、ですから…… 」

 

 

「それで、保健室かよ」

「讃州中学のね」

翌日の放課後、怪盗団は保健室に集まっていた。

「ねぇ、皆どうしたの?」

そして、友奈も呼ばれていた。

「いや、ラヴェンツァ殿から呼んでくれって言われてな」

「?」

「全員そろっているようですね」

声と共に、青い光が発生し、そこからラヴェンツァが現れた。

「え?人!?」

友奈が盛大に驚く。

「初めまして、神樹に愛されし勇者」

ラヴェンツァが友奈に挨拶する。

「あ、初めまして!結城友奈と言います!」

友奈も挨拶をする。

「私はラヴェンツァ」

そうして、ラヴェンツァによる説明が始まった。

「曲解?」

「はい、この世界は大衆の認知により、歪められたものです」

ラヴェンツァが曲解のこと友奈及び怪盗団に説明する。

「つまり、現実の世界が歪められていると?」

「はい、勇者のあなた方は、今いるこの世界が、神樹の中であるとおもっているようですが…… 」

「ここは造反神の作った世界じゃなかったのか?」

「そう、確かにそのような世界も存在していました。しかし…… 」

ラヴェンツァは区切りつつ、

「神樹はもう…… 死んでいます」

告げた。

「!!?」

友奈が衝撃を受ける。

「そんな…… !!」

世界を、人類を守っていたはずの、神樹。

それが既にいないと、ラヴェンツァは告げた。

「そんな…… だって!若葉ちゃんや西暦の皆とも…… 」

「友奈?」

唐突に友奈が言いよどむ。

「あれ?みんなと最後に会ったのは、いつだっけ…… 」

友奈は思い出そうとする、しかし、西暦の勇者達と共に戦った記憶はあっても、最近の記憶がなかった。

そもそも、乃木若葉達とは最後にいつ会ったか、どこに行ったのか、それも全く友奈は思い出せない。

「落ち着いて、友奈」

「大丈夫だよ」

友奈を女性陣が気遣う。

「それに、どうして?勇者になって…… それで、バーテックスと戦って、一息ついて、それからずっと平和で…… あれ?」

友奈は尚も取り乱し、自分で言ってることと記憶の統合性がとれなくなってきていた。

「っ!??」

唐突に、記憶がフラッシュバックする。

初めて勇者に変身したこと。

園子に初めて出会い、勇者システムの真実を知らされたこと。

東郷が壁を破壊したこと。

自分が意識不明になったこと。

東郷の身代わりで天の神の祟りを受けたこと。

そして…… 天の神と戦い、神樹が消滅したこと。

「そんな…… 神樹様が、もういない?…… うっ!!」

唐突にせき込む友奈。

「友奈!」

蓮が駆け寄り、背中をさする。

「はっ…… はっ!」

呼吸が荒い、そして胸を押さえている。

「思い…… 出した…… !」

友奈はあまりの情報量に落ち着きを無くしている。

「それだけではありません、神樹が消滅する際、世界を修正するために、別の世界の情報を引き出しました」

「別の世界?」

「まさか、その世界が?」

「はい、あなた方の住む世界です」」

ラヴェンツァは続ける。

「しかし、その際貴方がたの世界から、曲解の能力の一部が流れてきたようです」

「流れて来たって…… 」

「先ほどもお話ししたように、神樹は、死ぬ寸前にこの世界を修正しました、しかし天の神・神樹共にいなくなり、他所の世界からの干渉を防ぐこともできなくなっていました」

「でも、大衆の認知を操るなんて、おかしくない?」

杏が疑問を口にする。

「私たちの世界でも認知を歪めるなんてことあったけど、大衆なんて」

「まるで、統制の神みたいに…… 」

真がぽつりと呟く。

「なら、大衆の願いが?」

「この四国の人間は神樹に、願って生きていました」

「そして、神樹が消滅したタイミングで、統制の神の能力も流れてきた?」

「はい、この世界はこの四国の大衆が望んだ世界でもあるのです。そして、その能力を受け継いだのが」

「あの神官か…… 」

「神樹が消滅する際、最も近くにいたのが、あの神官でした。神樹が消滅した後、この四国は人々の集合無意識……メメントスと直結してしまったのです。あの神官は、人々の神樹への願い、という欲望を燃料に、この曲解された世界を維持しています」

「…… ということは、バーテックスと思っていたのは、シャドウ?勇者部が不思議そうにしてたけど」

そう、本来なら神樹から与えられた能力でないと撃破不可能なはずのバーテックスを怪盗団は倒していた。

バーテックではなく、シャドウなら、或いはそう認知していたからこそ、倒せたのかもしれない。

しかし、他にも疑問があった。

「…… なら、死んだ人間が生き返ることもあるかい?」

「え?」

「見つけたんだよ、大赦で…… 三ノ輪銀と書かれた位牌をね」

ざわつく怪盗団。

「確かに、私や春のお父さんやお母さんも…… 」

「銀は既に死んでいて…… 」

「東郷と園子が望んだ結果か?」

「他にもあるが…… 」

「ということは、この世界は現実だけど…… 」

「現実を見据えていない?」

「まさか!パレスにあったあの扉」

「現実を認知していないから、突破できなかったのか」

「つまり?」

「この世界が曲解されてものと認識して、現実に戻ろうと決めてもらうしかないわ」

「だけど…… 」

皆が友奈を見る。

苦しそうにしている、まだ中学生でしかない友奈が。

「だけど、いつまでもこうしてるわけにはいかない」

「どうすんだ?」

「明日から勇者部に話して行こう」

「そうですね、皆が受け入れられるかは分からないけれど」

「ん?だけど、おかしくないかい」

明智が何かに気づく、

「曲解の能力の一部が流れて来たって言ったね。なら、能力の大半は?それに、何故勇者部ならともかく、僕たちにまであの壁は存在するんだい?」

「それは」

ラヴェンツァが説明しようとするが

「う…… !!」

友奈が吐き気を覚え、呻く。

「友奈!」

あまりに、衝撃的な真実に友奈は負担が大きかったのだろう。

「とりあえず今日の所は解散にしとこうぜ」

「先輩、友奈ちゃんを送ってあげましょう」

「ああ…… ん?」

蓮はドアの外に誰かいたような気がしたが、見ても誰もいなかった。

 

翌日、怪盗団は勇者部部室に集合していた。

勇者部部員に会い、この世界のことを伝えるつもりである。

「ユウナは?」

モルガナの問いに

「今日は声を掛けてない」

蓮は首を振って答えた。

「昨日の様子を見る限り、そっとしといた方が良さそうだしね」

「だね、メンタル限界ギリギリって感じだったし」

杏が同意する。

「それで、まずは誰の所に行く?」

真が問うと、沈黙が落ちる。

考えていると、部室のドアが開かれ、

「友奈!」

「だいじょうぶなの?」

友奈が入ってきた。

「うん…… 」

少し顔色の悪い友奈。

「みんなに、聞いて欲しいんだ。私や勇者部の戦いのこと」

友奈は拳を握りしめ、怪盗団全員を見回した。

「聞かせてくれ」

蓮が同意した。

 

「改めて聞くと、そっちも大変だったんだな」

一通り話を聞き、双葉が漏らす。

以前に聞いた、友奈たちの、西暦から始まる戦いについて、今度は本当の話を、怪盗団は聞いた。

中には友奈自身、又聞きの内容も含まれていたが、一通り話した。

「何しろ300年も続いた戦いだからな」

「それでも、勝ち取った」

「ああ、全員立派だ」

「それで、友奈はどうするんだ?」

「私も、みんなの所へ行く、全員で現実に戻りたいから!」

 

友奈は怪盗団と共に、一人ずつ仲間のもとを尋ねて行った。

「あら?友奈に皆も、どうしたの」

風に会いに来たが、どうやら帰りらしく、校門前で出くわした。

「風先輩…… 」

「どうしたの?友奈」

「今、幸せですか?」

「え?ええ…… 」

風はきょとんとした後

「みんなもいるし、樹もいるしね」

風は満足げだが、

「家では家族四人で毎日賑やかよ」

「え?」

風の両親は既に亡くなっている。

「あ、お姉ちゃん。友奈さんに皆さんも」

そこに樹もやってきた。

「どうかしたんですか?」

「それがね、急に今幸せかって」

「幸せ?心理テストですか?」

「その…… 」

「ねぇ、友奈から聞いたんだけど、二人のご両親て」

真が二人に尋ねる。

「あ、はい。毎日朝起こしてもらったり、美味しいご飯作ってくれて」

「風先輩が?」

「え?いやね、友奈。それは私じゃないわよ」

「そうですよ、お母さんがいつも起こしてくれてます」

「そこは友奈と一緒ね、東郷はお母さんじゃないけど」

「でも、友奈さんは最近ちゃんと起きれてるみたいで、羨ましいなって」

「お母さんも困ってたわよ」

「うぅ~」

「ま、そこが可愛いってお父さんは言ってたけどね」

二人は幸せそうに話している。

「ねぇ、両親は優しい?」

春が尋ねる。

「え?えぇ、もちろん…… あれ?」

「樹もか?お母さん毎日会ってて」

言い淀む風、双葉が今度は樹に尋ねる。

「はい、二年前から毎日…… え?」

樹も言い淀む。

春がそっと問いかける。

「ご両親は…… 優しい?」

「そりゃ、だって私が勇者で…… 」

間を置き、

「なんか…… おかしいわ」

「そう…… だよね」

おかしいことに気づいた。

友奈が前に出る。

「先輩、私勇者になったこと、気にしてませんから」

「友奈…… 」

「樹ちゃん、芸能界でも樹ちゃんなら大丈夫だと信じてるよ」

「友奈さん…… 」

『お姉ちゃんは、私のために美味しい料理を……いっぱいいっぱい、なんでも作ってくれちゃいます。私は、そんなお姉ちゃんが大好きです』

『樹!起きてたのね!一人で起きられるなんて偉いぞ~~!』

「今の…… !」

「これって…… !」

二人の中に流れる、過去の映像と声。

「今は焦らなくていいです。でも、何かおかしいって思ったなら、その気持ちは大事にしてほしい」

二人はしばらく黙り込み、

「お姉ちゃん・・・お母さんの作ってくれる料理、おいしいけど…… 。お姉ちゃんが毎日頑張って作ってくれた、あの少し焦げた卵焼きの味は、どこにいっちゃったの?」

樹が呟く、あくまで独り言だが、風にはしっかりと聞こえた。

やがて風が呟いた。

「ごめん、みんな…… 今日は帰るわ。樹、行きましょう」

「うん、皆さん、また…… 明日」

そういい、二人は帰って行った。

「今は待とう」

「そうだね」

「後は二人次第だ」

 

「夏凛ちゃん!」

「友奈、それにみんなも。どうしたのよ?」

浜辺で鍛錬している夏凛を見つけた。

「夏凛ちゃん、今幸せ?」

「なによいきなり?…… まぁ、あんたたちもいるし、親にも認められて、兄貴もいるしね。悪くないわ」

「夏凛ちゃん、ご両親に認められてたんだね」

夏凛は少し照れ臭そうに

「そりゃそうよ、私はずっと勇者になるために鍛錬してきたんだから。兄貴共々、完璧超人って言われてるのよ」

夏凛は、兄が周りから贔屓され、それが原因で勇者の使命に執着するようになったとされている。

「夏凛、君のストイックに鍛錬する姿はまことしやかに美しかった」

祐介が夏凛に言う。

「いきなり何なのよ」

「そうね、体調管理に対しては、見習いたいところもあるわ」

真も同調する。

「なんなのよ、さっきから」

怪訝に思う夏凛。

そこに友奈が素直な笑顔で、

「夏凛ちゃん、私夏凛ちゃんのこと大好きだよ」

そう伝えた。

「え?友奈まで急に」

「大赦の勇者を辞めて、勇者部として戦って私のこと励ましてくれてうれしかった」

「確かに私は大赦から派遣されたけど、東郷が壁を壊した…… っ!?」

『完成型勇者、それが私』

脳裏に、自分の声が響いた。

バーテックスと戦うため、何度も満開した、勇者部五箇条を叫びながら。

「何度も満開しながら戦ってた夏凛ちゃん、カッコよかったよ」

「友奈…… 」

「夏凛ちゃん、待ってるから。夏凛ちゃんが、本当の自分の気持ちを思い出してくれるの」

「…… っ!」

夏凛は唇を噛んだ。

夏凛は友奈を一瞥し、背を向けた。

「…… 今日はもう帰るわ。また、明日」

夏凛はそのまま帰っていった。

 

「園ちゃん!銀ちゃん!」

通学路、そこに園子と銀がいた。

「あ、ゆーゆ~」

「それにみんなも」

園子と銀が笑顔で対応してくれる。

「わっしーとは話した?」

何気なく、園子が尋ねてくる。

「え、東郷さん?」

唐突に東郷の名前が出て、驚く友奈。

「さっきね、ゆーゆのことで、わっしー大暴走してたんだ~」

「友奈に謝るって気合入れてたぞ」

銀は呆れる。

(東郷さんが…… ?)

「さっき…… 教室荒れてたけど、あれ東郷のせいなのか?」

「だとしたら、すごいね。東郷ちゃん、とてもそんな風にみえないのに・・・」

竜司と春が驚く。

園子と銀は、どちらも本当に幸せそうである。

「二人とも、今楽しい?」

「え、ああ。とっても楽しいぞ」

「わっしーやミノさんもいるからね~」

「三人は小学生の頃から一緒なんだよね?」

銀は当然のように頷く。

「ああ、三人でお役目に就いてからそれなりに経つな」

「うん、ミノさんが守ってくれて…… あれ?」

「園子?」

「小学生から…… 中学生になるまで…… え?」

「どうしたんだよ、園子?」

銀が肩を支える。

「わっしーやミノさんと再会するまで…… 私は…… 」

園子はうわ言のようにひたすら呟く。

「みんな!園子が!」

園子の両肩を掴んで、友奈や怪盗団を見る。

友奈は唇を噛み、意を決したように、銀をまっすぐ見る。

「銀ちゃん、あのね…… 」

友奈は銀に対し、

「…… 」

しかし、言いよどむ、あまりに残酷な真実なために。

「僕が言おう」

明智が友奈の前に出る。

「明智さん…… 」

「いいかい?」

「え、ああ…… 」

「三ノ輪さん、讃州中学に来る前は何をしてたんだい?」

「え?そりゃ、家族のみんなと…… あれ?」

言い淀む銀、家族と仲良く過ごしていた、と断言するはずが、言えなかった。

「小学校を卒業してからは?」

「それは…… 」

言えない銀、しばし待ち、明智は口を開く。

「みんなには伝えたけど、大赦で見つけたんだ」

「何を?」

「位牌だよ、君の名前のね」

「私の?」

「ああ、三ノ輪銀と刻まれていた。これがどういう意味か解るかい?」

「…… 」

「つまり、君は既に…… 」

「やめて!!」

園子が声を荒げる。

明智の言おうとしていること、言わせてはいけない、というよりも園子自身が聞きたくなかった。

明智は園子と一瞥こそしたが、すぐに仕切り直し。

「改めて言うね、君は既に故人ということだよ」

「!?」

当然ながら銀は衝撃を受ける、そして隣にいた園子も喉がひゅっと鳴らす。

「ミノさん…… 」

「え?だって…… 私は今ここにいて」

明智は視線を園子へ移す。

「乃木さん。君の時間は、いつで止まっていた?」

園子は震える声で呟く。

「小学生でお役目に就いて…… わっしーとミノさんと…… それから…… それから…… 」

「ここが造反神の作った世界だとしても、おかしいと思わないかい?」

明智は続ける。

「小学生の頃の君たちはいたはずなのに、中学生の三ノ輪銀はいなかった」

「やめて…… 」

「つまり、君は小学生の時お役目で」

「やめて!!」

園子が大声を上げる。

普段ののんびりとした、彼女からは想像もつかない声。

友奈や銀、怪盗団も驚く。

それで一度は止まるが、明智は告げる。

「死んだ」

「私が…… 死んだ?」

あまりの現実に、銀がショックを受ける。

「ミノさん…… 」

事実を告げられて、呆然とする、その眼には涙がにじむ。

「そして、ここは造反神の作った世界でもない、大衆の願いと曲解の力で作られた都合のいい現実だ。後は君たちで考えてくれ」

そこまで、言うことだけ言い、明智は下がる。

友奈は二人の前に立ち、できるだけ優しく微笑む。

「園ちゃん、銀ちゃん。答えを出すのは今じゃなくていいから。でも…… 私たちは待ってるから。ちゃんとここにいるから」

友奈には、それしか言えなかった。既に戦死という確定した現実に対し、友奈にも、怪盗団にもどうにもできない。

「…… 」

「…… 」

二人は何も言わず、帰って行った。背中が見えなくなるまで、友奈はじっと見送った。

 

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