勇者と怪盗の不夜城(パレス) ―偽りの神樹と真実の選択― 作:mitsuyo
友奈達は部室に戻った。
「あとは…… 東郷さんか」
友奈が呟く。
先ほどの銀と園子の言っていた、友奈に謝るというのは気になり、最近疎遠な東郷と話すのは緊張するが、それでも話さない訳にはいかない。
「友奈、東郷と連絡は?」
蓮が尋ねる。
「それが、東郷さんのスマホに電話してるんだけど、繋がらなくて。家にも帰ってないみたいだし、園ちゃんと銀ちゃんも知らないって」
「そう…… 」
「でも、いつまでも探してる訳にもいかないよね」
杏が机に頬杖をつく。
「ああ、ワガハイ達もパレス攻略を進めねーとな」
モルガナが言う。
「でも、あの扉を攻略しないと先に進めないわ」
「友奈ちゃんがこの世界が曲解されてるって認めたことで、何か変化はないでしょうか?」
かすみが提案する。
現実を自覚した勇者部がいれば、先に進めるかもしれない。
「それは分からないけど、一度行ってみない?」
真もまた提案する。
「明日行ってみよう」
蓮が結論を出す。
全員がそれぞれ頷く。
全会一致し、そうして、その日は解散となった。
東郷は行方不明。
風、樹、夏凛、銀、園子、皆それぞれ揺らぎを抱えたまま。
それでも、翌日彼らは再び不夜城のパレスへ向かうことになる。
「みんな、おっはよー!」
朝の大赦前。
いつものように元気な声を上げて、友奈が手を振る。
隣には、蓮とかすみも一緒だ。
すでに集まっていた怪盗団と勇者部が一斉に振り向いた。
「おはよう友奈」
「おはようございます!」
「遅いわよ!」
「おっはよ~なんよ」
「おはよう」
風・樹・夏凛・園子・銀もいた。
それぞれの声を聞いて友奈は胸がじんわり温かくなるのを感じた。
「みんな…… 」
樹が一歩前に出る。
「事情は怪盗団の皆さんから聞きました」
「まさか、神樹様や造反神でもない世界だったなんて」
夏凛が苦笑交じりに肩をすくめる。
「そりゃ、若葉も芽吹もいないはずよね」
銀が静かに続ける。
「私もな…… 最初は信じたくなかったけど」
「ミノさん…… 」
銀を複雑そうに見る園子。
各々事情を知り、胸中を明かす。
「でも、やっぱり帰りましょう」
「私たちも、そう決めたんです」
「完成型の私がいなきゃ、現実世界も困るってもんよ!」
夏凛が胸を張る。
「私も、やっぱりみんなには現実で生きて欲しいから」
「私も~」
「良いのかい?」
明智は小声で尋ねた。
「良いんです、やっぱり友達には現実で生きて欲しいから」
全員覚悟は決まったらしい。
「うし!先に進もうぜ」
竜司が高らかに言う。
しかし、友奈の表情は曇っていた。
(東郷さん…… どこにいるの?)
怪盗団が来てから、すっかり疎遠になっていた東郷だが、やはり友奈にとっては一番の友達であり、大事な存在である。
一緒に現実の世界に戻りたいと思っている。
このまま疎遠になるというのは嫌というのが本心である。
パレス、不夜城の最深部近く。
例の扉の前まで来た。
「あ!扉が開いてる!」
勇者部が扉を確認し、そう言った。
巨大な扉は開かれ、その先には通路が伸びていた。
「本当だわ、通路が!」
「これで先に進めますね」
大盛り上がりの勇者部だが、
「おいおい待て…… どういうことだ?」
スカルが尋ねる。
「分からないわ、ナビ?」
クイーンが問いかける。
「ダメだ、まだ扉の反応はまだあるぞ」
「それも怪盗団にだけ、らしいな」
「まだ、何かやることがあるってことかな」
「え?みんなはまだ扉があるの?」
友奈が怪盗団を見る。
「ああ」
勇者部が不思議そうに見てくるが。
「どういうこと?」
首をかしげるパンサー。
「見えてるの?」
風が確認すると、ジョーカーが頷く。
「勇者部のみんなには開いてるけど、わたしたちにはまだ塞がってるって判定だな」
ナビが冷静にまとめる。
「勇者部は、現実世界をちゃんと見ようと決めた。だから扉が無くなった」
クイーンが顎に手を当てる。
「ってことはよ…… 」
スカルが頭をかく。
「俺たちにまだ扉が残ってるってことは、俺たちも何か見て見ぬふりしてるってことか?」
パンサーが唇を噛む。
「私たちも何か忘れてる?まだ認めきれてないものがあるってこと?」
怪盗団が話していると。
「ここから先に行かせるわけにはいきませんな」
「!?」
唐突に大人の男性の声。
全員が弾かれたように、声の方を見ると。
神官服に仮面、大赦の神官、最も服装は少々アレンジされているが。
だが、その神官の隣には、
「東郷さん!?」
友奈の声が裏返る。
東郷が隣にいた。
凛とした青い勇者装束。
銃を構えた、見慣れた姿で立っていた。
「なんで、東郷が神官の横に?」
スカルが誰となく、尋ねる。
「まさか、シャドウとか?」
「いいえ、私は本物です」
怪盗団が口々に疑問を口にするが、
東郷は一歩前に出て、毅然と答えた。
「皆さんに、この世界を戻させる訳にはいきません」
「東郷!?」
「何いってるんだ?」
東郷の宣言にざわつく勇者部と怪盗団。
「東郷さん、どうして?」
友奈が悲痛な表情で尋ねる。
問われた東郷も悲痛な表情を浮かべる。
「友奈ちゃん…… 」
だが、表情をきつくしめる。
「聞いてしまったの、友奈ちゃん達の会話を」
数日前
保健室の前で怪盗団と友奈の会話を聞いた東郷。
世界の曲解に、銀の死、それらを聞き、
「っ!!?」
東郷の脳内、以前の、記憶がフラッシュバックする。
鷲尾須美として、勇者のお役目に就き、そして、銀が戦死したこと。
その後、友奈と出会い、勇者部に入部したこと。
園子と再会し、壁を破壊し、友奈が意識不明になったこと。
その後、天の神の怒りを鎮めるため、自身を生贄にしようとしたが、助かり、結果友奈に祟りを押し付けてしまい、それを知らずのうのうと学園生活を満喫していたこと。
神婚しようとした友奈を説得し、大満開した友奈が天の神を撃退したこと。
「全部…… 思い出した」」
手が震えていた、いやそれどころか身体中が震えていた。
「でも…… それならなんで西暦の勇者達のことまで?」
乃木若葉などの記憶があることに戸惑うも、
「…… これが、曲解のせい?以前の造反神の記憶も思い出したのも?」
頭の中で思考を巡らせる。
(怪盗団が大赦の人を改心させたら、この世界は消える?そうなったら、本来死んでいる銀は…… 、それに、このままじゃ友奈ちゃんは雨宮さんに取られる上に、祟りのことをまた思いだして苦しめる?)
友奈の笑顔と、血に染まった銀の姿が何度も交互に浮かぶ。
「そんなの…… そんなの、絶対に嫌!!)
視界が揺れる。
そして、東郷は思いついた。
(なら、改心さえされなければ…… )
「だから、皆さんに改心はさせない」
「東郷さん!」
「東郷!!」
直後、銃声が響くと、足元が抉られていた。
東郷が銃を構えている、撃たれたのだろう。
「マジで撃ってきやがった!!」
「どうする?」
モルガナが小声で問う。
「今の東郷、完全に聞く耳持ってないわ」
クイーンが歯噛みする。
「このままじゃダメだ、一旦退くぞ!」
ジョーカーが判断し、怪盗団と勇者部は一斉に後退した。
東郷は追撃こそしなかったが、銃を構えたまま、その場に立ち尽くしていた。
パレスから帰還後。
勇者部部室には、重い沈黙が垂れこめていた。
「まさか、東郷が敵になるなんて」
風が重々しく口を開く。
「わっしー…… 」
園子も膝を抱えている。
「聞く耳持たないって感じだったぞ」
銀は腕を組んで外を眺めている。
「それに、私たちには未だに扉があるなんて」
杏がため息をつく。
「それもだが、とりえあずは東郷をどうにかしないとな」
祐介がきっぱりという。
「…… 」
その中で、蓮は友奈の様子を見ていた。
「友奈」
名前を呼ぶと、肩がびくりと震えた。
「蓮君…… 」
「お前はどうしたい?」
短く、それだけを問う。
友奈はしばらく口を開けなかった。
感情がまとまらず、言葉が出なかった。
「私は…… 」
友奈は俯く。
「私が悪いのかな?蓮君と仲良くしたから。東郷さんのことに、もう少し気を配ってたら…… 」
「それは違う、東郷は東郷で友奈を蔑ろにしていた。銀と園子ばかり見て、怪我したお前に気づきもしなかった」
「うん、でも…… 」
友奈は唇を噛み、
「それでも、東郷さんの邪魔したくなかった。銀ちゃんや園ちゃんと一緒にいられる東郷さん、楽しそうだったから」
そして、絞りだすように続ける。
「でも…… 本当は、寂しくて…… 苦しくて…… 今みたいなの、やだよ」
「あきらめるのか?」
「え?」
友奈は顔を上げ、蓮を見る。
真剣な表情で尋ねる蓮。
「東郷をここで諦めるのか。しょうがないと、自分に言い聞かせて、終わりにするのか」
そう問われ、
「…… 諦めたくない」
ぽつりと呟く。
「私、東郷さんを取り戻したい!銀ちゃんや園ちゃんと一緒でも…… 私の大事な東郷さんでいてほしい」
「なら、行こう!」
蓮が友奈に手を差し伸べる。
それを取る友奈。
「うん!」
怪盗団と勇者部、主に園子と銀に。
「みんな、私…… 東郷さんと向き合う!」
「友奈…… 」
「今までにも、こんなことあったし、向き合ってどうなるか分からない…… でも」
友奈が決意をの乗せた声色で言う。
「それでも、東郷さんとは、一緒に生きたから、現実で!」
現実に戻れば、銀は死ぬ、自身が祟りで苦しんだ事実がトラウマとして残る。
それを承知で、友奈は決めた。
「ゆーゆならそういうと思った」
園子嬉しそうに言う、銀のことがあり、複雑さはあるだろうが、東郷に戻ってきてほしい、という想いは友奈と同じだろう。
「おう!行こうぜ友奈!」
「私たちもばっちりフォローするから!」
「ま、それでいいなら付き合おう」
怪盗団も乗り気である、明智ですら、乗り気なように、思われた。