勇者と怪盗の不夜城(パレス) ―偽りの神樹と真実の選択― 作:mitsuyo
「友奈ちゃん…… 」
「東郷さん…… 」
不夜城のパレス、の例の扉の前、そこに東郷は待ち構えていた。
頭の良い東郷、再度来ると分かっていたのだろう。
友奈が一歩踏み出す。
「東郷さん、どうしても通してくれないの?」
東郷は小さく息を吸い、意を決し。
「ダメよ、友奈ちゃん。現実の世界に戻ったら友奈ちゃんが苦しんだ事実がこの先も友奈ちゃんを苦しめる、それに…… 」
背後の銀を見る。
「もう銀を失いたくない!」
言うなり、東郷は銃を発砲する。
銃声と、床石が砕け、火花が散る。
全員が散開して避ける。
そして、どこからか、シャドウが複数沸いて出た。
戦闘開始である。
「やるぞ、オマエラ!!」
モナが号令を出す。
「ゆーゆ!シャドウは私たちに任せて!」
「東郷にしっかりお灸を据えてきなさい!」
「がんばってください!」
「頼むぞ、友奈!」
勇者部の面々からの声を聞き、友奈は東郷と対峙する。
「友奈ちゃん!一緒にこの世界にいよう!ここにいれば、友奈ちゃんは苦しまなくて済むわ!」
東郷が友奈に必死に呼びかける。
「東郷さん…… 」
東郷は友奈に呼びかける。
「もう蔑ろにしないから!前にも言ったでしょ?ずっと、ずーっと一緒にいましょうって!」
友奈の胸が痛んだ。
東郷はあくまで、友奈の幸せを本気で願っていると分かる。
「…… 」
「朝から寝るまで、傍にいるから!だから…… ね、友奈ちゃん」
優しい笑顔で、友奈に手を伸ばす東郷、友奈が最近何度も、自身に向けて欲しかった、東郷の顔。
この手を掴めば、友奈は現実を諦める。そして、偽りの現実で幸せになるだろう。
現実で祟りに苦しめられた事実も消える、それでも、友奈は手を取らなかった。
自身の掌をしばし見つめたが、意を決したように。
ジョーカーが友奈の前に立ち、東郷と対峙する。
「東郷!」
ジョーカーが銃を構える。
ジョーカーの姿を見るなり、東郷から笑みが消える。
「雨宮さん!あなたが来たから、友奈ちゃんが私の傍から離れたのよ!」
東郷は憤りと恐怖の入り混じった叫びをあげる。
銃を構え、引き金を連続で引く。
地を蹴り、跳躍する。
弾丸をギリギリで躱しつつ、その際にも銃撃を数発撃つ。
「それは違う、友奈は自分から自立するために離れた!」
空中でジョーカーは低い声を発する。
「自立するために、前に進もうとしているんだ!」
「そんな…… こと!そんなの、認めない!!」
躱しつつ、迎撃する。
「銀や園子ばっかで、友奈は全く構ってなかったじゃねーか!」
すぐ近くで、スカルが鉄パイプをスイングし、シャドウを殴る。
その余波に、わずかに後退。バランスを崩す。
「何かって言うと銀、銀、てちょっとしつこいんじゃない?」
パンサーが鞭をしならせ、東郷の肩を打ち据える。
「っ!!」
衝撃に東郷の腕が思わずふらつく。
「東郷さん!」
再度銃を構えるが、銃身を肉薄していた友奈が蹴り上げる。
「!!」
金属音、銃声とともに、銃口が上向きに跳ねあがる。
クロウがすかさず滑り込んだ。
「結城さんは驚くほど献身ぶりだ」
サーベルを構え、冷ややかに言い放つ。
「自分を散々蔑ろにした相手にさえ、こうして手を伸ばそうとしている。少しは自覚したらどうだい?」
クロウがサーベルを振るい、東郷の銃を弾く。
弾かれた銃は床を滑り、遠くで音を立てて止まった。
「くっ!」
後方に下がろうとする東郷。しかし、背後は通路の壁。
逃げ道はない、新しく二挺拳銃を取り出そうとするが、
「東郷さんっ!!」
「!!」
友奈が肉薄し、東郷の両腕を壁に抑え込む。
そして、その傍にいたジョーカーが、そしてクロウが東郷に銃を向ける。
東郷の腕力なら、友奈を強引に引き剥がせたかもしれないが、その間に確実に撃たれる。
東郷を完全に抑え込んだ。
そして、周囲でも、勇者部と怪盗団がシャドウを一掃していた。
「友奈…… ちゃん…… 」
抑え込まれ、戦意を喪失した東郷。
友奈は両手を離し、そんな東郷を
「嫌だよ!!東郷さん!」
震える声で叫び、強く抱きしめた。
「友奈ちゃん…… 」
友奈と東郷共に目には涙を浮かべている。
「このまま東郷さんと疎遠になんて、なりたくないよ!!絶対に嫌だ!」
「でも、私…… 友奈ちゃんを蔑ろにした…… いつも見てるって約束したのに、銀とそのっちのことばかり…… 」
「気にしないよ!」
「現実でも散々友奈ちゃんを苦しめた…… !!祟りのことも、私のせいで!」
「もういいよ…… 」
友奈は抱きしめる腕に力を込める。
「それでも、私は東郷さんが大好き。一番の友達だもん。だから…… 一緒に現実に帰りたい!」
「美森…… 」
「銀…… 」
そんな二人に銀が近づく。
東郷は友奈の肩越しに銀を見る。
「私…… 現実の世界に戻ったら消えるんだよな」
銀は笑って見せた。
東郷には、『またね』といい、笑っていた銀の姿が重なって見えた。
「ええ、それが…… 嫌で嫌で、しかたなかったの!」
声が掠れながらも東郷は叫ぶ。
「でもさ、それでもお前らには現実で生きて欲しいんだ、何しろ私が命懸けで守ったんだからな」
「…… 」
「それに、私ら神樹館三人の友情は不滅だろ」
偶然なのか、その言葉は小学生の銀が造反神の世界での別れ際に、東郷たちに言った言葉と、ほぼ同じだった。
銀は豪快な笑顔を見せる、
「銀…… !!」
東郷の肩が大きく震える。
「一緒に帰ろう…… !!東郷さん!!」
友奈は叫んだ、ありったけの想いを載せて、東郷がどう返すかは分からないが、それでもただただ自分の胸中を叫んだ。
しばし沈黙、東郷の嗚咽の声が響き始め、そして、
「ごめんなさい…… !!」
小さな声が、友奈の胸元から聞こえた。
「ごめんなさい、友奈ちゃん…… 銀…… みんなも!」
東郷は顔を上げられず、泣きながらひたすら謝った。
その姿を見て、ジョーカーもクロウも銃口を下ろす。
戦闘は終わった。