勇者と怪盗の不夜城(パレス) ―偽りの神樹と真実の選択― 作:mitsuyo
「ここは…… 」
「外からも見えていた、大木の…… 」
ジョーカー・ヴァイオレット・友奈・東郷の四人は、神官を追いかけて、巨大な木の生えている吹き抜けの部屋に来ていた。
天井が取り払われており、空へ巨大な大木が伸びていた。
その大木を背景に神官は静かに、両手を広げて立っていた。
四人は神官へ近づく。
「この世界は、神樹様あってこそ、そんな神樹様を拒むなどありえない」
友奈は神官に向かい、
「私たちは、神樹様に頼らずに、生きていくと決めたんです!」
言い放ち、東郷も友奈の隣に立ち。
「私も、友奈ちゃんや銀を失うのが怖くて、あなたに同調しようともしました、でも、やっぱり元の世界に戻ります!」
続いて、ヴァイオレットが、
「彼女たちの幸せは、彼女達自身が決めます!」
最後にジョーカーが、
「お宝は頂戴する!」
宣言した。
怪盗団と勇者達が面と向かってこの世界を否定する。
「おろかな、何故理解しようとしないのか、選ばれし勇者が!」
神官は大木に向き直り。
「勇者と言っても、所詮は子供…… いくら話しても無駄なようだ」
大木に触れた。
「ならば、この世界を、神樹様を守らねば。反逆者と、その仲間になった勇者達からな!」
その直後、神官の身体が大木の中へと、水面に入るように、入っていく。
そして、大木がわずかに動き、地面から多数の太い根っこが出てくる。
加えて、巨大な樹冠からは、星屑を始めとした、多種多様なバーテックスが姿を現した。
戦ったことのある友奈と、東郷は驚愕した。
「これは…… !?」
「バーテックス!?」
「しかも、造反神 や中立神のも?」
歴代の勇者同様、認知上の存在だろうが、それでも数が多く、充分脅威と言える。
驚きつつも、東郷が銃を構え、大木目掛け、数発発砲する。
しかし、樹皮が思いのほか硬く、弾丸は弾け飛ぶ。
「っ!!」
ジョーカーとヴァイオレットが身構える。
「自らを神樹と重ねているんでしょうか?」
ヴァイオレットがジョーカーに尋ねる。
「止めるぞ」
戦闘開始となり、バーテックスを繰り出し、根を操っているであろう神官、その本体は大木の中にいるのは先ほど見ていたので分かる。
ジョーカー・ヴァイオレット・東郷の三人が銃器で集中砲火を大木に浴びせるが、
「まるで効いてない!」
やはり内部にダメージが入っていない。
「勇者ぁぁぁぁ…… パーンチ!!」
友奈が跳躍し、大木を勇者パンチで殴るが、やはり通じない。
「攻撃が、通じない?」
東郷が呟く。
そこに、大木は容赦なく攻撃を仕掛ける。
根っこの一本を振り上げ、四人を叩き潰そうと振り下ろす。
四人は回避するため左右に分かれて飛ぶ。
加えて、バーテックスのシャドウ達が襲い掛かってくる。
迫るバーテックスと応戦するも、次から次へと新手が来る。
このままでは消耗し、やがて押し切られる。
「どうしよう?ジョーカー君」
隣を跳躍している友奈が訪ねてきた。
「…… 」
思案するジョーカー、そこで
(トリックスター)
ここに来る前のことを思い出した。
ベルベットルーム
予告上を出し、パレスに来た直後、ラヴェンツァに呼ばれ、ベルベットルームを尋ねたジョーカーに対し、
「あなたがこの世界で紡いだ絆、それは現実世界同様、あなたの助けとなるでしょう」
そう告げた。
ジョーカーは、友奈と築いたコープを元にペルソナを合成して生み出した。
「ペルソナ!!」
ジョーカーがペルソナを呼び出す、すると、丸っこい、牛のぬいぐるみに羽根の生えたような、そんなペルソナが出てきた。
「かわいい…… 」
ヴァイオレットが呟き。
「え…… 牛鬼!?」
友奈はそのペルソナを知っていた。
以前手助けしてくれていた精霊、牛鬼。
天の神との戦いが終わり、消滅したが、ペルソナとして、再度友奈の手助けをしようとしてくれていた。
(行こう!友奈ちゃん!)
「!!」
友奈には聞こえたような気がした、かつて天の神との件で、祟りのことを聞いてくれ、最終決戦の時、神樹の力を友奈に繋いでくれた、自身と同じ名前の少女、初代勇者の一人。
高嶋友奈。
この世界でも、もう一人の友奈は手を貸してくれた。
牛鬼から発せられる光、それが友奈を包む。
それは再現、最終決戦の時同様、友奈に力を与える。
光が収まると、先ほどとは違う装束に身を包んだ友奈の姿があった。
「友奈ちゃん、あの姿…… 」
ヴァイオレットは神々しいその姿に息を飲むが、東郷は、
「あの時の…… 」
一度見た姿を再度見ていた。
「大満開…… 」
そう、天の神を撃退した、友奈の勇姿を体現したその姿、大満開。
「皆さん!友奈ちゃんを…… !」
東郷がジョーカーとヴァイオレットに呼びかける。
ジョーカーだけでなく、この場においては、友奈もまた切り札だった。
友奈にジョーカーは手を差し出す。
「行くぞ、友奈!」
「うん!」
その手に、逆手を乗せる友奈。
ジョーカーは友奈の手を掴むと、ワイヤーで自身たちを高く飛ばす、
そんなジョーカーと友奈へ、大木の根っこや、バーテックスの攻撃が襲い掛かる。
「友奈ちゃんの邪魔はさせない!満開!!」
満開した東郷の戦艦を思わせる起動兵器から砲撃を発射する。
上空の敵に対し、マルチロック後、砲撃を浴びせる。
「菫色 さん!」
ヴァイオレットが跳躍し、東郷の起動兵器に乗る。
東郷が右手をヴァイオレットに向ける。
「任せて!!」
東郷の右手の平に、ヴァイオレットが右手の平を叩き合わせる。
バトンタッチである。
「エラ!!」
そして、ヴァイオレットのペルソナの攻撃が大木の根を潰していく。
すぐにバーテックスも根っこも生成される、しかし、それでもわずかに攻撃は止んだ。
今が好機である。
「先輩!」
「ああ!」
ジョーカーは友奈を更に上空へと放り上げる。
それと同時に、ヴァイオレットが跳躍し、ジョーカーとバトンタッチをする。
防御の心配のいらない状態になったジョーカーは、厳かにその名を呼ぶ。
「サタナエル!!」
召喚したペルソナ、大木と同等の巨体の悪魔を思わせるペルソナ、右手には拳銃を持っており、天を突く大木を見下ろすように、漆黒の六翼がパレスの空を覆う。
「すごい…… !!」
「なんて巨大な!」
友奈と東郷が驚く、ここまでいくつかペルソナを召喚したが、ここまでサイズは初めてだった。
サタナエルが大罪の徹甲弾を装填する音は、偽りの平穏の終焉を告げる鐘のようだった。 大木に向け、大罪の徹甲弾 を放った。
弾丸が放たれ、暗い不夜城を一瞬火花が照らした。
回転する弾丸は、真っすぐに伸びる。
弾丸は、大木を穿ち、そのまま貫通した。
その貫通し、ぽっかり空いた穴には、神官の姿があった。
ただでさえ、巨大なサタナエルが現れ、且つ自身の防御が破られ、丸裸にされた状態である。わずかながらも、神官は攻撃も防御も忘れ惚けた。
そこに、友奈が空中から落下し、ジョーカーとすれ違い様にバトンタッチする。
「頼んだぞ」
「うん!」
すれ違いざまにジョーカーが呟く。
落下しつつ、神官めがけ、友奈は拳を振り上げる。
「全部乗せ…… !!」
静かに、しかし力強く呟く友奈。
そして、腹の底から精一杯張り上げる。
「勇者ぁぁぁ…… パーンチ!!」
勇者パンチを繰り出す友奈、貫通した穴を通り過ぎる僅かな瞬間に神官の顔面を殴った。
その一撃は神官に命中し、神官のシャドウを吹き飛ばした。
そして、大木もまた灰のように消滅した。
「ぐっ…… !」
大木から殴り飛ばされ、地面に激突した、神官。
周囲に掴まるものが何もないながらも、よろめきつつ、なんとか立ち上がる。
今にも崩れ落ちそうなその様子は、ゾンビのようであった。
そこに、友奈が降り立った。
大満開も解け、元の装束姿に戻っていた。
そして、牛鬼もまた消滅していた。
「あ…… 」
友奈が咄嗟に手を伸ばすも、既に散った花びらのように、消えていた。
「…… 」
「おのれ…… !!」
そんな友奈に向って、
「小娘ぇぇぇぇ!!」
両手を広げ、神官が襲い掛かろうとする。
「!?」
完全に油断していた、友奈。
そこに、二人の間に降り立ち、銃を構えるジョーカー。
勢いを無くさず、肉薄していた神官の額に、銃口を押し当てる形になる。
「チェックだ」
銃口を突きつけられた神官が、震える声で呟く。
「私はただ・・・・もう誰も、勇者の少女たちが傷つかない世界を…… 」
「そのために誰かの『今』を奪うなら、それはただの独りよがりだ」
ジョーカーの言葉と共に、引き金が引かれる。
銃声が響き、仰向けに倒れた神官。
決着が着いた。
「ジョーカー!」
「ヴァイオレット!」
「友奈!東郷!」
怪盗団と勇者部の仲間たちが駆けつけてきた。
「みんな!」
「そっちは片付いたみたいね」
「はい!」
元気に笑顔で返事する友奈。
「くっ…… まさか私が敗れるとは」
神官が身を起こす。
「何故だ!神樹様のいない世界で、どう生きろと!?僅かな人類でどう生きて行けば良いのだ!」
声を荒げる神官。
「目を覚ませ」
ジョーカーが言う。
「黙れ!異世界人の貴様が神樹様を否定するのか!」
激高する神官、仮面で分からないが、ジョーカーを睨んでいるのだろう。
「俺らは確かに、この世界の人間じゃねえから、分かんねえし、これが正しいなんて、言うつもりもねえ」
スカルが返す。
「それでも、私たちは現実の世界で生きるわ」
風が続ける。
「勇者部を作ったことで、みんなを巻き込んで、樹の夢を潰して、そう考えると本当に辛かった」
「お姉ちゃん…… 」
樹がなんとも言えない表情で風を見る。
「園子様!東郷様!良いのですか!?このままこの世界が消えれば、三ノ輪銀様は元の通り、死ぬ!」
未だに納得がいかない神官、今度は東郷と園子に矛先を変え、
「三ノ輪銀様!貴方様もお二人と生きたいのではないですか!」
銀にも訴える。
「たしかに、二人ともいたいし、みんなともいたい。何より、弟達や家族を悲しませたくないからな」
独り言のように銀は呟く。
「でも、やっぱり私は、皆に現実で生きて貰いたいって思う、消えるのが怖くないと言えば噓になるけどさ」
「銀…… 」
「ミノさん…… 」
銀の言葉に、東郷と園子が哀しげな表情になる。
銀にも否定された神官。
「ホントに辛いことが沢山あった、もうダメだって、何度も思った。それでも、乗り越えられた!みんながいるから、そんな一つ一つ積み上げて生きてきた現実が私の居場所だから!」
「私も、もう迷いません。辛い過去も、これから過酷な現実も全て受け入れて生きていきます。って中立神の人類絶対管理でも同じようなこと言ったけれど…… 」
「天の神が襲来してきて、神樹様と一つになろうって時もね」
「やっぱり、人のことは、人に任せ欲しいよね~」
「私たちの世界も、沢山人がいるけど、必ずしも幸せな世界じゃないもんね」
「こいつらみたいな奴がいるんだ、なんとかなるんじゃねーか」
「神樹だって、そんな彼女たちの姿を見たから、後を託したんじゃないですか?」
「実際にこの世界で、幸せになってる人間もいれば、これからも幸せな人間もいるだろう、しかし、この世界は、三百年積み重ねてきた人の意思を、神樹の意思を否定するものではないのか?」
「中学生ですら、前向きに生きようとしてるんだ。大人がしっかりしなくてどーすんだ?」
「…… 何とも愚かなことを」
神官は再度身を下ろす。
「だが、私は負けた。現実の世界に戻るか…… 」
そういい、神官は消えた、そしてそこにはお宝があった。
それを拾うジョーカー。
そして、パレスは毎度の通り、地震のような揺れを起こし、
「消失するぞ!脱出だ!」
警鐘を鳴らす。
「これって…… 」
勇者部の誰かが呟く。
彼女たちがいつも樹海から帰還する際、花吹雪が吹雪き、現実の世界へ戻されていたが、ここパレスでも、同じように花吹雪が舞っていた。
全員気が付くと、元の世界、そして何故か讃州中学の屋上にいた。
全員頭を突き合わせ、輪を作るように寝ていた。
「あれ?」
「私たち、大赦にいたんじゃ?」
「ワガハイもこんなこと、初めてだぜ」
「カガミブネを使ったわけじゃないのに」
「まるで、樹海から帰って来た時みたいね」
各々呟きながら起き上がる、帰還に慣れてる怪盗団・勇者部共々戸惑っていた。
全員が起きたのを確認し、
「蓮、それって」
蓮の手にあるものに全員が注目する。
「これが、お宝?」
それは、掛け軸だった。
一本の木が描かれていた。
「書かれているのは、神樹か?」
祐介が覗き込み言う。
「あの神官にとって、神樹様はそれだけ大事な存在だったんだね」
「この世界の人たちにとっては、同じかもしれないわね」
「うん…… そーかもね」
「これで改心は終わった…… だね?」
明智が確認するようにいう。
「とりあえず、今日は帰って寝ようぜ」
モルガナが全員に言う。