勇者と怪盗の不夜城(パレス) ―偽りの神樹と真実の選択― 作:mitsuyo
翌日、勇者部部室。
集合した勇者部と怪盗団。
「なぁ、俺ら元の世界に戻んの?」
竜司が言い出す。
「はずだよね?」
「何も起きないぞ」
怪盗団は口々に言う。
「あれ?」
唐突に銀が呟く。
銀の言葉に、そして銀に全員が注目した。
なんと銀の体が足から透けていた。
「そっか…… 私からか」
「銀!!」
「ミノさん!!」
東郷と園子が銀に駆け寄る。
二人とも今にも泣きそうな顔をしている。
「せっかく、せっかくまた一緒にいられたのに…… 」
「泣くなよ園子、行ってるだろ、私たちの友情は永遠だって」
「銀…… 」
とうとう涙を流す二人。
そんな二人をなだめながら。
「友奈、二人をよろしくな」
「銀ちゃん…… うん!任せて!!」
友奈も泣きそうだったが、笑顔で伝えた。
「怪盗団のみんなも、ありがとな! お前らのおかげで、最後に最高の『お役目』ができた。…… またね!」
そして、光に包まれて、銀は消えた。
「ん?おい!」
続いて竜司の手も透け始めていた。
「次は俺らか、なんかトラウマを思い出させるな」
「あの時は本当にびっくりしたわね」
「いざ帰るとなると、少し寂しいね」
「なんだかんだで馴染んでいたからな」
「ああ…… 」
「なぁ、お前らの戦いは終わったかもしんねーけど、世界のこととか、これから大変かもしんねーけど…… その」
「?」
竜司が勇者部に何か言おうとしている。
「つまり、竜司なりにがんばれって言いたいのよ」
真がフォローに入る。
「そう!それが言いたかったんだ!」
竜司は即乗っかる。
「…… ありがと!」
竜司の不器用ながらも、思いやりに感謝する勇者部。
「東郷、お前のハッキング能力も中々だったぞ」
東郷を褒める双葉。
「ありがとうございます、佐倉さんの域に達せるよう精進します」
「お前ならそのうち大赦、ハッキングしたりしてな!」
(実際にやったことあんのよね・・・)
風が内心思う。
「…… 」
消える蓮を見つめる友奈。
「友奈ちゃん」
友奈の肩をたたく東郷。
反対側から芳澤も来て、
「今伝えなきゃ、後悔するよ」
友奈の肩を叩く。
「二人とも…… うん!」
力強く頷き、蓮に近づき、
「蓮君!」
蓮に声を掛けた。
「友奈」
蓮が友奈に向き直る。
「色々ありがとう、天の神のこと、東郷さんとのことも。私…… 自分の幸せも大切にするから!」
「ああ、無理せず、自分も幸せにな」
「無理せず自分も幸せに…… 」
蓮の言葉を繰り返す友奈。
そして、ポケットから押し花を取り出し、
「これ、私が作ったの。皆の分もあるよ!」
蓮に押し花を渡す。
「ありがとう、友奈」
笑顔で礼を言う蓮、そんな蓮を見上げ、何度か口を開くも、躊躇い、そして
「蓮君!!」
「ん?」
「私…… 蓮君が好き!」
蓮に告白した。
言われ、微笑む蓮。
しかし、その直後に蓮含む怪盗団の全身が光り、消えた。
蓮も、他の怪盗団も同じく消えていた。
返事は聞けなかった。
「…… 」
俯く友奈。
「友奈ちゃん…… 」
東郷が心配そうに声を掛ける。
顔を上げた友奈の眼には涙が滲んでいた。
「大丈夫だよ、東郷さん…… 」
それでも、笑顔を見せ。
「きっと、また会えるから!」
「はい、友奈ちゃん」
ぼた餅を友奈の前に置く東郷。
「ありがとう、東郷さん」
笑顔の友奈。
そんな友奈に、東郷はぼた餅を切り分け、
「はい、あ~ん」
「あ、あーん」
友奈の口に入れる。
「なんか…… 最近東郷の友奈に対するスキンシップ激しくない?」
夏凛が呆れる。
「私はいいと思うな~、メモメモ!」
園子は満足そうにしている。
「今日も平和ですね」
樹が言う。
「そうねぇ、風が顔を出さなきゃもっと静かで平和なんだけど」
「そんなこと言って~、にぼっしーってばふーみん先輩が来ないと、寂しいんよ~」
「んなわけないでしょ!」
勇者部は相変わらず賑やかだが、
「でも、なんか前はもっと賑やかだったような気がするのよね」
風が呟く。
「あ、それ私も思ったのよ」
「私も~」
「風一人いないだけで、そんな変わるとも思えないんだけど」
夏凛が風をチラ見する。
「ですよね、もっと沢山人がいたような」
各々が不思議そうに考え込む。
「くるくる、くるくる…… 」
そんな中友奈はコーヒーミルのハンドルを回していた。
「珍しいね、友奈ちゃん。コーヒー淹れるの?」
ぼた餅を配膳していた東郷が友奈に声を掛ける。
「うん、なんだろうね」
友奈はくすっと笑う。
「って、なんで七人分淹れてんのよ?」
夏凛が七つコーヒーの入ったカップを指差す。
「東郷も、なんで七人分ぼた餅用意してんの?」
同じく七つ並べられたぼた餅。
「あれ、なんでだろう?」
「本当に、不思議ね」
友奈と東郷共に不思議そうにする。
「もう一人、勇者部にいたような気がして」
「うん、私も…… それに」
友奈がコーヒーミルを掴み、
「誰か大切な人を思い出しそうな気がして」
だが、それが誰かは、まだ思い出せなかった。
友奈は、壁に掛けられた六箇条の最後に目を向ける。そこには、あの日、誰かが教えてくれた「自分を大切にする」という想いが刻まれている気がした。
「行くぞ、みんな」
丸喜のパレス。
現実の世界に戻るため、怪盗団はこの日決戦を迎えようとしていた。
ジョーカーはポケットの中に手を入れ、そこに何かあるのに気付いて取り出す。
取り出したのは、一輪の花の押し花。
友奈から渡された大事なもの。
「お、なんだジョーカーその押し花?」
スカルが覗き込む。
「分からない、だが…… 大切なものだ」
ポケットに押し花を仕舞い。
「…… なぜかな。これを見ていると、絶対に負けられないって気持ちになるんだ。…… 行こう、俺たちの現実へ」
思い出せなくても、その感覚だけは残っていた。
怪盗団は未来のために、進み出した。
たとえ夢は覚めても、共に戦った記憶の温もりは、消えることはない。
勇者は折れず、怪盗は止まらない。
それぞれの現実(あした)で、彼らは今日も、自らの手で未来を切り拓いていく。