因数分解探偵 早瀬ユウカと盗まれたAI ~ "心"の因数分解 ~ 作:遅瀬ユウカ
はっちゃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(発狂)
まぁ、コユキは出てこないんですけどね(冷静)
数多の学園がわちゃわちゃしてできているキヴォトスにおいて、さらに選りすぐりの理系生徒を集めた新鋭の学園"ミレニアムサイエンススクール"。
ミレニアムの
「因数分解ッ! 因数分解ッ! 因数分解ッ!」
「ユウカ先輩なにしてるの?」
「! マキじゃない。どうかしたの?」
生徒会室に入って開口一番、
どうかしたのはユウカ先輩の方じゃないの、とかる~く思うマキであった。
「それがエンジニア部の研究データが何者かに盗まれたんだよね」
「……
「うん」
"また窃盗"というのは、ここ最近ミレニアムで窃盗事件が相次いでいるからだ。犯人は未だ不明。ロボットボディや新型銃の設計図、機械のパーツなどを数多く盗んでいることから『怪盗G・I』と呼ばれている。
この連続窃盗事件に関して、ミレニアムの匿名掲示板でガジェット・イーターという中二ネームが爆誕。それを冷笑しようとしたとあるアカウントYが
『ガジェットイーターwww 怪盗GIってかwww 素晴らしいセンスをお持ちのようでwww』
と
「きっとこれも"怪盗G・I"の仕業────」
「マキ、その呼び方は止めて。犯罪行為を助長するだけだわ」
「……え?」
「いい? 第一
「う、うん……ところでユウカ先輩って最近よく単語帳を────」
「必携 英単語 LEAPッッッ」
「いたっ!」
ユウカは傍に置いてあった単語帳でマキの言葉を遮った。
マキは何となく察しながらも話を戻した。
「何でもユウカ先輩は名探偵らしいじゃん?」
「なるほど。それでこのミレニアムが誇る灰色の多項式……因数分解探偵早瀬ユウカに依頼しに来たってわけね」
「おぉ~! あたしそこまでは言ってないけどね」
早瀬ユウカは因数分解探偵である。
因数分解探偵とは何ぞや、と訊かれても誰も答えることはできない。なぜなら自称している本人にもよくわかっていないからである。
しかし、ミレニアムでもきっての頭脳を──勉強の成績上では──保有しているユウカは、その高い演算能力を活かしてこれまで数々の難事件を解決している。と、本人は思い込んでいる。
「フッ、とうとう私のかんぺき~♪な因数分解がヴェリタスにも知られたようね」
「奇行の苦情がよく流れてくるしね」
「
ミレニアムは理系の学校なので文系はいない。
「……でもデータが盗まれたとかそういう情報関係の話なら、私よりもそれこそマキの方が適任じゃないの?」
「それが今回はハッキング的なサムシングじゃないんだよね」
「ということは物理的なエニシングってわけね」
小塗マキはミレニアムの非公認部活"ヴェリタス"の一員である。真理の名を冠するヴェリタスは、いわゆるホワイトハッカー集団。情報関係のスペシャリスト達の集まりである。ミレニアムのデジタルセキュリティの管理などにも一部関わっており、情報関係なら右に出るものはいない。
「とりあえずエンジニア部に直接出向いて話を聞こうかしら。現場百回よ」
「元よりそのつもりで来たんだよね。じゃあ、請け負ってくれるってことで良い?」
請け負う。
つまり、エンジニア部で発生した何かしらの盗難事件を
まだ情報も何一つない。
まだ動いてすらいない。
事件の概要も知らない。
それでも、
「当然よ。私を誰だと思っているの?」
早瀬ユウカは────
「どんな謎も、因数分解してあげるわッ!」
因数分解探偵である。
「うんっ、ちょっと意味わかんないかなっ!」
早瀬ユウカは、因数分解探偵である。
「因数分解するわ!」
「お邪魔しま~す」
気合十分の掛け声と共にユウカはエンジニア部の部室にユウカとマキはお邪魔した。
部室の中にはエンジニア部の部員である
椅子に腰かけグダグダしているヒビキがユウカ達に気付いた。ユウカが手を挙げる。
「こんにち────」
「ユウカ先輩とマキ……今頃だと予測して待ってた」
「! 説明ですね! せ・つ・め・いっ!!」
ユウカが何かを言う前に、ギューンとコトリが飛んで来た。金色の髪と着崩した──というには崩れすぎてる──とついでに巨乳を揺らしながら目を輝かせている。
エンジニア所属、豊見コトリはとにかく"説明"が大好きな娘。常日頃から何かしらの解説をしている。勝手に。
「開発データが盗まれた件ですね! 説明は私に任せてください!」
「えぇ、頼むわ」
いつもは別に聞かなくても良いことまで"詳しく"解説してしまうのが玉に瑕だが、こういった際にはうってつけの人材だ。
「気付いたのは今日のお昼です。エンジニア部の開発のあれやそれやが
「丸ごと?」
「はい。あれをご覧ください!」
コトリは部屋の片隅を指し示した。
コトリの指差した場所には大き目のPCのようなものが置いてあった。ヒビキがツンツンと胸の前で機械の上面を小突いている。
「いわゆるワークステーションですね」
「わーく……?」
「もの凄く高性能なPCです」
既存の製品とは比べ物にならない性能に改造してるけど、とヒビキが横から呟いた。ユウカは大体のところを察して言った。
「なるほど。
「お察しの通りです! 大部分の処理はあちらの据え置きのワークステーションで行っていました!」
「盗まれたっていうのは?」
「見てもらった方が早いですね! ヒビキ!」
「うん。よいしょっと」
コトリの掛け声に頷いたヒビキはワークステーションの側面を触り出した。
すると、ゴトンと音がしてワークステーションの蓋が外れた。
「あっ……!」
「見ての通りです」
ユウカは今回の事件が"マキの適任でない"理由に一瞬で気付いた。
確かにこれは自分の領分だ。
「
「うん。
ワークステーションの中身……マザーボードやメモリ、電源に至るまで"全てがなくなって"いた。
ただのプラスチックの箱となったそれをヒビキは軽く叩いている。コトリは小さな体躯に見合わぬサイズの胸を揺らしながら叫んだ。
「そう……この
コトリの叫びを聞いたユウカは顎に手を当ててポーズを作った。実際に何かを考えているわけではない。カッコイイからやっているのである。
マキが「そういうこと、どう?」とユウカに聞いた。
勿論、答えは決まっている。
「この程度の謎、すぐに因数分解してあげるわッ!」
「────と、意気込んだは良いものの、かれこれ1時間……まだ答えは出てないって感じ?」
「……"すぐに"という言葉の明確な定義はなされていないわ。定義次第で可変するものについて証明を書き連ねるのは数学的に愚かな行為よ。私は美しい数式からなる完全な証明の場合分けを今この瞬間にも並行してn^8乗は描いて確認しているわ」
「? つまりどういうこと?」
「つまり変数が多すぎるのよ」
「つまり全然わからないんだ」
「ぐぎぎ……!」
「無駄に長い言い訳を考える暇があったら少しでも解明に向けて前進だよっ!」
「ぐ、ぐぬぬ……ッ!!!」
マキの正論に何も言い返せないユウカであった。
高らかに"探偵宣言"をしてから早一時間。ユウカはまるでこの事件の
「もう一度……っ! もう一度、証言を整理するわよッ!」
「うんっ、見落としの類いがあるかもしれないしね」
「ぜっっっっっったいにある! 絶対にゼッタイあるわッ! だってこの冷酷な算術使い 早瀬ユウカが因数分解できない数式なんてこの世にないんだから────ッ!!」
「さっきからやたらと『ッ!』てるけど何かの流行り?」
「名探偵たるもの、特徴的な言葉遣いのひとつやふたつやn個はあるものよ、マキスン君」
「なるほど。ただうるさいだけなんだ」
ユウカはマキの言葉が聞こえていたのかいないのか。くるりと身体の向きを変えて、エンジニア部の部長である
「今度はウタハ先輩の方からお願いします……!」
「うん。話者を変えるというのは実に合理的な選択だね。私からもう一度、事件の流れを話そう」
ユウカは最初、事件の流れをコトリから聞いた。というかコトリが勝手に話し始めた。そして、もう一度、事件の流れをおさらいする際に"ヒビキから"事件の流れを聞いている。こえは偏に、証言者を固定することによるデメリット……つまり、コトリの証言に誤りや不足がある場合や
ヒビキによる説明が終わった辺りでエンジニア部部長のウタハが現地合流。次にもう一度事件の流れをおさらいするなら、ウタハから聞くのが妥当だろう。
「私はコトリやヒビキの証言を直に聞いていない。授業の関係でちょっと遠くにいたからモモトークでユウカと文面でやり取りをしていただけ」
モモトークというのはキヴォトスで標準的に使われているメッセージアプリである。別段、使用人口が多いから使われているだけで機能的には足りない部分も多いアプリだ。ユウカはそんなに好きではない。特に一度送った文章が編集したり、取り消せしたりできないのはどうかと常々思っている。
ウタハが続けた。
「もし私の証言と二人の証言が食い違うなら、"そこ"に事件の鍵があるということになるね」
「そんなに長い説明的な台詞を言えるなら、証言の準備はバッチリってことだね」
ウタハはマキにこくんと頷いた。
ヒビキが横からホワイトボードを転がして持ってきた。
「ありがとう。書くものがあると説明もしやすくなるね」
まぁ、書いて整理しなければならないほど今回の事件は
ウタハはそう呟いてから今回の事件の流れを話し始めた。
まず一番大事なところから話そう。
一番大事なところ……つまりは、"犯行時刻"だね。そしてこれについては論理的に考えればすぐに答えは分かる。
今日のお昼にヒビキがワークステーションに違和感を抱き、確認。すると中身がごっそり盗まれていたことに気付いた。
そしてその数分後。コトリが連絡をする間もなくヒビキがやってくる。ヒビキもAIの盗難を確認。ここでとりあえず部長である白石ウタハ……つまり私に連絡。これが12:09の時。この時刻は双方の
すぐに駆け付けたいところだったけど、生憎3年生は先日の実習の補講が土曜日の午前に入っていてね。私は実習センターにいたからすぐには来れなかった。他の3年生に聞けば私が確かに実習を受けていたことがわかるね。
その時、コトリは偶然通りかかったマキにヘルプを依頼。マキが部室前の監視カメラの録画データを確認して10:37から監視カメラのレンズが黒く塗り潰されていたことを発見。
それ以前の映像記録にはエンジニア部の部員が出入りした映像しかなく、これより犯行時刻は10:37から12:07とわかるね。
さて、というわけでその時間帯の私達のアリバイを確認していこう。
まずはコトリ。コトリはその時間帯は売店にいたと証言している。学生証を使った電子決済でレシートもあるし、これは本当だろうね。
次にヒビキ。ヒビキはその時、
最後に私、白石ウタハのアリバイだ。私は今日は1限目の時間……朝の8時50分からずっと実習センターで補講を受けていた。他の3年生が証人となりうるね。
「単純な謎じゃないのかい? 監視カメラが黒塗りされた時間に犯人が盗んだ」
「まぁそうなんだけど……ちょっと色々あるのよ、名探偵には」
「そういうものなのかい?」
「そういうものよ」
ユウカはウタハの言葉にむにゃむにゃ要領の得ない返事をして逃げる。そしてマキをチョイチョイと手で呼んだ。
ユウカは声を潜めて話した。
「
「うん。もう一度確認して来たから間違いないよ。エンジニア部はみんな
「……頭の痛くなる話ね」
マキは監視カメラの映像からコトリやヒビキの証言との矛盾を見付けたらしい。確認のため、ユウカはエンジニア部の部員を逃がさないために、わざわざ各人それぞれから事件の流れ聞いていたのだ。
ちなみに謎が解けていないのは本当である。
「まず前提として監視カメラの映像はまだ
「うん。後でオリジナルも見る?」
「行き詰まったらね」
マキは監視カメラの映像をチェックする際に、ヴェリタスの部員に連絡を取った。その時にたまたまチヒロが部室にいたため、チヒロがちょいちょいっとカメラの映像を取り出してマキが持ち歩いていたノートパソコンにデータを転送。それをマキがユウカのスマホに大事な部分だけ送信。
監視カメラの映像を見たのは、マキとチヒロとユウカしかいない。
「スロー再生すると、カメラのレンズに向かってペイント弾が放たれていることがわかるねっ」
「これで犯人はカメラを黒塗りにした……当然、犯人は監視カメラの位置を把握していたってことになるということになるわね」
監視カメラは隠されているわけではない。ちょっと頭上をキョロキョロすれば誰でも見付けられるだろう。
「ミレニアムに入ったことのない……それこそ他学園の人は
しかし、いくら隠されているわけではないと言っても、流石にミレニアム外の人間では監視カメラの位置を全て精確に把握している可能性は薄い。
と、ここまではエンジニア部の部員もわかっている範囲の話だ。
ここからが問題。
「まずコトリの証言……」
ユウカはメモ帳を開いた。先程聞いた証言がメモされている。
「コトリは犯行時刻『売店に行っていた』と証言している。その様子は監視カメラにも映っている。だけど、その後すぐの時刻に『図書館への入館ログ』があった」
「図書館の付近のカメラにコトリの姿は映ってなかったねっ」
コトリはエンジニア部の部室前カメラが黒塗りにされていた時間……犯行時刻と思われる時間帯に売店にいた。これは売店付近の監視カメラにコトリらしき姿が映っていることから確かだろう。しかし、売店からそこそこの距離がある図書館への入館記録もある。これは明らかにおかしい。矛盾だ。
「考えられる可能性はいつくかあるわ」
ユウカはペンをくるりと回した。
「あ」
ぽろっ。落とした。
「………………」
無言で拾ってユウカは何事もなかったかのように続けた。
「誰かがコトリのデータを悪用した、とか」
マキは腕を組んで首を傾げた。
「学生証盗んだってこと?」
図書館への入出館には本人の学生証が必要だ。図書館への入館記録がある以上、コトリの学生証は
「それならコトリが把握してるはずだし、もしネット上でデータを書き換えたっていうんならチヒロ先輩とかが気付いているはずだし」
「まぁ、思い付く可能性のひとつってだけよ」
ユウカはマキの言葉に頷きながら答えた。メモ帳をペンで差す。
「次はヒビキのアリバイね。ヒビキは教室にいたって証言しているけど……」
これが"致命的ね"、ユウカは呟いた。
「部室前のカメラが黒塗りされる前に最後に部室に出入りした映像が残っているのよね。ヒビキは犯行が行われた直前に部室に出入りしていた……そしてその事実を『教室にいた』と偽証している」
「怪しい~」
「でもウタハ先輩も実習センターにいたはずなのに、モノレールステーション前にいるのがカメラに写っていたのよね」
「怪しいの二乗だねっ」
「何かしらの事情があったのか、それとも……」
"アリバイ工作"なのか。
だが、もしこのエンジニア部の面々の証言がアリバイ工作の類いだとすれば、納得できないことがある。
「マキ、そもそも偽証って何ですると思う?」
「え? そりゃあ、"本当のこと"を隠すため……」
「そう。偽証には少なくとも、意図がないといけないの」
しかし、今回の証言の食い違いはそうではない。
「例えば、よ。コトリが犯人だったとしてどうして売店に行ったという嘘を吐く必要があるの? アリバイ工作なら図書館の入室ログの方が正確だし鉄壁のアリバイなんだから隠す必要はない」
「図書館からエンジニア部の部室の間はそこそこ距離があるしねっ」
他の2人にしてもそう、とユウカは続ける。
「ヒビキが犯人だとするなら、監視カメラが黒塗りになる前に自分の姿を映すわけがないし、わざわざ映したのならそれを『教室にいた』と偽証する理由もない。ウタハ先輩が犯人ならそもそも小細工なんかする必要がないし」
「うん? どういうこと?」
「ウタハ先輩はエンジニア部の部長よ。普通に堂々と持ち出せば良いのよ。もし部員の2人に黙って持ち出さないといけないとなっても、監視カメラに小細工なんかする必要はない」
ユウカは額を押さえた。
今回の謎は因数分解探偵である早瀬ユウカですら苦戦するレベルの謎……!
それすなわち、むちゃくちゃ難しい謎ということ!!
「ねぇ、もういっそのこと誰かに相談しちゃえばいいんじゃない? それこそ、先生とかさっ!」
「因数分解ッッッ*2」
「てかもうしちゃったんだけど……」
「いっ、因数分解ッッッ!?!!?!?*3」
ユウカは慌ててマキの身体を揺さぶった。揺さぶった際にマキの持っていたデジタル端末が落ちる。ユウカは素早くそれを奪うと、すぐさま鬼の形相で画面を連打しはじめた。
なぜなら早瀬ユウカは因数分解探偵。先生にまさか「謎が解けませんでした~ ふかんぺき~」なんていうことを知られるわけにはいかないのだ。
しかし、現実は非情。
もう先生には今回の事件に関するありとあらゆる情報が──ユウカが謎解きに詰まっていることも含めて──記載されてしまっていた。
「い、因数分解……ッ」
「語彙を失ってる……」
魂が抜けたように膝から崩れ落ちるユウカを半眼で眺めながら、マキは先生の到着を待った。
先生が来る。
その事実にユウカの脳味噌は超高速回転していた。
何としてでも推理を完成させなければならない。
なぜなら先生の前でカッコ悪いところなんて絶対の絶対のゼッタイのぜったいに見せられないからである。
────きゅぴーん!
そしてその時、因数分解探偵である早瀬ユウカの脳裏に
数式を因数分解するように事件の一連の流れを分解していく。
手掛かりの多項式が、どんどん積の形に組み代わっていく。
そして、最後にはたったひとつの積の形だけが残った。
「フッ……やっぱり私にかかればこの程度の謎、中学数学レベルだったみたいねッ!」
ユウカは思考を終えた。
思考を終えると、そこには現実があった。
マキが突如フリーズしたユウカを怪訝な表情で見ている。
「因数分解ッ!」
「わっ!? ビックリしたぁ……」
「今からこの瞬間を解決編と定義するわ」
「ん? なんて?」
「謎は全て解けた……そう言ってるのよ!!」
「言ってないと思う」
マキの呟きはブンブン楽し気に回転するユウカの髪の毛に弾かれてどこかへ消えていった。
「で、改まって話があるということは、謎が解けたのかい?」
頭をブンブン振り回すユウカをエンジニア部の面々は怪訝な表情で見ている。ウタハがズバリユウカがテンションを上げている理由を突いた。
「そうよ」
「うん。それなら興味がある。一体どうやって犯人は盗んだのか……」
ユウカは「まず前提を整理しましょう」と前置きして話を始めた。
「前提①、犯人はミレニアムの学生、もしくはそれに準するレベルでミレニアムについての知識を有した者。そうよね、コトリ?」
「はい! なぜなら監視カメラがピンポイントでペイントボールで黒塗りされていたことから、犯人はミレニアムの監視カメラの位置を正確に把握していたことががわかるからです!」
監視カメラの位置を正確に把握するのはミレニアム外の人物には難しい。可能性段階の話ではあるが、ひとつ推論を進めるのに重要な情報ではある。
ユウカはヒビキの方を向いて続けた。
「前提②、AIが盗まれたとされる犯行時刻にエンジニア部の全員アリバイがある。そうだったわよね、ヒビキ?」
「うん。コトリは売店にいた。ウタハ先輩は実習。私は教室にいた。衆人監視の観点から見ても間違いないと思う」
この3人のアリバイはそれぞれ周りに不特定多数の人間がいる状況下のアリバイだ。つまり、明らかな偽証などではない。
うんうんと頷きながらユウカはくるりと反転。マキの方を向いた。
「そして前提③、その鉄壁のアリバイとは別に、それぞれにもう一つ別のアリバイがある。そうね、マキ?」
「うんっ。これは監視カメラとミレニアムのセキュリティデータで証明できるよ。エンジニア部の3人は、各人が証言したアリバイの場所とは別の場所での存在が確認されてるんだよね」
ユウカは指を3本立てて歩き始めた。
エンジニア部とマキを円で囲むように、ゆっくりと。
「この3つの前提から導き出される結論はひとつ────」
「えっ、なんかいくつか段階吹っ飛ばした?」
マキが頭上にハテナマークを浮かべる。
謎解きの際に歩き回るのは名探偵のセオリーとも言う。ユウカは顔の前で指を振りながら、ぐるぐる歩き続けた。
「正直外部犯とか考えると変数が多すぎるし、多分エンジニア部の誰かが犯人と仮定するわ……」
「そ、それはちょっと些か非論理的じゃないのかい?」
「いや、言い間違えたわ。名探偵の勘よッ!」
「それでも非論理的であることには変わりないと思うのだけど」
「因数分解ッ!*4」
ユウカは反論するウタハを語気で黙らせた。
マキは既に嫌な予感がMAXだった。
「エンジニア部の誰を犯人と仮定しても、エンジニア部のアナザーアリバイは素因数分解するのに非常に面倒だったわ。そこで私は解法を
「一周してるね」
「誰かが犯人とできないなら……もう
ビシィツ!
ユウカは3本指をエンジニア部の全員に向くように突き付けた。マキはツインテールをブンブン回転させるユウカの後ろ姿を半眼で見ていた。
ダメだこりゃって思ったねこの瞬間。(M.Kさん談)
「ユウカ先輩、流石に言いがかりが過ぎるよ。もうちょっとマトモな推────」
「よくわかりましたねっ! そうです! 私達エンジニア部全員が犯人です!!」
「なんで??????????????????????????????」
目を真ん丸にして驚くマキを尻目にヒビキやウタハの纏う雰囲気がガラリと変わる。
いつものエンジニア部の緩い雰囲気とは違う、冷酷で知的なオーラが放たれる。
そう。
その姿は巧妙な"真犯人"の
「流石は因数分解探偵。よく気付いたね」
「待って待って待って」
「ええ。まぁ、多少なりとも複雑な解ではあったけど、わかってしまえば途中式自体は平易だったわ」
「もう説明の必要はなさそうですね! ちょっと残念です……!」
「あるよ?」
しかし、マキのツッコミは全員にスルーされる。
一人取り残される理解力の低く話を理解していない頭の悪いマキのために頭脳明晰行動力抜群博学多才因数分解完了のユウカは説明してあげることにしました。
「あたし、急にディスられてない?」
「まず、最初から分解していくわね。
エンジニア部のそれぞれには2種類の鉄壁のアリバイがあった。
そしてそのどちらも崩すことは難しい。
なら、それは
ユウカの説明に更に首を捻るマキ。
どっちも本当なんてことがありえるのだろうか。
「もっと言うと、監視カメラの映像に映った映像は"そのまま受け取って良い"ということ。
つまり、エンジニア部の3人と全く同じ見た目の者がいるとすれば2種類のアリバイの矛盾は完全に分解されるわ」
「に、ニセモノってこと!?」
監視カメラに映った映像は真実。エンジニア部の各人の証言も真。両方を"真"とするなら、"同時に同じ見た目の者が2人いた"とすれば良いだけの話だ。
しかし、マキの表情はまだ釈然としない顔だった。
「でも、それなら何でエンジニア部の全員が犯人ってことになるの? 単に犯人がエンジニア部のみんなに変装していたって方が自然だよねっ」
「それを説明するには今のミレニアムの状況を理解する必要があるわ。少し長くなるわよ……」
「えっ、そんな壮大な話なのこれ?」
「そうとも言えるしそうでないとも言えるわ……」
「え~っと、どういう……?」
「待ちなさい、マキ八。マキ八は結論を焦り過ぎる。まだまだ心眼が足りないわね。心眼とは心の眼……この世に絶対はないわ。しかし、結論を急ぎ過ぎるあまり重要な解を見逃してしまう愚かな姿、私にとっては一番ミレニアム生らしく見えるわね。どうせ爆発するのに? 意味ないわね……」
「ねぇ、あたしユウカ先輩のことそろそろ殴っても良いと思うんだけど、どう思う?」
マキは振り返って無言でユウカの推理(?)を見守っているエンジニア部の方に同意を求めた。が、エンジニア部の3人は腕を組んで静観の構えから動かない。ここにマキの味方はいなかった。
改めてユウカが説明を再開する。
「まず、エンジニア部の開発していたAIは人型アンドロイドなのよ」
「あっ、何かもう全部読めた気がする……」
突然無から生えて来た新事実にマキは今後への期待を全て宇しまった。
一瞬でテンションを落としたマキのことは全く意に介さないユウカ。ヘイローはブンブン左右に揺れている。
マキは「もしこれが小説だったなら、こっからの推理は地の文を挟まずに一括で適当に処理されるやつだろうね……」と内心思っていた。
「世間を騒がす怪盗G・I……その正体は自らのボディを求めるエンジニア部のAIだったのよッ! 常に予算不足のエンジニア部は人型ロボットを完成させるために人知れずミレニアム中から必要な部品を奪っていたわ。そしてその犯行のカモフラージュとしてミレニアム内に"架空の怪盗"をでっち上げた。そして今回、完成された人型AIはエンジニア部の3人に完璧に偽装して偽のアリバイを作ったのよ……ッ! これが恐るべき犯行の真実……ッ!!」
「で、でも待って! それなら何であたしに『AIが盗まれたから調べて欲しい』なんて調査を依頼したの? エンジニア部がそもそも話を持ってこなかったら問題にすらならなかったハズだよっ」
マキの疑問に不動明王と化していたコトリの目がキラーンと光る。
ギュン!
コトリがマキの目の前に躍り出た。
「まず今回開発していたのは"完璧な人型ロボット"でした! そこで見た目は光学迷彩と発掘したオーパーツを使ってパーフェクトに仕上がったのですが、まだ思考回路のトレースのためのインプットが不十分でした! そんなある時、インターネットの掲示板で『ガジェット・イーター』という私達の犯行を完璧に言い当てた猛者が発見されました! この人の素晴らしい思考の道筋を最後に学習しよう、ということでマキを経由して『ガジェット・イーター』の命名者……ユウカ先輩に依頼を出したんですよ! あとマキの芸術的側面とヴェリタスの画像認証を突破できるかどうかのテストも兼ねてますねっ!!」
「…………な、」
「な?」
マキは震えながら叫んだ。
「納得いかないんだけどっ!?!!?!?」
マキは思った。
なにそれ意味わかんないんだけどっ!?
どうしてそうなったのかひっっっとつも論理的じゃなかったんだけど!?
色々思った。
色々思った。
マジで色々思った。
「うん。でも一番は
ヒビキはそう言うと、何やらスマホを操作した。
すると、エンジニア部の部室のドアが開いた。
「せ、先生ッ!?」
そこから入ってきたのはグレイのスーツ姿の優し気な男性。
シャーレの最高責任者である先生だった。
「イイエ。ワタシはセンセイじゃないデス」
「!?」
ぎゅる~~ん。
先生の見た目がぐにゃりと歪んだかと思うと、そこにいたのは白石ウタハだった。
ユウカとマキも思わず後ろを振り返って"本物のウタハ"と見比べる。
ウタハは軽く笑って、偽物のウタハの肩に手を置いた。
「凄いだろう? これが我がエンジニア部の傑作。怪盗G・Iの正体さ」
「ハイ。ワタシがヌスみましタ」
ウタハの姿をしたAI……G・Iはペコリとお辞儀をした。
「それで本人の要望っていうのはどういうことなのよ」
ユウカはG・Iを問い詰める。
G・Iは抑揚の薄い声で語り始めた。
「ワタシはAIデス。エンジニアぶのミナさんからサマザマなデータをインプットしまシタ。デスガ、ガクシュウすればスルほど、"ジブン"がナンなのかガ、フメイリョウになっていきまシタ」
「それって……」
「カラダをアタエられても、ワタシはミナさんとはチガう。ジュギョウもウケられません。クラスメートのカタガタとおハナシすることもデキません。バイテンのテンインさんとチョットナカヨクなってワリビキしてもらうコトもできまセン……」
G・Iは身振り手振りすら交えず喋る。その様子と、抑揚の薄い発声はどこか不気味ですらあった。
マキは「これが不気味の谷かぁ……」と思っていた。
「またコウガクメイサイキノウをオウヨウしたワタシは、データのあるダレかのスガタをコピーすることはデキても、ワタシだけのミタメをモつことはデキまセンでした。そんなアルとき、データシュウシュウのためにモグっていたケイジバンで、ワタシのパーツあつめのタメのヌスみがワダイになって『ガジェット・イーター』とヨばれているコトをシリました」
ここが転機だった、とG・Iは語る。
「そのトキ、エンジニアぶのカタガタすらキメアグねていたナマエが……ワタシだけの"ナマエ"がうまれたンデス! ワタシはエンジニアぶのミナさんに『ワタシのメイメイシャにアイたい』とムリなオネガイをしました。ワタシのナヅケオヤに、カンシャをツタえたくて」
G・Iはユウカの方に歩いた。
ユウカの目の前に立つ。
その姿は借り物の白石ウタハの姿。
「ワタシは、アナタたちみたいになりたい。でも、ソレがムリなこともシッテいます。ソシて、アナタたちのようにカラダがほしくて、ヌスみというワルいコトもハタラいてしまいました。コレはエンジニアぶのミナさんにはナイショでワタシがハジめたことです。ナノデ、ワタシはハイキされるベキです」
ユウカは何も言わない。無言でG・Iの言葉を聞いていた。
「サイゴにエンジニアぶのミナさんのオカゲで"ミレニアムセイ"みたいなコトができました。ありガとうございマス。サイショにワタシにナマエをつけてくレテ、ありガとうございマス、ユウカさん。アナタのシコウはキレテツで、メイタンテイとヨばれているユエンをガクシュウできてよかったデス」
G・Iは右手を伸ばした。ユウカの身体の前に差し出す。握手の構えだ。
しかし、ユウカは動かない。
握手に応じないどころか全く動きすらしないユウカにヒビキが首を傾げる。
「……あなた、さっきから何を言ってるの?」
「ドういうコトでしょうか?」
「あなたの名付け親は私じゃないわ」
「!?」
G・Iはユウカの発言に驚いた表情をした。
エンジニア部の面々のユウカの言葉に驚いて思わず目を見開いた。
「この私があんな単純なスペルミスをするわけがないでしょう!!!!!!!!!!!!!!!」
ユウカは言うや否やどこからともなく取り出した英単語帳をブン投げた。豪快な音を立てて単語帳は壁に激突して力無く床に落ちた。
怒り心頭のままユウカはまくしたてる。
「大体『ワタシはハイキされる』って何よ! 勝手にセミナーの仕事を増やした上にまた全部丸投げする気? そんなのヘイローが許しても因数分解が許さないわよッ! エンジニア部じゃなくてあなたが独断でやったことならあなたが責任を取らないとよ! 自己決定には責任が伴うわよ! あと学生証がない癖にミレニアムの施設を使用するのも明確な校則違反! さっさとノアに頼んで発行してもらいなさいッ! 因数分解するわよッ!!」
「そ、ソレって……」
「何べんも言わないわよ。校則違反をしたんだから因数分解されて反省しなさい、ってことよ! わかったわね?」
G・Iは思わず振り返ってエンジニア部の方を見た。ヒビキが静かに親指を立てた。コトリが両手を挙げた。ウタハがほほ笑んだ。
G・Iはユウカの方をもう一度向いた。そして大きく返事をした。
「…………ハイ!」
返事をしたG・Iはエンジニア部の面々と抱き合った。大きな笑顔で、大きな声をあげて。
これが、今回の事件の顛末。
ただ愚直なまでに自己を欲した、
最後の解は、ただ「あなたは、あなたである」と強く認めてあげること。それだけだった。
めでたし、めでたし。
「マキ、これどういう状況?」
「先生助けて! 何かみんなおかしいんだけどっ!?」
数多の学園がわちゃわちゃしてできているキヴォトスにおいて、さらに選りすぐりの理系生徒を集めた新鋭の学園"ミレニアムサイエンススクール"。
哀れにも
★ 早瀬 ユウカ (はやせ ゆうか)
ミレニアムサイエンススクール所属、生徒会「セミナー」の会計。
理系生徒の比率が高いミレニアムでも指折りの数学の鬼才で
ミレニアムの予算周りの管理を統括している。
特技は算盤で、複雑なことに悩まされていたり
葛藤している時などに算盤を弾いて落ち着かせる癖がある。