絵心がないのでAIに頼ってしまいましたが、お許しください。
彼女が指定した場所は、あの日と同じ、都会の喧騒から切り離された満天の星空が広がる静かな高台だった。
秋の冷たく乾いた風が、火照った肌とまだかすかにヒリヒリと疼く左手の指先を撫でていく。
「はぁ……はぁ……」
一歩、また一歩とアスファルトを踏みしめるたびに、胸の奥で不規則に鳴り響く心臓の鼓動が耳の底でうるさく跳ねた。
階段を登り切った先には、深い闇夜に溶け込むようにダークトーンのスカートを風になびかせ、夜空の一点を見上げる祥子の姿があった。
「お待たせ、姉様」
私に気がついた彼女はゆっくりと振り返った。その表情には、かつて美しく気高くステージに君臨していた「オブリビオニス」の冷徹さは微塵もなく、どこか懐かしい在りし日の面影すら漂わせていた。
「待っていましたわ、ハル。こうして二人だけでお話しするのは、本当に久しぶりですわね」
祥子の声はどこまでも穏やかで、まるでここに至るまでの残酷なすれ違いや、彼女がその背中に背負い込んでいたはずの重荷など、初めから存在しなかったかのように優しく響いた。
私は足を止め、彼女との距離を一定に保ったまま、様子をうかがった。
「そうだね。それで、今日はどうしてこんな所に呼んだの?」
私の問いかけに、祥子はわずかに視線を夜空の星々へと逃がし、それから意を決したようなまっすぐな瞳で私を見据えた。
「今日、睦と話をしてきましたわ」
その名前が告げられた瞬間、肌を刺す秋の冷え切った夜気が、さらに一段と冷たさを増したような錯覚に囚われる。
「そっか……睦と話が出来たんだ」
動揺を押し殺すように、私は声を低く抑えた。
「ええ。それだけではありませんわ。改めて、みんなと話をすることが出来ましたの」
「みんな?」
「ええ。燈、睦、立希、そよ。全員と話をして、そして……また一緒に音を重ねてきましたわ」
『CRYCHIC』――。
その名前は私の喉の奥でかろうじて形になっただけで、声として外に漏れ出ることはなかった。
彼女は両手を自身の胸の前で組んだ。その仕草は、まるで壊れてしまった大切な宝物を取り戻したかのようだった。
「姉様。それで、これからどうするつもり? もちろん、AveMujicaを再結成するよね?」
期待を込めてその言葉を投げかけた瞬間、祥子はゆっくりと瞼を伏せ、それから何事もなかったかのように静かに首を横に振った。
「いいえ、ハル。もう、終わったことですわ」
「……え?」
「AveMujicaはもう終わりましたわ。わたくしはもう一度、燈たちと『CRYCHIC』をやり直すつもりですわ」
耳を疑うような言葉に思考が一瞬の空白に凍りつく。
「どうして……?燈ちゃんたちは、もうすでに『MyGO!!!!!』という居場所がある。今さら戻れるはずなんて――」
「もちろん、MyGO!!!!!のみなさんに迷惑をかけるつもりはないわ。けれど、これは睦の望み。睦のためなら、わたくしはその望みを叶えてあげたい。それがあの子を深く傷つけ、壊してしまったわたくしの、唯一の償いなのですわ」
祥子の声には一点の迷いもなかった。その根底にあるのは自らの罪悪感を清算するためだけに周囲の人間関係を再び勝手に塗り替える、あまりにも独善的な自己満足。
「その話、燈ちゃんたちにはしたの?」
「いいえ。明日、わたくしから話をするつもり……それに、ハル。これで貴女の願いも叶いますわ」
「私の……願い?」
「ええ。一年前のあの日、貴女は言っていたわね。『一度でもいいから、CRYCHICのみんなと一緒に、音を重ねたい』と。ようやく、あの時の約束を叶えてあげられますわ」
頭の芯が、じりじりと焼け付くような不快な熱に襲われる。
なぜ、今さらになって一年前の、あの無力だった私の独り言のような願いを持ち出すのか。
なぜ、私を拒絶し、私の音を否定したことを、まるで無かったかのように「善意」として語れるのか。
(あぁ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……こんな結末は嫌だ!こんな結末、私は望んでいない!)
胸の奥から、ドロリとした熱い塊がせり上がってくる。肺が拒絶反応を起こしたように縮み上がり、激しい窒息感が喉元を締め付けられる。
その時、プチリ、と。
衣服の擦れる音よりもなお微かな、けれど決定的な破断音が静寂に響いた。
首に掛けていたネックレスのチェーンが、誰の手にも触れられることなく、自然と切れた。
『可哀想なハル。もう、そんなものに縛られて我慢しなくていいのよ』
その幻聴が誰のものだったのか、私にはもう分からなかった。あるいはそれは、長い間押し殺してきた、私自身の心の奥底からの叫びだったのかもしれない。
「明日の朝、睦の家に伺おうと考えていますわ。あの子も長い間学校に行っていないですし、それに貴女も日々の練習や色々なことで忙しくて勉強を出来ていないと思いますし、ハル。よかったら一緒にどうです? それと、これからの今後の話をしなければ……ハル?」
祥子がふわりとスカートを揺らしながら近づいてくる。その白く綺麗な手が、私に向かってそっと伸びてきた。
「触らないで……っ!」
私は反射的に、その手を激しく払い除けた。
「え……?」
祥子の顔から余裕の色が消えた。その声は小さく震え、目の前で起きている事態を全く理解できていない戸惑いを隠せずにいた。
「ハル……貴女、いったい……」
「AveMujicaが終わった?笑わせないでよ、姉様」
私は低く唸るような声で吐き捨てた。
もう止まらない。止める気もない。今まで喉の奥で幾重にも押し殺し、完璧な仮面の下に封じ込めてきた醜悪な感情が、堰を切ったように溢れ出す。
もう引き返せない──
「結局、貴女は自分が見たいものしか見ない。あなた以外の人間が何を思っているのか知らないで……貴女はずっと目を逸らし続けていた!」
私の荒い息遣いだけが、夜の静寂に冷たくこだました。
目の前に立つ祥子は、信じられないものを見るような眼差しで私を見つめていた。その双眸には、いつもの完璧に整えられた仮面など跡形もなく砕け散り、ただ無防備なまでの驚愕と戸惑いだけが張り付いていた。
「ハル……今、なんて……」
「何度だって言うわよ!」
私はもう、掠れかけた声を抑えることすらできなかった。胸の奥で渦巻いていた澱のような感情が、熱を帯びた言葉となって次から次へと溢れ出す。
「貴女はいつもそう。自分のせいでどれだけの人が傷ついて、どれだけの人間がその尻拭いに追われているかも知らない!」
私の激しい詰問に、祥子はわずかに息を呑み、そしてすっと細い目を細めた。その瞳に浮かんでいた戸惑いは急速に引き潮のように消え去り、代わりにいつもの気高いまでの冷徹さが戻ってくる。
「尻拭い……?」
祥子は微動だにせず、私をまっすぐに見据えて毅然とした声で言い放った。
「ハル。わたくしがいつ、貴女にそんなことを頼みましたの?」
「確かに直接、貴女には頼まれてないわよ!でも、 いつだって貴女の知らないところで、そうするしか私には選択肢はなかった!」
私は声を荒らげながら、叫んだ。
「私たちに同じ血が流れているっていうだけで……『CRYCHIC』が解散した後、そよさんも、立希ちゃんも、燈ちゃんだって、貴女がどこで何をやっているのか、貴女本人ではなく、私に聞いてきた!何も知らない私はただ、彼女たちに謝ることしかできなかった」
夜の闇を跳ね返すように、私の声が静まり返った高台に響き渡る。
「ステージで仮面を外して正体を明かした時も、その後の活動休止の時もそう! クラスメイトも、マスコミの人間も、誰も彼もが『豊川祥子の妹』っていうだけの理由で私を取り囲み、問い詰めてきた!」
「そんな……そんなこと、わたくしは……!」
「知らなかったでしょうね、姉様は自分の世界に浸るだけで精一杯だもの! 貴女が蒔いた種の後始末を、どれだけ私が他人の視線に晒されて、迷惑してきたか、考えたこともないでしょう!?」
言葉を失い、その場に立ちすくむ祥子。
「それなのに、今度は何事もなかったかのように『CRYCHIC』に戻るって……そんなの、自分の罪悪感を消したいだけのただの自己満足じゃない!」
私の声が夜の闇に消え入ろうとした、その瞬間、不吉な羽音が頭上の暗闇を切り裂く。
視界の真ん中を横切るように、一羽の黒いカラスの羽が一枚、ひらひらと舞い散らせながら目の前に落ちてきた。
「っ……くっ……!」
突如として襲ってきた激しい胸の締め付けに、私は言葉を詰まらせた。
肺の奥底から酸素が急速に失われ、吸い込んでも吸い込んでも、喉の奥が焼き付くように乾いていく。心臓が痛いほどの高速で打ち鳴らされ、視界の端がみるみるうちに白く染まっていく。
(息が……できない……!)
その異様な気配に気づいたのか、祥子は目を見張りながら「ハル……?」と名前を呼び、縋るように一歩こちらへと歩み寄ってきた。
その瞬間、頭上で不気味な鳴き声が響いた。
「っ……!」
その威嚇するような羽音と濁った声に、祥子は思わずハッと息を呑み、反射的にそちらへ視線を奪われた。
私は震える膝に力を込め、自力で胸元を強く押さえた。
「はぁっ……、はぁっ……はっ……!」
肺に無理やり酸素を押し込むように、歯を食いしばって深く、深く息を吸い込む。喉の奥に広がる鉄の味と激しい痛みに耐えながら、私は必死に呼吸の乱れをねじ伏せていく。
心臓が狂ったように暴れていたが、乱れた息を整えた。
「……ハル?」
先ほどまで酸欠で崩れかけていたことなど気付かせまいと、私は震える唇を無理やり引き締めた。
「それで残された彼女たちには……初華ちゃんは? 海鈴ちゃんや祐天寺さんをどうやって納得させるつもり?」
私は息つく間もなく、さらに畳み掛けるようにその言葉を突きつけた。
「また無責任に何も言わず姿を消して、残された人間への後始末を私に押し付けるつもりなの? それと、今度はどんな美しい言葉で彼女たちを言いくるめるつもり?」
「彼女たちには、わたくしから説明しますわ。きっと分かってくれるはずですわ」
「分かってくれる? へぇー、そうだといいね」
私はいま、どんな顔をしているのだろうか。
笑っているのか、それとも見苦しく歪んでいるのか。鏡などなくとも、今の私の表情がどれほど異様であるかは、祥子の怯えきった眼差しが何よりも雄弁に物語っていた。
「ハル……貴女、目が……」
祥子の声は恐怖でかすれ、かろうじて出たその一言は夜風の中に溶けるようにかき消された。
「あぁ……これ、これはただの事故でこうなった。だけど、今はそんなことはどうでもいい。それとも、私の顔がそんなに怖い?」
私は左目を隠していた前髪をかき上げ、祥子に瞼の傷を見せつけた。彼女は短い悲鳴を上げると一歩また一歩と後ろに下がる。
「結局、貴女はまた『自分の都合』で、彼女たちの居場所を奪おうとしている。一年前に『運命共同体』と口にしていたCRYCHICの時と、一体何が違うというの?」
「違いますわ……! わたくしは……わたくしはただ、睦を救いたいだけで……!」
逃げ場を失った祥子は柵に背中を預けたまま、命乞いをするように声を絞り出した。その両手は震え、恐怖を押し隠すように自身のスカートの裾を固く握りしめながら目をそらした。
「睦を救いたい?」
私は冷ややかに鼻で笑い、一歩、また一歩と彼女へと詰め寄った。
「睦が壊れたのは、貴女が彼女の叫びに耳を貸さず、自分の理想だけを押し付けたからでしょう? それを今度は『CRYCHICをやり直す』という別のエゴで上書きして、本当に彼女が救われるとでも思っているの? 自分の罪悪感を消すために睦を利用しないで!」
「利用など……していませんわ! わたくしは、ただ……っ」
「ただ、何よ!言ってみなさいよ!」
それは彼女自身が一番理解しているはずだ。
「貴女が愛しているのは、自分を慕ってくれる『哀れなお人形』としての睦であり、貴女を全肯定してくれる『優しい世界』だけ。周囲の人間を散々振り回して、壊れたら捨てて、罪悪感に耐えかねたらまた『自分の世界』へ逃げ込む……。貴女が一番愛しているのは、いつだって悲劇のヒロインを気取っている貴女よ、姉様」
「──ッ!?」
目の前の彼女は肩を落とした。その姿はかつてステージの上で誰よりも気高く、絶対的な存在として君臨していたあの「オブリビオニス」の面影は微塵もなく、ただ震える唇を噛み締め、私と視線を合わせることすら拒むように瞳を頑なに伏せていた。
その往年の冷徹さすら失った無防備で身勝手な拒絶の姿勢が、私の胸の奥に燻っていた最後の理性を激しく逆撫でした。
「……少しは反論してみせなさいよ、姉様……ッ!」
視界が真っ赤に染まるほどの激情に突き動かされ、私は祥子の胸ぐらをつかみ上げた。
「っ……ハル……!?わたくしは……睦を……」
絹のような上質な服地を強く絞り上げると、彼女の瞳に明らかな動揺と恐怖が走った。至近距離で交わる視線。指先に伝わる彼女の細い体温と、狂ったように跳ね上がる鼓動。
それでもなお、彼女の瞳は私の顔から逃げるように泳ぎ、私の左目の惨状や、その奥にある怒りの真相から目を逸らし続けてようとした。
「睦、睦って……っ! どうして貴女の口から出るのは、いつもその名前ばかりなの!?」
私は掴んだ胸ぐらにさらに力を込め、溢れ出る血の味を噛み締めながら、叫び続けた。
「じゃあ、姉様のため人生を捧げた彼女達も、これからの人生の自由もすべて売り払った私のことは、誰が救ってくれるの?全て無駄にするつもり!?」
「……ハル……。わたくし、そんな……貴女達のことを、蔑ろにするつもりなんて……」
「蔑ろにするつもりなんて……? よくそんな言葉が言えたわね、姉様!」
掴んでいた胸ぐらを、力任せに突き放した。
祥子の背中が高台の柵に強く打ちつけられ、乾いた金属音が夜の闇に響く。彼女は息を呑み、力なく胸元を押さえながら私を見つめ返した。
「貴女が忘れても、私は覚えている!貴女は病室で私に言ったわね。『貴女の存在自体が耐え難い重荷でしかない』って!」
「っ……! あれは、わたくしが取り乱していて……っ」
「いいえ、あれが貴女の本音よ! 貴女にとって、私はいつだって邪魔な足を引っ張る存在でしかなかった!だから、私と目を合わせなかった!」
「違いますわ! そんなこと、一度だって思ったことはありませんわ! 貴女は……貴女は、わたくしにとって、たった一人の大切な……妹ですもの!」
「『大切な妹』? じゃあ、教えて。どうして、姉様は一度も私の音を聞きに来てくれなかったの?」
祥子は息を呑み、わずかに開いた唇を震わせたまま、その場に両膝をついた。
それに対して、私は自分の左手の指先を見つめた。まだ少し赤い指先。この手を見るとあの残酷な「拒絶」の記憶が蘇る。
「私がコンクールのためにどれだけ必死にこの指を動かしていたか、知っていたはずでしょう? 私がどんな想いでヴァイオリンに向かい、どんな音を奏でようとしていたのか……姉様なら、少しは分かってくれたはずだと思った。なのに、一度だって私の演奏に耳を傾けようともしなかった」
祥子はただ自分の唇を噛み締めるばかりで、その喉からは掠れた息の音が漏れるだけで、まともな返答など一つも紡ぎ出せなかった。
「幼い頃から、私には色彩なんて初めからなかった。……ただ、誰よりも譜面を読み解き、誰よりも正確に、誰よりも美しく、目の前にいる人間が望む音を模倣するだけの存在。それが豊川ハルという鏡の本質」
だから、私は自分で新しい音楽を紡ぎ出すことができない。どれほど高い技術を持っていようとも、どれほど複雑なコンクールの課題曲を完璧に弾きこなせようとも、そこにあるのは誰かの模倣であり、他者の影の投影でしかなかった。
「あっははっ……当たり前だよね。そんなどこにでもある音なんて、今の時代、ネットを開けばどこにでもゴロゴロと転がっている。わざわざ足を運んで聞く価値なんて、最初からなかったんだから」
「『模倣』、『鏡』……ハル、貴女は先ほどから何を言っていますの?」
その言葉を聞き、私の胸の奥にあった激しい怒りや執着は、まるで嘘のように音を立てて冷めていった。残ったのは虚無感だった。
あぁ、そうだ。
私は何を期待していたのだろう。あの時のアトリウムスタジオでも同じだったのに、この人にどれだけ感情をぶつければ、私という存在を本当の意味で見てくれるのだろうと、心のどこかでまだ縋っていたのだろうか。
――結局、期待するだけ無駄だったんだ。
私は小さく息を吐き出し、乱れていた自分の制服の袖を整えた。
「……もういいわ、姉様。貴女がどう生きようと、睦をどう救おうと、もう私には関係ない。CRYCHICをやり直そうが、Ave Mujicaを捨てようが、勝手にすればいい。どんな結果になっても私には果たさなければならない『使命』がある」
(そう。AveMujicaがなくなったところで、私のやることには変わりがない。使命を果たすまで止まるわけにはいかない)
鞄の肩掛けに触れた瞬間、この日のためにしまっていたものがあることを思い出した。
「ああ、そうだ」
私は鞄のジッパーを乱暴に開き、中から一冊の古びたノートを引きずり出した。
「……最後に、これを返すよ」
私は一冊のノートを祥子の目の前へ、ためらうことなく放り投げた。ノートはアスファルトの冷たい地面を滑り、祥子の目の前で開いた。
「……ッ!」
祥子の息が止まる。それは、彼女がかつてのメロディを書き留めたノート。
睦に預けられ、巡り巡ってモーティスの手により私の元へと届けられた、CRYCHICの魂の抜け殻が無残にも砂にまみれた。
「どうしてこれを、貴女が……!」
「睦が……いや、モーティスが届けてくれたのよ。姉様がいつまでも取りに行かなかったからね」
祥子は震える手でそのノートを手に取り、胸に抱きしめた。
その姿は、かつての彼女の前でペンダントを握りしめた自分の姿と重なった。
「以前、私が貴女の前で演奏した時、ペンダントに縋る私に対して『思い出という名の安寧に浸り、傷ついた自分を愛でる。それはただの停滞』と言ったよね」
私は地に伏す祥子を見下ろした。
「傷ついた自分に酔いしれ、誰かの救済という名の免罪符に縋り、過去の亡霊を無理やり蘇らせることでしか自分の正当性を証明できない。今の姉様こそ、かつて私を『停滞』だと断じたそのものじゃない!」
風が吹き抜け、祥子の長い髪が乱れた。彼女はノートを胸に抱いたまま、その場から動くことすらできずにいた。
「さようなら、姉様。いや、オブリビオニス。こんな形で貴女が落ちていく姿なんて見たくなかった。……本当に、残念」
私は振り返ることなく階段を降り始めた。
背後から、掠れきった声で私の名前を呼ぶ祥子の悲痛な叫びが聞こえたが、私は足を緩めることなく階段を下りた。
「あぁ……本当に下らない結末だ……」
書いててしんどかった……
次回作のアンケート
-
1.違う世界線のハルと祥子
-
2.睦メインの作品
-
3.初華メインの作品