夢を見ていた。
等間隔で揺れる鉄道の入れ物に意識が乗車している。
窓からは差し込む濁りのない青の空が視界のふちに色をつけて、静かに背景が映っていた。
吊革の揺れる音と車体の軋む音が少しだけディレイして脳に響く。
しかしその音の聞こえ具合は不自然なほどシンプルに聞こえていて、周囲に人の気配がほとんどないことを知らせていた。
ここにいるのは一人称の視野で自覚する彼と、向かいにもう一人。
10代半ばを過ぎた程度の少女が、対面するロングシートに眠るような顔で腰を掛けていた。
透き通るような青髪は長さのあまりシートを豪快に占有していて、しかしその落ち着き方にはまるで生気が感じられなかった。
白を基調にした制服にはその色を汚すように鮮血が流れていて、彼女の座るロングシートに染み込み伝って足元へと垂れる。
息の少ない様を見せつけているようだった。
彼はこの光景が明晰夢であることを理解していた。
しかし不自由な意識を手放せない煩わしさに、その身体を動かして見せようと足掻くのが精一杯。
そんな彼に対して、目の前の少女は思いのほか自然な喋りで語りかけてくる。
「───私のミスでした。」
彼の脳髄まで届くその声が一体何を語り聞かせていたのかを、目を覚ました頃には忘れてしまっている。
時間が経てばその光景さえも忘却され、夢を見ていたこともすっぽりと頭から抜けて行ってしまうだろう。
それでも唯一、不思議と覚えている言葉があった。
「───今更図々しいですが、お願いします。」
彼女が口にしていたのは願いだった。
それを言ったのがどんな奴だったのか、どんな言葉を彼自身が返したのも思い出せない。
一方的に託されたものかもしれないし、軽率に引き受けたものかもしれない。
でもそれが、何か大切で、守らなければいけない誓いのような気がしてならなかった。
これから彼女の「願い」の力にずっと突き動かされていくのだろう。
すべきことを見つけるため、明日を行くため。
人の世の理から外れ、
彼女がそれを知っていて願いを託したのかは分からない。
だが、死に際に放つ想いを拾ってやれないほど自分を無力だなどと思いたくはないし、子ども一人が助けを求めているのなら手の1つくらい差し出したくなるのが自然だろうと。
たとえこれらすべてが彼自身の空想だったとしても、悠久の時を生きる目標の1つにはなるだろうと。
そう思っていた。
満足げな表情を浮かべる彼女の顔に見送られて、記憶と意識が深い霧に溶けていく。
「ルルーシュ先生!お仕事の依頼が入っています!」
無邪気な女の子の声で名前を呼ばれ、そうして男は日常へ戻っていく。
相手は
今の彼にとってかけがえのないビジネスパートナーであり、とても小さく優秀な助手だ。
彼女の言葉に応えるための肩書を、自身の首にかける。
連邦捜査部
『ルルーシュ・ランペルージ』
かつて、世界を混沌へと導いた悪逆皇帝『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』。
またある時にはブリタニアへの反抗組織「黒の騎士団」を率いた統領『ゼロ』。
その果ては人ならざる魔王『
嘘を憎み、嘘で世界を変えた男の次なる役割は
──────先生だった。
00
物語の始まりというのはいつだって唐突である。
どこからどうやって来たのか、ここまで来る直前に何をしていたのかという記憶がないまま、彼は見知らぬビルの一室で目を覚ました。
公共施設のフロントロビー。そんな様式の場で、座り心地の良い座席に腰を掛けていた。
座っている、ということは少なくともここまで自分の足で歩いてきたはずなのだが。
彼は今、現状を説明する術を持ち得なかった。今いる場所を見渡す限り、覚えのある風景ではなかったからだ。
近代的な建築方式に、管理の行き届いている整ったフロント内装。
外界には高層ビルがいくつも建ち並び、その様式には未来的な雰囲気こそあれど異界の質感は感じない。
トウキョウのような先進国の首都圏を彷彿とさせる。
このような場所に訪れる予定があったのだとしたら、それはきっと思い出せない記憶の中だろう。
頭蓋を割って脳みそを直接覗きたい気分だったが、すぐに次の疑問が目に付いて現れる。この時感じた違和はその景色すべてが妙に暗く見えたことだった。
まるでサングラスやバイザー越しの風景。
その認識を得て初めて、自分が被り物をしていることに気が付いた。
そっと立ち上がった男は窓側へと近づいて、ガラスに反射する自分の全身を確認する。
窓に映る自分の姿が知らない別人にすり替わっているとか、拘束具を装着されているとか、そういった趣向ではない。
むしろもっと既知の姿を、ある意味では当然の姿が映っていた。
深紫のスーツのその上から、所々に金縁の装飾が施された黒のマントで身を包む華奢な男の姿。
特に目を引くのはその上、頭と顔を隠して覆う独特な形状のマスク。
まるで物語に登場する悪の魔王のようなデザインをしている。
チェスにおける黒のキングの駒をモチーフにして作られたその衣服は、かつて『ゼロ』と呼ばれたテロリストの姿そのものだった。
……着たいと思っても、もう着ることのないはずの衣装だった。
彼はもうゼロではないのだから。
最初はただのテロリスト。
しかしゼロが世界を動かしていくたびに、その存在は在り方を変えていった。
たどり着いた果てが、世界中の悪意を一身に背負った”皇帝ルルーシュ”を”ゼロ”が殺すことで『悪逆皇帝から世界を救った英雄』という役へと変化させること。
そうすることで世界の秩序をあるべき形へと変えた。
死んだ彼がゼロという役割を演じる必要もなければ、ルルーシュが再び人の世に足を踏み入れることもない。
だから、たとえ望んでも着るはずのない衣装なのだ。
だが指先に伝わる触感や艶めいた立体感は、決して冗談ではなかった。
驚きと落胆と、そして怒りにも似た困惑が彼の感情を揺さぶる。
そうしていると窓に反射した部屋の風景越しに、身体を刺すような視線を彼は感じ取った。
「目を覚まされたようですね」
コツ、コツ、とヒールから出る足音がタイルの床を歩む。
眼鏡をかけた気の強そうな女。床につきそうなほど長い紺のロングヘアーがゆらゆらと近づく。
タイトスカートに沿って浮き出るボディラインを隠すように着込む白のコートは、窓からの光を淡く反射して。
黒の男とは真逆の色合いをした彼女。
だが最も気になったのは彼女の頭上に浮かぶ謎の輪だ。
ビビットな色彩の、映像効果のエフェクトのような光の輪。もしもマスクをしていなければ視線が頭頂部へ集中していることを気取られていただろう。
「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」
落ち着いた表情から、鋭い声が響く。
ため息をつくような意味深な素振りを見せる。どうやら既に何か不都合を生じさせてしまっているらしい。
だが不満を訴える顔、というよりは少々やつれているようにも見えた。
子どもにしては身なりから大人びた印象を受け、しかし成人しているにしては幼さもある。高校生くらいの年齢だろうか。
「……君は?」
「私は七神リン、学園都市キヴォトスの連邦生徒会所属の幹部です」
学園都市。
連邦生徒会。
彼にとって聞き馴染みのない言葉が複数出てきた。
どうやら学生であるという読みは当たっていたらしいが、何らかの組織の幹部であるという点は新たな疑問である。
もうひとつ分かったこととしては、彼女の名前の読みと構成が日本人のそれと同じであることだ。
つまりこの場所は日本の可能性が高く、彼にとっては最も所縁のある場所となる。
かつてはエリア11と呼ばれたブリタニアの元植民地。
日本人を率いてブリタニアに反抗した組織、黒の騎士団。そのリーダーがゼロである。
今の彼がゼロの衣装を身にまとっている以上、この場ではゼロとして振る舞う必要があった。
それも特に日本であれば尚更、仮面の下の"ルルーシュ"の顔を晒すわけにはいかない。
いくらコード保有者特権の不死身とはいえ、痛覚はあるため撃ち殺されるのはできるだけ回避したい。
だが、まだ彼女が日本人だと断定できるわけでもなかった。
彼女の容姿からは西洋人の要素も感じ取れるため、混血児の可能性もある。人種を特定することが、場所を特定することに繋がるとは限らない。
それに彼女の頭上に浮かぶ奇妙なオブジェのこともまだ不可解な点として残る。
彼がそうして思考を巡らせていると、七神リンと名乗った彼女は続けて二言目を発した。
「そしてあなたはおそらく、私たちがお呼びした先生……でよろしいでしょうか」
歯切れの悪い言葉に疑問を抱く。
先生。
現在喪失している記憶の中に”教師になった経歴”が含まれているのであれば、そろそろギアスの副作用やコードの影響を考え始めた方が良いのかもしれない。
だが彼女の言葉の不確定さの前には、そう断言することもできない。続く言葉を待つ。
「……実はこちらも先生の情報については不明瞭な点が多く、現在はお二方の履歴の精査もままならない状態です」
ご確認ください。そう言ってリンに二枚の書類を手渡される。履歴書のようだった。
お二方、という言葉に小さく疑問を抱いていたが、その謎も渡された書類に目を通すとすぐに判明した。
1枚目の履歴書の登録名は「ゼロ」。
そして2枚目の登録名が「ルルーシュ・ランペルージ」となっている。
ご丁寧に詳細な履歴も記載されてあるが、正確なものではなく恐らく誰かがでっち上げた偽の経歴だ。
だがその割に詰めが甘いのか、あるいはわざとそうしたのか。顔写真が貼られているはずの場所が2枚とも空欄のままだった。
ルルーシュ・ランペルージはエリア11にいた頃、ブリタニア皇族という身分を隠すため使っていた名前である。そしてゼロは言うまでもなく今の姿のこと。
つまりこの履歴書に該当する人物は同一の人物、彼自身である。
ゼロの衣装といい、履歴書の小細工といい、悪趣味な誰かが彼をこの場に留めようとしていることははっきりと分かった。
だが、やはり気になるのは彼女が発する敬称である。
「先生、というのは?」
書類に登録されている両名の経歴の最後には学校教員となることが記されていた。
資格の欄には教員免許の所持も記載されていて抜かりはない。
唯一あるとすれば、彼の記憶にそれらを得た記憶が無いところだろう。
「お二方は連邦生徒会長が指名した先生、という風に聞かされています……しかし、そのご様子だとより詳しい説明が必要なようですね」
そこまで口にしてリンは言葉に詰まった。
えっと、と言いながら仮面越しの男の顔を伺う視線を向ける。
それもそのはず、彼はまだ自身の名前を伝えていない。
黒尽くめの男が女子学生を目の前に俯瞰して接している状況は、高圧的とも捉えられよう。
それこそ不審者そのものである。
「申し遅れた。俺のことは……ゼロと呼ぶと良い」
「ありがとうございます、ゼロ先生」
少しの迷いの中、躊躇いつつもその名を騙った。
無機質な名前であると改めて思う。実際、無という意味を込めたわけたが。
正確に言えば今の彼の名前は『
ルルーシュ、という名も仮面を脱げば名乗れるが、現状を把握しきれていない中迂闊にこの名を出すのは危険だと判断した。
その点ゼロであれば要人という扱いを受ける可能性が高い。
彼の気分はとても良いとは言えなかったが。
「説明不足で色々と混乱されているかもしれませんが、大至急どうしても先生にやっていただかなくてはいけない事があります」
正体が分かれば次に口にする言葉は仕事の話だった。
リンにとってゼロやルルーシュという名前に頓着はなく、それよりも頼みたいことがあるのだと言う。
ゼロを名乗る彼からすれば複雑な心境である。今のところその名の恩恵を受けられていないのだから。
彼女の言葉と同タイミング、後ろに見えるエレベーターが今いるフロアに到着したらしく、静かに扉がスライドして開く。
「学園都市の命運をかけた大事なこと……と言えば事の重大さをご理解していただけるかと思います。今はとりあえず、私についてきてください」
それほど重大な事態であれば、なおさら不審者じみた部外者に任せるべき案件ではないと思うのだが。
それに、この先生という肩書にはそれほど影響力があるとは思えない。であればやはりゼロという人物の実力を知っての頼みなのだろうか。
しかし、それならルルーシュの名前が出てくる理由が分からない。
同姓同名の別人がいるという偶然も考えられるが、性名のどちらも一般的な名前でもないため可能性は低い。
ルルーシュの存在については後々考えるとして、今はゼロとして正しい振る舞いをすることを専念することにした。
リンの誘導に導かれて、ゼロはエレベーターへと乗り込む。
ただのビル用エレベーターというわけではないらしく、広々として前面がガラス張りになっていた。
上昇するにつれて近隣の建物の高さを越えていき、ビルの隙間から徐々に空の色が視界に収まっていく。
「遅くなりましたが、先生。キヴォトスへようこそ」
彼はこの時初めて青空をしっかりと見た。
何の変哲もない晴れやかな虚空。そのはずの天空には巨大な光の輪が掛かっていた。
今まで自分のことばかり考えていて、空という普遍的な概念に興味を持つこともなかった。
だがこの時ばかりは持たざるを得なかった。その空模様はどう考えてもあり得るはずのない光景で、この時まで考えていたあらゆる疑問がその形を保たなくなっていった。
俺の知る世界ではない、と。
ここには、ゼロもルルーシュもいなかったのだと。
あらゆる身体の感覚が、そう伝えていた。
01
鋼鉄の回転翼が青の虚空を慌ただしく飛翔する。静まり返った灰色の摩天楼を行くその機体の側面には、ネイビーをわずかに反射する『K.S.P.D』の文字。
近代都市のビル群、
両者に共通するのはその車体側面に『K.S.P.D』の文字と独特な校章がデカールされていることだ。
「こちらアルファ3。目標はシラトリ区を時速80キロで北上中」
空を舞ううちの1つから情報が発信される。
報告は彼女たちの所属するヴァルキューレ警察学校へ通じ、そこの対策本部のオペレーターに繋がれる。
送られた情報は精査した後、現場の航空部隊へ下す新たな指令へと構築される。
「フォックスカーゴより各移動。フロア5よりフロア2にコード3。各移動にあっては288、ターゲットを確保されたい」
近隣住民の避難も完了済み。交通整理にもヴァルキューレの生徒たちが駆り出されていた。
たった一台のトラックのためだけにこれだけの緊急措置を強いられている理由は、その車両が護送している要注意人物にあった。
防弾装備を厳重に取り付けた護送車。外からの衝撃よりも内からの攻撃に強く設計されているその車両は、危険物や犯罪者を輸送するためのものである。
依然としてその進路を変えることのない護送車に、一機のヘリが接近する。
「直ちに停車せよ!今なら弁護士をつけることも可能である!」
ヘリの外付けスピーカーから静止を促す声が響き渡る。
その声は建前であり、なぜなら武力を以て制圧しなければ対象を捕獲することはできないという事実を彼女たちは知っていたから。
目の前の護送車が速度を落とすはずがないということも。
ヴァルキューレの彼女は徐に操縦桿のトリガーに指を掛ける。トップに装備された機銃の口が護送車のコンテナに向けられ、放たれる閃光。
直後、蛇行運転で火砲をいなす行動を取る護送車。コンテナの装甲とコンクリートの地面をほのかに削った。
「ヤツら撃ってきた!どうしやすか姉貴!」
ヘルメットとゴーグルで頭を覆う護送車の少女は、ハンドルを握りながらコンテナ内にいるもう一人の少女へ焦る言葉を吐く。
後部コンテナの隙間から僅かに差し込む光だけを頼りに身支度をする、面妖な和装の少女が一人。鋼鉄の巨人に跨って振り向いた。
「どうもなにも、そのための私なのでしょう?」
彼女が腰を掛けた座席がスライドして、人一人が入れるほどの小さな鉄箱の中へ収容される。
その箱を背負うような形で鎮座する鉄人は、暗がりに4つ目が瞬かせ、両の足をゆっくりと交互に差し出す。
ズシン、と重たい一歩が護送車を少しだけ揺らす。その揺れが合図となって、運転手は後部コンテナのカーゴハッチを開くスイッチを押した。
蛇行運転を止め、僅かながら速度を落とした護送車の様子をうかがって目を凝らしていたヴァルキューレの航空部隊。その先頭を行く一機に、突如分厚い鉄板が突き刺さり爆散する。
その鉄板の出所を辿ると、護送車の後部ハッチから太いワイヤーが伸びていて、それが鉄板を射出する機構であることを理解する。
上下に分かれて展開されるハッチの隙間から、その脅威は放たれていた。
「────スラッシュハーケン!」
その光景を後ろで見ていた航空部隊二番機が、突き刺さった鉄板の正体を口にした。
ハッチが全開に近づくにつれて、その内側にいる何者かの全容も白日の下に晒されていく。
「ナイトメア……!!」
くすんだ赤と土色の装甲。
突き出た背中のコックピットブロック。
人の形を踏襲したシンメトリーな腕部には五本のマニュピレーターが標準搭載されている。
それは基本的な陸戦兵器の中でも特別奇抜な、非現実的で原点回帰の形をしていた。
ナイトメアフレーム。そう呼称分類される、高さ5m弱の巨大な機械魔人である。
狐面の彼女が駆るナイトメア〈グラスゴー〉は第三世代ナイトメアに分類され、キヴォトスにおいてはしばし型落ちとされる旧式機だ。
しかし、それでもヘリ程度の旧来兵器に対しては基本スペックから圧倒的な性能アドバンテージを誇る。
まさに今、ヘリを撃墜する際に使用したスラッシュハーケンですら、ナイトメアの内蔵兵器、つまり基本武装の1つに過ぎない。
粉みじんになった爆炎の中から、食い込ませたアンカーをワイヤーで巻き戻す。
グラスゴーの頭部バイザーが展開し、ファクトスフィアによる周辺情報の読み取りを行う。
得られたフィードバック情報に映る機影を確認したグラスゴーの少女は、手慣れた手つきで操縦桿を動かす。彼女の手の動きに連動するように、駆る巨体も自然な動きで人体駆動を開始する。
「
荷台を飛び降りた巨体は、脚部側面に備え付けられたランドスピナーを展開し、ホイール走行に移る。
護送車の慣性を殺すように逆回転させたホイールを地面に接地させバランスを取る。その行く先は、後を付けるヴァルキューレの
ヴァルキューレ各機はそれぞれ散開しつつ、機銃の照準を赤いグラスゴーに合わせる。
明確な殺意を向けられている彼女たちに、引き金を引く躊躇いなどなかった。
しかしそれ以上に、こんな豆鉄砲がナイトメアに通用するのかという疑問があった。
人型を成していながら、その身には軽量かつ堅牢な装甲。戦車以上の機動力と戦闘機以上の汎用性を持つナイトメアを前に、火力と機動力で劣っていることは明確。
それに、搭乗しているパイロットが
「目標はナイトメアで武装中!応援求───」
グラスゴーの左の剛腕が、巨人のスケールに合わせられた巨大なアサルトライフルを持ち上げて、トリガーを引き絞る。撃ち放つ。
人の持つ自動小銃とは比べ物にならないほど大きい銃。それから放たれる弾丸は、砲弾と呼ぶべきサイズであり、薄い装甲を持つことがやっとのヘリコプターなど一撃で屠ってしまう。
事実、本部に支援要請を送ろうと通信を試みた一機のヘリは、ローターに直撃を受け爆発四散した。
続いて僚機の方もスラッシュハーケンを撃ち込んで適当に処理をする。ふわふわと動くだけの的に時間を割くことを、グラスゴーの彼女はただ面倒な仕事であると思うだけだった。
「近道をします。幹線道路エリア35-1を抜けなさい」
「う、うっす!」
護送車の運転手はグラスゴーからの通信を受け、進路を変更した。
目的の場所はD.U.外郭地区。都心部からしばし離れた立地は、不良グループの溜まり場になっており治安の悪い地域でもある。
しかし、アウトローたちの憩いの場にも連邦生徒会のメスが入ることとなった。
突如建てられた、周辺の外観様式とは一際異彩を放つ高層ビル。
連邦生徒会長直々の施策だという建物。その会長にとって重要な物が隠されているというタレコミが彼女の耳に入ったのは、矯正局で収容されている時のこと。
破壊の限りを尽くす災厄の狐にとって、これは受けた仇を返すのにうってつけの機会であった。
「久しぶりのお楽しみになりそうです、ウフフフ……♡」
狐の顔が不敵にほほ笑んだ。
PROLOGUE 1 「魔神 が 目覚めた 日」
長らくしたためていた妄想で、何度も書き直していました。が、意外と皆さん思いつくことは同じようで、自分が一番上手く書いてみせるという意気込みの初投稿です。
読みやすい文章が書けるといいな。