教導のルルーシュ   作:小倉アルコ

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 PROLOGUE 2 

 

 

 上昇するエレベーターの展望窓から見下ろす風景は、ごく普遍的な都心部のそれである。

 しかし目線を少し上にずらすだけで、その世界の形が常識の中から逸脱する。

 空にかかる広大な光の輪、節々には波紋を広げるように小さな輪が点々としている。その周りには中心の円をさらに囲うように大きく広がる輪もある。

 衛星軌道や成層圏に巨大な構造物を描いているわけではない。

 この世界では雲が手で掴めないのと同じように、それが空にあることが常識であるようだ。

 

「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。そして、これから先生が働くところでもあります」

 

 眼下に広がる街も人も、すべてが学園都市の構造体の1つなのだとリンの言葉は言う。

 しかし一般的に想像し得る学園都市とはその規模からして違い過ぎると彼は感じていた。視界に収まる範囲でも明らかに広大だ。

 複数の学園が集まった学園都市、それもその数は千を行くという。

 一体どれほどの人間が関わっているか想像もつかないが、光の天輪が根差すこの地で、自身の持つ一般常識は何もかも通用しないのではないかと思い始めていたところだった。

 

「きっと先生がいらっしゃったところとは色々なことが違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれません……でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう」

 

 今の時点で目に見えた世界の差異は光景として現れるものばかり。まだ文化的な部分にどのような違いがあるのかは知り得ない。

 それこそ七神リンと名乗った彼女が人間と呼べる種族かどうかも定かではない。人の形をしているだけで、その実態は異形の存在である可能性すらある。

 今のところそういった予兆はないが。

 

「あの連邦生徒会長がお選びになった方ですからね」

 

 彼女は先に発した言葉の後にそう続けた。

 そういえばリンは先ほどもその役職を口にした、と思い返す。

 連邦生徒会長。

 まず連邦生徒会という組織が存在し、その代表を務める人物であろうことは概ね合っているだろう。

 お選びに、とまるで偉大な人物かのように言うことからも、少なくともリンにとって尊敬する対象であることもうかがえる。

 連邦組織を組むほどの学園都市となれば、その会長に課される荷は想像を絶する。まとめ上げるだけでも苦労は計り知れない。

 それを成し遂げて維持してきた手腕を持つ優れた人物が会長。学生という点はやはり非現実的だと彼は思ってしまうが、そうするだけのカリスマ性を持っているのだろうと仮説を置く。

 彼がかつて通っていたアッシュフォード学園にも生徒会は存在したが、活動として許されていたのは校内イベントの企画進行や校則を少し変える程度であった。

 部活動を生徒会特権によってある程度動かすことはできたが、学園全体を、ましてや都市を運営管理する権利や能力があるわけではない。

 そんなことが可能な学園が本当に存在しているのならもっと名が知れているはずで、しかし彼がルルーシュとして生きていた頃にそのような学園があるなどとは、噂であっても耳にしたことはなかった。少なくともブリタニアが統治する領地内においては存在していなかったはずだ。

 彼がゼロレクイエムを実行し、社会の表舞台から姿を消してからも、そう長い時間が流れているわけではなく、その間にこれほど大規模な学園都市ができたという話も聞いたことがない。それこそ空に浮かぶ天輪なんて以ての外。

 やはり自分が知る世界ではないのだろう。現時点ではそう結論付けるのが妥当であった。

 物静かな仮面の内側で考え事をしていれば、リンとの会話など弾む間もなく目的の階層に到着した。

 チン、とベルが一度鳴って扉が開く。

 彼はこのフロアで邂逅する人物がきっと連邦生徒会長なのだろうと勝手に思い込んでいた。しかし実際にその場に見えたのは身形の異なる四人の少女たち。

 リンと彼がエレベーターの内側から数歩踏み出した段階で、ゼロは何やらざわめきたっていることを仮面越しの耳に音を拾う。その調子でゆっくりと歩みを進めていれば、何かを決意したかのような顔つきの四人がこちらへ向って来る。

 

「代行!待ってたわよ、連邦生徒会長を呼んできて!」

 

 かなり強めの口調でそう言い放つのは菫色のツーサイドアップの少女。

 彼女もリンと同じようなOLに似た整った服装だが、短いスカートやジャケットの着崩し方など、比較的制服らしい装飾から学生であることを認識する。

 同じく学生と思わしき残りの三人も先頭の彼女に続いて、ずいとリンの方へ迫る。

 

「首席行政官。お待ちしておりました」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

 黒髪ロングで長身の女と、全体的に赤が目立つベージュの髪色を持つ少女。その後ろに銀髪の少女が1人。

 皆眉間にしわを寄せ、まさに不満をこれからぶつけようというそんな気迫があった。

 しかしゼロの眼はとある部分に視線が行く。

 黒髪と銀髪の少女から、恐らく生えていると思われる鳥類の翼のようなもの。コスプレにしては妙に質感があり、それが彼女たちの動きに合わせて伸縮し揺れ動いている。その様は日常生活において”それ”があることを前提とした身の振る舞い方であるという説得力が、動きからにじみ出ていた。

 また、翼以外にも気になるものはある。

 彼女たち四人の共通点とも言える、肌身離さず身に付けているもの。到底この場、その身分に似つかわしくない物騒な代物。

 端から拳銃、短機関銃、狙撃銃、突撃小銃。

 およそ学生が持つべきものではない。そのはずだが、彼女たちが持つその携行火器はそれぞれが色とりどりにカスタムされていて、まるでアクセサリーやファッションの一部とでも言うような風体を成していた。

 少女と銃火器は、彼の持つ常識においてはミスマッチな組み合わせであるが、まるで当たり前のこととして立ち振る舞う彼女たちの姿に、思わずゼロは身体に力が入る。

 どうにもおかしな光景ばかりが続くので、まだ夢を見ているのではないかという疑念が強くなった。

 

「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

 仮面の男の気苦労など知る由もない隣の首席行政官は、なんとこの状況において毒を吐く。

 問い詰められている本人だというのになぜ余裕を感じさせる言葉を呟けるのか。下手をすれば彼女らの持つ鉄砲火器から火花が見えるかもしれないというのに。

 彼はその真意を図りかねていたが、リンはすぐに息を整えて迫る学生たちに向き合う。

 

「こんにちは、各学園の皆さん。ここを訪ねてきた理由はよく分かっています。今現在、学園都市に起きている混乱の責任を問うために、でしょう?」

 

 混乱。

 それは彼も同じ気持ちの置き所である。

 説明はないが事態は進む。それ故に説明を求めているという点は、彼も四人の少女たちと同じ立場であった。

 

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!どこの学園自治区も混乱しているし、うちなんか学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

「戦車やヘリなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

 彼女たちの言い分は各々違うように思えて、しかしその原因は一か所に集まる問題であった。

 連邦生徒会の、つまり行政管理が行き届いていないことによる混乱である。

 それぞれが別々の学園から来ているという事実は、制服などの身形の違いから察することができる。故に全く異なる問題を抱えていて、その対応に追われているのだろう。

 その地域による違いはまさに、彼女たちの頭頂部に浮かぶヘイローの形状にも及んでいるようで、類似性がまるで見られないほど個性に富んでいた。ゼロは特徴的なそれにどうしても目が行ってしまう。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?」

 

 連邦生徒会長に今すぐに合わせろ。それが彼女たちの要求だった。

 要求がのめないなら今すぐに銃をぶっ放す、と言うことかと身構えていたが、そうする素振りは今のところない。やはりその武器はファッションなのだろうかと。彼はパーティションをした脳の片隅で情報を咀嚼する。

 彼女たちの要求を聞いたリンは、それでもなおため息をつく仕草をし、それを隠さないほど堂々としている。

 連邦生徒会長の所在を知りたいのはゼロも同じである。顔も知らない誰かに仕掛けられた悪い趣味に付き合わされているのだから。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

 

「……えっ!?」

「……!!」

「やはりあの噂は……」

 

 この期に及んで姿を出さないという時点で予想はしていたが、的中してほしくない予想であった。

 ”先生”とやらを手配した人物が行方をくらましている。というのは、客観的に見れば分かりやすい責任転嫁のように思えてしまう。

 その矛先が何故ゼロとルルーシュなのかを問うことは今のところ叶わないが。

 黒髪の女子が呟いた『あの噂』という言葉の意味を考えるのならば、噂が立ってしまうほど前から失踪しているということだろうか。

 目先の目標のように思えていた連邦生徒会長との邂逅は、たった今から最も遠い目標となった。

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……」

 

 そこまで言うとリンはゼロの方へと体を向けた。手を差し出して、その先に全員の視線を集めるように黒の男を紹介する。

 

「こちらの『ゼロ先生』こそが、そのフィクサーになってくれるはずです」

 

「……私が?」

 

 困惑が思わず声に出てしまった。

 先生と言うからには教職者であると彼は勝手に思い込んでいた。その言葉の意味が”行政管理者の代行”なのだとするならば、まるで違う意味の言葉を当てはめるべきだ。

 三者三様に驚きを返す少女たちの視線は、リンの手からゼロへと切り替わる。

 これまで居ない者のように扱われていた存在が、今頃になって注目を浴び始めた。

 

「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」

「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」

 

「こちらのゼロ先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物の1人です」

 

 キヴォトス。それがこの世界の名である。

 少なくともあの天輪の下の世界ではそう呼ぶべき場所だろう。または、彼女たちの頭上に輪が浮かんでいる限りはそう呼ばれる土地にいるはずだ。

 しかし、先生という身分を受け入れる返答をした覚えが彼にはないのだが、いつの間にか労働契約を結ぶことも折り込み済みらしい。

 そのお墨付きに連邦生徒会長の名を出すほどには揺るぎない決定事項を少女たちに伝えている。

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……?ますますこんがらがってきたじゃないの……。」

 

 当然の反応だ。

 その点を追求したい気持ちはその場の皆がそうだったが、これ以上本題を逸れた話題を広げても時間の無駄と、紺色の彼女は考えた。

 表情の見えない真っ黒な大人に体を向けて、少し背伸びをして挨拶をする。

 

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……いや、挨拶なんて今はどうでもよくて……!」

「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」

「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」

 

「ああ、よろしく」

 

 二人目の人物名を確認できた。やはり、その名の様式は日本の物がベースとなっていることは間違いない。

 ゼロは仮面越しに挨拶を返したが、人間味のない簡潔な返答にユウカは苦い笑みを浮かべる。

 ゼロという役者を演じる上でのデメリットにある、コミュニケーションの遂行に支障が出やすいという結論が今頃になって響いてきていた。一刻も早くこの仮面を外したいと、彼は息詰まる。

 

「先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」

 

 話を戻して進めるリンは薄型のタブレット端末を取り出し、その画面をゼロに見える形で手元に置いた。

 仮面越しの薄ら暗い視界でもよく見える、円形と十字を組み合わせた独特なロゴマークと共に、その組織の名が液晶に浮かんでいた。

 

「連邦捜査部シャーレ」

 

 ゼロは、そこで初めて自身の所属する組織の名を知る。

 

 

 

 

 02

 

 連邦生徒会拠点からおよそ30km程度離れた都市外郭地区。

 市街地の広がるD.U.においてもこの区画は郊外に近い立地であり、未だ古い建物が多く残る場所である。

 住宅地や商店街が密集するこの地区では空き家も少なくなく、そうした場所を不法に利用する不良生徒たちが集まる場所として、以前より治安の悪化が指摘されていた。

 そんな地域では当然争いごとも頻出するようになり、その際には火器類を使用した戦闘行為が発生してしまうのだが。

 今日のそれはひと味違う。

 

 白と青のモノトーン気味な彩色に、強烈な赤を放つパトランプを装備したナイトメアフレームが、三機鎮座する。

 警察組織での運用を想定された仕様のグラスゴータイプ。通称、ナイトポリス。

 頭部側面には大きくPOLICEという文字がデカールされていて、胸部装甲にはヴァルキューレ警察学校の校章が彫られている。

 正義を象徴する騎士警官たちが待ち構えているのは、平和を揺るがす自然災害のような悪。

 もっとも正しく表現するのであれば、それは”無邪気”とするのがより正解に近いのかもしれない。

 そして、その無邪気はいつも唐突で、理不尽で、不条理を掲げてやってくる。

 

 《こちらM2。目標がそっちに行った!》

 

 無線越しに焦る声を拾ったヴァルキューレの隊員たちが、自らが操るナイトメアの踵を返す。

 その方角を定めて、大腿部ホルスターに収納されていたハンドガンを両の手でグリップすると、照準器とリンクしたコックピットのインジケーターが激しく鳴動する。

 直後、目の前の建物が砂煙を上げて視界から消えたと思うと、白煙で空中に線を引きながら赤い機体が飛び出してきた。

 片方の手にライフル、もう片方にはもぎ取られたナイトポリスの頭部が握られている。

 

「接敵!迎撃する」

 

 都市迷彩を考慮した彩色のナイトポリスとは対称的に、錆色のように真っ赤なグラスゴーはとても目につきやすい色をしていた。

 にも関わらず最前線を突破し、最後方の外郭地区までやってきた理由を考えるならば、単純な戦闘技量の高さ故のことだろう。

 ヴァルキューレの彼女たちは警察組織の隊員であり、一般人相手になら戦闘力で勝る存在だ。ナイトメアの操縦訓練も日ごろから行っており、その腕前は軍属ほどではないにしろ多少立つものがある。

 そんな優秀な機動隊員たちがここに至るまでの前線何十人と投入されていた。だというのにこの場所に、『シャーレオフィスビル』の眼前にまで奴がやってきている事実は何故生まれたのか。

 彼女が狐坂ワカモ(災厄の狐)だから。

 

「……あらら。こちらも連邦生徒会ではないようですね。フフッ、まあ構いませんが」

 

 赤いグラスゴーは目の前の新たな獲物に接近する。

 真正面の一番機に向けて引きちぎったナイトポリスの頭部を投げつけたのを皮切りに、白いナイトポリスたちが構える鉄人用サイズの拳銃から閃光が迸る。

 その反撃に対してワカモは機体を蛇行運転させて極力砲弾が当たらないように回避する。三機分の砲撃をもろに受ければ、操縦者の腕前ではどうしようもないダメージを受けるだろう。

 だがここまでグラスゴーを五体満足のまま連れて来た事実が、ワカモの戦闘センスの高さを証明している。

 ワカモはスラッシュハーケンを付近の建物の外壁へ打ち込み、建物を倒壊させながら突き進んでいる。降り注ぐ瓦礫の合間を縫って、その瓦礫を盾にして。

 彼女の行動原理は破壊そのものであった。

 

「散開しろ!巻き込まれるぞ!」

「めちゃくちゃだ……っ!」

 

 瓦礫の雨と激しい砂埃が彼女たちの視界を奪う。

 意図的に生み出した一瞬の混乱こそ、彼女の得意とする戦闘スタイル。

 敵の視線がこちらを向いていないこの隙をついて、一気に前進する。

 狙いは最も離れている三番機。

 

「初めまして。そして、さようなら」

 

 ダダダン、と弾ける発砲音。

 降りかかる瓦礫に戸惑った三番機の胴体部に、アサルトライフルの砲弾が撃ち込まれた。

 民間向けに通常よりも装甲が厚くなっている胸部装甲を、さらに念入りに撃つ。

 貫通はしないものの、電装系を破壊された機体の節々はショートの火花を散らし、命中した砲弾がコックピットを直接揺れ動かす。その振動はパイロットの脳へ大きな負荷を与えた。

 搭乗者の気絶を確信したワカモは、姿勢を崩して倒れ込む機体を回り込んで支え上げる。

 そのまま動かなくなったナイトポリスを盾にしながら、今度は振り向いた向かいの二番機へ向けてライフルを構えた。

 体勢を立て直した一番機もすぐさま赤いグラスゴーに銃口を向けたが、その先には盾にされた味方機がいてトリガーを引くのを躊躇わせる。

 その隙もまた、彼女の意図したものだ。

 瓦礫の衝突によりシステムの再起動がかかり、メインセンサーが復帰していない二番機に向かって今度はフルオートで射撃する。

 振り向けずに背後のコックピットブロックもろとも砲撃を受けた二番機は、腰部の動力系に直撃弾を受けてしまう。全身の装甲が射撃の猛攻を受けて激しく弾け飛び、その内側のフレームを露わにさせて、みすぼらしい鉄くずへと変えてしまった。

 

「くそっ!よくも後輩をやってくれたな!」

 

 やりようがなく悪態をつく一番機のパイロット。数で有利を取っていたというのに、何の手を打つ間もなく状況は圧倒されてしまった。

 1対1で、敵は人質を取っていて、技量もあちらが上と来ている。捨て身で掛かっても勝ち目は見込めないと思うほど気後れしていた。

 

「後輩、それは仲間という意味の言葉ですね?」

「……驚いた。言葉を交わせるなんて」

「ええ、そうです。話をせずとも理解できますから」

「相互理解という訳じゃないことは私にも分かるよ。アンタは身勝手でここまでやって来たんだ!」

 

 ワカモは彼女の言葉が分からなかった。だが同時に、それを理解する必要性を感じていなかった。

 相手の顔も名前も知らない。知る必要すら今後出てくることはないだろう。

 相手の情報は盤面を見れば理解できた。どのように戦うのか、その姿勢でのみ相手の思考を覗き見ることができるから。

 今対峙する無名のパイロットは、これまで倒してきたヴァルキューレの犬と変わらない。ワカモにとっては取るに足らない雑魚である。

 

「ならばどうして皆さんそう(身勝手)しないのでしょう。お仲間と徒党を組んで群れてまで、他者と足並みを揃えようとする。」

「不良ってのはこれが分からないから……っ!」

 

 ナイトポリスはハンドガンを構える手と、もう片方の手に固定されているアーミーナイフを展開し逆手に持ち構える。

 そのままハンドガンを正面に構えながらアクセルを吹かし、ランドスピナーのローラーダッシュを全開にして突進する。的確に本体だけを撃ち抜けるよう常に銃口を向けながら、間合いに入ったらすぐにアーミーナイフを突き出せるように刺し構えて。

 だが、結局はその両方が活かされることはなかった。ワカモはハンドガンの銃口に対して盾にしていた三番機をぶつけ、その機影で死角になった一番機が身を乗り出す瞬間を狙って思い切りラリアットを喰らわせた。

 頭部はセンサーごとひしゃげ、巨大な体躯は慣性で少しだけ宙を走り、背中から地面へ叩きつけられた。当然、コックピットのある部分は背中なため、相当な衝撃が搭乗者に伝わったことだろう。背部ユニットの接合部が歪んでいるのがワカモの目に映った。

 

「ご理解が頂けないのなら、こちらも理解を示す必要はないと思うのです。だって面倒でしょう、友好の仮面を取り繕うのは。」

 

 戦闘の騒々しさが止み、砂埃がビル風に吹かれて散った頃。近代的な地平の彼方から重たげな走行音が響いてきた。

 ファンキーな塗装を装甲に施した巡航戦車。そしてそれを先導する違法改造かつ盗難品のナイトメア達。

 皆、ワカモのために旗を掲げた不良生徒達である。

 ワカモの前に真っ先に到着したのは道中まで一緒だった護送車の運転手。

 

「姉貴、東エリアのヘルメット団を集めてきました。皆バラバラの出ですけど、どれも粒揃いですぜ」

 

 よく見るとヘルメットのデザインや装飾の趣向が確かに統一されていない。

 が、ワカモはそもそもヘルメット団との関り自体にはさほど興味はなかった。

 

お仲間()、ということですね。頼もしい限りですわ」

 

 ゴーグルとマスクを着用するヘルメット団員たちの顔色はまるで見えないが、ごまをする様な仕草と共に気色の悪い笑い声がこだますると、その場は一瞬で下賤な空気へと色が変わった。

 ワカモは振り返り、背後にそびえるビルを一見する。

 

 「この建物にあるものがどんな物かは存じませんが、連邦生徒会が大事にしている物と聞いてしまうと……壊さずにはいられませんね……♡」

 

 狐は仮面の隙間から小高い建物を見つめる。下から上へ、舐め回すように。

 D.U.外郭地区に建設されたシャーレオフィスビル。連邦捜査部が置かれることを前提に作られた、生徒のための施設である。

 今のワカモ達は停学を受けた生徒のため、本来ならばビルへの立ち入りは許可されない身分である。

 だがそれは、アウトローな彼女たちにとっては何の規制にもなり得なかった。

 

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