Re:あなたのそばで 作:KY
誰もが意図していないものの取得。彼女が得た自分らしさというものだ。彼女は綾波レイに変わりはない。だが、他のアヤナミ・シリーズと同じなのかと言われれば違うと言わざるを得ないだろう。
綾波レイはリリンと同じ思考能力を持ち感情もある。唯一違うところを挙げるならば、第三者の手で人格を作られる点だ。
では、それに魂はあるのか
魂がなければそれは肉の器に過ぎない。動き、考え、感情に酔うことこそがリリンの特権なのだから。魂が入った綾波レイのクローンのみが綾波レイとして存在できる。
魂は目に見えるものではないだろう。多くのリリンは魂の理を知らない。それは神の領域にあるからだ。
今まで、魂について多くの考察が挙げられてきた。だが、どれも正しいと断言できるものではない。
その考察の根拠も結局は人間の想像力で作られているからだ。想像力はリリンの強みであった。その想像力により、神も魂も人間が創ったと言ってもいい。
本当に神がいるとしても神を神と定義付けるのは誰なのか。神自身なのか。違う。他者だ。どんなに凄まじい力を振るったとしても他者がいなければ自分を測る事すらできない。
魂について分かっている事を挙げるとするならば、
・魂という言葉は人が生み出したもの
・魂を扱える能力は人類に備わっていない
・現時点で魂を創る事は不可能
これらが挙げられるだろう。
器は作れても魂は造れない。綾波レイはリリンの模造品であり、魂の場所が違う。魂があるとしても、それがリリンと同じものだとは思わない。しかし、例外が発生した。それは『リリンは自ら進化出来ない』という定義を根底から覆すものだ。
いや、進化というのは些か大袈裟かもしれない。なぜなら、変化はとても小さいものだからだ。変化が起こっているのは心…つまり精神面。進化というよりは成長と呼ぶ方が適切だろう。
魂というものは人知を超えて造られている為ひどく複雑かつ曖昧…そして完全だ。故に不完全な模造品の魂だからこそこういった変化が起きるのかもしれない。
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予想外な事になりました。シンジ君が早々に我々があの綾波レイではないと気づきました。そのように背中を押しましたが彼はそれを受け入れ始めました。これも成長なのでしょうか?
シンジ君は綾波を助けたということを信じてます。そこに綾波は複数あるという情報がプラスされて、ざっくりと定義するなら『綾波は助けたけどここにはいない。けど黒波と私も気になる』という感じですね。
まぁ当のご本人は部屋でうんうん悩んでたりそこら辺をウロウロしてましたけど大体こんな感じでしょう。綾波を助けた。けど助けた綾波とは違う綾波が2人いる。なんで?ってなりますもんね普通。
因みに綾波レイの真実は冬月先生が教えてくれます。メンタルブレイクの要因は世界と綾波レイの正体、父親の計画ですかね。
黒い綾波も自分を探すようになっています。元々、無垢な存在でしたからね。
色々な事を考えて歩いていると、いつの間にかピアノ前に来ていました。ここに来てシンジ君とカヲルの連弾を聞く機会が増えました。彼らの演奏は凄いですね。日を追うごとに上手くなっています。カヲル君が教えるのが上手いのに加えて、シンジ君の成長スピードも速いですからね。いつの間にか両手を使って演奏してますし。
天才の血は争えませんねぇ。...たまには、私も弾いてみましょうか。
〜♪〜♫
「なんだろ。ピアノの音だ。カヲル君がまた弾いてるのかな?」
シンジは聞こえてきた音楽に惹かれて広場までやって来た。そこにはカヲルもいた。
「カヲル君?君がここにいるということは…ピアノを弾いてるのは誰?」
「やぁ、シンジ君。それは自分の目で見てみるといい」
そう言いながら彼は手招きする。ピアノから少し離れた所から覗き込むとそこにはピアノを弾く髪を伸ばした綾波がいた。
…彼女は助けた綾波じゃないって言っていた。Mark09の綾波にもあの後聞いてみたがやっぱり彼女ではなかった。それでも受け入れられるようにしたかった。
姿形が同じだからって自分の求める綾波とするのは違う。その行為は初めは必要としてくれるから、褒めてくれるからと肯定していた。でも、違った。そう扱われることの辛さを知った。だから僕はしたくない。そう思ったんだ。
彼女は不思議だ。初めて綾波と喋った時よりも会話がちぐはぐになる。正直…言っていることが分からない。本人は天使のお告げはそんなもんです。と言っていたがそれ自体が分からない。もしかしたら、あの綾波は不思議ちゃんなのかもしれない。
そんな彼女がピアノに座り、演奏している。聞いたことのないメロディで一人で。静かに。
彼女が奏でる音は綺麗だった。僕の知らない音だった。彼女の歌声はとても悲しくて、それでも背中を押してくれるような…そんな声だった。その歌は『誰かにまた会える』という約束の歌だろうか。歌詞から読み取った情景が頭の中に映し出される。それは、僕に別れの時が来ると言っているように聞こえた。
…この歌のように彼女も眠ってしまうのだろうか。
「…ん?」
拍手の音が響く。いつの間にか人が集まっていたようですね。
「上手だね。僕も知らない曲だ」
「うん。とても綺麗だったよ。えっと…」
「好きなように呼んでいい。君がそう理解してるなら大丈夫です」
「…そっか…そうだね。綾波」
その時、黒い影が上空から降ってきた。明らかに高い所から落ちてきたはずなのに、着地の音が小さい。あまりにもプロな勢いの殺し方である。
「いきなり上から降ってこないで下さい。碇君達がドン引きしてますよ」
「大丈夫。怪我してない」
「怪我してなくても三階ぐらいの高さからパルクールしながらやってくるって普通ドン引きですよ?」
はい。黒波がいつのまにかこんな能力を備えていました。これのせいで私はどんなに逃げても捕獲されます。使徒化してないと安定した3次元移動できないのに黒波は普通にできるので怖いです。ATフィールド張りますよ。
「ふむ…揃いましたか。ではこれよりネルフ音楽会を開きます」
ぽかーんとしないで拍手しなさい。たまにはこういう事をするのもいいでしょう。
「では、わたしはさっき弾いたので碇君達お願いします」
「えっ、いきなり言われても…」
「大丈夫だよシンジ君。連弾は何回かやっただろう?ほら。行こうじゃないか」
「ちょちょっと待ってよカヲル君!」
〜♪
2人の連弾の音は不思議なものだった。わたし達はいつのまにか森の中にいた。彼らは口を開けていないのに会話をし、それはまるで小鳥のようなさえずり。
曲調が変われば表れるものも変わった。次は絵画展にいるみたいだった。ピアノの旋律が風景を、高低が感情を、強弱が色を、それを合わせて全体で一つの絵を描いていた。
主にカヲルが手を引きシンジが後についていく。まるで先程の光景のような連弾。いつか、逆の光景を見ることはできるのだろうかと一人の異物は考えていた。
2人の演奏は終わり拍手が鳴る。こういった高潔で綺麗な音楽がこの世界にはあってる。
「罪とか穢れとかばっかり気にしていたら疲れますしね。ヴィレのメンバーもこういった息抜きができればいいのですが」
難しいですね。と一人呟く。
「見ているだけではなく、貴方も弾いて見たらどうですか」
暗闇から影が現れる恐らくは私の監視でしょう。
「…貴様…」
「少しは息抜きをしたらどうですか?」
「…ふん…私にはもう必要ない」
「天使のお告げは従った方が吉ですよ。それに、まだ人である部分が残っているでしょう?」
私の言葉にピクリと反応を示すゲンドウ。ネブカドネザルの鍵と言っても簡単に人は捨てれませんよ。
「…今回だけだ」
そう言って彼はピアノに座り、旋律を奏でる。ゲンドウが奏でる音は重く、暗い意志を持った音だ。あまり一般の人達にはいい音に聞こえないだろう。だが、私には彼らしいと、素直だなとそう感じさせる音だった。重い音だ。彼の肩には何がのっているのだろうと考えてしまう。
この音だけが、彼を慰めていた。彼女に出会う前までは彼の好きなものだった。今はどうだろうか。一人で生きていけないと自覚しているはずなのに他人を拒絶する不器用な男。それさえも捨てて貴方は何を望む?
拍手の合間に会話をする。ゲンドウ君の計画に乗ってもいいんですけど、その後が気になります。私という異分子をどうするのか。
「貴方の計画。私と無号機使うのはいいですが、選択権はどうしますか」
「…集結の園にて、私が選択をする」
「そーゆー使い方するなら、後は勝手にやっていいですか?」
「好きにしろ」
また拍手が溢れる。彼は今何を感じて、何を考えているのだろうか。私には劇場の心情しかわからない。どんな人間かを知っていても、その人を推し量るのは難しい。特にATフィールドが強いこの人は。
それぞれが部屋に戻る中で彼女だけがピアノの側にいる。彼女はピアノと向き合うと一人曲を奏で始めた。
その曲は自分に対する嫌悪、世界に対する憎悪、心の葛藤といった負の感情が入っていた。その中にも優しさや思いやり、愛が入っているのは彼女らしい。彼女の歌声は廃虚の街に響く。
「…私は、どうなるでしょう」
今日触れ合って見て改めて分かりました。私は異物です。物語に必要ない存在はどうすれば良いのでしょうか。関係ないふりをするのには、少し持っている物が大きすぎます。
音が止み、痛いくらいの静寂が夜を支配する。月と星々だけが彼女の姿を見る。
「困りましたね。ナイーブになってしまいそうです」
そこには孤独な天使がただ、一人いるだけだった。
「ん?」
ふと、空を見たらあり得ない空になっていた。
不思議な空だった。まるで、全ての時の空模様を重ねたみたいな…
明るいのに暗い
青い空に星が輝く
鏡のように割れている部分もあった
そこだけは、青い海を空に映して、同じ色になっている
太陽らしきものはなく、月と星々だけが、廃墟の街を照らす
不思議な空の下で一人、座っている人影を見つけた
それは、風にさらされながら、座っている少年だった
「…まって下さい…!」
碇シンジだった。手を伸ばしてみるけど、そこで世界は変わる。伸ばした手は虚空を掴んでいた。
「私にも焦る感情があったとは驚きです」
ため息を吐きながら、私は空を見る。大きすぎる月が私を嘲笑っている気がした。