Re:あなたのそばで 作:KY
さて、無号機をヴンダーに組み込むために、ミサトさん達に明け渡してきました。どうやら、私も含めてヴンダーとシンクロさせて独立した主砲にするつもりだそうです。
「割ととんでもないことをやっているんですが…まぁいいでしょう。変に使われるよりはずっとましです」
手持ち無沙汰になった私は、第三村に行くことにしました。あそこはいいですよね。リリンが今日を精一杯生きている姿が良く見られるのですから。第三村はシンジ君のメンタルケアにうってつけです。それに、そっくりさんがネルフ以外の場所…初めて知った好きという感情を手に入れる場所でもあります。
「いいですよね。そこでは生きてはいけないとしても、好きな場所があるというのは」
彼女も彼女で人生というものを謳歌したと言えるでしょう。ただ、それを計画をしたゲンドウ君は少し意地が悪いですね。人は喪失には弱いです。ゲンドウ君もシンジ君も大事な人をなくしていきました。そこから、どう行動するのかが人が人である理由なわけですが。
「暫くはメンタルケアも継続ですかね」
結構な距離を歩いてきました。やっと第三村に着きました。割と郊外の方にある何でも屋…ケンスケがいるところに行きますか。そこにアスカもいるでしょう。
トントン
「誰っ!」
アスカは相手の死角に入り、銃を構える。
「私ですよ。しばらく厄介になります」
「アンタか…。本当に厄介なヤツが来たわね」
警戒体制を解きながら、アスカが現れる。
「服ぐらいちゃんと着たらどうですか?」
「うるさいわね。アンタは私の母親か」
「気温の変化も感じ取れなくなるのは面倒ですよねぇ」
「全身ごついスーツきてるアンタが言うな」
「さて、連絡です。無号機はヴンダーに組み込み作業中。パイロットの最終調整は非戦闘員の下船が終わった後だそうです」
「うわ。ホントにあのエヴァを組み込むんだ」
「びっくりですよねぇ」
「私はそのキーパーツがウロウロしている方が驚きよ」
「近くにいると勝手にエントリーしてしまいますからね。厄介払いされてしまいました。あと、これを渡しておきます」
私は爆破キーをアスカに渡す。
「何かあったら使えのことです」
「信用減ってるのね」
「それはそうでしょう。こんな危険分子。ところで、シンジ君は?」
「目下家出中。初期ロットと同じ事聞くのね」
「おや、彼女は自分の気持ちに気付きましたか」
「アンタは知ってるわよね。ネルフにプログラムされた思考なんて」
「もちろんです。それでも、気になるのですから不思議ですよねぇ」
「知らないわよ。アイツはネルフ第二支部跡地にいるわ」
「割と貴方も優しいですよね」
「うっさい」
さて、メンタルブレイク中の彼に会いに行きましょうか。
「…シンジ君」
「…」
返事は無し。レーションは…ちゃんと食べてますね。さて、メンタルケアというより会話から始めましょうか。
「どうですか。最近は。悪くないでしょうここの雰囲気は」
「…」
うーん。会話が下手。仕方ないですよね。こんな事したことないのですから。今はそっとしておく方が良いのでしょうが、これだけは持たせておきましょう。
「生きるのも死ぬのも怖いですか?」
「…」
シンジの手元にある機器をおく。
「それは自爆装置です。何もかも嫌になったら押すといいでしょう。終わらせてあげます」
「…」
「まぁ…押すことは推奨しません。君には生きてほしいですからね」
そう言って私は踵を返す。
「また、来ます」
この後、アスカにめちゃくちゃ怒られました。
「さて、ここにいるからには私も何か仕事をしなくてはいけませんね」
とりあえずはケンスケ君の言うとおりに、何でも屋として働いてみましょうか。
何でも屋の看板を付けて、自転車にリアカーを付けて…完成です。何でも屋出張店。
「とりあえずは、こんなもんでいいでしょう。一応は何でも直せますからね」
では、出発。今日も今日とて人のまねごとをしてみましょうか。
「あら。そっくりさんと似たような格好した子がいるね」
「本当だねぇ。そっくりさん。あんたの知り合いかい?」
「知り合い…うん。そう。知り合い」
「へぇ。彼女もちゃんと働いてんだねぇ」
「そっくりさんと違って、手先が器用なようだね」
「本当に助かるわ。田んぼの水路も直してくれたのも彼女みたいだし」
「にしても、大分、大きな服きてるわね彼女」
「服なのかいあれは」
そんな話をしながら彼女達は今日も働きに出かける。これが第三村の日常だった。
さて、あれから数日が経ち、シンジ君が消えました。
「うーん訳が分からない」
また、家出ですかね
「なんて冗談は言ってる暇ないですね」
そう言いながら、シンジがいた場所を見つめる。そこだけが裂けたように別の景色が写っていた。
「そっちの世界に行くのはまだ早いですよ。シンジ君」
迷いなく、裂け目の先に進んで行く。かつて、自分がいた場所へ。
ーーーーーー
なんで、生きているんだろう
なにもしたくない
迷惑をかけただけだ
手の中のスイッチを握りしめる。これを押せば楽になれる。そう彼女が言った。何度も押そうと思ったのに未だこうして苦しんでいる。
また、友達を殺してしまった。信じたくないから逃げ出したけど知らないフリをするのにも限界がきていた。
この世界の理不尽を憎んだ。なんで僕だけが
自分の運命を呪った。なんで僕なんだ
今日もどこかを探してる。ただ逃げているのかもわからない。
空が青い…霞んだ色の廃墟に小鳥が止まっている。どこかで聞いた波の音がする。
「…変な匂いだ……確か…潮風の匂い」
シンジが見た光景はセカンドインパクト前の光景と酷似していた。青い海があり生き物がいる証拠が風に運ばれている。目の前の海は水平線の彼方まで青い。
「空が…割れてる…?」
空を見上げると青い空があった。
青
それは海の青だ。鏡のような空が海になっている。鏡の空に映る海と水面に映る空がまるで合鏡のよう。
シンジは砂浜に座りその不思議な光景を眺める。かつて、同じベクトルの景色を誰かと見たような感じがした。
何日か経って体が軽くなった気がする…。渡された食料も前までは胃が受け付けなかったのに、今は胃に収まり栄養になっている。スイッチを握りしめることも少なくなった。なのに、ずっとここにいたいとは思わなかった。
「…もう、夜か」
ここの夜も不思議なものだ。空と海には月と星々が並んでいた。赤い線の入った月がここが現実ではないと僕に教えさせた。
「…ここは、どこなんだ」
砂浜で欠片を見つけた。それは僕の顔が映るただの鏡の欠片だった。割れ目は日に日に大きくなっているからそこから落ちてきたのだろう。月明かりに欠片を照らして見ると、鏡には少女が映り込んでいた。
「…君は…?」
シンジが鏡に問いかけると砂を踏む音が後ろから聞こえてきた。
「天使です。姿が見たいなら鏡で見て下さい。」
綾波の声。鏡に映る姿も綾波だ。
夜が明けるまではまだ時間がある中での出来事だった。
この廃墟の海には碇シンジともう一人、何者かがそこにいた。鏡の中に写る彼女は薄く微笑んでいる。彼女が僕の体に触れる姿が目に入るけど感触はない。心地いい海鳴りも今は聞こえない。
「喋れるようになったみたいですね」
「なぜ直接見ちゃだめなの?」
「ここが少し特別な場所だから」
「…何しに来たの?」
「君を探しに来ました。いつの間にかいなくなってびっくりしました」
鏡に向かって応答を続ける僕は他人から見たら変な人だろうな。そうシンジは他人事のように考えていた。空を見上げると赤い線が引かれた月が浮かんでいる。シンジが知っているどの月とも違う。その思考を読んだように鏡の少女が口を開く。
「ここは世界に取り残された異物が来るところ…体のいいゴミ捨て場みたいなものです」
こんなきれいなところがゴミ捨て場なんて贅沢だね。
「そうですね。でも、綺麗なものでもいらないと判断されてしまえばここに来ます。そんな風になってしまった」
どうやら声に出ていたみたいだ。…いらないものか…
「ははっ…やっぱり僕は必要ないのか…」
世界をめちゃくちゃにして皆に迷惑をかけたから当然か。
「いつものように逃げないのですか」
彼女は渡してきた装置を見ながら呟く。
逃げていたさ。醜く叫んでいたさ。理不尽や責任から。僕は関係ないとかぱち波が逃げさせてくれたからとかさ。優しい大人が嫌いだ。いびつさが怖いから。逃げないで戦い続ける大人が嫌いだ。ひどく自分が醜く見えるから。
「だから、逃げることを正当化してきたと?」
僕は頷く。でも、
…言葉が詰まる。逃げ出しそうなった僕は青い海を見る。
本当は分かっている。
「…逃げちゃ…ダメなんだ」
海を見る少年はどこか大人びて見えた。夜の海が放つ静謐なものが彼をより引き立てるのかもしれない。
鏡の空にある海は酷くいびつに見えた。答えが見つからずに海を見つめる。そこに答えなどあるはずもないのに。
夜が更けていく。夜が深くなるほどに少年の目は冷たくなっていく。
その姿はとても大人びている。
不思議な対話は続いている。この異質な世界がシンジを狂わせているのか綾波と思われる存在と会話をするのは悪くないむしろ心地いいと感じている。
「なぜ、逃げ続けないのですか?」
「逃げるのに疲れたから」
「本当ですか?」
「うん。疲れたんだ。罪を背負うことも生きることも」
「ならなぜ、それを押さないのですか?」
手の中のスイッチを握りしめる。本当は押す勇気なんてない。でもこれを手放せずにいる。死ぬことが怖いから?いやそれ以上に、一人が怖いからだ。寂しいからだ。
「私と一つになりませんか?」
どういうこと?
「一つになれば一人になることはない。喜びも悲しみも罪だって分かち合えます」
……
「もう一度聞きます。私と一つになりますか?」
かつて、それを望んだことがあった気がする。でも、傷ついてもいいから他人が欲しかったんだ。今ならそう考えられる。
「確かに、喜びも悲しみも分かち合うほうがいい」
「えぇそうですね」
「でも、この罪は僕のものだ。僕自身が償うよ」
彼女は少し困ったように微笑んで僕の手を握ってくれた。いつの間にか彼女は隣にいた。
感触はないはずなのにどこかあたたかい。そう感じた。
彼女は付けていたバイザーを外した。
彼女の目はここの海のように青かった。
そのまま、僕らはキスをした。
忘れてしまうほど短いキスを。
「…そうですか。なら、待っています。リアルでも立ち直れることを願います」
…はい。シンジ君を見つけ出しました。まさか、私が元々いた場所に迷い込むなんて、流石は主人公ですねぇ。あの場所はマイナス宇宙と同じ位置にあるので、長い間いると危ないんですよね。ニアサーのせいで世界が半端に浄化されてますから、今回みたいに繋がってしまうことがあるのです。
まぁ、ニアサーが起きたからこそ、私が生まれたわけでもありますが。それはまた別の話です。
「さて、これからどうしましょうか」
現在、ネルフ第二支部跡地にてシンジ君を膝枕している状態です。きっと彼方側の出来事は忘れているでしょう。…少しでも、彼の心にやすらぎが得られたなら良いのですが。
「おや、起きましたか。すみませんね。ごつごつしていて寝ずらいでしょう」
膝枕をするのはいいですが、特製のプラグスーツはごつごつしてるので寝心地は良くないと思います。
ふむ。状況をあまり吞み込めていないようですね。
「いきなり倒れるとは、レーションちゃんと食べてますか?」
とりあえずは倒れたシンジ君を介抱してあげていると言う体で行きましょうか。
「…なんで…」
「ん?」
「なんで僕なんかにかまうんだよ」
「なんででしょうねぇ…」
そう言いながら、私はシンジ君の頭を撫でる。さらさらヘアー…羨ましいですね。
「理由なんて割と適当ですよ。特に私の場合は。あぁ…黒いプラグスーツの子や赤い子は別ですけどね」
「理由が欲しいのですか?」
そう言うとシンジ君は起き上がり私から離れる。怖がりですねぇ。理由のない優しさ…無償の愛が彼の心に響く事を願うばかりです。
「この言葉は本来は私が言うものではないですが、丁度いいので君に伝えましょう」
「シンジ君…君が好きだからですよ」
「君は…君が考えているよりも愛されていますよ」
天使からのお告げです。そう言って踵を返した。後ろから泣き出す声が聞こえましたが聞こえないふりをして歩きます。
「さて、どうやって言い訳しましょうか」
目の前で爆破キーを向けて、懐疑的で面倒だという雰囲気を隠そうもしないアスカに顔を向ける。
「アンタ…今までどこ行ってたの?」
「ちょっと宇宙まで…痛いですねぇ。」
パンチを喰らいました。良い拳です。
「ふざけるのも大概にしないと爆破するわよ」
「噓というわけでもないんですけどねぇ。アスカも見ていたでしょう?」
「…」
「まぁ、暫くは大丈夫ですよ。根拠はありませんが」
「アンタ…どっちの味方なわけ?」
「もちろん人類の。もう、負けてしまいましたからね」
「はぁ、とりあえずは警戒体制を解除。何があったかはミサト達に報告しなさい」
「了解です」
今日も今日とて夜が更けていく。
「さて、どうなる事か楽しみですね」
ねぇ。碇シンジ君?