恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、攻略を回避するのに忙しい   作:うちっち

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クッキー

 次の日。俺は登校して自分の席に荷物を置いた後、崇高が来る前に、急いで教室を出た。というのも、作ったシュークリームを持って来過ぎたのではないかという疑念が今更ながら湧いてきたからだ。その数実に16個。調子に乗って作り過ぎたかもしれない。

 

 

 高宮城先輩、貝森ちゃん、俺、崇高の四人で割るとしても、1人4個。また夕食食べられないとか言うと母上殿に申し訳ないし。今のうちに減らしておいた方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 ということで、俺は中庭にある茂みの中でこっそりシュークリームをいただくこととした。生い茂った植木の内側には実はトンネルのようにスペースがあり、人目を避けるにはうってつけだったりするのだ。ここはとあるヒロインの秘密基地でもあったりするのだが、それはさておき。はて、このシュークリームは先輩のお眼鏡に叶う出来だろうか……?

 

 

 

 ぱくりとシュークリームをくわえた瞬間、俺の耳に誰かの声が届いた。まるで人目を避けるような小さな声だ。俺はつい、気になって耳を傾ける。中庭にいる誰かが、誰かと喋ってる……? しかしなんだか聞いたことあるこの声。

 

「竜造寺先輩、来ていただいてありがとうございます」

「いや、別にいいけど……なんだ?」

 

 

 

 

 俺はシュークリームをくわえたまま、ガサガサと茂みの中を移動した。……すると、そこには、人目を避けるように中庭の端でこそこそしている崇高と貝森ちゃん……!?

 

 

 

 おお、これ……ひょっとして告白じゃないか? 良かったな崇高! そしておめでとう貝森ちゃん! 元の姿だったらたとえ俺一人でも胴上げしてやりたいところだが、今の汐音ちゃんバージョンだと潰れてしまうからな。しかし心配召されるな。俺の心の中では二人は二階の高さまでわっしょいわっしょいされているぞ。

 

 

 

 ……しかし台詞的には貝森ちゃんが呼び出したのか。ちょっと意外。いやそうでもないか。なにせ「あなたを愛してます」だもんな。花言葉でしかそんな台詞聞いたことないぞ。

 

 さあ、そんなロマンチスト貝森ちゃんはどんな素敵な告白の台詞を崇高にぶつけるのだろう。わくわく。

 

 

 

 

 

「授業始まるから長くなるなら後にしてくれないか。俺、正直そんなに暇じゃないんだ」

「汐音先輩のこと、なんですけど」

 

 ……崇高はこの際置いておこう。それより問題は君だ、貝森ちゃん。どうした。告白に俺の名前出す必要あるかな? あ、ひょっとして、あんな子より私を見て! みたいなこと? なら、情熱的でたいへんよろしい。

 

 

 

 

 俺がこっそり見守る中、貝森ちゃんは、崇高の冷たい反応にもめげた様子を見せずに話を続けた。さすが根性だとゲーム内随一*1なだけはある。

 

「……汐音先輩って何か、その、おかしな力とかって持ってます?」

「それはつまり、おかしいくらいに可愛いってことか……?」

 

 あれ、告白違った。しかもなんか知らんけど俺がすごく変な疑惑をかけられてる。

 

 そして崇高の返答も当然ながら間違っていたらしく、貝森ちゃんはぶんぶんと勢いよく首を振り、やたらに頭をがりがりとかきむしった。

 

 あーあー。あれ昨日も見た。ハゲちゃうぞあんなことしてたら。……でも、以前俺が彼女に抱いた疑問は今解消された。そりゃ形見のペンダントも飛んでいくって。

 

 

 

 

 

 

 貝森ちゃんはその後何度か大きく足踏みをし、ふーふーと息を荒くした。ちょっと怖い。しかし胸に手を当ててなんとか息を整えたらしく、彼女は話を続けた。

 

「……あー、はい。すみませんでした。あたしが聞き方を間違えました。……つまり、超常的な力というか……。全てを見通すというか、相手の過去がすべてわかる、とか。幼馴染の竜造寺先輩なら、一番そういうのを見る機会があったんじゃないかと」

 

「……貝森……お前、頭大丈夫か?」

 

 ……崇高。そういうことは思っても決して言っちゃいけないんだ。特に恋愛シミュレーションゲームの主人公だったら。あと貝森ちゃんも、そういうセリフを口に出すのは自分の部屋で一人の時だけに許されるんだよ。ある意味この二人お似合いなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「…………いや、待てよ。そういえば……あれは不思議だったな……」

 

 崇高の台詞の前半部分を聞いて、ダァン! と思いっきり足を踏み鳴らした貝森ちゃんだったが、後半部分を聞いてピタリと動きを止めた。ちなみにその時貝森ちゃんの手は両方ともがグーに握られていた。続いた言葉がなかったら果たしてどうなったのか。想像すると恐ろしい。

 

「そういえば? 竜造寺先輩、何か思い当たることがあるんですか?」

「俺に嫌なことがあった日、必ず俺の好きなものを作ってくれてたんだ。最近までずっと」

 

 それを聞いて、貝森ちゃんは顔をしかめ、非常に複雑な顔をした。例えば麦茶だと思って飲んだらそれがめんつゆだった時、人はあんな顔をするのではないだろうか。

 

 

 

 

 

「いや、そういうのじゃなくてですねー……もう少し、何か……」

 

「でもそうなんだぞ。俺が学校で友達と喧嘩して帰ってきた時も、先生に怒られた時も。汐音の家に遊びに行ったら、いつも手作りのクッキーが用意されててな。汐音は自分からは何も聞かないんだけど、全部わかってる、みたいな顔でいつも笑って迎えてくれた」

 

「優しい話じゃないですか……っていうかこれ、のろけですよね。ひじょーに、一方的な。……駄目だこれ、昨日の汐音先輩の台詞との温度差がヤバすぎる……」

 

 

 いい思い出っぽく懐かしげに語る崇高と、ひきつった顔でうなずく貝森ちゃん。はたから見てたらとても同じ話題について話している二人には見えない。まあ何について話してるかっていったら俺の話なんだけど。……けどそうだよ、俺昨日「生理的に無理」とか言っちゃってるし。そりゃキツいと思う。

 

 

 

 

 しかし貝森ちゃんは、無理やり作ったみたいな笑顔で、さらに話を続けた。さすが根性の女。

 

「……そ、そうなんですね……でも汐音先輩、いい人じゃないですか」

「そんな当たり前のことを確認するために俺を呼んだのか。……まあ、それならいい」

 

「ああもう……。……えーっと。……じゃあ、その、ですね……もし。もしですよ? 汐音先輩が竜造寺先輩を『嫌い』とか言い出したらどうします?」

「死ぬ」

「……死にますか」

「腹を切って死ぬ。潔く」

 

「あ、そこお揃いなんですね」

「お揃い?」

「いえなんでもないです」

 

 ……なんか今、崇高のやつヤバいこと言わなかった? 死ぬ? いや、お前がヒロインと結ばれないだけで皆不幸になるんだぞ。それが死んだらどうなるか。それってたぶん、世界の終わりじゃ……。これはやはり他のヒロインへ一刻も早く鞍替えしてもらわんと……。

 

 

 

 俺は校舎の方へ向かう二人を、茂みの中から見送った。そのままシュークリームをぱくりと一口。……お。美味しい。注文通り甘さ控えめ。これなら昼もきっと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……このシュークリーム、ほんっとにおいしーですね!」

「先輩、お味はいかがですか?」

「悪くないわ」

 

 おお。これは「欠点がない」。すなわち先輩的には最上級の誉め言葉なのだ。さっそくいただいてしまったか、先輩式星3つを。俺がゲーム内でこの評価をいただけたのはシナリオ後半だったが……これは俺も成長しているということだろうか。

 

「先輩、お昼は?」

「これよ」

 

 そう言って先輩が置いたのは、水の入ったペットボトルだった。この人、お菓子以外の食事に基本興味ないからな……。だからそんなに細いんだと思う。腕相撲したら全キャラ中で一番強いけど。どういう理屈なんだ。この世界の砂糖ってプロテインよりも強いの?

 

 

 

 

「甘くないのにきちんとコクと甘さはある。これは絶妙ですよ。職人技です」

「13個も作ってくるの、大変だったんじゃないか」

 

 そう。意外にいけてしまったので、朝につい三つも食べてしまった。だから昼の俺の割り当ては一個だけである。……正直しばらくシュークリームはいいかな……。

 

「ううん、これ貝森ちゃんがほぼ作ってくれたから。今回は貝森ちゃんfeaturing私だよ」

「なんだ自画自賛かよ貝森……」

 

 じとっと横目で見られ、貝森ちゃんは大いに慌てた。ぱたぱたと手を振って否定する。

 

「いや、ちがっ……違いますよ⁉ ほぼ全部汐音先輩制作だったじゃないですか⁉」

「貝森ちゃんが混ぜてくれた生クリームってシュークリームの中心みたいなもんでしょ? だってクリーム入ってないシュークリームってもうそれサクサクした空気入れじゃない」

 

「それは明らかに違うわ」

「でもなんか『中に何も入ってなくて残念』ってニュアンスは伝わってきました」

 

 ……ふむ。こうして話していると感じるのだが、やはり俺の睨んだ通り貝森ちゃんと高宮城先輩は相性が良い。あまり物怖じせずよく喋る貝森ちゃんと、一言だけたまにコメントをくれる高宮城先輩。俺も結構喋るので、高宮城先輩の言葉の少なさも気にならないというか。

 

 

 

 

 

 よし、後はお前次第だ崇高。さりげないトークで自分をアピールしようか。

 俺のアイコンタクトを受け取った崇高は大きく頷くと、高宮城先輩に向かって笑顔で話しかけた。

 

「高宮城先輩は水だけで足りるんですか? こいつの弁当旨いですよ。一口どうですか?」

「なぜ他人のものをあなたが代わりに薦めるの?」

 

 おおう……。けしかけた俺が言うのもなんだが、見事に撃沈しとる……。しかし崇高も言い出すならもう少し早くだろ。なんで先輩がデザートに突入した時点で切り出すんだ。

 

 

 

 

 さて、少々どんよりと気まずくなってしまったその場の空気を入れ替えねば。俺は急いで話を変えた。

 

「そうだ! 明日、私、先輩の好きなおかず入れてきますよ。楽しみにしといてください」

 

 ちなみに先輩の好物はきんぴらごぼう。

 ところが、ふと横から視線を感じたので振り向いてみる。すると、貝森ちゃんが何やら俺の方をじっと見ていた。

 

 ……なんだ? ……あ、そういや確かに好物聞かないと不自然か。知らないはずだし。ていうか貝森ちゃんに俺ちゃんと聞いたっけ?

 

 

 

 あー! 朝のあれってそういうこと? 好物知ってるから俺が全てを見通せるって? でもそうなら貝森ちゃんの発想はさすがにぶっ飛びすぎ。俺の原作知識もある意味全部見通せると言えなくもないが、それでもゲームになってない細かい部分は分からないし。ふふ、しかしそうとなれば、疑惑回避はたやすいものよ。

 

「…………ちなみに、先輩は何がお好きですか?」

「きんぴらよ」

「じゃあ明日のおかずはそれで! 明日もここで、待ってますね」

 

 これで貝森ちゃんの疑惑も無事回避した。そしてナイスパスだ崇高。お前の半分自爆なアシストのお陰で明日も先輩が来てくれることが確定した。……ただ、一つ問題がある。お前はパスでなくシュートを打つ係なんだ。後でそのへん復習。

 

 

 

 

 

「ていうかさっきの話なんですけど、シュークリームって全部で13個なんですか? じゃあ汐音先輩なんで一つなんですか? ……三人に四つずつ配ってたからあたしもっとその袋の中に残りがあるものかと……もう四つともおいしくいただいちゃいましたけど……」

 

「俺は最初から気づいてたぞ。こっそり袋の中を覗いたからな」

「じゃあその時点でおかしいと思ってくださいよ! ……ごめんなさい!」

「自分が損をする形の公平は良くないわ」

 

 俺が一つしかシュークリームを食べていないことが流れで発覚してしまい、先輩と貝森ちゃんから俺はいたわりと謝罪の視線を送られる。まずシュークリーム三つくらいでそんな大騒ぎせんでもいいだろとも思うが、そもそも俺って我慢してないからな。ここは否定しておこう。

 

 

 

 

「えーっと……いや、私ももう四つ食べたから……」

「それ明らか一つ目じゃないですか」

「あ、朝に食べたんだよ」

「へえー……小食の汐音先輩が朝から?それはそれは、随分と食欲旺盛だったんですね」

「三つ食べたよ」

「さすがに無理があるわ」

 

 女子二名はどうも俺の述べる真実をいまいち信じてくれていないようだった。こうなると俺の味方は同じ男のお前しかいない。頼む崇高。

 

 

 

 俺の送った視線を受け、崇高は「俺に任せろ」とばかりに大きくうなずく。おお、わかってくれたか。今この瞬間だけはお前が頼もしい。

 

「そういえば、汐音は自分が食べるより食べてもらうのが好きって昨日言ってたもんな」

 

 ……それフォローになってるかな? でも俺が昨日言ったことを覚えていた、それだけでお前に100点をやりたい。やりたいが……でも、その「そういえば」っている? しかし、か弱いフォローであろうと、ここは乗るしかない。

 

「そ、そうなんだよぉ! さすが崇高くん! わかってくれてるね!」

 

 さてどうなる……。俺は先輩と貝森ちゃんが崇高に送る視線で判別しようと、こっそり二人の表情を窺ってみた。すると二人とも、地面になぜかよく落ちてる片方だけの軍手を見るみたいな目で、崇高を揃ってじーっと見ていた。

 

 ……いやごめん、君たちそれどういう感情……? でもあまり好印象ではなさそう。明らかに無機物に向ける視線だった。

 

 

 

 

 

 

 俺は「いいこと考えた」という風に、ポン、と手を叩いた。……頼む! なんとか風向きよ変わってくれ!

 

「そうだ! 今日は先輩の好きなシュークリームだったから、明日は貝森ちゃんか崇高くんの好きなおやつを作ってきてあげる!」

「あ、いいんですか? じゃあ竜造寺先輩どうぞ。あたしチーズタルト昨日貰いましたし」

「明日だろ? だったら貝森でいい。俺は明後日だな」

 

 

 

 

 俺は聞こえてきたその台詞に、一瞬耳を疑ってしまった。俺だけではなかったようで、貝森ちゃんもどこかうろたえたような様子で、崇高と俺を何度も見比べていた。

 

 ……崇高それだよ! そういうの待ってた! シュートできるじゃん! でも急にどうした? 頭でも打った?

 

 

 

 

 一方、おろおろとするだけの俺と貝森ちゃんと違い、さすがに高宮城先輩は冷静だった。

 

「何を企んでるの?」

 

 ……いや、これ先輩もちょっと混乱しているかもしれない。ぶすっとした顔になる崇高。

 

「いや、だから、二日かかるからです」

「というと?」

 

「俺の好きなのはクッキーなんですけど。汐音のは生地を冷蔵庫で長時間寝かせないと駄目らしくって。だから明日の昼にはまだできないんですよ」

 

「……なるほど。よくわかったわ」

 

 

 

 

 そういや中庭で崇高が言ってたっけ。悲しいことがあった時にいつも食べさせてくれたクッキー。そんなの食べて昔の悲しいこと思い出したりしないのだろうか。

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 呆然としたような呟きがふと耳に入る。振り返ると、貝森ちゃんだった。……なんか顔色が悪い。下を向いたり、上を向いたり。そして大きく見開かれた目で、俺を見た。

 

 

 

 

 

 

「…………二日……?」

 

*1
俺調べ

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