恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、攻略を回避するのに忙しい 作:うちっち
そして、ようやく、といった感じで俺は外の世界、中庭に戻ってきた。同時に、陽の光が眩しくて目を瞑ってしまう。続いて柚乃ちゃんもガサガサ音を立てて出てきた。柚乃ちゃんも同じく一瞬目を細めたものの、その目がすぐにまん丸に開かれる。……どしたの?
「よ、夜桜先輩!スカート思いっきりめくれてます!……パ、パンツ!見えちゃってます!」
俺は一生懸命後ろに手を伸ばしたものの、いまいちスカートがどうなっているかは把握できなかった。確かに上に固定されてしまっている感はあるが……えーっと……あれ?
しばらく悪戦苦闘している俺を見かねたのか、柚乃ちゃんが俺の背後に回ってくれる。俺はおとなしく目を閉じて、されるがままに身を任せた。
「あーもう、狭いところで擦って動くから……えーっと……はい、外れましたよぉ」
お礼を言おうと思って振り向くと、柚乃ちゃんはまた俺の背後を見つめてなぜか目を丸くしていた。
……え? また? そんなすぐスカートってめくれるものなの?
俺はまたごそごそと後ろを探ってみたが、今度こそ確かにスカートは定位置にあるようだった。なら、なんで……?
俺が柚乃ちゃんの視線を辿ってみたところ、すぐに原因は判明した。顔を真っ赤にして顔を両手で覆った貝森ちゃんがいたからだ。なんで顔真っ赤なのかはよくわからないけど。
「ゆ、柚乃が汐音先輩のスカートめくってる……」
……いや理由分かった。そして同時に、面倒な場面を目撃されたのだということも理解してしまう。柚乃ちゃんもまずいと思ったのか、早口で貝森ちゃんに声をかけた。
「待って亜佑美ちゃん! ち、違うから!」
「めくってるなんてもんじゃなかった……思いっきりまくり上げてた……外で……」
「柚乃ちゃんは私のスカートを元に戻してくれてたんだよ」
冤罪なのでここは訂正しておいた。すると貝森ちゃんは、柚乃ちゃんの声には疑わしい顔しかしなかったが、俺の話には一応耳を傾けてくれたようで、おずおずと尋ねてくる。
「で、でもあんなにめくれることあります……? 後ろもう丸出しでしたよ……?」
そんなに? いや、でもあんな狭いところでずりずり動いたら貝森ちゃんもそうなるって。……あ、けど説明するにしても秘密基地の存在は内緒なんだっけ。えーっと。
しかし答えに困って眉を下げたままわたわたしている俺を見て、やはり貝森ちゃんは背徳的な行為を俺たちが働いていたとどうやら認識してしまったらしい。顔を引きつらせたかと思うと、何も言わずに身を翻し、ダッと物凄い速度で彼方へ走り去っていった。
「亜佑美ちゃん! ちょっと、ちょっと待ってぇ!」
と、柚乃ちゃんも貝森ちゃんを上回るスピードで追いかけ、同じくこの場から姿を消した。柚乃ちゃん体力ないはずなのに。その場にはぽつんと俺一人が残される。
ま、まあいいや。とにかく柚乃ちゃんとも文化祭の約束を取り付けることはできたわけだし。それにしてもこれで主人公、高宮城先輩、柚乃ちゃんと立て続けに勧誘に成功してしまった。ここまで3勝0敗。敗北を知りたい。てことで、あとは貝森ちゃんだが……。
彼女は普段なら一番何とかなりそうなのだが、今はちょっと不利かもしれない……。……ま、まあでも考えすぎてもあれだし。それに貝森ちゃん俺の右腕だし。うん。
ということで、早速次の休み時間。勧誘のために貝森ちゃんのクラスに行ってみることとした。ざわざわと話し声が聞こえる一年の教室の中を、まずはそーっと覗き込んでみる。
するとまさに、柚乃ちゃんが貝森ちゃんの机にいそいそと小走りに近寄って行くところだった。……おお。これひょっとして、歴史的和解の瞬間? 握手した後にこやかにハグとかしちゃうやつかな?
しかし俺の予想に反し、貝森ちゃんは柚乃ちゃんに気づいたかと思うと、キッと目をきつくして睨みつけた。
……おやおや? なんかさっそく空気おかしくない? 野生動物がテリトリーに侵入してきた天敵を見つけたみたいな感じになってるんだけど。
そして俺の察知した雰囲気は間違っていなかったらしい。貝森ちゃんは興奮した様子で、近づいてくる柚乃ちゃんに向かって一気に台詞をまくし立てた。
「……何しに来たの柚乃。ていうかさっきの何? この変態! 露出狂! へんったいっ!」
「ち、ちょっとぉ! 人聞きの悪いこと言わないで! だいたい露出してたのはわたしじゃなくて夜桜先輩でしょ?」
「……じゃあ露出狂の方は撤回してあげる」
「なら変態もわたしじゃなくない⁉ そっちも撤回してよ!」
二人とも、俺の露出狂をそんな素直に受け入れないで。あと柚乃ちゃん、君の言い方だと変態も俺って言いたそうじゃない? 気のせいかな?
「露出に協力してた時点で! 柚乃も変態なのは確かなんだよっ! 思いっきりまくり上げてたじゃん! 試着室じゃなくて中庭だよ? 何度見ても意味が分からなかったもん!」
ばんっ、と大きく手で机を叩き、さっきの俺がいかに破廉恥な格好であったかについてクラス全員の前で大声で主張する貝森ちゃん。ていうか貝森ちゃんの中では試着室の中は他人のスカートってめくってもいい場所なの? 俺ちょっと君の倫理が心配になってきたよ。
一方、貝森ちゃんの剣幕に押され気味になりながらも、柚乃ちゃんはいちおう異議を申し立てた。ていうか貝森ちゃんヒートアップしすぎでは……。そんなに怒らなくても。
「共犯者って……し、親切でやっただけなのにぃ……」
「汐音先輩小さいから、余計絵面がヤバかったんだよ! どうしたらああなるの!」
「だって、見たらいつの間にかああなってたんだもん……」
「そんなの普通なるわけっ……! ……なるわけ……」
喋っていた貝森ちゃんはそこで言葉を止めた。そしてふと自信なさげな顔になる。
「いや、汐音先輩なら……あり得るかも……。……あ、告白されて混乱してたとか……?」
どんな人なんだ俺は。混乱するとスカートまくり上げるって。それただの露出狂じゃないか。
そして、周りも俺と同じ疑問を持ったらしい。遠巻きに見守っていたうちの一人が、おずおずと貝森ちゃんに向かって口を開いた。
「ど、どういう人なの……? その、先輩って」
「普通じゃないっていうか……外見はめっちゃくちゃ愛らしいんだけど……」
「だけど……?」
「怖いの」
「あら? 無害そうないい人だったけどぉ……?」
すると、貝森ちゃんは柚乃ちゃんを見つめ、マジかよこいつ何もわかってねーな、みたいな顔をした。同時に、ちっ、と軽く舌打ちも聞こえた気がする。
……か、貝森ちゃん? これ俺このまま見てても大丈夫? 俺たち、今日以降も仲良く付き合っていけるかな? し、信じてるぞ?
「だから、ほんとに、怖いんだよ」
「亜佑美ちゃんどれだけ怖がってるの?」
「だってたぶんあたしたちが今話してることもこれ全部筒抜けだから」
柚乃ちゃんは一瞬きょとんとした後、ぷっと吹き出した。そして手をぱたぱたと振る。
「やだぁ、そんなことあるわけないじゃない。亜佑美ちゃんさすがに言い過ぎ」
「いや、ほんとそのへんから見ててもおかしくない……」
ちょうどその瞬間、扉に隠れて顔だけ出している俺と貝森ちゃんの目が、ばっちり合った。俺が「えへへバレたか」と笑いかけてみると、貝森ちゃんの顔は大いにひきつる。
「亜佑美ちゃん、どうしたの? ……⁉」
動きが止まった貝森ちゃんの視線を追った柚乃ちゃんも俺の存在に気づき、同じように固まった。ふむ。なんだか知らないが怖がられてるみたいだ。それは払拭しておきたいな。
俺はどうせ見つかってしまったので、教室内の貝森ちゃんの席までトコトコと歩いて行った。その途中、ひそひそと一年生の方々の囁き声が耳に入る。
「あれが……愛らしくて露出狂で変態で怖いけど害は全然ないっていう先輩……?」
「天使みたいじゃない? あれで怖いってどういうこと? 可愛すぎて怖いとかそういうの?」
「あの子、いや先輩が中庭で露出してたってマジ? マジ⁉ マジかよぉっ……! くそ、くそぉっ……! 俺、中庭の木に生まれたかった……!」
……なんか最後の願いどっかで聞いたことあるな。ただ当然の結果として、口にしたそいつは周りから大いに軽蔑の視線を送られていた。そうだ、あんな願いを持つ奴は全員変態に決まっている。……おっとそれより。
「か・い・も・り・ちゃん」
「は、は、はいっ……!」
目の前までやってきた俺のお茶目な呼びかけに立ち上がり、直立不動で返事をする貝森ちゃん。俺は少しでも親しみを持ってもらうべく、満面の笑顔で貝森ちゃんを見つめた。
「このこのー、私の噂話してたでしょ。駄目だよぉ? つい気になって来ちゃったじゃない」
「え、だって始めたのってさっきの今なのに……」
「というか昼休みのは柚乃ちゃんほんとに親切で直してくれたんだよ。そこは事実です。デマを振り撒かないこと。ほら、柚乃ちゃんにごめんなさいの握手は?」
「ご、ごめん柚乃」
「う、ううん。いいのよ亜佑美ちゃん。……ごめんなさいの握手……?」
それでも2人はがっちりと握手をした。末期の源氏と平家くらいに仲が悪かった彼女らの関係からすると、大いに歴史的瞬間であると言えるだろう。
「うう、でも貝森ちゃんにそんなに怖がられてたなんて……そうなんだ……。けっこう仲良くなれてたと思ってたのは私だけだったのかな……」
俺も自惚れてたかもしれない。これはもっと積極的に親交を深めていかねば。しかし貝森ちゃんは俺の呟きを聞いて、どこか申し訳なさそうな顔になった。
「い、いえ! 仲はいいと思います!お世話になってますし。ただ……ちょっと、怖くて」
「えー、どのへんー?」
「今ここにいらっしゃることとかも、そうでしょうか……あはは」
「それは、目の前に私が存在していること自体が受け入れられない、とかそういうやつ?」
「そんなわけないじゃないですか! いえ、私がただ怖がり過ぎてるというか」
日本語難しいな。俺が眉間にしわを寄せながら目を閉じ、腕を組んで今の話を整理していると、貝森ちゃんは何やら焦ったように俺の肩に手をかけた。
「待ってください! 嫌なわけではほんとになくて……! けど……怖いって言われていい気分になんかならないですよね。何か言ってください。あたし何でもしますよ」
「あれ、何でもしてくれるの? ふーん……ならちょうどよかった! えへへ、実は一つね、さっそくお願いがあるのです」
「……言いました、言いましたけど。やっぱりその笑顔が不安です……!な、なんですか?」
安心させようと思って笑っているのに、笑顔が不安だと言われてしまった。なので笑うのを止め、試しに完全に無表情になってみる。そしてそのまま、じっと貝森ちゃんを見つめてみた。
すると貝森ちゃんは今度はあからさまに怯えた顔を見せた。……いや、なら君は俺にいったいどうしろって言うんだ。
「えっとね、崇高くんと文化祭を回ってほしいんだ。もちろん私も一緒」
「え、い、いいですけど……。それがお願い? そんなことでいいんですか?」
「もちろん!ってことでよろしくね」
無事貝森ちゃんも確保成功。ということで残るは北辻さん1人だが……。
放課後。商店街の定食屋に遊びにきた俺は北辻さんにさっそく捕まり、もふもふとひたすらに撫でられる。もう何回かここには来ているが、北辻さんは俺を膝の上に乗せ、頭を撫でるのが大変お気に入りらしい。可愛い子犬みたいだから! ってやたらに言ってた。誉めてくれてる……んだろう。
しかしその理由だと、いつか「俺に首輪をつけて散歩させたい」と言い出さないかは幾ばくかの不安が残るな……。
俺は、わっしゃわっしゃと俺の頭を撫でまわしている非常にいい笑顔の北辻さんを振り返って見上げ、さっそく本題を切り出してみた。
「いやぁ、それにしてもふわっふわよね……! あなたこれシャンプー何使ってるの?」
「それより北辻さん、私と文化祭一緒に回ってもらえませんか……?」
「え? 別にいいわよ」
「北辻さん大好きです!」
……かっる! 即決! でも俺は本来これくらいの軽さを全員に期待してたんだよ。なんでこんなにかかったんだ。主人公含め。
ともかくよし、これで何も問題はないはず……!
あとは文化祭当日を迎えるだけだ、早く来い!