恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、攻略を回避するのに忙しい   作:うちっち

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黒い石(1)

 待ち合わせ場所は校門の前。俺が広げた日傘を上げてちらりと周りの様子を窺うと、校庭では既に屋台が呼び込みを開始し、テントでも催し物が開催されている。

 

 

 

 

 

 

 そして校門からは既に外部からの客らしき人々がぞろぞろと学校の中へひっきりなしになだれ込んで来ている最中で、そこにチラシを配るべく突入していく大勢の生徒たち。あちらこちらで叫び声が上がり、大きな生物のようにうねりながら進む人混み。

 

 

 

 ……今更ながら、ここを待ち合わせ場所にしたのは無謀だったかもしれない。しかしあれも宣伝ってことは裏方? むしろ最前線っぽいんだが……。ここでああなら、最前線の教室っていったいどうなってるんだろ……。

 

 

 

 

 俺はとりあえずささっと校門脇の壁に張り付き、日傘をパタンと閉じて、老若男女で混み合っている周囲を見回した。うーん……。この中から待ち合わせ相手を探すのは骨が折れるな……。

 

 

 

 

 

 しかし、次第に、周囲から俺に視線が集まった。ざわざわひそひそと囁き声も聞こえる気がする。それを感じた俺はささっと日傘を再び差し、その陰に縮こまった。かぁっと顔が熱くなるのが自分でもわかる。やけに足元がスースーしてる気がする。制服とそんなに変わらないはずなのに。むしろニーソだからいつもより露出面積少ないまであるのに。

 

 

 

 

 ……北辻さんお願い、早く来て……。この恰好で俺1人は無理だって。この際主人公でもいい。ヘルプ崇高。ていうか俺の方が先に来てるとか。あいつホンマ、主人公としての能力低いな……。せめて北辻さんより早く来てほしいものだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがてやってくる人混みの中に北辻さんの姿が見えたので、俺は合図にと日傘を振った。どうでもいいけど、この傘もふちにフリルついてる。やたら軽いし、台風の日にこんなんさしてたら一瞬でバキバキになりそう。しかしこれがなかったら俺は衆目の中で晒されていたと考えると、相棒と言っても過言ではないな。貢献度では既に崇高を超えている。

 

 

 

 

 

 

 遠くにいた北辻さんは幸いにも俺に気づいてくれたらしく、信じられないことに人混みをかき分けながらも原付くらいのスピードでダッシュして、ぐんぐんと視界の中で大きくなった。

 

 そしてその勢いのまま俺の目の前までやってきて急ブレーキをかけたかと思うと、なんだかキラキラした目でこちらを見つめる。……いや、今どうやってここまで来たん? 途中で3人ぐらい撥ね飛ばして来てなかった?

 

 

「何よその髪型!? 何その服!? いつもよりさらに可愛くない!?」

 

「えーっと、クラスの子がやってくれました……うう、あと、あんまり見ないでください……」

 

 今の俺の髪型は、茶色がかったふわふわの長い髪をツインテールにして、リボンでそれぞれ纏めたもの。……あざとい。大変あざとい。さっき鏡で見たらヤバかった。黒いひらひらの服が白い肌に映えるし、西洋人形みたい。そしてそれ故に、恥ずかしい。思わず顔を両手で覆ってしまう。

 

 

 

 

 

 ちなみになんでリボンがついてるのかというと、以前商店街で、リボン装備の俺を目撃していたクラスメイトがいたらしい。そいつが眼鏡をくいっとさせながらクラス全員の前で熱弁した結果、この恰好に落ち着いたとのことだった。いったい誰だそいつ。見つけ次第ボッコボコにしてやる。

 

 

 

 

 しかしこの恰好ヤバい。何がヤバいって、原作汐音ちゃんを外見の可愛さだけなら超えてしまったかもしれん……。我がクラスおそるべし。それが証拠に北辻さんを待っているこの15分間、ほぼ日傘に身を隠しているにも関わらず、声をかけられること9回、写真を撮られた数に至っては数えきれない。やめて、俺の黒歴史を記録化するのお願いだからやめてぇ!

 

 

 

 

「じゃあ行きましょうか」

 

「あ、ごめんなさい。私の友達がまだ……。もう、崇高くんは何やってるの……? 早く行きたいのに……」

 

 あいつはいったい何しとるんだ。お前が来ないとこの地獄のような場所から動けんやんけ。デートで相手を待たせて相手をイラつかせるとか。宮本武蔵かな? あ、俺と北辻さんとダブルデートするから二刀流とかそういう意味? 馬鹿野郎。今そんなエスプリの効いたメッセージはいらないんだよ。だいたいこの文化祭、お前は四刀流だ。

 

 

 

 

 

 北辻さんは、こちらに視線を注ぐ周囲と、日傘の陰に隠れて小さくなる俺をしばらく見つめた。そして、急にふと上を見上げる。俺もつられて空を見上げるが、そこには何もない。あるのは上空でゆっくりと右から左に流れる薄い雲だけだ。

 

 

 

 

「ねえ、今日って風冷たくない?」

 

「……え、ええ……。まあ……?」

 

 急になんでそんなことを言い出したのかはわからなかったものの、とりあえず同意しておく。すると、俺の右手がそっと温かいものに包まれた。俺が自分の手元に目を落とすと、いつの間にか北辻さんと俺の手は繋がれていた。崇高と違って、さりげなく、自然に。そして、彼女はふわりと笑う。

 

 

「こうしてたら、寒くなくならない? 代わりに少し恥ずかしい思いをさせてしまうけどね」

 

「いえ、恥ずかしくなんて」

 

「なら胸を張りなさい。見たい人には見せつけてやればいいわ。今日の貴女はね、このあたしの隣にいてなお主役を張れるくらい、文句なく可愛いんだから」

 

 そう言って視線から守るように俺より少し前に立ち、手を広げて微笑む北辻さん。今日の彼女はふわりとした白ニットに青のデニム、黒のブーツに黒い毛皮のコートを羽織ってちょっぴり男っぽい恰好だ。ていうかデニム穿くとこの人足なっが!

 

 

 

「言い遅れてしまいましたけど、今日の北辻さんの恰好も、素敵です」

 

「あら、ありがとう」

 

 その時、はっはっと大きく息をつきながらこちらに走ってくる人影を俺は人混みの中に発見してしまった。お前おせーよ! 何しとったんやいったい。

 

「ごめん汐音、近づこうと思ったら何かに撥ね飛ばされて……」

 

「あー、うん……見てた。あれ崇高くんだったんだ。うん、いいよ、とにかくこっち来て」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことで、今日一緒に回ってくれる友達の崇高くんです。こう見えてとってもいい人なんですよ! 人生の伴侶に最適です。どうかよろしく! 末永くよろしくお願いします! ほら、崇高くんも今日はきちんと挨拶してね。ゆくゆくはご家族にも挨拶しないといけないかもしれないんだから」

 

「あ、ああ……? どうも、竜造寺崇高です。汐音の幼馴染です」

 

「はじめまして。北辻です」

 

「いや、はじめましてじゃなくて……俺2回目……」

 

 ま、まあ、これから親交を深めてくれたらそれでいいさ。ではでは、出発!

 

 

 

 

 

 

 

 

 北辻さん、俺、崇高の3人で並んで校内を回る。ボケとツッコミの間に通訳が入っているみたいな立ち位置に俺がいるのは遺憾なのだが、最初は仕方あるまい。

 

 客は校庭や運動場の屋台の方に主に流れているらしく、校内は比較的人が少なかった。まずは理科室で行われていた「果たしてどの調味料が一番電流を通すのか」という実験を見終え、次にどこに行くかを俺たちはプログラムをめくりながら考える。

 

 

 

 というか出し物と展示と屋台どれもめっちゃくちゃ多いな……。ゲーム内だとここまでなかったけど。プログラムもちょっとした教科書くらいに分厚い。北辻さんの評価が上がるのは体育館で行われている劇なので、それを崇高には提案してほしいのだが……。

 

 

 

 

 

 

 と、俺がチラッチラッと劇のページだけを何度も見ていると、それに気づいたらしき崇高が、じっと何かを考え始めた。……お? それでそれで? 

 

「……この創作恋愛劇『白雪姫VS七人の小人』って面白そうじゃないか?」

 

「あら、いいじゃない」

 

「崇高くんそれだよそれ!! やっとわかってくれたんだね……っ! ううっ……成長したね……」

 

 主人公の思いもよらない進化にちょっと涙してしまう俺。だって過去のこいつだったら絶対気づかなかったもん。「他にもページはあるんだぞ?」とかとんちんかんなこと言ってきそうな気配しかなかったのに。それがすぐに察してくれるとか。コイキングからギャラドスくらいの変貌っぷり。もうこいつ覚醒しただろ……。

 

 

 

 ところが、俺がほめ過ぎたのがまずかったのか。主人公は突然テンションを上げ、なんと俺たちを置いてダッシュで体育館の方へ走り出すという暴挙を見せた。

 

「じ、じゃあ早く行こうぜ!」

 

「崇高くん、ちょっと待っ……あっ!」

 

 階段を駆け下りる主人公を追いかけようとした俺は、ガクンと階段を踏み外した。しかしさっと腕を伸ばして北辻さんが支えてくれる。彼女は溜息をついた後、プログラムに目を走らせた。

 

「もう、あと20分もあるじゃない。そんなに急がなくても大丈夫よ。ほら、あたし達はゆっくり行きましょ。今度は足元に気をつけて、ね?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 

 

 いや、崇高、崇高よ。お前は文化祭が楽しみなの? それともヒロインと回るのが楽しみなの? 後者であってくれ。なぜ真っ先に駆け出すんだ。

 

 そして俺たちが後をついてきていないのに気づき、戻ってきてちょっと北辻さんに説教される崇高。……こ、これ評価上がってる? 上がって3倍くらい下がってない? 大丈夫かな?

 

 

 

 

 俺は舞台上で行われているやたらに血しぶきの上がる劇を眺めながら、この後の予定について頭の中で再度おさらいする。1日目の午前は北辻さんと、午後は高宮城先輩と回る予定。ここで消化するべき必須イベントは特にない。楽しく出店や展示を回ればそれでいい。

 

 

 というか2日目もそうだ。最後に校庭で行われるフォークダンス以外は、基本的にはどこで過ごしても問題ない。……でもなんかイベント多すぎて俺も把握できてないんだよな……。関係ない事件とかもやたら起こるし。急病人が救急車で搬送されたりとか、幽霊騒ぎとか。展示品が盗まれたってのも聞いた気がする。んなもん盗んでどうするんだ。ここはいつからスラム街に?

 

 

 

 

 

 俺がそんな風に我が校の風紀の乱れに心を痛めていると、いつの間にやら劇は終わっていたらしい。座席のあちこちからパラパラ起こる拍手で、俺はそれを理解する。立ち上がり始める周りの客とともに、俺たちは体育館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 北辻さんは意外にもさっきの血みどろの劇はお気に入りだったらしく、体育館を出てもずっとニコニコ笑顔だった。ちょっぴりそれも恐ろしい。俺の中での「浮気したら突然刺してきそうなヒロインランキング」1位は柚乃ちゃんだったのだが、これは再考の余地があるかもしれん……。

 

 まあでも、北辻さんあんま物事深く考えないしな。脳筋とも言う。テストで1桁の点数を取ったって北辻さんが言ったことをきっかけに一緒に勉強するイベントがあるんだけど、よく考えなくても1桁ってヤバいよな……。最低だと1だし最高でも9じゃん。……いや、この場合の最低って0? でも0点なら1桁とは言わないか? まあ、0点でも9点でももう一緒な気はするが……。

 

 

「次、どこに行きます?」

 

「そうねえ……そういえば後輩に、展示やってるから来いって言われたんだったわ。もしどこでも良ければちょっと寄って行ってもいい?」

 

 

 

 

 

 

 そしてやってきたのは北館の3階の教室だった。あの脳筋北辻さんが寄りたいという展示ってどんなんだろ? 「プロテインはご飯かおかずか」みたいなの? 個人的には俺はプロテインは間食だと思うね。

 

 

 

 俺はそこに張り出されている看板を読み上げてみる。えーっと。『この街の昔と今』……?

 

「あれ、なんだか真面目なテーマですね……? あの……その方は、本当に北辻さんの後輩なんですか……?」

 

「それはどーいう意味よ!?」

 

「ごめんなさい、つい。とりあえず入ってみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 教室の中は机と椅子が撤去されており、真ん中には粘土で作ったらしき巨大なジオラマがでーんと展開されていた。しかし見事に田んぼと畑ばっかり。『百年前の私達の街』だって。

 

「百年前はこんな感じだったのね」

「俺の爺ちゃんもそういや米作ってたって言ってました」

 

 興味深そうにジオラマをまじまじと覗き込む北辻さんと崇高。俺も聖地巡礼という意味ならこの街に愛着はあるのだが、流石に歴史にまでは興味は持てない。よって、ジオラマには早々に見切りをつけ、教室の逆側で行われていたもう一つの展示の方に俺はふらふらと歩み寄った。

 

 

 

 

 

 こっちのゾーンでは、何やら記事が書かれた模造紙が何枚か掲示されている。ぱっと見たところ、どうもこちらには街のこぼれ話がつらつらと書いてあるようだ。……ふーん……。

 

 なんでも三百年ほど前まで、このあたりは海だったんだって。だから今もあちこちで貝殻が見つかるんだそうな。まあこっちも「そうなんだ」以上の感想は特にないな……。

 

 

 

 続いて何気なく隣に歩きながら、その横に張ってある記事に目を移した。えーっと。『願いを叶えてくれる海の神様の石』……?

 

 そこでふと、何かが気になって足を止める。その響きに、どこか聞き覚えがあったからだ。俺はまじまじと記事をもう一度眺めた。

 

 

 

 

 

 「……昔々、ここがまだ海辺だったころ……。人々は、魚や貝を獲って生活していた。しかし何年かに一度、不思議と何も獲れなくなる時期が決まって訪れたそうだ。人々は、それを怒った神の仕業と感じ、仲間内で一人、若い女性を選び、怒りを沈めるために決まって生贄を捧げた。すると、驚くほどすぐに豊漁が戻ってきたという――。

 

 やがて近代になり、生贄の代わりに巫女が神に祈る形で豊漁を祈願するようになった。その際、神との交流に必ず用いられたのが、黒い石である(図1)。この石は、神との交流、ひいては願いを叶えてもらうための神具として使用されてきた。それが転じて、今もこの地には『黒い石は願いを叶えてくれる』という信仰が根付いている……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんか知っているのと違うな。確かにこの地には「願いが叶う」という伝承がある。ただ、それは理由のない奇跡みたいなものだったはずだ。

 

 しかし、俺は思い出す。……ゲーム内での奇跡の起こる条件は、二つ。一つは主人公とヒロインが一緒に流れ星を見て、願いを乗せること。もう一つは、願いを叶えてくれる、依り代と呼ばれる『何か』を手にすること。

 

 

 そして確かにヒロイン達は個別ルートにおいて『何か』を見つける。それが何かは明示されないのだが……。あれはひょっとして、この石を見つけていた……?

 

 

 

 

 

 俺は、続いて記事の下の方にあるイラストに目を移した。どうやらこれがその、伝承を基に書き起こした黒い石とやららしいが……。

 

「あれ……? これって……」

 

 描かれていたのは、尖った黒い水晶みたいな石だった。ほら、日本史の教科書の古代のページでよく見るようなあれ。矢じりについてる、なんだっけ……そうそう、黒曜石みたいな。

 

 でも俺が見覚えのあるのは教科書でじゃなかった。同じような石を……この世界に来る直前に、見た。確か、鞄に入ってて。その翌日に、俺はこの世界にいた。服の隙間から入り込んだ冷気が背中に昇ってくるような感じを覚え、俺は、ぶるりと体を震わせる。

 

 

 

 

 これは、偶然か……? 

 

 

 

 

 ――それとも? 偶然じゃなければ……誰かが意図した結果、だった?

 

 

 

 

 

 

 その時、俺の肩に不意に……冷たい誰かの手が乗せられる。「捕まえた」と言わんばかりに。ぞわっとと背筋に冷たいものが走り、俺は思わず少し飛び上がった。

 

「……ひっ!」

「あ、驚かせたか? さっきから呼んでたんだけど返事がなかったから。顔色悪いぞ」

「ううん大丈夫。だから向こうに行ってね。あと頼むから肩にいきなり手を置くのやめて」

 

 

 裏拳をお見舞いしたい気持ちを笑顔で抑え、俺はまとわりつく崇高をしっしっと追い払った。それでも崇高はうろうろと遠巻きに俺の周りを所在なく歩き回る。

 

 ええい、お前はこの教室に住み着く地縛霊か。今はちょっとじゃれてる暇はない。

 

 

 

 

 俺は再度記事の方に向き直る。しかし記事は残念ながらそこで終わっていた。……いや、もうちょっと何かない……? ほら、簡単な手がかりだけでもいいから。……駄目?

 

 

 

 

 見回してみると、その記事の隣には大きなガラスケースが置かれており、貝殻の化石などが展示されていた。その前まで歩き、まじまじと中を覗き込んでみる。

 

 すると、その並んでいる展示品の中に、俺の鞄に入っていたのとそっくりな黒い石を見つけてしまい、俺はピシッと固まった。目も半分くらい飛び出たと思う。

 

 えーっ⁉ いやいや! 普通にある! あれだよあれ!

 

 

 

 しかし、「黒い石?」という札がつけられて、色が黒いだけの石や水晶っぽい塊とかと一緒に括られているのを見ると、展示者にもよくわかっていないのではないだろうか。何を? つまり、これが、本物かもしれないってことをだ。

 

 

 

 周りをこっそりと見渡して、誰もこちらを見ていないことを確認し。俺がそっと見つめると、石は何か言いたげにきらめいた。

 

 

 

 

 

 

 

 その時、突然、俺の頭に、がっしりとした手がポンと乗せられる。

 

「ぎゃっ!」

「あ、ごめん汐音。ぼーっとしてるみたいだったから」

 

 手をばっと払い、俺は笑顔で崇高を見つめ、床を指さした。しかし、崇高はその意味がわからなかったらしい。そこで俺は優しく口に出して教えてやる。

 

「お前な、ちょっとそこに座れ」

「いやそこって床しか……え⁉ 今なんて⁉ ……わ、わかった、座るから……」

 

 ちょっと顔を引きつらせながらも、言われた通りおずおずと床に正座する崇高。その前で俺はゆっくりと腕組みをした。

 

 

 

 

 一度なら許そう。だがこいつは二度も同じ過ちを犯した。しかも俺が相当深刻な顔をしていたにも関わらずだ。だがまず、こいつに日本語が通じるのかという基本的なところから確認しておく必要があるだろう。

 

「なんで頭に手を置くの? さっき駄目って言ったばかりじゃない。崇高くんは耳が遠いの? それともあいきゃんとすぴーくじゃぱにーずなの? どっち?」

 

「いや、だから肩は駄目なんだと思って……」

 

「頭の方が駄目に決まってるでしょ! 何年幼馴染やってるの? 頭を撫でていいのは恋人からっ! そう聖書にもきちんと記載されています!」

 

 

 

 

 

 なんか思った以上にエキサイトしてしまい、思わず自分でもよく分からないことを言ってしまった。

 

 しかしそれを聞いて、崇高の顔がなぜかぱあっと明るくなる。嫌な予感。崇高が聖書に親しみを覚える敬虔なキリスト教徒だった、とかではたぶんない気がする。

 

 

 

 

「あ、そうだよな! じゃあ……!」

 

「い、今何に納得したの? じゃあじゃない! それ以上口を開かないで!」

 

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